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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第二十八章 今は遠き翼の距離。されど

 独り言を言っていても見咎められない場所。その独り言自体を聞かれない場所。

 そんな場所はないので、宿の屋根の上で魔法でどうにかすることにした。

 隠蔽。防壁。これでもわかる人にはわかるか。いっそのこと高高度に上がったほうが楽かもしれない。


「……あー、テステス。本日は晴天なり」


 ブレスレットに魔力を込め、声を発する。リーズやレヴと通信した時のことを考えると、相手のことでも思い浮かべればいいのかな。

 答えはすぐにわかった。


『またおかしなことを……』

『こっちは曇りかな。どこかわかんないけど』

『てすてす? なんの呪文ですか、それ?』

『もう夜だよ?』

『魔道具が壊れた……わけではないですよね……』


 定型句に総ツッコミを貰った。久しぶりだというのにひどい。


「通信確立試験にはこういう文言を使ってたんだよ。そもそもいきなり『よう、お久ー、元気してるー?』とかやったら軽薄すぎるだろ」

『引っ叩きますね』


 もうそれやられたよララ。


『ユーリさんそんなキャラでしたっけ』

『違い……ますね』


 信頼されてて嬉しいよネレ、リーズ。


『たまにはそういうのもありかなー』

『ユーリでもお酒とか飲んだらそうならない?』


 それでいいのかよレヴ、エル。

 なんにせよ。


「また話せて嬉しいよ、みんな。十二年ぶりだな」

『ええ』

『そうだね』

『本当に』

『わたしは会ったばっかりだけどね』

『はい……わたしも話したばかりでは……ありますが』


 あれは会話って言わないけどな、リーズさん。


「それじゃあ、無限色の翼プリズムグラデーション・エールのお茶会を始めようか」



「まずはなんだ。オレへの恨み辛みとかからか。一発食らわせられるし面と向かった時の方がいいか?」

『いきなりですか。もちろん、あえてみんなが聞いているところで悠理に言いたいことは山程ありますけどねというかそれを引っ張るのはいい加減やめなさい』

『正直、ユーリさんからそれを言われるとシャレにならないのですが……ララさんのように引っ叩く気にはなりませんし』


 そうか? 逆にオレから言わないと重い話になりそうだが。あるいは、「弾劾法廷を開廷します。被告人入廷」的なことを誰かが言ってくれるか?


『まあ、私はたった十二年だし、そこまで言うこともないかなー』

『んー。たしかにね。それに、転生が上手く行ったんだとしたら長生きのわたしやエルが取り残されることを気にしなくても良くなるのかな?』


 なるほど。長く生きていてこれからもそれが続く上でのそういう着眼点もあるんだな。

 誰にでも前世はあるのかもしれないが、そこを意図的にできればある意味不滅の存在にはなれる。けど。


「実際のところはどうなんだろうな。長く生きると魂が摩耗してくるみたいな物語は結構あったような気がするけど」

『魂が摩耗するというのは……可能性としてはあるかもしれません……レヴさんのように……精神が磨り減って行くこともあるでしょうし……』

『わたし? せいしんがすりへる?』


 精神が磨り減る。そういうのもあり得るか。


「まあなんて言うか、初めて会った時みたいに色んなものに関心がなくなってるような状態のことかな」

『それについては、人生の長さはさほど関係ないように思いますけどね。いえ、楽しいものを味わい尽くせば感動も薄れていくかもしれませんけど』


 聖女が言うと説得力があるな。

 ララは口にしなかったが、“汚いものを見すぎると”か。もしもそれで世界を滅ぼす方に行ったとしたら……ナンセンスなのか悲劇なのか。


『んー。でも、世界がキレイだって改めて思うことはできたから大丈夫だと思うよ? こうして出会いもあるし』

『そうだね。どれだけ生きても、世界は不思議なことや新しいことでいっぱいだもん』


 オレ達より長く生きているレヴとエルがそう言うのなら、人は何度でも歩き出せるのかな、ってなんかの歌詞みたいだ。


「まあ、リーズが若返りを実用化してくれたらそれだけでほぼ不老不死だよな」

『ああ、そういえばそんな話もありましたよね。ユーリさんからのオーダーだと聞きましたけど』

『それは……もう少し時間がかかりそうです……回帰の出力強化と……微調整が上手く行かなくて』

『……リーズでも苦戦するとは。先は意外と長いでしょうか』

『若返りかー。わたしは必要ないかな?』

『私もー。まあ、おじいちゃんおばあちゃんになってるエルフもいるし、いつかは欲しいと思うのかな?』


 そういえば結局、フレイアはなんの意図でこの魔法をオーダーしたのだろう。魔力関連じゃないんだよな。これもオレにはわからない問題関連だろうか。


「ああそうだ、フレイアで思い出した。ネレ、耐炎剣ありがとうな」

『いえ、風牙と比べれば楽でしたよ。とりあえず素材で……ん? フレイアさんって、炎皇のフレイア・ワーラックスさんですか?』

『ええ、そうですね』


 ネレは帝国の出身で、フレイアは元帝国貴族だとか言ってたっけか。その辺で認識でもあったのかな。

 しかし、その答えをどうして君が言うのかな、ララさん?


『あれから考えたのですが、魔質進化の前後に付き合いがあったような言い方でしたね。という事は、前世の知り合いでは? それが今生でも親密な付き合いをしているということは、バレましたね?』


 ははははは。そんな推理を披露するならきみは聖女をやめて探偵にでもなった方がいいな。

 とか言ったら張り倒されそうだ。


「……降参。ご明察の通り」

『簡単に認めちゃったね……』

『いっそ清々しいよね、ユーリ』


 何か、エルとレヴにも呆れられているのか? まあ、必要から始まったとはいえ失態だしな。


『……おそらく彼女だけで済んでいないでしょう?』


 だが、ララの攻撃はまだ終わっていなかった。笑うしかない。


「ははははは。そんな推理を披露するならきみは探偵をやめて名探偵にでもなった方がいいな」

『ユーリさん……意味不明です……』


 リーズにまでツッコまれた。っても……本当に失態だしな。


「前の世界の推理小説でな。探偵役が犯人に推理を披露する時、当の犯人が『君は探偵をやめて作家にでもなった方がいいな』ってしらばっくれつつ馬鹿にする展開が結構、ってこの情報いる?」

『言ったのはユーリさんですが』


 ネレにまで呆れられた。

 ちょっとおちゃらけ過ぎたか。


「まあ、なんだ。リーズ。エルシュラナ家って知ってるか? アエテルナに邸を持ってる貴族だけど」

『ええと……たしか……外務系を担当している貴族だったかと……夢魔の一族でしたか』

「ん? ああ、ヴァフラトルさんって入婿なのか。そこの娘さん含めた魔族の生徒が差別の被害にあっててな。吸血鬼と夢魔のハーフだってことだったんで、釈明のために血を吸ってもらったら記憶を読まれた。一応、聞いた上で覚悟してやったことだけどな」

『血を吸……はぁ!?』

『んんん!?』

『は、はい!?』

『うえ!?』

『ああ……なるほど……みなさん……身体への実害はないので……平気です』


 リーズは、動揺した皆にフォローを入れるのを忘れなかった。その辺りやっぱり王様の素質はあるのかもな。


「あとは、これもまたフレイア同様ユーリ・クアドリだった頃の知り合いで、アカネちゃんって子なんだけどな。人と獣人のハーフで、その一件のあとに獣人の生徒まで巻き込んで同じようなことがあって。それもあって先のことに悩んでたから安心させるために打ち明けて。ついでに、似たような悩みを抱えてた皆に相談に乗ってもらえないかって……話を……してたん……だが」


 なんか、通信の向こうが怖い。そんな錯覚がして、声が出なくなっていく。

 相槌すらないって。


「な、なんかみんな怒ってます?」

『……悠理。男性の知人は?』

『そこは気になるかな』

『ええ。とても気になります』

『男性? あ、パーティーがみんな女の子だったって話をしたから?』

『……あの術式……意味あったのでしょうか』


 怒っているというか呆れているというか見捨てられそうというか、思ったよりヤバいレベルの返しが来た。


「いや、オレもそれは考えたぞ!? いるからな!? 級友とか、ユメさんの弟のノゾミとか! それ以前にヴォルさんとかいるだろ!?」

『比率』


 ララにたった一言で切り捨てられてしまった。

 おっしゃるとおりでございます。


「まあ、ねえ。オレも思うところはあるけどさ。ほんとなんかこう……なんか」


 なんて言えばいいんだろうな。

 いっそのことダラダラと話してみるか。オレも整理できるかもしれないし。


「……正直に言えば、あんまり人間関係を構築する気がなかったからな。それこそ、魔物に食われた体で消えるのもありかと思ったこともあったけどさ。父さんも母さんも姉さんもいい人だからそんなことは憚られて、友達もろくに作らないまま学院に入ることにして」

『きゅ、急にいきなり重い話に……』

『……ユーリさんもいろいろ葛藤はあったんですね。当然ですけど』


 真面目に話しているからか、エルとネレに同情される。


「で、入学試験で嫌がらせをされているレアとセラに出会って行動を共にするようになって。その時にはアカネちゃんには気づかなかったけど、ギルドにいて。士団でフレイアとも再会して。姉さんのパーティーメンバーと同盟を組んで」

『突然明るい話になったような気がするね?』

『ええ……反動……でしょうか?』


 あれ? レヴとリーズの頭にハテナマークが浮いている気がするぞ? なんか空気変わったか?

 でも、その先はないぞ。


「今に至る、だな」

『『『『『……』』』』』


 あれ、みんな何も言ってくれない。むしろ「え、終わったの?」みたいな空気なのは気のせいか?


「実際、他になにもないぞ」

『ええ、まあ。貴方の今生のことは大体わかりました。とは言え、そもそもの境遇を考えればまだまだ幸福であってもいいのではないかとは思いますけどね。それに、救われた人も多いわけですし、当然といえば当然というか』

『ララさんに同意します。私たちのような境遇の人がいる事自体はおかしくないですからね。ユーリさんなら意識せずに助けるんでしょうし』


 褒められてる、のか? そう言えばその辺のこともアカネちゃんと話したな。


「なあ。なんかこう、オレのことを弱みに付け込むクズ野郎みたいに感じたことない?」



『ありますよ』

『んー、あるかな』

『あります』

『あんまり考えたことないかなぁ』

『クズ……はないですけど……似たようなことなら……』



 意外と考えられていた。レヴとリーズ以外。というか、レヴも多少はあるのか、あんまりって。リーズもそれっぽいことは思っていたと。


「……ごめんな」


 なんかもっとこう、まともな出会い方なら良かったのにな。

 と思ったのに、頭の中に盛大なため息が重なって響く。


『あのですね。それをわかっていてこうして貴方を待っている私達の気持ちもわかりませんか?』

『ララの言うとおりだね』

『それがユーリさんでしょうし』

『そもそも、人助けを続けるのがユーリの人生だよねきっと』

『そう……かもしれません……ね』


 ああ、本当にありがたいな。

 こんなに思ってくれる仲間がいる。


「本当にありがとう。ララ、エル、ネレ、レヴ、リーズ」


 一人一人の名前を呼ぶと、またため息が聞こえた。ただ、今度は呆れたものではないようだったな。「ハァ」じゃなくて「ほぅ」って感じか。


『こほん。では、個人的な感傷は悠理の言ったとおり直接の時にして。私は、ユメという子の話が聞きたいところですね、聖女としても』

「了解。オレもその話はしないといけないと思ってたところだ。レヴ、どこまで話した?」

『わたしの魔力をユーリが渡して領域回復を使ったっていうことと、髪の毛の色が変わっちゃったことと、わたしが魔法使いの杖だってことかな』


 全部じゃないか。他に説明することあるか?


「ああそうだレヴ。ユメさんが礼を言ってた。新しい力をくれてありがとうって」

『うん。って、そんなこと考えてなかったけどね』


 違いない。でも、ユメさんの感謝とその内容も事実だからな。


「まあ、礼を言われるだけの価値はあったさ。で、補足が必要なところは?」

『規模と、その後ですね。その時に治した怪我の程度や効果範囲と、現在はどの程度の傷病まで治せるのか。貴方なら当然調査しているでしょう?』


 そうか、そこはすぐに帰ってしまったレヴには知り得ないな。


「ユメさんが倒れたあともしばらくその場にいたが、欠損した部位まで戻ったって話は聞こえなかった。しかけたところは治ったらしいが。範囲は、ララが王都でやった時までは行かないな。重傷者のいた区画の外の怪我人も回復したらしいから、ちょっとした村くらいか。その後は、重傷を治す機会は今のところ無いが、回復魔法の出力は段違いに上がっている気がするって言ってたな。炎に目覚めた直後のフレイアも火力のとんでもない上昇に戸惑ってたが、似た顔をしてた」


 結局の所、ユメさんの主観とオレの客観を頼りにするしかないから事実はわからない。重傷者の出現を望むわけにもいかないし、聖魔法と光魔法の違いも未だにわかってないしな。


『そうですか。リーズ、どういう原理か推測は?』

『はい……レヴさんに……魔法使いを覚醒させる力があるとかではないと思います……』

『その可能性について、レヴさんとリーズさんの力を借りて私が試してみました。ドワーフの金の魔質に目覚められるかどうか。いまさらですけどね』


 いや、その力がなくても鍛冶ができているんだからそりゃいまさらだろうけど、あって困るものでもないだろ。


『結論だけ言うと……無理でした……わたしのブーストとバーストの再現が不十分だった可能性はありますが……そもそも万人に可能なら……直近にいるわたしとネレさんは既に影響を受けているはずですし……他の要素は……』


 そこでリーズは言い淀む。が、即座にネレが言葉を足した。


『才能でしょうね』


 なるほどね。ネレへの配慮か。


『おそらくは……ただ……魔質進化に以前ユーリさんに聞いたような……爆発的な感情の有無が必要なら……それも関係がある……のかもしれません』

『ああ。今の私はこのままで充分というか、そこにはこだわっていないですし、そういう感情は湧いてこないですね』

「そういうものか?」

『はい。その辺りはユーリさんと同じでしょうかね。才能は努力と発想で凌駕してみせます』


 ネレの声は明るい。これはリーズに対する気遣いもあるのか。

 まあ、現状で風牙が打てるならたぶん世界最高峰の鍛冶師だよな。耐炎剣についても、誰かが打てるならフレイアに提供でもしてるだろうし。


『じゃあ、とりあえずレヴを捕まえようとどこかがーみたいなのはないんだね』

「……そうか、その可能性もあるのか」

『……有り得るかもしれませんね』

『あれ? あるのユーリ、ララ?』


 エルが言った言葉で、それこそいまさら気付かされる。

 ユメさんだけ気にしておけばいいかと思ったが、レヴの助力って要素をそっちと結びつけるのを忘れていた。

 理由は二つ考えられる。

 一つは、聖女を作るため。

 もう一つは、聖女の奇跡を封じるため。

 手法が再現できない以上できるわけがないが、要素を揃えようとするやつは出てくるかもしれない。


「まあ、レヴなら大丈夫だろうけど」

『ですかね』

『……結局なんだったの?』


 レヴはたぶん首を傾げてるんだろうな。勝手に心配されて勝手に解消されたんだから。


「レヴの力を利用しようとするやつらがいるだろうけど、レヴならぶっ飛ばせるだろうなってコト」

『ええ。聖騎士団も悠理にやられた頃から練度は大して変わっていませんし、大丈夫でしょう。たとえ優秀な子飼いでもいたところで相手にもなりませんね、きっと』

『そういうことかあ。だったらユーリとララの言うとおりだね』


 逆に、ララの敵が一掃されるかもな。レヴを探すのもタダじゃないし、痕跡も残るだろうし。

 こっちは、ユメさんに何かあったらそこから辿るか。もっと単純にオレを狙ってきたら、話が早くて助かる。


「魔質進化のことはこれくらいか?」

『個人的には……レーヴァテインの話とか……聞きたいです』

「すまん、その辺りはそこまで詳しくない。レーヴァが害なす魔、テインが杖って記憶くらいで、何語かとかどこ出典かとかどんな剣だったかとかの知識もなにもない。他に考えてることはあるが、今するのもって気はするし」

『そう……ですか……ではその話はまたゆっくりと……お願いできますか?』

「ああ。膝を突き合わせてな」


 もし何かしら二つの世界の根幹に関わることがあるのだとしたら、こんな雑談みたいな状態で話すべきでもないだろう。


「じゃあ次の議題」

『早いですね。って、そうです悠理。このペンダント、ありがとうございます。大切にしますね』

「届いたらしいな。みんなの分も用意してあるから、会った時にな」

『……はあ。でしょうね。そこだけはちょっと。まあ、わかってましたけど。残念です』


 うん? 何が?


「ああ、直接渡したわけじゃないからか」

『……それもありますが、そういうわけではなく』

『……ララさん。それは協定違反です』

『そうそう』

『気持ちは……わかります』

『ララも今度会ったときに直接付けてもらえば?』


 協定ってなんだ?

 手渡しすることになにかあるのか? プレゼントは直接じゃないといけないとか?


『そうします。私はもうこれだけですかね』

『うーん、話すこといっぱいあったと思うんだけど、こうして声を聞くと色々吹っ飛んじゃうね』


 エルの気持ちもわかる。万感で言葉にならないってやつだな。待たせたオレが言うことじゃないんだろうけど。


「そうだ、逆にエル。水精霊にティアリス・クースルーって子に助力するように口を利いた……って表現でいいのか? したんだよな?」

『ティアリス? んー? あー、あのクォーターエルフの子かぁ。なにユーリ。あの子と会ったの? 凄い偶然だね』

「姉さんのパーティーメンバーだよ。って、それ言うならユメさんもララに会ったことがあるって言ってたぞ。ユメ・ハウライト。聞き覚えはないか?」

『ハウライト? ハウライト……ああ、白牛人族の。そうですか、あの子がユメさんだったと。縁とはわかりませんね』

「その辺りは境遇もあるからどっちも必然ではあるだろ。オレは偶然なんだろうけど。で、だ。ティアさんに聞いたんだが、精霊は地理把握も道案内もしてくれるって言ってたぞ。自己判断で助けてもくれるみたいだし。どうなってんだおまえの周りにいる精霊」

『えっ?』



『『『『えっ……ええええええ!?』』』』



 エル以外の面子の絶叫が重なる。そりゃそうだ。致命の問題が崩れたのだから。オレと同じ気持ちを今味わっているだろう。


『精霊、旅を助けてくれるって、道案内とか、してくれるの? えっ、うわあ……そうだって』

『む、むしろ、なぜ今までこうやってレヴに聞いてもらうことを考えなかったのか……』

『頭にも浮かびませんでした……』

『わたしたちの……苦労と……苦心は……十二年は……』


 何かが燃え尽きた音がする。オレでさえ壊れかけたんだから、当然だろう。


『な、なんでなのサラ、ディーネ、フィー、ノゥ? うん。えっ? ええ……』


 なんだ。なにがあった。


『なんか、私の霊力が強すぎてそういうのが狂っちゃうって言ってる……誘導の魔道具が狂うのもそれでじゃないかって』


 なんだそれ。霊力が強すぎて狂う? どういうことだ? バミューダトライアングルかなんかなのか?


『もしかして……魔力酔いのようなもの……でしょうか』


 魔力酔い。そうか。精霊もそういうのがあってもおかしくないのか。

 酸素だって高濃度のものを吸えば中毒症状を起こすし、そもそも魔力が負の力で霊力が正の力とかそういうわけでもないのかもしれない。


「だったら逆にそういう場所を探せば、レヴなら辿り着けるんじゃないか?」

『なるほどね。ユーリ冴えてる。今度やってみるよ。待っててねエル』

『そっかー。そうだったのかー。あはは、いまさらー』


 全員ショックを受けてるな。必要な情報だったとは言え。


「ともかく、これで一つ解決したな」

『いや、ほんとありがとねユーリ』


 天啓とはこういうことか。ともかく、これでエルの長い戦いに決着が付く……のか? まだなんとなく不安があるな。


「あ、そうだついでにレヴ。精霊は隠蔽もかけてくれるみたいだぞ。この前言い忘れてた」

『えっ、それも知らなかった。ねえ精霊、魔力とか隠して……大きすぎて無理だって』


 考えてみれば当然か。人のレベルじゃないものな。隠せるのなら、精霊もドラゴンと同じくらいの力を持っていることになるわけだし。


「んー、何事もサラッと解決はしないな。じゃあ、次か。ネレはなんかないのか?」

『はい。私はそうですね。レーヴァテインの話も気になりますけど、ここは風牙の感想でしょうか』


 それは……話す必要もないですけど。


「最高。さすが最高の鍛冶師。文句の付けよう無し。問題があるとすればオレの腕だけ」

『あ、ありがとうございます。でも、それだと参考には……』


 いや他に言えることないんだもん。

 重量バランスとか突き詰めるところはあるのかもしれないが、そこまで神経質でもないし。


「あえて無理矢理ケチを付けるなら、やっぱり切れすぎて困るってことだろうな。使い方の研究がイマイチ進まない」

『ああ、それはこちらでも感じていました。反りの具合もいくつか作ってみましたけど、どれもほぼ同じというか』

『試し斬りでも全部スパスパ切れてたね、そう言えば』

『ええ……そっちの付与が必要ないくらいに……レヴさんの龍鱗のお陰もあるのでしょうが……』


 なるほど。そりゃ、鍛冶師だって打つだけじゃ済まないか。職人気質のネレは特に。

 という事は、破山剣も振り回したのか? それはそれで危なっかしいような絵になるような。


『そのくらいでしょうか。風牙の具合は直接見ないとわからなそうですね』


 直接見たらわかるのだろうか。それはそれですごいと思うのだが。


「あとは?」

『ん。わたしは話したばっかりだし、今はいいかな。リーズに譲るよ』

『え……そうですね……話題……そうです……アエテルナを救っていただき感謝します……ユーリさん』

「ああ」


 みんなさして話題がないのな。まあオレも頭の中が整理されてないし、話すことを考えるとあれこれ浮かんでは消えていくけど。


「でも、そこはレヴや共和国の軍人に水精霊の祝福や無色の羽根を含めた冒険者にアカネちゃんを始めとするギルド職員、それとヴォルさんやリーナさんも、ネレもリーズも、後方支援をしてくれたエクムザさんや聖国教会の魔法使い達も。みんなの力だな。オレ一人だけの力じゃない」

『そう……ですね……でも……わたしは……何も……』

「いやいや。レヴにいろいろ預けてくれただろ。助かったよ」


 謙遜も行き過ぎると卑屈と言うが、本当にリーズは自己評価が低すぎるな。


『そうですよ、リーズ。誇っていいと思います』

『鞄も役に立ったし、謙遜しなくてもいいんじゃない?』

『そうですね』

『うんうん』

『ありがとう……ございます……そう言って頂けると……』


 そもそも、転生も擬似精霊魔法の魔法陣もリーズの功績がほとんどなんだから、ある意味オレの功績はリーズの功績って言っても過言じゃないんじゃないか? それ言うと恐縮し倒すだろうから今はやめておくけど。


『それでは……わたしは……他には……特には……ないです……また直接の時で』


 え。うーん、もっとガツガツ来てくれてもいいんだけどな。

 そう言えば、負い目を感じてるみたいなことをララが言ってたっけ。そこの呪いはとりあえず解呪するか。


「リーズ。遠慮してるとこ悪いとは思うんだけどさ。色欲封じのこと、リーナさんに説明して貰ったんだけど」

『『『しきよくふうじ?』』』


 エルとネレとレヴの声が重なる。

 そう言えば、レヴに話してなかったな。今伝わったからいいだろうけど。


『……ああ、そういう。たしかに』


 ララは一度会っているだけにオレの状態が腑に落ちたようだ。オレと同じか。


『ああ……お母様が……はい……ごめんなさい……ユーリさん……勝手に……』


 リーズは、怒られた子犬みたいな声になっている。


「そこまで萎縮しなくていいって。ただ、さっさと解かないとほんと不誠実なんじゃないかって思ってさ」

『不誠実……ですか……?』

「ああ。好意を向けてくれてる……人に……応え……っ、ぐ」


 クソっ、また頭痛が。この程度さえもダメなのか? そもそも何なんだこの頭痛は。


『あの……ユーリさん……?』


 リーズの声が遠い。


「リーナさんに……答えをもらってから……他人の好意を意識させられることがあったんだが……頭が割れそうになった……今もその時と同じ……」

『え……そんな……』

『ちょ、大丈夫なの!?』

『な、何なんですかそれ? え?』

『ゆ、ユーリ? 何? ど、どうしたの?』

『考えていたのとは違う深刻さじゃないですか、それは! 悠理! ああ、回復魔法が届けば!』


 頭の中に悲鳴が反響する。心配してくれてるってのはわかってるから、イヤな表現だが毒にも薬にもなってる状況だ。


『ご……ごめんなさい……っ……ユーリさん……ララさんから聞いたときは……うっ……そこまで深刻に考えて……ごめんなさい……ひっく……ごめんなさい……わたし……やっぱり駄目な……ぐすっ……泣く価値なんて……』


 っ、そ。やっちまった。オレが自分で一番忌避する状態にしてしまった。リーズを泣かせてどうするんだ。


「そんな……泣かないでくれよ……リーズ。オレの無茶をさ、聞いてくれたんだから。このくらいのワガママは、あっていいだろ」


 リーズを諭すように話しかけると、頭痛が消えていく。しばらく解けないのなら、どこまでが良くてどこまでがダメで応急処置はどうすればいいのかっていうのも知る必要があるのかもな。


「意識が逃げて頭痛が引いてきた。あー、で、そのフィアス君が好意に対して非常に鈍感って話でな」

『それは良かったけど……いきなり、フィアスくんって誰?』


 エルにツッコまれた。

 たしかに唐突すぎたな。


「この世界だと、自分の友達の友達の話として自分の恋愛話とかしないのか? あのノリで行けば他人事として話せないかなって。オレもユーリ・クアドリ時代の知識は知り合いの知り合いで通してるし」

『ああ、なるほど。そういうことですか。それでユーリさんとフィアスくん』

『……そういう逃げ道によく頭が回りますね、悠理』


 とりあえず現状で頭痛はない。これなら直接意識してるわけじゃないから行けるのか。

 馬鹿話にすればリーズも多少は気が晴れるだろうしな。


「たぶん、傍から見てるとあんまり気分は良くないんだろうなーって。酷くないかそのフィアス君。オレは見たことないからわかんないんだけどさ。鈍感どころか無関心野郎に見えてみんなヤキモキしてるんだろうな? そう思わないか、リーズ?」

『っ……ふふ……そう……ですね』


 本当に他人事のように話したら、リーズも少しだけ笑ってくれた。よかった。


『ねえリーズ。そもそも、“しきよくふうじ”ってなに?』


 さらに、レヴがとぼけた声で聞いてくれる。いや、素なんだろうけど。その辺り、オレももっと詳しく聞いておいた方がいいのかな。


『宗教的なことはララさんが詳しいでしょうけど、大罪の一つの“色欲”でしょうか?』

『はい……簡単に言えば……他人からの恋愛感情に鈍感になるのと……欲求の封印でしょうか……意識を逸らすと言うべきですが』


 リーナさんの説明とその後した予測と大差ないな。

 大罪っていうくらいなんだから、封じてしまうことに多大なメリットはあるんだろう。世が世ならっていうか、魔法の積極的な政治利用がされていたら、刑罰の一種として使用されていたのかもしれない。同時に悪質な犯罪にも使われるはずだけどな。


「一番驚いたのは、大罪って概念がこの世界にもあるんだってことだな。宗教関係者のララの口からは聞かなかったし」

『……悠理のいた世界にもあるということですか?』

「ああ。えーと……色欲。強欲。嫉妬。暴食。傲慢。憤怒。怠惰。うん、これで七つの大罪。他の言語だと“セブン・デッドリー・シンズ”だったか。“死に至る七種類の罪”って意味だな」

『この世界のものと同じ……ですね……一般常識だったんでしょうか……?』

「いや、三大宗教のうちの一つの中の概念だった。オレのいた国だと無宗教って名目の好きなとこ取りごった煮信仰で、そういう深いお題目は創作の鉄板ネタ程度な感じだったけど」


 そもそも、教義が徹底されてたなら少なくとも宗教国家内は順風に回っているのか。その辺りは法治国家と同じなのかもしれない。


『へー。ララ、色欲と強欲って何が違うの?』

『そうですね。色欲は人に対して、強欲はお金や物に対してでしょうか。たしかに、その辺りは分けにくいところはありますね。人もある種の資源の側面もありますし、嫉妬にも色欲の側面を含むものもあるでしょうし、レヴの疑問も尤もです』


 そうだな。分化も同化もしきれないというか、しきってあとに残ったのがそれとか、犯罪動機の分類結果がそれだったとか、成立の歴史は色々ありそうだな。


『それで、解けるの?』

『ええ……はい……やっぱり……レヴさんと一緒に……私もアエテルナに行くべきでした……くだらない葛藤なんて無視して……』


 声を通して感情が伝わってくるが、オレは別に懺悔や悔恨を求めてるわけじゃない。道理で無理を押し込める気もない。


「リーズ。くだらなくなんてないから別に無理はしなくていい。折り合いをちゃんとつけないままでおまえが折れたら、そっちの方がオレは辛い」


 とりあえずは耐えられるしな。オレが会いに行くほうが楽なら、そっちでいいわけだし。


『ッ……ああ……なるほど……これが……』

『……実感しましたか、リーズ。これが今の悠理の“普通”です』

『うん、よくわかった。甘いね』

『ほんとに優しいよね、ユーリは』

『……レヴさんの自然体が羨ましく感じますね』


 なんだ? 本音を話したのに、レヴ以外にまた呆れられたみたいだぞ?


「もっと厳しくしたほうがいいのか、エル?」

『え、私? あ、処分が甘いって聞こえたんだね。そうじゃなくて、レヴとおんなじ意味だよ』


 ああ、そっちか。男女の仲的な意味の。


「っておい。それが普通? オレ、やることなすことそんな感じに聞こえるのか?」

『ええ。でもあれから考えたのですが、転生前から要所要所でそういう言動はありましたね』

『そう……ですね……似たようなことは……あったかもしれません』

『うん。あるね』

『胸に届いた言葉があるかというのなら、それは言うまでもないでしょう』

『あれ、みんなそうなの? 私もあるけど』


 ララもリーズもレヴもネレもエルもみんなあるのかよ。何なんだオレは。


『現在の問題は、それに一切裏がないことです。多少は恥ずかしがって言うのならまだしも、悪意なしの笑顔や真顔で言われたらこちらは何かを返すことすらできなくなりますから』

「んん? それってなんだ、恋愛小説を演じるみたいな感じにでもなるのか?」

『……そんな感じですか。どうせそれも真顔で言ってるんでしょうけど』


 ララに呆れられた。話し始めてから好感度どれだけ下がってるんだろうな。

 そもそもさ。悪意がないって、オレは親しい人に対して悪意を持ったことはないんだけど。いや、それは受け取る相手がどう思うかか。


『まあ、今はこれをどうにかするのは無理でしょう。と、なんだかんだで話し込んでしまいましたね』

『そうだねー』

『ええ』

『眠さも吹っ飛んでたかも』

『時間を……忘れますね』


 それだけ楽しい時間だったってことだな、誰にとっても。


「本当に話せて嬉しかったよ。いつかちゃんと顔を合わせてゆっくり話をしたいな」

『……そうですね』

『……うん』

『……待ち遠しいです』

『……だね。ララとエルの顔も見たい』

『……ええ……解呪のためにも』


 通信具越しではなくテーブルを囲んでお茶をする光景を幻視する。いつそれが叶うのかはわからないが、少なくとも今は同じことを思っているのは確かだ。


「それじゃあお休み、みんな。良い夢を」

『はい。悠理も』

『おやすみ』

『お疲れさまでした』

『またねー』

『話せて……よかったです……』


 月に照らされ、お茶のないお茶会は終わる。暗示めいたものを感じるのは気のせいだろう。

 予定は立てられないが、環境は整い始めている。まだ会っていない仲間と顔を合わせるのも、そう遠い未来の話じゃないのかもな。

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