第二十七章 失われたものと残ったもの
口伝てで奇跡と噂されるようなことが起こったのはたしかだが、残念ながら今回のは失われたものが戻るようなものではなかった。
オレ達に被害がなかったのも、運が良かっただけに過ぎない。大手を振って喜べる結果ではあったが、それに同調することができない人も、できなくなった人もいる。失われたものが圧倒的に少なかったからと言って、残った者が馬鹿騒ぎをしてもいいわけでもない。
この数日、アエテルナには弔いの空気が流れ続けた。首都の入り口付近は戦場となった場所に向けて祈りを捧げる者で溢れていたし、いつもは馬鹿騒ぎをしているだろう酒場でも献杯や陰膳に似たものが多く見られたようだ。
三日後にお触れが出て、ヴォルさんが大々的にスタンピードの報告と犠牲になった者への感謝と祈祷を済ませた。それを持って、死者の魂を笑って送り出す空気になり、街には活気が戻り始めた。
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大規模な戦いとその後の静かな空気は、いくつかの噂と憶測と珍事も生んだ。
当然そのいくつかには心当たりがあるが、実感があるかと問われれば別であり。
数人の少女たちが魔物の群れを後方から追い立てて壊滅させたとか。
二人の少女が、一人の少年を魔物の群れの中に放り込んだとか。
使えもしない大剣を振り回していた子供がいて、即座に他の子供に取り上げられたとか。
赤髪の少女が馬鹿でかい大剣を振り回していたという噂から、あれが炎皇だったのだという間違いとか、アカネちゃんがその噂の少女であるレヴだと勘違いされて囲まれたりとか。
魔物やその残骸が空から降り注いだとか。
どこかの馬鹿が超戦略級の魔法を暴発させて自爆し、全域を焦土に変えたとか。
光り輝く女神が子連れのお供と降臨し、瞬く間にすべての傷を直してみせたとか。
事実って面白いふうにねじ曲がるんだなあ、ほんとに。冗談で済むから面白くはあるけどさ。
という話を、ミアさんの家でダラダラと話していた。
「ユーリくん関係が酷いですよね、本当に……」
レアに同情されてしまった。たしかに、オレに関する部分だけ悪意があるような気がする。というか噂がホントなら絶対死んでるだろうなその少年。
「セラディアが流していたりして」
「冤罪ですよティアさん!?」
「むしろティアが流してそう?」
「アイリス。冤罪」
なにか罪のなすりつけ合いまでが。いや、無罪ならなすりつけることはできないんだが。
まあ、こういう空気でいられることは平和な証拠だよな。一点を除いて。
「問題は、ユメさんのことですよね」
「ええ……どうしましょう」
アカネちゃんとユメさんは、お互いに困った顔をしている。そうか、どんな因果か二人共が今後のことで悩まないといけなくなったのか。
「本当に申し訳ないです。こうなるとは思ってもいなくて」
「いえ、ユリフィアスさんを責めているわけではないのです。ただ、こうなるとわたくしだけのことでは済まなくて、聖国に報告をしなければいけないのではないかと……」
聖属性魔法を使えること。それは聖女の必要最低条件。だからといって、聖魔法を使える魔法使いがみんな聖国所属ではないと思う。隠している人も多分いるだろう。
なんとなくだけど、自分から名乗り出るのはララが嫌がりそうだな。自分から針の筵に飛び込むのはどうなんだって。
「私たちは出て行っちゃったから直接見られてないんですけど、具体的にユメさんはどうなったんです?」
「聖魔法が使えるようになったということは聞きましたし、セラと同じで容姿に変化があったのはわかりますけど」
「加えて、回復魔法の力が大きく上がったことと、レヴさんの魔力を流し込んで貰ったことでわたくし自身の魔力量もかなり増えたようです」
あとは、そこから魔力枯渇寸前まで魔法を使ったからもあると思う。そう考えると、魔力量の増加方法をダブルでやったんだな。危険すぎてもう一度やる気にはなれないが。
「そういうのって、わたしたちでもできるんですか?」
レアの期待もわかる。だが、その辺りは制限しかない。
「他人の魔力強化っていうのはできなくはない。ただ、相当緻密な調整が必要だし、魔力は個人固有で特性のあるもので、今回みたいなことは早々できないな。そもそも魔力の受け渡し自体、同系統で血の繋がりのある姉さんと母さんとかなら可能性があるが、他の水魔法使いとやってもほとんど意味のない量しか渡せない。今回が特殊だったとしか言いようが無いな」
そんな事ができるならフレイアもネレもそもそも面倒な人生にはなってなかっただろうし、もっと魔法使い全体が強くもなっているはずだ。魔力総量の増加が行き過ぎて手の付けられない状態になる可能性もあるだろうが。
「そうですか、残念なような……がんばる理由になるような……」
「……そうだね」
姉さんだけは何か思い至ることがありそうだな。そういえば、レヴの魔力属性に疑問を持っていたっけ。
レヴの魔質は、無属性を含むどの属性にも当てはまらない。分類するなら“龍”とかになるのだろう。今回使わせて貰った結果から考えると、無色にして無限色。何色でもなく何色にもなる。だからこそ、魔法使いの杖って名前も間違ってないように思える。
それでも。レヴをそんなことに利用しようとする奴がいるとしたら、オレはそいつと戦う。って、今回のオレもその一類かもしれないが。
レヴ、なんだかんだでそういうことには手を貸してしまいそうなところがあるしなあ。と、これはこれでレヴを馬鹿にし過ぎか。
ちなみに、オレのつけたパーティー名とは何の因果もない。そんなことは何も考えてない。
「ソレはソレとして、今はユメちゃんのコトだよネ。アタシとしては別に報告義務もナイしユメちゃんの好きにすればいいと思うケド」
「というか。流石にあの場にいた聖国関係者は把握しているはず。わざわざ伝える必要もない」
ティアさんはそう言うが、どうだろうか。案外テンパってて覚えてないかもしれない。人ってそんなもんだし。
「ユメ自身はどうしたいの?」
姉さんも、ユメさんをまっすぐ見ている。水精霊の祝福として一緒にやってきた仲間で大事な友達の話だものな。
ユメさんはしばらく考え、るでもなく即答した。
「そうですね。わたくし自身はあまり興味がないというか……実は、ソーマ様には以前一度お会いしたことがあるんですよ。聖国には招かれませんでしたが」
「へー。それって、この前王都に聖女様が来た時ですか?」
「いえ、もっと昔ですね」
え、そうだったのか。回復魔法が使えるならそういう機会もあり得るのかな。
エルとティアさんのことやアカネちゃんのことも含めて世界が狭く感じるが、転移前の世界と違ってこの世界は今いる大陸一つしかないし、地形はもちろんのこと魔物の脅威があって延々と居住地が続いていることもない。人口ももしかすると一億にすら満たないのかもしれない。実際に世界は狭いんだよな。
「それで、聖女サマはなに言ってたノ?」
「『貴女がその魔法を使い続けたいと願うのなら、聖女になろうとするのはやめておきなさい』、と。こうして自由にしているのですから、結果的にもそうなったわけですね」
ユメさんの年齢を考えると、オレと出会った前後くらいか。言いそうだ。
「なんか……意味深ですねそれ」
「ええ。まるで、聖女様になると回復魔法が使えなくなるような」
レアがまたちらりとこっちを見るが、そこは知らぬ存ぜぬを通すべきかね。明らかに一般人の持てる知識の範疇を超えているし。
ところで、ララ本人はいつまで聖女でいるつもりなんだろうか。機会があったら聞いてみるか。
「うーん。たしかに聖女様、不自由そうだなって気はしたかも。でも、ユメが聖魔法使いになったのは喜ばしいことだよね?」
「ええ、そこはアイリスさんの仰る通りですね。ユリフィアスさん。わたくしに新しい力をくださってありがとうございます。できることならレヴさんにもお礼を言いたかったのですが」
ユメさんに深々と頭を下げられる。そうか、レヴはユメさんが起きる前に帰ったんだったな。
「いえ、元々素質はあったんだと思います。それに、彼女には伝わっているはずです」
そうでなくとも、時間が取れれば翼の全員と改めて話すつもりではあるしな。そういう案件だ、これは。そこで伝えておこう。
そう言えば、アカネちゃんの件もあったんだったか。そっちも併せて王都に戻ってからだろうか。それとも、それまでに機会があるかな?
「とりあえず。保留するしかないと思う。聖国の出方を見る必要もある」
「ティアさんの言うとおりかもしれませんね。下手に出てくるか上手に出てくるかもわかりませんし」
「……やっぱりユーリ君なんかヤバめなこと知ってそうなのは気のせいかなぁ」
鋭いなセラ。だが今は答える気はないぞ、一応。
強引に来たら……聖国と戦うことになるのだろうか、久しぶりに。
「ユーくん、危ないこと考えてない?」
「さあ、どうだろう」
もっとも、ララがいる限りそんなことにはならないだろう。ステルラとプロメッサルーナの戦争なんてごめんだし。
問題は尽きないな。意識してない問題もあるんだろうが。
そう言えば、色欲封じのこともあったか。
「失礼、いいかな?」
「お父さん。どしたノ?」
「魔王様の使いが来ていてね。時間が取れるなら登城してもらえないかって。しばらくいたのにね」
とりあえずは、目の前に置かれたものからこなして行くしかなさそうだな。
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今回の功労者。満場一致ではないにせよ、多数決のような感じでオレ達に決まったらしい。正直、作戦に参加した全員の勝利だと思うんだけどな。
「今回は本当に世話になった。今後何かあれば遠慮なく頼ってくれたまえ」
「ありがとうございます、魔王様」
やはりユメさんが代表して礼を述べる。
「本当に、お世話になりましたねハウライトさん。貴女がいなければ失われていた命も多くあったでしょう。治療を統括していた者としてお礼を言います」
「元帥としてもお礼を申し上げる。多くの者の命を含め、これからを救ってくださった。ギルドマスターからも同様の言葉を預かっている」
リーナさんとエルザードさんにも、深々と頭を下げられる。
というか、ユメさんはまず間違いなく今回最大級の功労者だな。二人の言葉通りのこともそうだが、前線後方共に成果を残したのだから。
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
「ハウライト嬢はマコト・ハウライト殿のご息女であられたな。お父上にも宜しくお伝えくだされ」
「承りました」
エクムザさんの言葉にも、ユメさんは丁寧に受け答えをしていく。流石だ。
「ヴァフラトルから聞いたが、一両日中には王国に発つとか。道中の安全を祈っているよ。機会があればまた会おう」
ヴォルさんからそう告げられて、今日は散会となった。
「ユメさん、さすがの受け答えでしたねー」
「そうですか? これでも緊張していたんですよ?」
と言う割にそうは見えないけどな。隠すのが上手いのか謙遜なのか。
「マア、一国の王サマに会う機会なんて早々ないからネー。ウチの国はソコのトコ割とユルいケド」
「それは用件にもよるのでは?」
ミアさんがサラッと言うが、一応ヴォルさんの名誉のためにもツッコんでおくか。象徴職だからって暇なわけでもないだろうし。今回も結構前に立ってたし。
「そうは言うけど。親しみやすいというか。威圧感がなかったのも事実」
「そうですよね。ステルラもそうだったけど、一部の人が騒いでるみたいに危ない感じは全然してないよねー」
「本当ですね」
「うん。実際に自分の目で見ればいいのにね」
今回の旅、王国在住側が世界を見れたってことで本当に意義のある旅になったのかもな。この経験は今後のすべての糧になるはずだ。
「うーん。雰囲気がいいのは事実ですけど、シムラクルムのギルドはちょっと遠いかなぁ……」
アカネちゃんも。一応シムラクルムに来た意味はあった、のかな?
「サテ、と。これで大方片付いたし、お疲れサマ会でもしに行こうか」
「いいですねー」
「賛成」
率先して歩くミアさんとセラとティアさんを追う。
まあ、話していた問題は解決してないけど。徹底的な気分転換は必要だな、今回ばかりは。
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「ゆっくりして貰うつもりが、これ以上なく忙しなくなってしまったね」
アエテルナを発つ日。邸の前でヴァフラトルさんが苦笑いをした。
彼と同じく残念だとは思うが、事実だしな。こっちも同じように笑うしかない。と、思ったのだが。
「まあ、ユーリ君といるとこれくらいはって気はしますけどね」
「同意。ユリフィアスはトラブル要因にしてトラブル要員」
思いっきり切り捨てられた。いや、冗談じゃなく色々起こるのもまた事実だけどさ。
「ユリフィアスさんが原因のことだけではありませんけどね」
「ええ、まあ……たしかに」
「……天命でしょうかね」
ユメさんもレアもアカネちゃんも、フォローはしてくれるが何気に否定はしていない。酷いなみんな。
「……ホントに、ユーくんだけのせいかな?」
そんな中で、姉さんだけがボソリと否定の言葉を呟いた。が。否定なのだろうか、その言葉は。
なにか、姉さんの中でよくないものが渦巻いている気がする。魔人の時より深いものが。
「まあ、若いんだもの。ちょっとくらい色々あった方が捗るってものよね」
「ソレってサ。お母さんが若」
「ミアちゃん? ちょっと黙りましょうか?」
メーレリアさんの怒りのポイントはそこなのか。なんにせよ、あんな苦労もこんな苦労も別にいらないのだが。
「人生自体は山無し谷無しがいいですよ。登る山は自分で見つけたほうがいいです」
「男の子がそれじゃダメだと思うわよー。それに、ユリフィアスくんはそれを願っても無理だと思うけれど?」
っ、何だその予言は? ミアさんの親だ。心を読まれたか?
「レアちゃんにアイちゃんは言わずもがな。それとアカネちゃんもかしら? それに、ユメちゃんもあの一件のあとからもしかしてって感じかしらね。ミアはどっち付かず」
ん? なんだそれ。もしかして? どっち付かず?
「セラとティアさんの名前が無いのは……」
「あー大丈夫気にしなくて。ユーリ君にはわからないヤツだから」
「わ、今たぶんソレ言うとマズい」
セラがよく見る呆れた表情をするが、何故かミアさんが慌てる。
オレにわからないヤツ。今マズい。
「……あ」
まさか、色欲封じ関連か?
ウソだろ? なんだそのバカみたいな好意の多さ。
いや、ホントだったとして何がどうなる……って、なんだこの無茶苦茶な思考は。
いや、片方は思考じゃない。無意識か?
「ぐ……ぁ」
なんだ急に。頭が痛い。「受け止めろ」という思考や感情を、「受け流せ」という命令がグチャグチャに塗りつぶしていく。
リーズ。これが色欲封じの効果なのか? 結構しんどいぞ。いや、今までこんなことはなかった。リーナさんに意識させられたからか?
「ちょ、ユーリ君!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
セラとレアが心配して支えてくれるが……クソ……これ、どう解消すればいいんだ……?
呪いを解く手段はない。なら、今は受け流す方の命令に従うしかないのか。もしくは……嘘で誤魔化すか。
「は、はは」
好意。そうだな。セラとティアさんは割とオレに当たりがキツイもんな。そういう意味では、割とフラットな関係だ。他はまあ、オレのやることに頷いてくれるというか、背中を押してくれたり頭を撫でてくれるわけで。そこは明確に違うか。
よし、頭痛が収まってきた。
「すまん。もう大丈夫だ」
深呼吸をすると、本調子ではないにしろ地面が揺れるような錯覚は消えていった。
「……お母さん。二度とやらないで」
「……ごめんなさい」
ミアさんは、普段のノリが消えるくらいガチギレしているようだ。声が低い。
「そんなに怒らなくてももう大丈夫ですよ、ミアさん」
「ううん。人には触れちゃいけないことがあるって、そろそろ学ばないとね。いい大人なんだから」
「……そうね。ごめんなさい、ユリフィアスくん」
メーレリアさんは、これ以上ないほど落ち込んでいる。年齢のネタにも反応しないし。というか、母娘の立場が逆転しているような。
「それじゃ、もう行くから。お母さんのことお願いね、お父さん」
「う、うん。気をつけてねミア」
ニッコリと微笑むミアさんに、ヴァフラトルさんまで青ざめた顔をしている。案外、この家族は娘が一番強いのかね。
「ソレじゃあ、行ってきまーす」
いつものテンションでにこやかに手を振って、あとは振り返ることなくミアさんは歩いていく。オレ達も大名行列のように後に続く。
敷地を出てしばらくして、ミアさんはガックリと肩を落とした。
「ハア。なんかごめんネ、みんな。特に……ネ」
ユーリさん、と続けようとしてしまったのか、最後は誤魔化される。
まあ、これはオレの問題だしなあ。ミアさんが気に病むことでも。
「急に苦しみだした時はビックリしたけどね。どうなってんのユーリ君」
「さあ、なあ」
「それ以上に。いろいろ衝撃的ではあった」
「「「「あはは……」」」」
ティアさんの感想に、姉さん以外の名前を挙げられた人が遠い目をして笑う。理由は、暫く考えるのも思い出すのもやめておこう。
「それで、次はどうするんです? 予定通りユーリ君とアイリスさんの家に?」
「そうですね。お父様とお母様にもご挨拶をしたいですし」
「ユメ。さっきのあれでそう言うと。そう聞こえる」
ティアさんが微妙な顔で“そう言った”ユメさんを見る。どう聞こえると?
「い、いえ、別にそういうわけではないのですが……」
「ティーアーちゃーん。この流れでそういう冗談はだめだヨー?」
「ぴっ……!」
ユメさんが赤くなって慌て、ミアさんが影を背負ってニッコリと笑い、ティアさんは恐怖で背筋を伸ばして小刻みに震える。
「怯えるティアさんって珍しい」
セラも、驚いた顔をしている。たしかに、珍しい光景だな。ミアさんが凄むことが珍しいってこともあるんだろうけど。
「アイリス。助けて」
「え? なに?」
ティアさんが姉さんに助けを求めるが、今気づいたかのような反応だ。
「ごめんね。ちょっと考え事してた」
「アイリス。後生な」
「ふふ、水精霊の祝福のこんなところは珍しいですね、たしかに」
珍しくティアさんがオチをつけてアカネちゃんが笑い、なんてことをしながら、駅馬車乗り場にたどり着いた。
街道付近の魔物の活性化はスタンピードの影響だったらしく、既に各方面行きの馬車が復活している。
「今回は楽ができてよかったよね」
「ええ」
「まあな」
この状態でも身体強化で走っていくことは無理ではないだろうが、今回はさすがに同感だ。
受付に身分証代わりのギルドカードを見せて料金を支払い、馬車に乗り込む。
座席。特に決まってはいないが、姉さんの隣に腰を落ち着ける。少し強引だったかな。
それでも、みんな疲れたのか少しボーッとしているから何も言われない。いろいろ好都合だ。
姉さんを横目で見る。オレは名探偵でもないが、ある程度の想定はしていこう。
「姉さん。最近何か変なこと考えてない?」
「え? そんなことないよ?」
オレが聞くと、姉さんはいつも通りニッコリと笑う。
それでも嫌な感じは消えない。なんとなく、ララがダブる。
本当に考えていないなら「どんなことを?」と返すんじゃないだろうか、というのがミステリーの一幕だろうか。
魔力探知で善人と悪意を持つ人間はわかる。けれど、その個人の考えまでわかるわけじゃない。姉さんが悪意を持っているわけでもないし。
「なんでユーくんそんなこと思ったの?」
「いや、なんとなく」
「そっか。じゃあ心配かけないようにがんばらないとね」
不安だな。
何があって姉さんがどう考えているかわからないが、またドツボにはまる前にどうにかしないと。




