Interlude 魔法使いの杖
倒れてしまったユメさんは魔王城に貴賓扱いで運ばれた。他のみんなも付き添っているので、レヴと二人で中庭に出てきている。
空には月。濃くて早い一日だったが、一日で済んでよかった。
「リーズの故郷を守れてよかったよね、ユーリ」
「そうだな。助けに来てくれてありがとう、レヴ」
礼を言うとレヴは「えへへ」と笑った。孤独を受け入れていた少女はいない。いや、ドラゴンだし、当然ながら少女って歳でもないんだろうが。何度思おうがそれは言わぬが花。
さて。まずは渡すものを渡しておくか。
「これ。ララに送ったのと同じ物だけど」
「わー、魔力結晶ペンダント! わたしのもあるの!?」
「一応、無限色の翼全員分のを作ったからな」
現在、計五つ。もっと数は増えるのかな。フレイアとかアカネちゃんとか。
「ララが貰ったって聞いたときから羨ましいと思ってたんだー。ねー、付けて付けて」
レヴはペンダントを手に乗せて差し出してきた。願い通り首につけてやる。
「ありがと、ユーリ」
レヴがくるりとターンすると遠心力で魔力結晶がふわりと浮かび上がる。気に入ってもらえたようで良かったよほんとに。ララにもちゃんと届いたんだな。
「でだ。エルはともかく、ネレとリーズの分は……」
「それはもちろん、面と向かって渡したほうがいいと思うよ。二人ともそうしてほしいと思うし」
「だよな」
オレが会いに行くのか、今回みたいに会う機会ができるのか。それもまた楽しみというか不安というか。
それとあと一つ。
「レヴに話しておかなきゃいけないことができたんだ。いや、元々あったんだけど」
「うん? なに改まって」
レヴは不思議そうな顔をしてちょこんと首を傾げる。その顔を曇らせることになるだろうか。
女皇龍レヴァティーン。称号の方はともかく、名前の方はオレのような異世界転移者がいれば聞き覚えのある奴もいたかもしれない。
「オレの世界にレーヴァテインっていう剣があった。物語の中に出てくる創作上の剣だけどな」
「レーヴァテイン? わたしの名前と似てるね?」
レヴに初めて会って名前を聞いたとき、頭の中を占めたのはそのことだった。
元の世界でも言語体系は別なのに何故か似ている言葉があったり、この世界でも固有名詞がさして変わらなかったりもした。何か共通するものはあるんだろうとは思っていたが、そこに暴投のストレートじみて飛んできたのがレヴの名前なんだよな。
「剣であることに理由があったのかもしれないが、その辺は深く調べようと思わなかったから知らないけどさ。今考えると失敗だったな。ただ、その言葉の元の意味はたしか、『害なす魔の杖』」
「えっ」
他にも訳はあっただろうが、覚えているのはそれだ。オレの記憶が正しければ、“テイン”が“杖”っていう意味なんだったはず。
まあ、“レーヴァ”に当たる“レヴァ”が“害なす魔”だったとして、『害なす魔の十代』だと謎すぎる。そこは発音とか読み方の問題だろうきっと。それなりに通じるとは言えど英語の世界でもないし。
そもそもレーヴァテインって何語だったんだろう。とかボンヤリと頭に浮かんだのだが、
「わたし、ユーリの敵なの?」
泣きそうな顔でレヴがオレの服の袖を掴んだので、現実に引き戻される。
は?
え、何? オレの敵?
「なんで……ああ、『害なす魔』の方に食いついたのか。別にレーヴァテインが持ち主に危害をもたらしたとかの話はなかったと思うぞ。それこそ持ち主の敵にじゃないか?」
「なんだ、そっか。よかった」
レヴはこれ以上ないほど大げさに胸を撫で下ろしている。いや、大げさでもないか。心底安心したんだな。「どんなときでも味方だ」って言ったものな、オレ。
と言っても、創作物からの知識程度しかないから実際のところは断定はできないけどな。魔剣の類だったとは思うが、それでも持ち主に害を与えるなら呪いの武器として有名になっていただろうし。推測は多分間違ってないと思う。それに、レーヴァテインが呪いの剣だったとしてもレヴはそうじゃないし。
そんな剣の詳細はともかく。今回証明されたが、ドラゴンは魔法使いの杖になる。これについてはレヴが特殊なのかもしれないが。
その辺は他のドラゴンに会ってみないとわからないな。レヴによると見たことも会ったことも無いみたいだけど。
「それにしても、わたしって魔の杖だから魔法使いの杖なんだ。じゃあユーリと相性ぴったりだね」
「んん? 言われてみればそうなる、のか?」
「そうだよ。やっぱり運命だね」
にっこりとレヴは笑う。
そうだな。運命的かと問われればそうかもしれないな。
レヴは嬉しそうな恥ずかしそうな顔でオレの付けたペンダントをいじっている。
「さて、と。わたしはそろそろ行こうかな。学院のお仲間さんたちとの時間を奪うのも悪いし、リーズを安心させてあげたいし。話すだけならもうできるもんね」
レヴは腕につけたブレスレットを示す。戦ってるときも話せてたな、そう言えば。
「……気を使わせてすまないな」
謝りきれていない謝罪を口にすると、レヴはふるふると首を横に振ってくれた。
「たぶん、友達が増えることになると思うからいいよ。みんな女の子なのは気になるけどね?」
うっ。そこはほら、必然性はないから。
無いよな? スヴィンとかノゾミとか、取ってつけたような関係ができたとしても。
「あはは、冗談だよ。ユーリ、一緒に旅ができるのを待ってるからね」
「ああ、必ず。またなレヴ」
「うん。またね」
大きくジャンプをし、魔力放射でさらに高く。
一陣の風と輝く光と共にドラゴンに姿を変え、レヴは空高く飛び去っていった。
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竜の消えた空を見上げ、レーヴァテインの話を思い返す。
オレはもう一つ“テイン”と名のつくものを覚えている。こちらがこの世界そのものに対する暴論だ。
ミストルテイン。たしか意味は一語で“ヤドリギ”で杖ではなかったが。いや、各種杖の主要構成物質が木材であることを考えると、杖と言っていいのかもしれない。
ともかく、仮にドラゴンを魔力供給の源泉だと考えるなら。龍脈とはミストルテインの魔力経路であり、大陸の下かこの世界そのものには魔力を吐き出し続けている巨大な龍が宿っている。魔物は巨竜ミストルテインの剥がれ落ちた鱗のようなものであり、ダンジョンは鱗の隙間や体表の傷である。
なんて。このトンデモ仮説を証明しようという気がいつか起きるものかな。
ダンジョンのさらに奥なんてのがあった覚えはないし、証明できるとも思えないけどさ。




