Interlude 恋と好意の差
ユーリさんと出会ってから、想像でしかなかったティトリーズ様がどんどん現実に変わっていってる。
その現実は、アタシの考えてたものよりずっと色は少なかったケド。ずっともっと近くて、コッチで良かったなと思ってしまうような姿だった。
そんなティトリーズ様が思いを寄せる少年……っていうか内面年齢考えるとだいぶオニイサンかオジサンのハズなんだけど、それ言ったら怒るカナ? まあ、彼のことも改めてよく見るようになったわけで。
なんだろネ、この感覚。
「あら。ミアはユリフィアスくんのことが好きなんじゃないの?」
「ヒトの夢に入ってこないでヨ、お母さん」
夢魔ってこういうトコロあるから。
アー、怒らなかったユーリさんが特殊なのカナ。もしかしてとっくに経験済み?
「こういう所も何も、こういうものじゃないの夢魔は」
「そうだケド」
ユーリさんとティトリーズ様の絵が流れていくところにゆったりと浮かんでいたのに、お母さんが来た瞬間地面ができてあの時よりちゃんとしたテーブルとティーセットが。
長くなりそうだネ、コレ。
「それでそれで?」
「……ナニが?」
「ユリフィアスくんのこと」
はあ。何が悲しくてこんな話をお母さんとしないといけないんだろうネ。歳考え、
「レリミアちゃん? たとえ娘でも許されないことはあるのよ?」
「母親でも許されないことってあると思うんだけどネェ?」
額に青筋を浮かべて笑い合う。ホントに、夢魔ってこういうコトができるからネェ。
「……夢魔の母親だからこその責務でしょうに」
怒りの笑顔は、一瞬で困ったような笑顔に変わってしまった。調子狂うナァ。
「隠し事も全て暴いてしまう。まあ、今回それを共有しちゃったのはお母さんの落ち度だけど」
ウン。そうだネ。
「でも、すべてを知ろうとしたのはあなたでしょう、ミア。まあ、吸血はお父さんからの能力だけど」
「それは、ティトリーズ様のコトを知りたかったからで」
「ならそこまでで良かったでしょ。彼の大元まで知る必要はなかったし、夢を見せる必要もなかった。何を見たかなんて黙っていればよかったのに」
「それは一応、礼儀でしょ。助けてもらったんだからサ」
「吸い続けて倒れたくせに」
「うぐッ」
舌戦じゃお母さんに勝てない。
ううん、違うのカナ。アタシがイヤイヤの子供なだけなのカモ。
「好きか嫌いかで言ったら、そりゃ好きだけどサ。友達としてダヨ?」
「それも思い込みよ」
ヤダよもうコノ恋愛脳。勘弁してヨー。
ホント泣きそう。なんだけど、お母さんも割とマジメな顔してるのがビミョーな感覚にさせられる。
「あのね、ミア。吸血鬼にとって血を吸うって一大事でしょ?」
「マア、そうだネ」
「なんであなた、ユリフィアスくんの血を吸ってもいいかなって思ったの?」
「エー? あの場はアアするしかなかったでしょ」
他に解決の手法なんてなかったよネ。思ってたのと違ったケド。
「固辞すればよかったじゃないの。それまでずっと血なんて吸わないって言い続けてきたんだから」
「ソレは……」
だって、ホントにあの場はああしないと収まらなかったヨ? 証拠を見せる必要があって。
「思い通りに行ったとして、操ってないように見せてるだけだって言われたらどうしたの?」
「ソレ、は……」
そうか。そう言われる可能性もあったんだネ。あのトキはそういうこと考えなかったナァ。
「それは、少なくともユリフィアスくんの血を吸ってもいいかなと思ったからでしょ?」
「ウン、マア、ソレは」
初対面でくっついた時から、すこーしだけ思わないでもなかったネ、ホントのトコロ。
「じゃあもう好きでしょ」
「ダーカーラー、それがトびすぎなんだって!」
なんでこう、間のトコロがないのこのヒト!
「じゃあ、パーティーメンバーの中で吸血してみたい人はいる?」
「いないネ」
まあ、相手に負担をかけるからとかもあるケド。そもそも思ったことはないネ。
それって、パーティーメンバーに限らずだけどサ。
「あのね、ミア。気付いてないみたいだけど」
「ナニ!?」
「周り、ユリフィアスくんばっかりよ?」
ハイ? どこにユーリさんが? と思ったケド。
ホントだ。周りに流れてる絵……写真って言うんだっけこういうの。それが、ユーリさんバッカリになってる。
「って、ソレはお母さんがユーリさんのことばっかり言うからじゃないカナ」
「そうかもしれないわね。でも、ティトリーズ様が好きな人をあなたが好きになっちゃいけない道理なんてないのよ?」
「そんなこと、ベツに」
考えなかったカナ。どうだろ?
タブン考えたと思う。マア、身の丈に合わないとかそういうカンジだったケド。あと、アイちゃんとかレアちゃんのコトとか。ベツに二人を身の程知らずだとか思うこともないけどネ。いや、聖女サマと真っ向勝負はヒトによっては身の程知らずだと思うカナ。
どうなんだろうネー。アタシがユーリさんのこと好きかどうか、
「ってアブナイアブナイ流されるトコロだった」
「なんでそこで止まるのよー!」
お母さんが癇癪を起こしてる。ヤレヤレ。どっちが子供かわかんなくなるネ、コレ。
「ねえミア。あなた、恋しないの?」
「するんじゃないノ、そのウチ」
トーゼン、アタシだって考えるコトはあるケドさ。お父さんとお母さんみたいになるって考えるとちょっとナー。ソレがユーリさんとか、あんまり想像つかないし。
「残念ねぇ」
「いやザンネンじゃないから」
ホントなんの話コレ。
「恋しなさいよ、ミア……」
「なんでなんか遺言みたいなフンイキ出してるの、ネェ?」
だんだん透けてるし。ユーリさんの記憶にやっぱりこういうのあったようナ? 見せちゃいけないヒトに見せちゃいけないモノ見せたんじゃ?
「安心して。これについては誰にも言わないわよ。ふふふ」
怪しすぎー! 待ってヨお母さん!
/
「っ、あ、は」
起きるトキに変な声上げちゃったヨ。誰にも気づかれなかったから良かったケド。
まったく、ナンなのお母さんってば。ユーリくんがナンだって。
ていうか、どうやって接するかも定まりきってないのに、これ以上惑わせないでほしいナァ。ボロ出さないように必死だし。
雑魚寝してるからソコにいるけどサ。顔見たってベツにレアちゃんみたいにならないし、そういうのはナイ。
魔法使いとしての好意や尊敬はアルけど、恋はナイネ。
いや、アタシだって恋と好意の差がドコにあるのかは知らないけどネ。でも、アタシのこれはそれじゃないってことくらいワカルから。
もうイイや。忘れよ。んじゃ、オヤスミっと。