Connect 巡り来る災厄
偶然からは逃げられる。
運命からは逃げられない。
なら、逃げられなかった偶然は運命になり得るのだろうか?
じゃあ、オレの運命と偶然って?
「こんなのをいつも相手にしてるなら、魔族の人って相当強いんでしょうね」
「シムラクルムでクエストに出たことないケド、たぶんこんなに強くないと思うヨー」
それぞれ細剣と血剣で魔物を斬りつけながら、セラとミアさんが苦い顔をしている。苦戦しているというほどでもないが、上級ダンジョンに潜った時よりキツそうには見えるな。
「いえ、こちらのギルドに出張したり人事交流で来た職員やこっちに行ったことのある冒険者も居ましたけど、ここまでの話は聞きませんでしたね」
アカネちゃんもこの状況は完全に想定外のようだ。たしかに、リーズの件でアエテルナに来た時もここまで苦労はしなかった。昔と今ではオレ自身も違うから、統一の指標にはならないけどな。
「でも、いい訓練だよね」
「はい。この程度超えられないと先に進めないでしょうからね」
それでも、大杖持ち二人は張り切っているようで何より。姉さんの言うとおり、いい訓練なのは確かだ。
「正直。後悔していないと言えば嘘になる。でも高揚している自分もいる。不思議」
「ええ。ノゾミにも負けていられませんし」
ティアさんとユメさんも、気合で負けてはいない。オレがノゾミと出会ったことはハウライト姉弟にとってもいい影響になったわけか。
「別に私だって余裕だけどねー」
「トーゼントーゼン」
セラとミアさんも、張り合うように魔力の放出を強める。この二人もまた、いいコンビになっている。
「いい仲間ですよね」
「ああ」
本当に、アカネちゃんの言う通り。
しかしそれにしたって魔物の数が多すぎだし、強さも不自然じゃないか? ステルラでクエストを受けた時からオレ達が急激に成長したなんてこともあるわけないし、それで都合よく誘引が起こるわけもない。
そう言えば、ハウライト家に滞在して以降プライバシー配慮で魔力探知をさほど広げないようにしてたな。今も奇襲を警戒するために戦闘領域くらいのサイズに留めたままだ。周辺に何かこういう状況に至る要素でもあるのだろうか。
魔力探知を拡大。さらに拡大……何もない、か。いや、久しぶりに超広域探知でも使ってみるか。あれからどれだけ範囲と精度が上がったかも気になる。
探知にさらに魔力を乗せる。魔物や自然物など様々虹色の情報が少しずつ色を失っていくのと共に探知できる範囲が広がっていき、
「う、そだろ」
一定範囲を超えたところで、背筋が一気に冷える。
いつかと同じ。疑似精霊魔法、土針柱。倒した魔物は空間圧縮ですぐに隠す。
「うわっ、何いきなり!?」
「どこかで見た光景ですけど」
セラとレアが反応するが、構っていられない。
「ティアさん! 水精霊の力で全員の隠蔽を!」
「いきなり? 了解」
全員の魔力反応が消える。さすがは精霊、オレの隠蔽よりはるかに高度だ。比較的近くにいた魔物まで目的を失ったように徘徊を始める。
「特に危険な要素はなかったかと思うのですが……」
「だよネ?」
ユメさんとミアさんが首を傾げるが、おそらくオレの危機感は伝わらないだろう。
今後のためにも、行くか。観測に。
「水精霊の皆さん。聞こえていたら、このまま隠蔽を頼みます」
「ん。わかったって言ってる」
ティアさんの確認を受けて、探知した方向へ歩き始める。隠蔽が切れる可能性があるので、身体強化は使わない。
黙々と歩くが、超広域探知で返ってきたポイントに辿り着くにはしばらくかかる。もっとも、そこまで行く気はないが。
「ユーリ君が無駄なことはしな……するか。でもそんなにしないってのはわかってるけど、ホントどうしたのいきなり」
「ユーリくんの探知をすり抜ける精霊に隠蔽を頼むほどですから、すごく強い魔物がいたとか」
すごく強い魔物ね。それもそれで脅威だが、むしろそんなことならどれだけ良かったかな。
……この辺りで十分か。
「全員、魔力探知を。でも、絶対に、何があっても、大声は出すなよ」
細々としたことを考えている余裕はない。何が問題になるかわからない以上、ここからは魔法自体を使うのも避けたいところだが。
各々探知を広げたらしく集中した表情になるが、すぐにそれが崩れる。
「ッ、は……やばいやばい。前置きしてもらってなかったら絶対に大声出してるよこれっ」
「な、何ですか、この反応っ」
「これ、こんな異常な、なんなのユーくん」
「数える気すら、いえ、その気があっても数えることなんて……」
「水精霊。落ち着いて。ワタシも。落ち着く。から。無理にでも……」
「単純に、怖いネ。魔力探知できなかったらって思うケド、そしたらアソコに突っ込んでたカモしれないし……」
「これ、もしかして……職員知識として話に聞いたことはありましたけど、実際に感じてみると、こんな、絶望的な」
思えば、予兆はあった。ヴェノム・サーペントの時と同じだ。点を線で結んでいなかっただけ。いや、あれもこれも後からなら結べただけなのか。
「……よりによって、この場所このタイミングでか」
なんて、冗談や運命めかすのが好きだなオレは。言っては見たが、読めるわけでも選べるわけでもホットスポットがあるわけでも周期があるわけでもない。人の思惑など考慮してはくれない。天災とはそういうものだ。
ただ一つ言えるのは、今回はオレは一切関わってないってことだけだな。となると、この場にいることは幸か不幸かどっちなのやら。
「……全員、水精霊だけに頼らず改めて魔力隠蔽を。一旦アエテルナまで退こう」
声を抑えて告げると、みんな頷いてくれる。この状況で焦らないというのも一つの実力だな。
「ユーリ君が強くなろうとする理由、ちょっとわかったかもね」
「ええ。こんなの、わたしたちで力になれるかどうか」
セラとレアが青い顔で呟く。その要因は、ついさっき観測した大小問わず数え切れないほどの魔力反応のせいだ。
地図上にその規模を描画するなら、点でどうにかするより塗料ごとぶちまけたほうが早いだろう。オレの力がどの程度のものなのかわからないが、少なくとも探知したものは分析しきれない。集団でも群体でもない。これはもう、現象だ。
遂にその時にぶち当たってしまった。
スタンピードが来るぞ。




