二人の狭間で揺れる恋!? ~世界の命運はどうなる!!
1. 新たな一歩と工事現場の出会い
神無月玲菜との「友達以上、恋人未満」という保留の決着から、約1年が経過した。
——それは、オフィスでの何気ない会話から始まった回想。
『長岡くん、あなた営業向いてないと思う』
『えっ』
『雑用を押し付けていた時に感じたんだけど……もっと身体を動かしてる時の方が、生き生きしてると思ったの』
『……それって、褒めてます?』
『褒めてるわよ。思い切ってガテン系の仕事に転職してみたら? 案外、自分を思いっきり変えられるかもしれないわよ。……私も、半年後に本社へ転勤になっちゃうしね』
『えっ、神無月さんが!?』
『ふふっ。長岡くんのおかげで、私、男の人と普通に話せるようになった気がするの。私も少しだけ前に進めたわ。長岡君も自分の人生に後悔の無いようにね』
「ただ安定しているというだけの理由で、漠然と会社に通う毎日でいいのか——?」
玲菜の言葉に背中を押された長岡愁は、思い切ってIT企業を辞め、土木工事現場の世界へと飛び込んだのだった。
◇
そして現在。
汗と土煙が舞う現場で、愁は2人の個性的な女性と出会っていた。
月見里一子、26歳。
黒髪のウェーブがかかったロングヘアを束ね、作業着を着こなす屈強で明るい現場作業員。男勝りで口は悪いが、誰よりも仲間思いで面倒見が良い。
ラウディ・サンジェルマン、24歳。
金髪青目の眩しい外国人事務作業員。一子と親しく、明るく情熱的だが……実は重度のストーカー気質を秘めている。
そして当然のように、愁の新居(相変わらず狭いアパート)にはあの二人が舞い戻っていた。
「今度こそ! あの人からとてつもなく強い恋愛エネルギーを感じるわ!!」
ソファーに居座り、なぜか源氏パイ(※ハート型=恋の成就の応援のつもりらしい)をバリボリと貪りながら、天界の女神・アイテルが一子をビシッと指さす。
食費と光熱費はもちろん全額愁持ちだ。
「愁さん、今度こそ絶対に成功させましょう!!」
その横で、背中に怪しい黒い翼を生やしたエンジェルベアが、ブルブルと体を震わせながら「みゅみゅ~っ!」と切実な声で鳴いていた。世界の命運と愁の財布の限界は、もう目と鼻の先だった。
2. 現場での奮闘と予期せぬ誤解
愁は本気で自分を変えようとした。
黒髪にメッシュを入れ、現場でも映えるワイルドな髪型へチェンジ。作業着に合う頑丈でおしゃれなブランドバッグを購入し、日々のハードな肉体労働を愚直にこなした。おかげで華奢だった体には、引き締まった筋肉がつき始めていた。
「長岡ぁ! モヤシかと思ってたけど意外と根性あるじゃん。見直したわ!」
汗を拭いながらガハハと笑う一子。そんな彼女の男勝りな一面の裏にある、誰よりも仲間を気遣う優しさに、愁は次第に強く惹かれていった。
——だが、事態は思わぬ方向へ転がり始める。
なぜか一子ではなく、事務のラウディが愁に激しい好意を寄せてしまったのだ。
「シュウ~♪ 今日のランチはワタシの手作り弁当ネ!」と毎日情熱的なアプローチを受け、休日のデートにもしつこく誘われるハメに。
愁が一子ばかりを見ていることに気づいたラウディは、頬を膨らませて怒り出す。
「日本のオトコは、キンパツのガイコク人ビジョが好きなのガジョウシキじゃなかったノ!?」
「外見だけじゃなく、内面で勝負するのよ!」と影から熱血指導を送るアイテル。黒翼のエンジェルベアも必死の形相で応援するが、現実の人間関係はそう単純ではなかった。
「……ねえ長岡。あんた、ラウディと付き合ってるんじゃないの?」
ある日、一子へアプローチしようとした愁は、彼女から冷ややかな視線を向けられた。
「えっ!? なんでそうなるんですか!?」
「ワタシとシュウはアツアツネ~♪」と抱きついてくるラウディ。
「誤解だ————っ!!」
一子は「ほらね、やっぱり……」と呆れ顔でため息をつく。
恋愛シミュレーション通りにはいかない、泥沼の三角関係が完成してしまった瞬間だった。
3. 三角関係の清算と決意
飲み会でのアプローチ、雨の日の現場作業、休日に偶然出会った街中での会話。
重なる時間の中で、愁は一子の過去を知る。
一子は昔、3年付き合った男性に裏切られた経験があり、結婚に対して極めて慎重になっていたのだ。
愁は自分の未熟さを痛感しながらも、「一子さんを幸せにしたい」という本気の想いを強めていった。
「まずは……このドロドロした三角関係を清算しないとダメね」
アイテルの厳しい助言を受け、愁は腹を括った。「もう逃げない」と。
◇
夕陽が差し込む、少し薄暗い現場の休憩所。
いつものように距離を詰めてくるラウディを、愁は真剣な眼差しで呼び止めた。
「ラウディさん……少し、いいですか?」
ラウディは期待に目を輝かせたが、愁の尋常じゃない雰囲気を察して少し表情を曇らせた。
愁は深呼吸をし、まっすぐラウディの目を見つめた。
「……ラウディさんの気持ちは、すごく嬉しかったです。正直に言うと、ラウディさんみたいな金髪の綺麗な外国の人に好意を向けられるなんて、俺みたいな人間には夢みたいな話でした」
愁は一度目を伏せ、そして力強く言葉を紡ぐ。
「でも……俺が本当に惹かれたのは、ラウディさんの外見じゃなくて、月見里一子さんの内面なんです」
「…………え?」
「一子さんは男勝りで、口が悪くて、作業中も大声で怒鳴ってくるけど……誰よりも仲間を大事にして、疲れて倒れそうな後輩がいれば真っ先に駆け寄って、雨の日に誰よりも一生懸命作業して、終わった後でみんなに『お疲れ!』って笑う人なんです。俺は……そういう一子さんの、強くて優しいところに、どうしようもなく惹かれてしまいました」
愁はラウディから目を逸らさなかった。
「ラウディさんがいなかったら……きっと僕はラウディさんの気持ちに応えようと頑張ったと思います。本当に、ありがとうございます。でも、俺は……一子さんじゃないとダメなんです。一子さん以外の人とは、付き合えない。……ごめんなさい」
静寂が支配する。
ラウディは唇を強く噛み締め、目元を真っ赤にしながらも、必死で笑おうとした。
「……シュウ、ホントにまっすぐだね。ワタシ、ちょっと悔しいけど……そこまでハッキリ言われたら、しょうがないネ」
一筋の涙が彼女の頬を伝う。ラウディはそれを乱暴に拭った。
「一子が相手なら……仕方ないよ。あの子、強そうに見えて実は寂しがり屋だから……ちゃんと大事にしてあげてね。でないと、ワタシがシュウを奪いに来るから!」
無理に明るく笑い、愁の肩を軽く叩いて去っていくラウディ。その背中は微かに震えていた。
愁は背中に向けて、深く深く頭を下げた。
(……ありがとう、ラウディさん)
その後、愁は金欠の限界を突破し、手持ちの全財産と給料を叩いて『10万円の婚約指輪』を購入した。
4. 告白と世界の救済
橙色の夕陽が現場全体を優しく染め上げる時間帯。
作業が終わり、誰もいなくなった現場で、愁は震える手で指輪の箱を握りしめ、一子を呼び止めた。
「一子さん……ずっと、好きでした!! 僕と結婚してください!!」
愁は地面に膝をつき、指輪の箱を力いっぱい開いた。
シンプルだが、愁の汗と涙の結晶である10万円の指輪が夕陽に輝く。
一子は目を見開き、手にしていた工具を落としそうになった。
数秒の静寂の後、彼女の目から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「……バカ。いきなり結婚だなんて……そんな大それたこと、簡単に言わないでよ」
一子は涙も拭わずに苦笑した。
「私ね……昔、付き合ってた人がいたの。3年くらい一緒にいて、結婚の話も出たんだけど……ダメになった。相手は『まだ遊んでいたい』って、私の気持ちを無視して一方的に逃げたの。それ以来、結婚とか本気で想うとか……怖くなってた」
一子は照れくさそうに頬を掻き、愁をまっすぐ見つめ返した。
「だから……長岡みたいな人が本気で『結婚してください』なんて言ってきたの、初めてで……正直、めちゃくちゃ動揺してる。心臓がバクバクして、頭真っ白だよ」
彼女は溢れ出る涙を堪えることなく、笑った。
「……でも、そこまで本気で私のことを想ってくれてるって、伝わってきた。バカみたいに一生懸命なところ……嫌いじゃないよ。……私でよければ、付き合ってあげる。これから、ゆっくりでいいから……よろしくね、愁」
「一子さん……っ!」
一子は照れ隠しに愁の頭をぽんと小突き、顔を真っ赤にしながら、これまで見たこともない最高の笑顔を見せた。
告白は大成功。
物陰から見ていたラウディは、涙を流しながらも「2人とも、幸せになって……」と静かに身を引く覚悟を決めていた。
◇
ズクゥゥゥゥン……!!
その瞬間、愁のバッグの中で卵が凄まじい光を放った!
光の中から飛び出したエンジェルベアの体が眩しく弾け、神聖なオーラが周囲を包み込む。
光が収まったそこに立っていたのは——黒い翼と白い翼を片方ずつ持ち、緑色の髪をなびかせた、極上の美少女天使だった!
「私の名前はヘーメラー!! 大好きなパパのおかげで、なんとか天使へと羽化できました!!(半分悪魔入ってるけど……)ありがとう、パパ!!」
「パ、パパぁぁぁっ!?」
叫ぶ愁に、アイテルが爽やかに解説する。
「愁さんの失恋のエネルギーも混ざっていたから、半分悪魔になっちゃったみたいね。人間の心は単純な善悪じゃ括れないってことよ!」
「それ大丈夫なのか!?」と焦る愁だったが、無事に世界が救われた事実に胸を撫でおろした。
「これで世界は完全に救われたわ。お疲れ様、愁さん!」
アイテルはいつの間にか買っていたお土産の『餃子の王将』の袋を手に、笑顔で天界へと帰っていった。
(色々大変だったけど……あいつらのおかげで、俺は変われたんだな……。家計は死亡したけど……一応、感謝しておくか)
5. エピローグ:騒がしい新生活
——と、感動に浸って家に帰った愁を待っていたのは、信じがたい光景だった。
部屋の畳の上で、ヘーメラーが寝転がりながら「バリバリ」とせんべいを食べている。
「へ……!? お前っ、なんで俺の部屋に!? てか俺のせんべい!!」
「ワタシから頼み込んで、悪魔の心を浄化するためにパパの元で修行させてもらうことにしたの! これで大好きなパパとずっと一緒にいられるね♪ 浄化が終わるまで住まわせてもらうからよろしくね、パパ!!(もちろん食費光熱費は全額パパ持ちね!)」
「…………いつの間にか子供まで出来てしまって、俺の災難はまだまだ続きそうである」
頭を抱える愁の横で、ヘーメラーが無邪気に笑う。
そこへ「たのもー!」とやってきた一子が、事情を聞いて呆れ顔になった。
「えっ、娘さんいたの? 愁くんも色々あるのね……まあ、話聞くわよ」
苦笑しつつも、一子の表情には「新しい家族」ができたことへの温かい喜びが浮かんでいた。
ふと、愁がアパートの窓の外に目をやると——。
「……ん? なんだあの窓の外からのプレッシャーは……」
そこには、遠くから笑顔で手を振るラウディの姿があった。
「パパの新しいお客さん?」と無邪気に尋ねるヘーメラー。
「変な人に話しかけちゃダメだぞ……」と顔をひきつらせる愁。
「子持ちのシュウさんも素敵ネ~♪」と叫ぶラウディに、一子が「ラウディ、一体どうやって愁くんの家を特定したのかしら……」と凄まじいギャグ顔で固まる。
遠くからラウディの声が響く。
『元カノ、じゃなくて……まだ諦めてない人、ネー!!』
こうして、娘のヘーメラー、彼女の一子、そして押しかけてくるラウディという、賑やかすぎる怒涛の新生活が幕を開けたのだった。




