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精霊と妖精に愛された令嬢  作者: 紫乃月 聖巴


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05. 帝国での新しい人生

 ズクール・ルマッセル侯爵は、王宮の使者から帝国からの書状を手に取り、しばらく呆然としていた。


「こんなはずでは……」


 グレノルバが隣に立ち青ざめていた。


「この家から精霊の加護を三つも与えられた子が出たというのに……それも帝国に取られた……」


 二人は顔を見合わせた。

 だがそれだけでは終わらなかった。


 帝国の調査と前後して、学園内でも真実が明らかになり始めた。

 調査の過程で、カスティーナがセイレナに対してしてきたことが明るみに出た。

 最初は帝国の調査に関する噂の形で広まり、そこに学園内の事実が加わっていった。

 セイレナは実際にはいじめられていた側だった。

 そしてあれほどの音楽の才能を持っていた。

 カスティーナに好意的だった男子生徒達は、少しずつ顔色を変えた。


「……あれは嘘だったのか?」

「でも、カスティーナ様は被害者だと……」

「いや、俺が聞いた話では……」


 噂は噂を呼んだ。


「あんなに素晴らしい演奏ができる人を妬んでいたんじゃないの?」

「周りを巻き込んで孤立させるやり方が、陰湿すぎるわ」


 時間が経過するとともに、カスティーナの周りから人が消え始めた。

 男子生徒達は、少しずつ距離を置いて離れていった。


「ねぇ、聞いてくださる?ルマッセル家の姉君が、亡きお母様の形見をほしがった妹に抵抗したから小屋に追いやられたんですって」

「それって姉君が悪くないじゃありませんか」

「ほんとよね。あの家は姉の物は、妹に与えて当たり前らしいわ。相手の形見さえもよ。ありえませんわ」

「まぁ、そうでしたの。だから、姉君は生家とは断絶して帝国へ行ってしまわれたのでしょうね」

「それで帝国に行ってしまわれたでしょう?帝国から形見の物を返すようにと官吏が回収にきたのですって。王宮の立会人もいて、その方は私の親戚でしたの。それでこのことを知りましたのよ」

「それに妹君は男性達に囲まれて、調子に乗りすぎでしたわ」

「ええ、そうね」


 それから噂は広がり、女子生徒達も「もう付き合えないわ」と囁き合った。



 カスティーナには複数の縁談が来ていた。

 中でも彼女が狙っていたのは、この国で最も爵位が高く容姿も優れた貴族の若者だった。

 しかし彼にも情報は届いていた。

 彼は縁談を断った。

 カスティーナは仕方なく、以前来ていた別の縁談に応じようとした。

 だがそちらの家にも、すでに悪評は届いていた。


「大変恐縮ですが、ご縁談はお断りさせて頂きます」


 そして、次の縁談が来ることはなかった。



 ズクール・ルマッセル侯爵は、帝国からの圧力と国内の世論の変化に挟まれ、ついに爵位を落とされることになった。


 自国の国王は怒っていた。


「あれほどの才能を持つ者を国内で育てられなくなったばかりか、本人達の希望とはいえ兄妹揃って帝国に差し出す羽目になった!しかも加護を三つも持っている者だぞ!他国に逃げだすような扱いをするなど、このルマッセル侯爵家の失態は国としての損失だ!」


 ルマッセル家は侯爵から伯爵へと格下げとなった。

 王家から睨まれ社交界への参加も、事実上閉ざされた。

 グレノルバは社交界から爪弾きにされ、どのパーティーにも招待状が届かなくなった。


 ルマッセル家は、グレノルバとカスティーナに好きなだけ財を与えていたために、財政が苦しくなっていた。

 その工面にイセルトとセイレナを使い、財を潤そうとした。

 だがその二人もいなくなり、その当てもなくなった。



「こんなはずでは……こんなはずでは、なかったんだ……」


 ズクールの書斎で、かつて権威を振りかざしていた男が、ただその言葉を繰り返していた。


 ルマッセル家はその後、財政の工面ができず、没落していくことになる。






 帝国において、セイレナとイセルトは正式に養子縁組の手続きを経て、帝国の貴族として新たな出発を切った。

 セイレナとイセルトは帝国の皇女が嫁下したフィストリス公爵家に養子として迎えられた。


 ルドガル皇子は約束通り、二人に活躍の場を与えた。



 セイレナは、帝国の宮廷音楽家達に多大な衝撃を与えた。

 彼女が演奏する度に、宮廷の音楽文化は刷新されていった。

 一人でピアノと歌の組み合わせは帝国でも前例がなかったが、セイレナの演奏を聞いた若い音楽家達が次々と挑戦するようになった。

 帝国の音楽は、セイレナを起点として一つの革命を迎えた。


 彼女はまた、妖精や精霊との縁も深くなった。

 精霊の加護によって能力を得た。

 三人の精霊から受けた加護のうち一つは音楽で人に力を与える。

 二つ目は実りの力。

 そして三つ目は癒しの力だった。


 セイレナは傷ついた人々の痛みを癒す力を持つようになってから、医術師達とも協力関係を結んだ。

 それには日本での前世の記憶にある、応急処置の知識も含まれていた。

 それが帝国の医術と融合し、新しい治療法の研究にも貢献することになる。



 イセルトは帝国の騎士団に入団した。

 剣の才能は帝国でも一目置かれ、半年後には副隊長格の地位を得た。

 イセルトは帝国で自分の力を存分に発揮し、輝かしい未来を歩んでいくことになる。






 それから数年が経った。


 セイレナは帝国の宮廷で、ある時一人の男性と出会った。

 帝国の外交官として活躍する、イヴァルト・ゲイノスという名の青年だった。

 セイレナの演奏会で主催者が彼を招待したのが切っ掛けだった。

 彼女のことは帝国内でも有名だったので、実際その演奏を目の当たりにして心臓が撃ち抜かれた。

 それから主催者から紹介してもらい彼女と交流を持つようになった。

 そしてイヴァルトは彼女に恋をする。


 二人は穏やかな関係をもちつつも、いつしかお互いがなくてはならない存在になり、数年後に結婚することになる。



 イセルトは騎士団での活躍が認められ、帝国の侯爵家の娘と縁談が持ち込まれた。

 サリーナ・フィリビナという、快活で聡明な女性だった。

 二人は出会いからすぐにお互いが、この人だと確信したそうだ。

 二人の結婚式は帝国の大聖堂で行われた。

 セイレナはその日、祝いのピアノ演奏を贈った。

 妖精達が飛び回り、大聖堂は光に満ちた。

 イセルトは花嫁の手を取り、そしてセイレナを見て静かに微笑んだ。


「ありがとう、セイレナ。お前がいたから、ここまで来られた」

「お兄様こそ。ずっと私の味方でいてくれたから、私もここまで来れたんですよ」


 二人は笑い合った。

 それからのセイレナは音楽の道で活躍しながら、夫と兄夫婦と共に帝国で穏やかで幸福な日々を送ったそうだ。

これで完結になります。ここまで読んで頂き有難うございました。

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