93・やっと平和にデートが出来ました!
「心を取り戻した母があんなに腹立つ奴だったとは⋯⋯他人とは、思い通りにならないものですね」
「ま、まあ⋯⋯元気そうで良かったじゃないの。婆ちゃんも友達が復活して元気百倍みたいになってたし、良かった良かった!」
病院から出た私達の疲れた顔を、優しい風が吹き抜ける。
「モクレン様。母と会わせてくださってありがとうございました」
「どういたしまして。⋯⋯俺の方こそ内緒にしててごめんね。カラタネさんとスマホ越しに会話したとき『驚かしてやりましょ』って言われてさ⋯⋯」
「あのアホ母は⋯⋯」
モクレン様を巻き込んで何ふざけているのだと言いたいが、もしかしたら私を心配させまいと敢えて能天気に振る舞ったのだろう?
それとも、単純に面白半分か?
⋯⋯まあ、母の気遣いと言うことにしておこう。
「さあモクレン様。気を取り直してデートに行きましょう」
「そだね。デートプランは俺がしっかり考えてますから、エスコートはお任せあれ♡」
モクレン様は片目を瞑って小悪魔的に笑うと、私へ手を差し出した。
私はその手に自分の手を重ねる。これはハイタッチではなくエスコートだからだ。
そして、私はモクレン様にエスコートされ、王都で流行りのカフェに着いた。
席に案内され人気商品だと言うチョコレートパフェを注文し、着席。
暫くしてパフェが来たのでそれを口にし食レポをしようかと思ったら。
店内の女性客から「あ、あの人モクレン様だ! かっこいいー!」「声かけてみよっか」と小声が聞こえきた。
⋯⋯何だかチリチリとした怒り状態が湧いてくる。
猛烈にモクレン様を一人占めにしたいと思――
「ツミキちゃん! はい、あ〜んして♡ 君に熱い視線を送ってくるアホな男と、そこで君に声をかけようとしてるアホな男の脳を破壊しま〜す」
モクレン様はお店の迷惑にならない程度を声を張ると、にっこりと微笑みながらチョコアイスを載せたパフェスプーンを私に向けてくれる。
私はモクレン様からのあーんを頂戴しチョコアイスを楽しみながら、私に声をかけようとしているらしい男性を見た。
なんだ? 喧嘩でもするのか? かかってこいである。
「あの貴方。どうされました?」
「あ、私は王族の者で、只今婚約者を探して街に出ているのです。その時、貴女に一目惚れをしてしまい」
王族の男性とやらは顔を赤くしてそんなことを言う。
すると、女性客は「あの王族の人も超カッコイイー!」とはしゃぐ声を出すが、私には良くわからない。
モクレン様が超絶飛ぶほどにカッコいいのはわかるのだが⋯⋯と思った、次の瞬間。
小さな女の子と母親らしき二人組の話し声が聞こえた。
「ママー。あの『パフェのすけくん』のぬいぐるみが欲しいよう」
「うーん、残念だけど⋯⋯あれは『天元突破巨大チョコパフェ』を一時間で完食しなきゃ手に入らないのよ⋯⋯」
「そっか⋯⋯残念だなあ」
「お嬢さん、その心配は入りませんよ」
私が急に話しかけたせいで、親子は「え!?」と驚いてしまう。申し訳無い。
「私が『パフェのすけくん』ぬいぐるみを手に入れて、貴女へお贈り致します」
女の子の目線に合わせるよう片膝をついてそう告げた。相手の目線に合わせて話すのは、モクレン様を見て学んだのだ。
すると、モクレン様は店員様へ
「すみません、このぬいぐるみって他人に譲渡可能ですか? あ、大丈夫? ありがとうございます〜」
と聞いてくれる。素早い行動だ。ありがたい。
一方、突然出て来た王族の男性は「は?」と状況を飲み込めないでいる。
店内の客達の「オイオイオイ死ぬわアイツ」という心配そうな声を他所に、私はカウンターに座り店長様と相対する。
「店長様。あのヤケクソのように盛り付けられた『天元突破巨大チョコパフェ』をお願い致します」
「⋯⋯貴女はツミキさんだろう? 国を救った英雄なんだ。タダでぬいぐるみを渡しても良い。それなのに、やるのかい?」
「ええ。正統な方法でお迎えしたいのです」
「分かった。⋯⋯それじゃ、見せてもらおうか。あんたの生き様を――――え」
『天元突破巨大チョコパフェ』が私の目の前に出された瞬間、パフェグラスをビールジョッキの様に掴むと一気飲みするように食らいついた。
ちょっとボリュームのあるチョコシェイクのようなものである。造作も無い。
女の子の「ひぃいいいい」と言う悲鳴と、彼女のお母様の「見ちゃいけません!!」と言う悲鳴と、モクレン様の「ツミキちゃんは特殊な訓練を受けてるから、良い子は真似しないでね!」と言う明るい声が響く。
暫くすると、パフェグラスの中は空になっていた。
時計を見ると、三分経過していた。
「⋯⋯美味しゅうございました。ご馳走様です」
私は顔面蒼白の店長様からパフェのすけくんのぬいぐるみを受け取り、それを女の子へお贈りした。
すると、女の子は「あ、ありがとう⋯⋯大事にするね⋯⋯っ! お姉ちゃんも、体には気を付けてね⋯⋯」とドン引きしながらも礼儀正しくお礼を言ってくれる。
マグノリア地方のクソガキ――間違えた無邪気な子供達にも見せたいくらいだ。
そして、彼女のお母様も「あ、ありがとうございました⋯⋯。貴女、胃が強いんですね⋯⋯羨ましいですわほほほほ」と笑いながら、ぬいぐるみを抱く娘を抱えて一目散に逃げ出した。
「⋯⋯あれ? 王族の男性は?」
ふと思い出し店内を見回すと、男性はいつの間にか消えていた。まあ良いか。
そう思った私の唇に、紙ナプキンが優しく当てられた。
「ツミキちゃんお疲れ様! チョコ付いてるよ。可愛い〜♡」
モクレン様はいつも通り、ニコニコ笑って私の口元に着いたチョコを拭いてくれたのだった。
◇◇◇
「ふう。あのヤケクソパフェのお蔭で小腹は溜まりましたね」
モクレン様から『代金払ってくるから、ツミキちゃんは外で待っててね』と言われ、私は店の外で待っていた。
すると、頬を赤くした男性が私の元へやって来て
「僕は、隣の聖ペルセフォネ王国から婚約者を探しに来た大金持ちの資産家なのです。美しい貴女に一目惚れしてしまいました!」
と勝手に跪いたではないか。
何、何だ、どういう事だ?
理由のわからない男性の行動に首を傾げていると、路地裏から女性の「や、やめてくださいっ!」と言う怯えた声が!
女性の救助に向かうと、そこには身なりは良いが性格は悪そうな若い男性が、女性を壁際に追い込み手を付いて逃げられなくする、ロマンス小説でよくある壁ドンをしていた。
「何をしているのですか? モクレン様は『壁ドンって暴行罪なんよ』と仰っていましたよ」
私はモクレン様の真似をしながらそう言うと、性格の悪そうな男性は「へえ」と笑ってこちらに近付いてきた。
すると、聖ペルセフォネ王国の資産家の男性は
「君! 僕の運命の恋人に近付くな!」
と言うが、性格の悪そうな男性に睨まれ「ひっ!」と私の背に隠れてしまう。
一方、性格の悪そうな男性は
「あんた、すっごい美人だね。俺一目惚れしちゃったよ。⋯⋯ねえ、可愛いあんたが、俺の性格の悪さを真実の愛の力で変えてみせてよ」
と私の顎へ触れようとした。
顎という急所を狙うとはこの野郎!!!
私はその手を掴み、もう片手で相手の喉を突く!
そして、男の髪を掴み
「壁ドンをされた女性の恐怖心を知りなさい!!!」
と怒鳴り、男の顔面で壁ドンすること三回。
最後に近くの酒場の看板で脳天を叩き割ろうとした、その時だ。
「そこのヤバいヤツ、ちょっと留置所まで来なさい」
「! 貴女は! この前留置所でお会いした女性騎士様!!」
懐かしい人に輪っぱをかけられ、私は再び留置所に連れて行かれた。
◇◇◇
「騎士様。聖騎士団は解体となりましたが、今はどこの所属に?」
留置所の取調室にて。
カツ丼を五杯食べながら騎士様に聞くと、彼女は
「今はマグノリア騎士団に再就職したの。でも、団長のカミさんだからって忖度しないわよ」
とため息を付きながら答えた。
きっと、彼女のような誠実で真面目な聖騎士達は、誰かを負け組と蔑むこともしなかっただろう。そのしっかりした人柄が評価され、再就職出来たのだと思う。安心した。
「なるほど! 再就職おめでとうございます! ところで、私がお救いした女性は大丈夫でしたか? 男性に壁ドンされ怯えていたので、心配です」
「ああ、彼女ね。怯えてたわよ。あんたにね」
その後、私によって顔面壁ドンした男性は、死ぬ思いをしたお蔭で心を入れ替え女性に謝罪したと言う。
一方、私に声をかけてきた隣国の資産家の男性はいつの間にかどこかへ消えたらしい。
そんな時だ。
「あんたの迎えに悪質ホスト⋯⋯じゃなくて団長が来たわよ。もう来ちゃ駄目だからね」
「それは寂しいです。またお会いしたいのですが」
「だめ。次はシャバで会いましょうね」
私は騎士様にご挨拶をした後、迎えに来てくださったモクレン様の元へ走って「ご迷惑をおかけしました」と謝罪した。
だが、モクレン様はいつものようにニコニコ笑いながら
「ほんっとツミキちゃんってば、あの龍が如く暴れまわる漫画の主人公みたいなんだからぁ〜! 刺激的でメロメロになっちゃう♡」
と小悪魔の様な甘い声で言うのだった。
◇◇◇
それからもデートは続いた。
宝石店に行けば、フォティオン王国から来た宝石業界の貴公子と名乗る男性から『俺の運命の恋人になってくれ、美しい君よ』と声をかけられた。
だが、宝石店に押し入った強盗の頭を掴みショーケースが割れるほど叩き付けて制圧したら、私を運命の恋人と呼んだ男性はどこかに消えていた。
さらに、隠れ家的な洒落た料理屋に行けば、この国の裏社会を牛耳る若頭と言う男性に『気に入った。お前、俺のものになれ』と腹立つことを言われた。
しかし、そこで偶然再会した大酒飲みの漁師ゲンさん五十六歳と再びスピリタスを飲み比べし、ゲンさんを潰し過去最高記録の三十二杯目を飲みきったときには、若頭はどっかに消えていた。
デート中に分かったことがある。
モクレン様は女性の憧れの的である一方、私は男性からの支持は無いようだ。
だが、モクレン様だけは
『ツミキちゃんやるね〜♡』
と隣で笑ってくれた。
やはり、モクレン様はお優しい方である。
◇◇◇
「モクレン様、今日のデートも色々とありましたね」
「そだね〜。ツミキちゃんといるといつも刺激的で超楽しい♡」
「! 私もです! モクレン様といると楽しく、そして嬉しいのです!」
そう言えば、モクレン様は隠れ家的な料理屋で、一滴も酒を飲んでいない。
どうしたのだろう。と不思議に思っていると。
「ツミキちゃん。ちょっと来て欲しいところがあるんよ」
モクレン様は緊張したような顔をする。
そんな彼と共に、『来て欲しい場所』とやらに向かうと。
「すごい⋯⋯とても美しい場所ですね!」
そこは、王都屈指の観光名所である大展望台だった。
綺羅びやかな夜景はなんと美しいのか!
それに、夜景を見て美しいと思えることも嬉しかった。
「さすが展望台。夜景が一望出来ますね。⋯⋯まるで、星空を映した水面のようですね。星の海と呼ぶべきでしょうか」
「ほんとだ。⋯⋯ツミキちゃんって、食レポだけじゃなくて、言葉で何かを表すのが得意なのかもね」
「? 私が、ですか? モクレン様の方が優れているかと思いますが」
「ありがと。まあ、俺がやってるのは小難しいことを簡単に説明してるだけだからね」
そうなのか。だが、モクレン様の言語化のお蔭で私はその小難しいこととやらを理解して来たのだ。
だから、モクレン様の表情の方が見てて楽しい。そう思ってじっと彼を見つめる。
すると、モクレン様は今までにないくらい顔を真赤にして、戸惑い恥じらうような顔をした。
「あの、さ。⋯⋯前に、俺が『ツミキちゃんが心を取り戻して色々と経験したら、聞いて欲しいことがある』って言ったじゃん。覚えてる?」
「はい。モクレン様の言うことなら。全て記憶しておりますよ。⋯⋯私にはもう、心があります。だから、聞かせてください」
私はモクレン様と出会って、喜びも哀しみも楽しさも怒りも知ったのだ。
喜びや楽しさのお蔭で、私はモクレン様の美味しい食事を存分に味わうことが出来た。
怒りのお蔭で、私は自分の身を護ることを知った。
哀しみのお蔭で、私は人の感情を察したり共感したりすることを知った。
この四つの感情は複雑に絡み合い、激しく燃え盛る複雑怪奇な熱を、私は『心』と呼びたい。
そもそも、心なんて目に見えないし、個体として存在するわけではないのだ。
だったら、自分がこれだと思うものを心と呼んでも、差支えはないだろう。
「私はもう、自分で判断できます。貴方の言葉を鵜呑みにして盲信することもありません。⋯⋯だから、安心してください」
「ツミキちゃんありがとう。そんなら、聞いてくれる?」
モクレン様は頬を赤くしながらも真剣な顔で私をじっと見ている。
こんな彼は初めて見た。
心臓がばくばくと跳ねる。うるさい。熱い。
胸の甘い痛みに苛まれ呼吸を浅くしながら、私はモクレン様のお言葉を待ったのだった。
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「ツミキとのデート、刺激的過ぎるだろ」
「モクレン、ついに!!!!」
「頑張れモクレン!!!!」と
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