83・ロスベールとカルミアは『悪魔』に断罪される
何もかもが狂った地下室の中、電気椅子の雷に貫かれるロスベール公爵の悲鳴が響いた。
「私はロスベール・ポーラリスだッ!!! 私はベルローザの息子ッ!! 私は人ぃ゙ぃ゙い゙ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
「騒音! はあ。相変わらずギャアギャアうるさい。貴方は『幼体』の頃から変わってませんね」
ファウスト様はカップ麺を片手に電気椅子に座るロスベール公爵の元へ歩いた。
「六・五号。ツミキ様に謝罪なさい。人型魔道具のくせに、ツミキ様に不敬な真似をして申し訳ございませんでしたと言うのです」
「ふざけるなファウストッ!!! 私は女神プルートの末裔!!! その証拠に、私の胸には根源の大樹の聖印が刻まれている!! 母上がそう言ったのだ!」
「胸にある根源の大樹の聖印? 決闘裁判の時も言ってましたけど、何ですか? それ」
決闘裁判だと? いつ行われたのだ。
知らない事実が飛び出すが、私の頭は既にこの異様な光景によって停止しており、頭どころか体も固まっていた。
「六・五号。貴方は人型魔道具ホムンクルスですよ? 製造番号の焼印こそあれど、根源の大樹の聖印なんては無いと思いますけど」
「とぼけるなファウストッ!! 私の胸には焼印など無い!!! あるのは女神から選ばれし勝ち組の聖印のみだ!! 母上が証人である! だから今すぐ私を解放しろッ!! 未来の教皇王の言うことが聞けぬのかぁ熱ァア゙ぁあッ」
激昂するロスベール公爵に、ファウスト様――いや、ファウストは。
冷めきった目でロスベール公爵を見下ろしながら、食べかけのカップ麺を彼の頭へかけたのだ。
頭からカップ麺をかけられ激怒したロスベール公爵は、再び電気椅子の雷撃に悲鳴を上げる。
「ファウストォオォオッ!!! 貴様何をぁ゙ぁ゙あ゙がぁぁぁあッ!!!!」
「貴方の部下である聖騎士団は、ツミキ様に酒瓶やタバコの吸殻を投げ付けていました。彼女の痛みと熱さ、貴方にわかりますか?」
「私は⋯⋯そんなことしていないッ!! それは聖騎士団が勝手にぁ゙あ゙ぐぁぁぁぁあああッ!!!」
「それでも聖騎士団は貴方の部下でしょう? 貴方はツミキ様への蛮行を止められる立場にいたのです。なのに、その傲慢な思い上がりで彼女が痛めつけられるのは当然だと笑っていた。少しは期待したのですよ? だって、ホムンクルスには心が無い。心が無いのは、ツミキ様達ユーフォルビア一族と同じ。⋯⋯貴方も、ツミキ様の様に無垢で純粋かもしれないと、期待していたのに」
ファウストはため息を付いて言葉を続けた。
一方、ロスベール公爵は電気椅子の雷撃に悲鳴をあげ続ける。
「毎日毎日ツミキ様は貴方達に虐げられていました。その悲しみと苦痛がわかりますか? ⋯⋯わかるわけないか。だって貴方は人型魔道具ホムンクルスだもの。⋯⋯貴方は人じゃなくて物。心なんて、貴方には搭載されてないのですから」
「搭載⋯⋯? 貴様、それが人に対する物言いかぎぃあああああああァァアアッ!!」
「ロマンス小説のヒーローごっこは楽しかったですか? 心無き人型魔道具の貴方は、何も考えずロマンス小説のヒーローのセリフや行動を学習し、それっぽい言動を適当に出力していただけなのでしょう? 会話、成立してました? でも、バカ女のお人形さん遊びくらいにはなったみたいですね。⋯⋯勿論、お人形は貴方ですよ? 六・五号」
ファウストは、この異常事態に圧倒され座り込んで嘔吐するカルミア様を鼻で笑う。
一方、頭からカップ麺をかけられたロスベール公爵は電気椅子の雷で悲鳴を上げ続けた。
こんなこと許してはいけない。
私は平常を無理矢理取り戻しながらファウストへ叫ぶ。
「その蛮行を止めなさいッ! いや。止めろッ!!!!」
私は大鎌を構えロスベール公爵を救出――ッ!!?
「ツミキ様。今までご苦労様でした。どうぞ幸せなお眠りをご堪能ください」
「ぅぐ、⋯⋯お前は⋯⋯! 一体何を⋯⋯ッ!」
ファウストの稲妻を帯びた指先が私に向けられた瞬間。
頭がガクンと揺れた。
そして、強烈な眠気。
体が泥のように重い。立っているのも難しい。
大鎌を杖にして片膝を付いた。
「ツミキ様。私は貴女には敬意を払います。貴女は『自分を人だと勘違いした魔道具』や『そこで吐瀉物を吐いてる人型ゲロ』共に虐げられながらも、魔獣からプルトハデス人を護って下さった。⋯⋯それに」
ファウストは指をパチンと鳴らす。
すると、ゴウン⋯⋯と音を立てて、動いた天井から白薔薇が敷き詰められた六つの巨大なガラス管が降りてくる。
その中には、カラタネ様――母を始めとする、私と似た雰囲気の男女が豪華な喪服のような黒い衣装を着て眠っている。
「カラタネ様!!? それに、あの方々は⋯⋯」
「この方々は、初代から六代目までのユーフォルビア一族。⋯⋯この国を護りし英雄達のご遺体です。⋯⋯六号様以外はね」
「以外? カラタネ様は確か⋯⋯魔獣との戦いで大破したと」
「ええ。そうです。でも、ホムンクルスを使えば治療可能なんですよ? ⋯⋯今はホムンクルスから取り出した臓器が体と馴染むまで、眠って頂いているのです」
ファウストは、まるで神に祈るように手を組み目を伏せる。
「我々を魔獣から護るユーフォルビア一族は無くてはならない存在。だから、彼らが手足を欠損しても、魔法科学による義手や義足で修復します。でも、臓器は別。臓器を製造する技術はまだありません。⋯⋯ですが、ユーフォルビアの子孫から生成したホムンクルスと言う『臓器の苗床』があれば、それも可能です」
「臓器の⋯⋯スペア⋯⋯? それは、一体」
「突然こんな話をされても困りますよね。ごめんなさい。⋯⋯ええと、つまり『これ』は貴女の予備パーツなのです。⋯⋯それなのに」
ファウストは私へ向ける柔らかい微笑みをスッと無くし、爬虫類のような瞳をカップ麺で汚れたロスベール公爵へ向け、彼を『これ』と呼ぶ。
「なのに、『これ』の臓器はユーフォルビア一族と適合出来ませんでした。完全な失敗作です。でも皮膚のスペアくらいにはなるかと思って六・五号と識別番号を焼印⋯⋯⋯⋯あ! そうでした! 思い出しました!」
ぽんと手を合わせたファウストは、雷魔法を操ってロスベール公爵の黒い騎士服の胸元を切り裂き、蹂躙するかのように引き裂いた。
「ぁあ! この『火傷痕』! 確かに、線が細く縮れている痕は、根源の大樹の根に見えますね!」
「ファウスト貴様⋯⋯私にこのような真似をして、覚えておけよ。私が教皇王になった時が貴様の命日ぃ゙い゙ァがぁぁああああッ!!」
電気椅子の雷撃によって悲鳴をあげるロスベール公爵へ、ファウストは何が面白いのかゲラゲラ笑っている。
「これ貴方が幼体の時に、私が投げつけたカップ麺の火傷痕ですよぉアハハハハハハッ!!!」
その言葉に、ロスベール公爵の目から気迫が消えた。
「貴方は幼体の頃から本当にやかましくて。焼印を押したあと、睡眠薬を投与したのに眠らずに泣き続けて。失敗作のくせにうるさくてムカついたから、カップ麺を投げつけちゃったんです」
肩をすくめたファウストは
「戦争に参加してから、物に当たる癖が治らなくて。⋯⋯食べ物を粗末にするなんて、駄目ですねえ私ってば」
と抜かす。
奴の言っていることが、何一つ分からない。
人の姿をした化物の鳴き声にしか思えない。
「ベルローザは、カップ麺の醜い火傷痕を不憫に思い、これは聖印だと優しい嘘を付いたのでしょうね。一方、貴方は心も思考力も無いためそれを鵜呑みにした。⋯⋯だけど、ベルローザも人形遊びに飽きちゃったんでしょう。結局は、貴方より人を選んだ」
「⋯⋯違う、私は、人だ⋯⋯っ! ベルローザの息子で、私は母上に愛されて生まれてきて、私は母上からロスベールと名前を頂き」
「だから違うと言ってるでしょう? それに、ベルローザは愛した男と彼の甥との三人で、幸せな家族を築きました。貴方は彼女の束の間の慰み⋯⋯ただのペットだったのです。でも、人の役に立てて光栄ですね。だって、その為に生まれてきたんだから」
「⋯⋯⋯⋯私は、母上の望みを叶えたくて、母上こそ私の幸せで」
「六・五号。貴方はベルローザを母として慕っているのではない。⋯⋯貴方は魔道具としての本能でベルローザを主人と認識してるだけ。⋯⋯魔道具三大原則は学習しているでしょう? 其の一、魔道具は主人に危害を加えてはならない。其の二、魔道具は主人の命令には絶対服従すること。其の三、魔道具は主人の幸福のみを追求せよ。⋯⋯これ、貴方のことなんですよ」
悍ましい会話だった。
ロスベール公爵は自分の尊厳を粉々に破壊し踏みにじるファウストへ、光を無くした虚ろな目を向けながら
「もう、やめろ⋯⋯やめてくれ⋯⋯」
と怯えきった声を出す。
だが、ファウストはロスベール公爵の脛に雷撃を当てたあと、
「やめてくださいお願いします。でしょう? 物が人に口を利く際の言い方を、そろそろ学習なさい」
と聞いているだけで胸が痛くなることを言う。
「それじゃ六・五号。まずはツミキ様に謝るのです。『生まれてきてすみませんでした』『人型魔道具のくせに貴女のスペアにすらなれず申し訳ございません』と。⋯⋯人を人扱いせず自分こそ選ばれた存在だと傲慢に振る舞ってた貴方には、相応しい因果応報ですね」
電撃を受け続け、虚ろな目で唇を震わせるカップ麺まみれのロスベール公爵に、ファウストは穏やかな声で語り続けた。
「私はね、教皇王になった貴方を殺して、その肉体を奪う予定でした。そして、ツミキ様をモクレン公へ嫁がせる予定だったのです。⋯⋯モクレン公は、父親と母親から受け継いだ毒への耐性と頑丈な体と柔軟な思考力と卓越した言語能力を持っておりますからね。種役にはぴったりです。⋯⋯モクレン公は素晴らしい『人』ですねえ。人型魔道具の上位種族と言えるでしょう」
何故だ。モクレン様が褒められているのに全く嬉しくない。
その口でモクレン様の名を語るなと叫びたいのに、眠気でもう動けない。
「そんな下位種族の貴方が種役に選ばれたのはね? 貴方は他のホムンクルスと違って、ポーラリスの血が濃く出たため生殖機能があったから。それに、血縁的にツミキ様と貴方は遠い遠い遠い遠い親戚ですし、掛け合わせたらユーフォルビアの再現が出来るかなーって思ったんです。それだけ」
「⋯⋯はは、ははは⋯⋯そうか⋯⋯はは」
ロスベール公爵は雷に撃たれながら力無く笑っている。
そして、ついに。
「⋯⋯ツミキ、様。生まれてきてすみませんでした。⋯⋯人型魔道具のくせに、貴女のスペアになれず、申し訳ございません⋯⋯」
国を背負う冠を約束され、豪華な玉座に腰を下ろすために生まれてきたロスベール公爵は。
縦長のカップ麺の容器を頭からかけられ、電気椅子に縛り付けられ雷撃に蹂躙されている。
もう、やめてくれ。
目の前で、命が蹂躙されるのは見たくない。
だが、私の体は強烈な眠気で動けない。
頭がガクンガクンと下がり、強制的な眠りに落ちかけ、床に倒れた⋯⋯その時。
「もぉやめてよぉぉおおおおッ!!!!」
キュアピュアヒールの構えでカルミア様が泣き叫びながら光魔法をファウストへ放った。
しかし。
「ああ。いましたね、ゲロ」
ファウストはカルミア様の光魔法を虫みたいに出で払うと、素早い動きで人差し指と中指の照準を彼女の片足に向け、一撃。
「ぃ゙い゙痛ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!!!」
「お前もうるさいですねえ。⋯⋯笑いながらツミキ様を虐げてきたくせに、いざ自分が被害者になったらやかましく泣き喚く。人の醜さを寄せ集めたようなゲロだ」
カルミア様は雷で焼かれた片足を引き摺りながら、背後にある金属扉をドンドンと叩き
「誰が助げでぇぇぇええッ!!! だずげでよぉおおお!!! どぼじでドアあがないのおぉぉおおッ!!」
と泣き叫ぶ。
そんなカルミア様に、ファウストはゲラゲラ笑いながら
「アハハハハハ! 頑張れ! 頑張れ!」
と近付いてくる。
カルミア様は金属ドアを前にしゃがみ込むと、ファウストへ命乞いをした。
「ごべんなざいぃぃいッ!! ごれがらは改心じまずぅぅう!! ゆるじでくだざぃいッ!!!」
「⋯⋯あのね、改心ってそんな単純なもんじゃないですよ? だって人は、ある時は善人になり、ある時は悪人になる複雑な生き物ですから。善も悪もその人を構成する一部。その一部を取り換えるなんて、改造手術でもしない限り無理でしょう?」
まるで聖職者が罪人に語りかけるようなファウストへ、カルミア様はひたすら
「ごべんなざいぃぃい許じでぐだざいいいいい」
と泣き叫ぶ。
涙と鼻水と汗を垂らしながら号泣するカルミア様へ、ファウストは何かを思い付いたように明るい声を出した。
「許す? そうだ。浅はかな思い付きでツミキ様を連れて来てくれたご褒美に、私の質問に答えられたら命は助けてあげましょう。それじゃあ質問です。『人を殺してはいけない理由を答えよ』」
「死にだぐないぃぃぃいッ!!! じにだぐないんでずぅゔう!!!」
「絶妙! なるほど! 自分が死にたくないから、人も死なせない。貴女らしい率直な意見ですね。勉強になりました!」
ファウストはケラケラ笑いながら、その場にしゃがみ込んでカルミア様の頭を鷲掴みにする。
「貴女らしい小さい頭。思えば貴女も哀れな人だ。愚かな凡人以下のゲロのくせに、天才と呼べる光魔法の才能を持って生まれ、浄化の聖女になってしまったのだから」
「ごべんなざいごべんなざいゆるじでゆ゛る゛じどぇぇぇええええ゛っ!!!」
「⋯⋯浄化の聖女という存在が何故生まれたか知ってます? それはね? ちょっと見た目が良くて光魔法が得意な女性を聖女として売り出すことで、商売をしようとした詐欺師がいたからなんです。⋯⋯要は、ただの広告塔だったんですよ、貴女は」
そう言ってファウストはカルミア様の頭を掴んだまま立ち上がると、その手から真っ白な雷光を発したではないか。
地獄の地下室の中で、頭から雷撃を食らうカルミア様の絶叫が響く。
「ごべんなざァぎゃァァアアアアぁぁあああァァァアアァアアッッ!!!!!」
「その光魔法の才覚、私にください。この肉体を保つの、もう限界なんです。歳のせいですかねえ。⋯⋯でも、貴女の光魔法があれば、ロスベールをハッキングする力くらいは回復しますから」
「ぎぃアアアァアァアアアァァァアアアッ!! ぁがっあがががががががッ!!」
「あはは。ブサイクな顔になっちゃいましたね。お化粧します? 油性のペンならありますよ? ⋯⋯⋯ねえ、貴女も薄々気付いてたのでは? 自分の顔はほんの少し整っているくらいで、本物の美人であるグレートヒェン⋯⋯いえ、ツミキ様には叶わないと。だって、金を湯水のように使ってその程度なんですから」
泥のような眠気で、ファウストの言うことが何一つ分からない。
ただ、命に対する尊厳が毛ほどに無いことならわかる。
ああ、瞼が重い。大鎌を握る手に力が入らない。
私は瞼を閉じて、眠りを受け入れながら、ファウストの声を聞いた。
「ああ、ツミキ様。眠りについた貴女をお運びするのは、私が開発した女性型機械人形に任せます。私は指一本、聖なる貴女に触れることはありません。だって、貴女はグレートヒェンを救ってくれる聖女なのですから」
◇◇◇
「⋯⋯ぁれ? あたし、生き、てる?」
あたし――カルミアが目を覚ましたのは大教会だった。
もしかして、あれって夢?
いや、まだ体は痺れてるし、ファウストの雷光で撃ち抜かれた足はジクジクと痛い。
でも、生きてる。
だから、早く助けてもらわないと。
あたしはフラフラと立ち上がる。
すると、大教会のステンドグラスに自分の姿が映――――
「ギャァァァああああああッ!? なにこれぇぇぇええええッ!?」
そこに映っていたのは、国一番の美少女と称されたあたしじゃなくて。
老婆。いや、雌のゴブリン?
骨と皮だけになって全身シワだらけ。
顔には意地悪そうなシワがヒビみたいに入ってて、左右非対象に醜く歪んでる。
髪と服はゲロで汚れた醜悪な化け物が映っていたのだった。
「なにごれぇぇえええッ!? な゛に゛ごれ゛ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ええええええッ!!!!」
あたしはただ、絶叫した。
◇◇◇
……良い感じにお付き合いありがとうございます。
「ロスベールとカルミアには因果応報を、と思ってたけど、こんなのって……」
「いや、因果応報のざまぁだ!!スカッとした!!」
「人の心あるんか」
「たすけて」と
思って頂けましたら、下記の星☆☆☆☆☆から★★★★★5評価を入れてくださると嬉しいです。
(私のモチベーションが上がります!)
ブクマとべた褒めレビューとご感想とリアクションと悲鳴をお待ちしております。
それでは、何卒宜しくお願い致します。




