68・魔法兵器、ついに完成です!
「みんな。俺、教皇王目指してみるわ」
モニカ様の遺骨をホオノキ様にお預けした翌日の朝と昼の間。
久しぶりに全員集合した屋敷の食堂にて。
モクレン様からとんでもない決意表明を聞いて、心臓がギュッと締め付けられた。
モクレン様は、やはり教皇王の座を狙っておられるのか。
⋯⋯。
⋯⋯そうか。
ならば、仕方ない。
「モクレン様、貴方ならきっと大丈夫です」
モクレン様がいつも下さる『大丈夫』と言うお言葉を、そのままお返しする。
すると、サラサ先輩も
「モクレン、お主なら教皇王でも魔王でも目指せるじゃろ」
とハイエルフらしい威厳を見せながら賛成した。
そして、レンゲ様が
「まあ、ダメ元でやってみりゃ良いんじゃない?」
と気怠げに言う。
私達の意見を聞いたモクレン様は、覚悟を決めたような顔をして頷く。
「それじゃ、俺が教皇王になるために、魔法兵器を開発したっていう功績が欲しいわけだけど」
モクレン様は緑茶を一口飲んでから、話を続ける。
「現状、どんな兵器にしたら良いのかさっぱりわからない。そこでレンゲくん。チートエンジニアキャラとして考えある?」
モクレン様の無茶振りに、レンゲ様も緑茶を飲みながら
「ごめん。正直、ボクの頭は雷魔法のコントロールと暗号で書かれた極秘資料の解読でキャパオーバー」
とため息を付く。そして、煎餅を小さく割ってから食べ始めた。
「サラサ氏はなんかある? この中で一番あの名状しがたい魔獣への知識があるわけだしさ」
「それがのう⋯⋯わらわもお手上げじゃ」
サラサ先輩は肩を落として、緑茶と煎餅を食べた。
すると、床に落ちた食べカスを吸い込みに来た円盤型掃除魔道具であるワルツが、うぃーんと音を立てて掃除する。
そんなワルツへ、サラサ先輩は
「おりこうじゃのー。偉い偉い」
と言って椅子から降りてワルツを撫でた。
「普通の掃除用魔道具は聞いたことがあったが、ワルツのような円盤型掃除魔道具は初めて見たぞ」
「普通の掃除用魔道具⋯⋯ですか?」
私の疑問に、レンゲ様が答えてくれた。
「そう。ゴミを溜め込む箱とホースとゴミを吸い込むブラシが付いてる魔道具でね。そのホースとブラシを繋ぐ延長管にある持ち手を掴んで動かすんだよ」
レンゲ様はアイパッドにペンを走らせると、先程説明して下さった掃除用魔道具の絵を描いてくださった。
確かに、箱とホースと延長管と床を磨くようなブラシが付いていると思った、その時!
ブーーーーーーーンッッ!!! と言う派手な羽音が!! あれは、スズメバチか!?
「駆除します」
上空を飛ぶスズメバチへカトラリーから取り出したフォークを投擲し、真っ二つにした。
すると、モクレン様達は「おお〜」と声を上げ拍手をしてくれた。嬉しく誇らしい。
「ありがとねえツミキちゃん。やっぱすげえわ君って」
「恐れ入ります。それにしても⋯⋯どこから侵入したのでしょうか⋯⋯?」
そう呟いた瞬間。
「のじゃぁぁあああっ!? なんじゃアレ!?」
サラサ先輩が絶叫し、厨房にある小窓から覗く茶色い塊を指さした。
◇◇◇
「俺達が留守の間に家作りやがって虫けらがぁ〜ッ! 空き巣みたいな真似してお前、土地代取るぞこの野郎ッ!!」
白い防護服を着たモクレン様が、私達の先頭に立ち蜂へ啖呵を切る。
後に続く私達も白い防護服を着て、とある武器を持っていた。
それは⋯⋯!
「対蜂用に改造された掃除機で、吸引致します!!!」
私は改造掃除機を持ち、次々とスズメバチを吸引した!
捕らえられたスズメバチが改造掃除機の中で暴れるが、この中にはスズメバチを殺傷する薬剤で満ちている。後は言うまでもない。
私とレンゲ様とサラサ先輩が改造掃除機でスズメバチをスポスポ吸いながら、モクレン様が薬剤を焚いて蜂の巣を切除すること数十分。
蜂との抗争は無事終結したのだった。
◇◇◇
「私達が不在の間にあそこまで大きな巣を作るなんて⋯⋯。油断も隙も無いですね」
激闘の末。
私達は食堂にて少し遅めの昼食を取りながら、再び魔法兵器の案出しをしていた。
「油断も隙も無いと言えば! このきつねうどんもです!! 塩っぱい汁に甘い油揚げが混ざり合う中、もちもちしたうどんが良い感じに絡み合う様はまさに攻守共に完璧!! さらに付け合せのかまぼこのプリプリした食感がうどんを飽きさせない! 隙が無さ過ぎる!!」
「おお〜!! 久しぶりのツミキちゃんの食レポだ〜!! ありがとう! 俺もうツミキちゃんの食レポが無いと飯作れないかもしれんわ〜」
モクレン様が作ってくださったきつねうどんに飛ぶぞ状態になっている一方、レンゲ様は
「ボク今日は月見うどんの気分ー」
と鼻歌混じりに卵の用意をしていた。
「卵を温めるためには色々気を付けなきゃ。そのまま電子レンジ魔道具で温めたら爆発するからねえ」
「爆発!? 卵とは爆発物だったのですか!!?」
驚愕する私にレンゲ様は「そだよぉ」と緩い返事をした。
そんな会話に続いて、餅入りうどんを食べているサラサ先輩が
「そもそも、なんで電子レンジに食品を突っ込んだら温まるのじゃ?」
と不思議そうに言う。
その疑問に、レンゲ様が答えた。
「電子レンジってのは、超ざっくり言うと電磁波で食品の中にある水分を振動させて加熱してるんだ。⋯⋯んで、卵が爆発する理由なんだけど、卵みたいに膜がある食品を加熱すると、熱された水分が水蒸気になって膨れ上がるってのに、膜があるせいで逃げ場が無くて爆発⋯⋯ってわけ」
レンゲ様はそう言いながら卵を電子レンジにかけた。
「だから、爆発させないための容器に入れて、数十秒ごとに様子を見ながら温める必要があんの」
得意げに話すレンゲ様へ、モクレン様が口を開く。
「あれ? レンゲ様くん、卵に水蒸気逃がすための穴開けた?」
「あ、やべ」
瞬く間に、ボンッッッ! と言う音を立てて電子レンジの中に卵が爆散したのだった。
◇◇◇
「ごめんみんな⋯⋯ボク、話に夢中になるといつもこうで⋯⋯。そしてごめんなさい卵さん⋯⋯」
レンゲ様はがっくりと項垂れながら電子レンジの掃除をしている。
幸い、熱された卵は食べられる部分が多かったのでそれは無事うどんに乗せることが可能であった。
だが、見るも無惨と言った様子で、サラサ先輩は
「月見うどんではなく星屑うどんじゃの」
と表現した。星屑とは良い表現である。
「それにしても⋯⋯今日は色々ありましたね。蜂が巣を作り電子レンジは爆発して、魔法兵器どころではありませんでした」
静まり返った空気の中、モクレン様が苦い声を出す。
「⋯⋯ほんと、魔法兵器どうしよっか。大砲や爆弾みたいなのは周囲を破壊するから迷惑だし、倒した後の毒の問題もあるんよなあ」
その言葉に、サラサ先輩が続いた。
「鮭魔獣は運良く海水で毒が抜けておるが、他は毒まみれじゃからのう」
「そうですね。⋯⋯確か、モクレン様は鮭魔獣から毒が抜けた理由を『フグの卵巣を糠漬けすると、塩と糠で毒が抜けて食用可能になるのと似ている』⋯⋯と仰ってましたね」
その時、ふと思い付いた。
「確か、電子レンジは食品の水分を加熱し水蒸気にするんですよね? ならば、フグの卵巣も電子レンジにかけたら毒を含んだ水分が飛ぶのでは?」
「⋯⋯ごめんツミキちゃん。それだとフグの卵巣が煮えて駄目になっちゃうのよ」
「! 失礼しました。素人考えでしたね。電子レンジへの理解が浅かったです」
「いや、い〜のよ。思い付いたことは奥せずガンガン発言してくのが大事だから。でも、もう人の頭ぶち込んで『温めよろしく』とかやっちゃ駄目⋯⋯⋯⋯⋯⋯あ゙ッッッ!!!!!」
モクレン様が突然大声を上げて立ち上がった。
「ツミキちゃん名案だよ!!!!! 魔獣を電子レンジにぶち込んで加熱すれば!!! 毒を含んだ水分を水蒸気にして分解出来るし、その水蒸気は水に戻して糠と塩で消毒出来る!!!」
「⋯⋯そ、そんなの⋯⋯アリなのですか?」
「まあ、厳密には色々調整が必要だと思うけど、原理はこれで何とかなるんじゃないかな」
モクレン様の言葉に、レンゲ様が続く。
「不可能ではないけど⋯⋯⋯⋯でも」
電子レンジの掃除を終えたレンゲ様が、
「問題は、どうやって魔獣を電子レンジにぶち込むの? デュラハンみたいな悪霊魔獣は知能が高いし、餌でおびき寄せるってのは無理と思われ」
とツッコむ。
確かに厳しい話だ。
いっそ、さっき駆除した蜂みたいに無理矢理吸引してぶち込めたら良い――
⋯⋯⋯⋯⋯⋯!!!!!
「蜂」
私は先程、あるものを使って蜂をスポスポ駆除したじゃないか。
「掃除機です! さっき蜂を吸引したように、魔獣を電子レンジに吸引出来れば⋯⋯!」
私は、思い付いたことを皆へ話した。
◇◇◇
俺――ロブは聖騎士団の副団長だ。
俺は名門貴族の息子として生まれた、文武二道の天才で弓の名手だ。
そして、カルミア姫への愛はロスベールに負けないほどある。
ロスベールが不在の今、聖騎士団もカルミア姫も俺のものにしてやるんだ!
「オオスズメバチ魔獣なんざ俺達の敵じゃない!! 全て撃ち落としてやろう!!」
俺がそう言うと、弓部隊が雄叫びを上げ――――
「道を開けろ〜〜〜〜〜ッッッッッッ!!!!」
突然、モクリエールアレンの声がした。
と言うか⋯⋯何だあれ!?
畑を耕す農耕魔道具のような鋭い歯を持つ滑車が付いた巨大な電子レンジに、巨大な掃除機がくっ付いてるじゃないか!!!!
まるで、巨大な鋼鉄のゾウだ。
そして、巨大な電子レンジの上には、モクリエールアレンと変な格好した青髪とエルフのガキと大鎌を持つ七号が乗っている。
その横には俺が昔顎で使っていたマグノリア地方の負け組が乗っていた。
「それじゃあツミキちゃん!!! 君はオオスズメバチ魔獣の女王を倒してくれ!!! 雑魚は俺達に任せろ!!」
「かしこまりました!!」
待て待て待て、魔獣は俺達が――
「それじゃ〜マグノリア騎士団の諸君っ!! 吸引よろしくぅ〜ッ!! はい! ど〜んと行っちゃって! はい! スポスポ行っちゃって!」
モクリエールアレンがホストのシャンパンコールみたいに叫んだ瞬間。
マグノリア騎士団の連中は金属板で何やら操作をすると、巨大な掃除機がスポスポとオオスズメバチ魔獣を吸引して行った。
は? 何これ。
「それじゃあ仕上げだ!!!!! 温めよろしくぅッッッ!!!」
は? 温めよろしくってまさかお前電子レンジで蜂を加熱――――
「ヒィイイイイイッッッ!!!」
電子レンジの中はグロテスクなことになっていた。
あまりのグロさに弓部隊のエースがその場で嘔吐した。
「ツミキちゃん!!! あの巨大な奴が女王蜂だ!!! あれは吸引出来ないのでよろしく!!」
「かしこまりました」
巨大な電子レンジの上から七号が跳躍し、瞬きをしたその時には大鎌で女王蜂を粉微塵に切り刻んむ。
その残骸も巨大な掃除機が吸引し、巨大な電子レンジの中へ吸い込まれていく。
すると、七号は素早くモクリエールアレンの元へ戻った。
「モクレン様。見事なお手並みでした。駆除の難易度が高いオオスズメバチ魔獣軍団を、たった数分で殲滅するとは」
「ツミキちゃんこそ、いつもお見事♡」
そう言って、二人は巨大な電子レンジの上でハイタッチをした。
待ちに待った俺の見せ場は、まるで掃除機に吸われたように一瞬にして無くなったのだった⋯⋯。
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「フグの卵巣の糠漬け、あれ伏線だったのかよ!!」
「魔法兵器、そう来たか!!」と
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