40・ウルトラクソヤベェ!!!!
「結論から言うと、魔動結晶と金属を溶かして、全く新しい超合金を作ることは可能だったよ。名前はレア度の高い金属ってことで、『レアメタル』が妥当と思われ」
モクレン様が魔動結晶を溶かしてはどうか? と提案した夜から、三日後の昼。
屋敷に帰ってきた私達は、もはや作戦会議室のようになっている食堂に集まって、レンゲ様の発表を聞いたのだった。
⋯⋯ちなみに、サラサ先輩の歌で半壊した屋敷は、建築業の方々のお蔭で無事元通りになっている。
「おめでとうございます、レンゲ様。その、レアメタルとは一体どのようなものなのですか?」
「それはねぇー⋯⋯ほら! こんな感じ!」
レンゲ様はどやぁといった具合で胸を張り満足げな顔をしながら、桃色に輝く金属の延棒を、外交資料だらけのテーブルの上に置いた。
サラサ先輩は目を輝かせながら
「こりゃ綺麗じゃのう!! それに、金属から魔力が満ち溢れておる!!」
と声を弾ませる。
そんなサラサ先輩へ、レンゲ様は興奮気味に話始めた。
「そう! このレアメタルには魔動結晶の力が余すことなく混ざってるんだ! それと金属が合わさる事で強度も上がっとるししかもこいば組み合わせて電気ば流しゃ電流と磁界が発生すっけん導体の電力ば利用してレールガンも可能で魔道具どころか馬車を超える乗り物ば作れっとよ例えばヒーロー漫画に出てくるバイクごた乗りモンも」
「レンゲくんありがとう!!! そしてごめん!! 言ってること古代語か?ってくらい意味わからんけど、取り敢えずウルトラクソヤベェってことで良い?」
「うん。取り敢えずそんな感じー」
レンゲ様は好き放題喋ることで落ち着いたのか、いつものゆったりした雰囲気を取り戻してモクレン様に答えた。
⋯⋯興奮して早口になっている際、聞き慣れない訛りが飛び出していたが、あれは地方訛りなのだろうか。
「魔動結晶を溶かして作ったこのレアメタルさえあれば、魔道具の性能は上がるし、パーツが少なく済むから小型化も可能だよ。⋯⋯ただ」
先程まで興奮状態だったレンゲ様は、今度は溜息を付いて落ち込んだ様子を見せた。
「現実問題、魔動結晶と金属がボクらには無くて。⋯⋯この国で魔動結晶と金属の入手ルートを唯一持ってるのは、あのロスベールだし」
溜息を付いたレンゲ様は肩を落とした。
確かに、レアメタルを開発出来たのに、それを生産するための資源が我々には無い。
魔動結晶も金属も、この国では全てロスベール公爵のものである。
⋯⋯⋯⋯この国、では?
「フォティオン王国のナルテックス鉄工⋯⋯!」
このプルトハデス国には今、フォティオン王国中の鉱山を所有するナルテックス鉄工のご令嬢がいるではないか。
「ナルテックス鉄工のプロメ様は外交時、カルミア様に魔動結晶についてのお話を持ちかけていましたよね」
カルミア様が仲直りのためにモクレン様を大聖堂へ呼び出した際『プロメ様は魔動結晶の話題しかしなかった』と言っていたのを思い出す。
「まさか、プロメ様は⋯⋯魔動結晶と金属が新たな物質を生み出すことを予想していた、のでしょうか」
豊かな自然と莫大な鉱石資源を持つ国に生きるプロメ様が、資源も土地も何も無いプルトハデス国からの外交の申し出に乗った理由。
外交時の話題に魔動結晶を選び続けた理由。
それは、魔動結晶の新たな価値を見つけるためだった。
「盛んな地熱が動力であるフォティオン王国にとって、我々の魔道具文明を支える魔動結晶は必要ありません。⋯⋯でも、魔動結晶が『新しい物質になる素材』と考えたら⋯⋯うっすらと興味が湧くのも納得が行く話です」
それ単体では何の価値も無い魔動結晶が、歴史を変えるほどの価値を持つ新しい物質になるのなら。
もし、それに投資をしたなら。
得られる利益は、想像もつかないだろう。
そう考える私の隣で、サラサ先輩はモクレン様がささっと作って下さった梅きゅうりと言う軽食をポリポリ咀嚼したあと、お茶を飲んでから口を開いた。
「おひい様も、今後仲良くする外交役が『自国の特産品の価値に気付けるほど賢いのか?』と値踏みしていたのじゃろう。さすがは商売人の姫君じゃ。彼女が普通の貴族令嬢だったなら、外交相手はロスベールとカルミアでも十分成功したじゃろうに。⋯⋯あの子らには、運が無かったのう」
サラサ先輩は遠くを見ながら、梅ダレが付いたきゅうりをポリポリ食べている。
そんなサラサ先輩の後に、レンゲ様も梅きゅうりをポリポリ食べたあとお茶を飲んだ。
「でも。プロメさんの狙いが分かったところで、問題はそこじゃないと思われ。⋯⋯最大の壁はプロメさんと利権の交渉することだし。⋯⋯この交渉次第で、プルトハデス国の未来は変わるだろうね」
レンゲ様はそう言って、モクレン様を見た。
「モクレン氏。キミは、世界最強の金持ちである鉄鋼の姫君さんとどう戦う?」
「⋯⋯⋯⋯ウルトラクソヤベェな」
モクレン様は天井を見上げて椅子の背もたれにだらりと寄りかかった。
「プロメ嬢の興味は利益のみ。それ以外の話題には一切食い付かない。⋯⋯それに、彼女の情報を探ろうにも、傍には三人の護衛がいる」
テーブルに広げた外交資料を見ながら、モクレン様は眉間にシワを寄せた。
「その三人は、フォティオン王国の豊かさを考えると、うちとは比べもんにならないほどの手練だろう。だから、その三人に取り入ってプロメ嬢の情報を探るっていう、新聞社に忍び込んだ時の策は使えないわけだ。⋯⋯⋯⋯どうしたもんか」
モクレン様はため息を付いて、プロメ様に関する数枚の資料をテーブルに広げる。その中には彼女の写真もあった。
その写真では、ツバの広い帽子を被り、外交に相応しいシンプルなワンピースと扇を持つプロメ様が微笑を浮かべている。
人形のような可憐さの中に知性と良い意味での狡猾さが滲んでおり、手強そうな人物であると予想出来た。
そして、プロメ様を護る三名の護衛である騎士様達の写真も拝見した。
女性が二名で男性が一名だ。確かに、警護対象のプロメ様は女性であるので、警護役は女性が多くなるのも当然だ。
プロメ様も三名の騎士様も、一切の隙が無いと見受けられる。
これでは、モクレン様が愛嬌を持って懐に飛び込むのは不可能だろう。
⋯⋯プロメ様と、三名の騎士?
もう一人、重要な誰かを忘れているような⋯⋯。
「シドウ様」
プロメ様の夫である、シドウ様。
プロメ様のことばかりを考えがちであったが、夫であるシドウ様も大事な外交相手である。
「シドウ様は、どういった方なのでしょう」
私がそう言うと、モクレン様は「ちょい待ってね」と言って、シドウ様に関する資料を広げた。
すると、サラサ先輩が
「世界最強の金持ちであるおひい様の婿殿じゃろ? ウルトラクソヤベェ逆玉じゃ! どれ、どんなご尊顔をしとるのかわらわが見てやろう」
とシドウ様の写真を手に取った。
「ほおー。予想とはだいぶ違っておった。モクレンとは真逆の強面系じゃのう。舞台俳優顔と言うのか? 味と個性のある美形じゃなー」
サラサ先輩はそう言って、シドウ様の写真をプロメ様の写真の隣にそっと置いた。
写真に映るシドウ様は、緊張しているのか表情が強張っている。確かに強面と言う分類ではあるが、どこか優しそうな雰囲気もある。
それに、外交に相応しい豪華な礼服を着ておられるが、シドウ様の体格は一見しなやかに見えるものの素晴らしい筋肉と骨格があることがわかった。
「シドウ様はもしや⋯⋯武人なのでしょうか」
私の独り言に、サラサ先輩が「確かに。フォティオン王国一の槍の使い手と資料に書いておるのう」と答えてくれた。
なるほど、シドウ様はフォティオン王国一の武人であり、槍の名手なのか。興味深い。一度手合わせ願えないだろうか。
魔獣を駆除するために交配を重ねて生み出されたユーフォルビア一族の身として、シドウ様には大変興味がある。
シドウ様との交流は、私の戦闘技能向上に繋がるかもしれない。
そうなれば、もっとモクレン様のお役に立てるだろうか。
そんなことを考えていると、サラサ先輩が
「なんじゃなんじゃ。ツミキはおひい様の婿殿に興味津々なのか? 甘いホスト系の美男子より誠実そうでクールな強面美形か? ほほーう、これは困ったのうモクレン! のーじゃハッハッハッハッ!!」
と楽しそうに笑っている。
⋯⋯なぜ私がシドウ様に興味を示すことでモクレン様が困るのかは理解不能だ。
やはり、私はもっと会話技能を学ぶ必要がある。ホオノキ様に教えを乞わねば。
決意を新たにした私の向かいで、モクレン様は
「⋯⋯おい鳥、お前そろそろ家賃取るからな」
とツッコんだ。
「⋯⋯でも、そうか。シドウ殿は、人を騙すしか能が無い口先だけのゴミカスみてえなホスト系の俺とは真逆の、誠実でカッコいい系の強面美形⋯⋯ってことは⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯すまんモクレン。ごめん、おちょくり過ぎた。ほんとごめんなさいなのじゃ」
「⋯⋯のじゃ、俺は意外と根に持つタイプだぞ。流行りの言葉で言うと、顔は陽キャでも中身はドブみてえな陰キャだからな」
モクレン様とサラサ先輩は、そう会話したあと握手をして仲直りをされたようだ。
何がどうなって喧嘩になったのかは分からないが、仲直りしたのなら良いことである。
「⋯⋯話戻すぞ。えっと、つまり、俺が言いたいのは、シドウ殿は愛嬌振り撒いて人に取り入るタイプでは無いように見える。⋯⋯ってことを考えると、シドウ殿が逆玉を狙ってプロメ嬢にグイグイ迫ったとは考えにくいわけだ。⋯⋯つまり、二人の関係性はその逆」
モクレン様はプロメ様とシドウ様の写真をそれぞれ指でさした。
「プロメ嬢が、シドウ殿にウルトラクソヤベェほど惚れてるんだろう」
モクレン様はそう言って、シドウ様の資料にある『下町の武器屋の出身』と言う一文をなぞりながら、話を続ける。
「それに、プロメ嬢の周りには、きっと金目当ての大貴族の美男子がたくさん集まってたと思う。プロメ嬢的にも、大貴族と結婚すりゃその地位が手に入るわけだから、そっちのが利益になるはず」
「確かに⋯⋯プロメ様と結婚したいと望む大貴族の殿方は、数え切れないほどいたでしょう」
「そうなんよツミキちゃん。でもプロメ嬢は、そんな大貴族を選ばずにシドウ殿を選んだ。⋯⋯ってことは、プロメ嬢にはシドウ殿へ『ウルトラクソヤベェ愛』があるはず。⋯⋯だから、今回の外交で俺が堕とす相手は、プロメ嬢じゃない。⋯⋯シドウ殿だ」
モクレン様はシドウ様の写真を指でさした。
いつもの優しげな紫色の瞳には、鋭い眼光が宿っている。
「プロメ嬢に気に入られたきゃ、彼女が愛するシドウ殿と仲良くならにゃ。⋯⋯だから、俺は今日から『この国最強のヒーロー漫画ヲタク』になる。⋯⋯カルミアが言ってたっしょ? シドウ殿はヒーロー漫画が好きだって。だから、その話題で攻めようと思う」
確かに、カルミア様は『シドウ様はヒーロー漫画が好き』と言っていた。
共通の話題があれば、シドウ様も話しやすいだろう。
「シドウ殿は俺が堕とす。全身全霊でウルトラクソヤベェほど楽しませて、プロメ嬢から寝盗る勢いで俺に惚れさせる。⋯⋯こんくらいの熱量じゃねえと、この戦いは勝てないから」
獲物を前にした猛獣のような顔をするモクレン様は、その鋭い目つきのまま私を見た。
「だから、プロメ嬢の会話相手は⋯⋯ツミキちゃん、君に頼めるかな」
「っ!?」
モクレン様にまさかの役割を任され、私は梅きゅうりを頂こうとしていた手を止めた。
会話能力皆無の私に? プロメ様の会話相手?
そんなの、そんなのは⋯⋯。
「モクレン様。お言葉ですがウルトラクソヤベェかと」
◇◇◇
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「プロメの目的が分かってビックリした!」
「ウルトラクソヤベェ!」
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