34・作戦会議です
「よ〜し!! 今から作戦会議を始めるぞ!! 議題は『フォティオン王国の大使とどうやって外交するか?』だ!」
モクレン様と雑談をしながら眠った翌日の昼。
食堂に集まった私達は、外交についての作戦会議を初めたのだった。
「モクレン様。フォティオン王国の大使とは、一体どなたなのですか?」
「えっとね。外交相手は、国中の鉱山を所有する大商会『ナルテックス鉄工』の会長の一人娘『プロメ・ナルテックス嬢』って方でね。……会長がご逝去されたから、ご子女のプロメ嬢が夫のシドウ殿と三名の護衛を連れてプルトハデス国に来られたわけよ」
モクレン様は外交の資料を読み上げたあと、
「国中の鉱山を持つって……どんだけ金持ちなんだよ」
と溜息をつく。
すると、サラサ先輩は
「相手は貴族のおひい様ではなく、商売人のおひい様か……。これは中々手強いぞ」
と真剣な顔をして、モクレン様が焼いて下さったマシュマロサンドクッキーへかぶり付いた。
「……モクレン様。………あの、私も」
「良いよ良いよ。会議ってことで我慢してくれたんだね。気ぃ使ってくれてありがとう。良いからお食べ」
「! ありがとうございます!!!」
遠慮なくマシュマロサンドクッキーを齧ると、初めて味わう美味しさに『飛ぶぞ』状態となった。
「モクレン様! マシュマロサンドクッキーとはビターなチョコクッキーと品のある甘さのマシュマロが良い具合に蕩け合うことで、苦味と甘さによる複雑な味わいが楽しめますね……!! 相反する味と種類の菓子が互いを引き立て合う様子は、まさに世界平和への第一歩と言うべきものでしょう」
「今日も食レポありがとね〜ツミキちゃん。マシュマロサンドクッキーも世界平和の力になれて喜んでるよきっと」
モクレン様は笑って答えて下さったあと、
「んで、その世界平和のためにも、フォティオン王国最強の金持ちであるプロメ嬢と外交を良い感じに結びたいわけだが、取り敢えず、レンゲくんはどう思うよ」
と眠気覚ましの紅茶を飲むレンゲ様へ質問した。
「ボク的にはー、そもそもロスベールとカルミアがしくじったわけでしょ? まずは土下座して謝らないと駄目だと思われ。これがほんとの土下座外交ってか」
レンゲ様はそう言って紅茶のカップをソーサーに置くと、背中をバキボキ言わせながら伸びをしつつ
「つーかそもそも、外交失敗ってのが気になるんだよねえ。それについての資料ある?」
とモクレン様へ手を伸ばす。
「外交失敗についての資料はこれ。……音読頼むわ」
「りょ。……なになに? ……プロメさん曰く
『女神の子孫であり歴史あるポーラリス公爵家のご当主様と、その妻であり由緒正しい伯爵家の令嬢であるカルミア様と関わりを持つことは、何の歴史も爵位も無い成り上がりの炭鉱者にとってとても荷が重く、私のような下賤な者がお言葉を交わすには余りに上品過ぎる』
…………だって。バチクソ怒ってんじゃんプロメさん。一体ロスベール達は何したん。土下座で足りるん?」
プロメ様のお話を文面通りに受け取ると、ロスベール公爵とカルミア様の持つ歴史と由緒に引け目を感じ、自ら身を引いたように思える。
しかし、これをレンゲ様は『バチクソ怒ってんじゃん』と仰った。
と言うことなら、この文面は盛大な皮肉であると伺える。
その本意を考えようにも、会話能力や社交能力が皆無な私にはとても難しく、モクレン様に
「この文面の本意をご説明お願いできますか?」
と頼んだ。
「いいよ〜。……これはホオノキ婆ちゃんの出身地、ハイタカ地方のギオン地区で使われる謙遜に見せかけた盛大なド皮肉だね。……プロメ嬢の言葉を婆ちゃんのギオン地区風に言うと、
『歴史と由緒がおありで大変よろしおすなあ。それだけ長い時間かけて育てられたお上品な坊っちゃん嬢ちゃんやのに、成り上がりの炭鉱モンすら満足に迎えられへんのかいな』
ってことだね。いや〜バチクソに怒ってるねえ。……マジで何したんだ兄貴達」
モクレン様はそう言って顔を引き攣らせながら、資料を読み進めた。
「えっと……あ〜そう言うことか。……兄貴は『私達は爵位の無い平民相手でも差別せず受け入れる』って言ったんだって。……これはもうバリバリに差別してるからね。差別がある前提で話しちゃってるから」
資料を音読して青ざめたモクレン様は、次の資料に目を通したあと、「マジかよ」と呟いた。
「しかも、カルミアはプロメ嬢に『上流階級のお作法がとても上手ですね! きっとあたし達と交流をするためにたくさん勉強したのでしょう? 言葉遣いもとても丁寧で、本物の貴族みたいです!』って褒めたんだって。……これが嫌味じゃなくて純度百の褒め言葉なんだから、カルミア様のお心は大変美しくあらせられますわねえ」
モクレン様はため息を付きながら、カルミア様の御心を美しいと褒めた。
確かに、カルミア様は容姿だけでなく心も美しいと人々はそう褒め称えている。
そして、モクレン様もカルミア様の心を美しいと言った。
その事が、また胸の『きゅっ』と言う擦り傷のような痛みに変わった。
『ありがとう』も『美しい』も特別な言葉ではないのに、モクレン様がそれをカルミア様へ言うと、何だかモクレン様が遠い存在のように思えてしまうのは何故なのか。
そんなことを考えていると、サラサ先輩が
「ツミキ、今モクレンが言った『お心は大変美しい』と言うのは皮肉じゃ皮肉」
と教えて下さった。
そうか。皮肉か。ならばカルミア様の心を『美しい』と言うのは逆の意味になるのか。
……今度は、緊張が緩んで呼吸がしやすくなった。
私は、モクレン様がカルミア様を褒めたのではないと知って、安心したのだろうか。
でも、どうして。
まだまだ、わからないことばかりである。
私は、紅茶と一緒にこの混沌とした情を飲み干した。
「……ところでモクレン様。プロメ様達は今はどちらにおられるのですか?」
「えっとね、一応二週間は滞在してくれるみたいだから、まだ王都の最高級ホテルにいるって。……怒って帰るどころかまだ滞在してくれるってのが、……な〜んか引っかかるんだよなあ。色々と」
と言って、紅茶を一口飲んだ。
「な〜んか引っかかる……ですか?」
「そうなんよツミキちゃん。そもそもさ、本来、外交するのは『お互いに目的や利益があるから』なんだよ」
モクレン様は手元にある資料をテーブルに広げながら、ご説明くださった。
「うちがフォティオン王国と外交を結びたい理由は、『向こうさんの鉄や石炭と言った鉱石資源を分けて欲しい』ってことだよね。その為に王国中の鉱山を持つナルテックス鉄工に『仲良くして♡』って手紙を出したわけだし」
「そうですか……。では、フォティオン王国側がプルトハデス国と外交を結ぶ際の利益は、一体」
「無いよ」
「え?」
モクレン様は、涼しい顔でとんでもないことを言った。
「これが今回の外交の謎。……フォティオン王国は、プルトハデス国と外交を結ぶ利点が無いのに、どうしてわざわざ来てくれたのか? この謎が解けないことには、どうにもならないわな」
外交を結ぶ利点が無いのに、わざわざ海を越えて来てくださったプロメ嬢達。
考えてみても、何も分からない。
いっそ、糖分を頭に回せば何か浮かぶかと思い、マシュマロサンドクッキーを手に取った。
ビターなクッキーと甘いマシュマロと言う味も種族も違う菓子が合わさった世界平和的食べ物である。
……世界平和? まさか。
「モクレン様。プロメ様達は世界平和のためにこの国に来られたのでは」
「ツミキちゃん……。ごめんなんだけど、もしプロメさん達が世界平和目的でうちに来たなら、兄貴達にどんなムカつく対応をされても許してくれたと思うよ……」
「……そうですか……」
間違っていたか……と気が重くなる。
モクレン様のお役に立ちたかったのだが、残念だ。
「ツミキちゃん、不正解ってのは駄目なことじゃ無いんよ」
「そうなのですか?」
「うん。だって、不正解……つまり、間違えるってことは正解ではない答えを一つ潰せたってことだから。そうやって不正解をたくさん出して間違いを潰していけば、そのうち正解にもたどり着けるってもんよ」
モクレン様はそう言って笑った。
なるほど、不正解と言うのは結果として正解を選び取ることに繋がるのか。
ならば、私の不正解はモクレン様のお役に立てたということ。ならば良し、である。
気を取り直した私のあとに、レンゲ様が続いた。
「もしかして、うちの唯一の特産品である魔動結晶目当て……とか?」
「レンゲくん。悪いんけど、資料によるとフォティオン王国は豊かな地熱を動力として生活してるから、電気代やガス代がバチクソに安いらしい。……だから、魔動結晶は必要ねえんじゃないかな……」
「マジかー」
レンゲ様のお考えも違うらしい。
すると、今度はサラサ先輩が
「新婚旅行ではないのか?」
と発言したが、モクレン様は
「すまんサラサ。新婚旅行なら、ウチより隣の聖ペルセフォネ王国のが良いでしょ……超文明大国だし」
と答えた。
その後、私達はああでもないこうでもないと話し合ったが、何の成果も得られずにいた。
そんな中、モクレン様が
「だいたい兄貴とカルミアがしくじらなきゃこんな事にはならなかったんだ……。兄貴は論外でもカルミアさえ頭が良かったらもっとマシな結果になってただろ。マジでアイツ今まで何して来たんだよ」
と頭を抱えてしまう。
ペールカルム伯爵家にいた頃を思い出す。
カルミア様は常日頃から『可愛くなるための努力』に熱心だった。
可愛くなるために大金をかけていたカルミア様の口癖は『可愛くなる事こそ女の子が出来る唯一の投資なの!』だったような。
「カルミア様は、ずっと可愛くなるための投資をされていました」
私がそう答えると、モクレン様が私をじっと見て
「投資……? 今、ツミキちゃん、投資っつった?」
と聞いてきた。
「はい。投資と申しました。投資とは、いずれ価値を生むだろう対象に資金を投入し、後に多額の利益を得るための行為であると学んでおります」
「それだ」
「え?」
モクレン様はいつも穏やかな表情を引き締め、鋭利な表情を浮かべた。
「プロメ殿がプルトハデス国に来た理由……それは、投資だ」
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「ツミキとモクレン、外交頑張れ!」
「外交もだけどレンゲくんの過去の恋愛も気になる。刃物向けられるって何したんお前」
と
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