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23・モクレン様の種明かし

「いや〜楽勝だったね楽勝!! 今頃クソ兄貴は新聞社に怒鳴り込んでブチギレてるだろうなぁ〜アッハハハハハハハハハハァッ!!」




宿の部屋にて。


モクレン様は悪魔のように高笑いをした。



そんなモクレン様と私とレンゲ様は、ルームサービスのチキンサンドを食べていたのだ。




「モクレン様、一体何がどうなってこうなっているのですか? 今の私に分かることと言えば、このチキンサンドは甘辛いタレで煮込まれた鶏肉と、そのタレが染み込んだ分厚いパンの合わせ技が大変凶悪で、ガツンと来る旨味の暴力が飛ぶほどに美味しいということしかわかりません」


「ツミキちゃん〜今日も食レポありがとう〜! そんじゃ、今から王都に到着してから二週間のことを話すから、まあ食べながら聞いててよ」




モクレン様はそう言って、悪魔のような高笑いとは真逆に、ナイフとフォークを使い上品な所作でチキンサンドを召し上がった。




「まず、俺が一番避けたかったのは『新聞でツミキちゃんが悪く書かれること』だったわけよ。……ほら、招待状が届いた時に言ったじゃん? 『ヤバい失態をした兄貴は、誰かに罪をなすりつけて悪意をコントロールするだろう』って。そして、その相手は反撃をしてこないだろうユーフォルビア一族のツミキちゃんの可能性が濃厚だった」


「確かに……モクレン様はそれを見抜いて『逆に現場を荒らしてやる』とおっしゃいましたね」


「そう。だから、兄貴達を放置してたら新聞であることないこと書かれる可能性があって、それだけは阻止したかったんだわ」




モクレン様はそう言って、紅茶を飲んで一息ついた。




「それに、肝心の『新聞を刷る印刷所は兄貴が先代から受け継いだ施設』だから、新聞社はどうしても兄貴のご機嫌伺いするような記事しか書けねぇわけよ。……だって、兄貴を怒らせて『輪転機止めるぞ!』って言われたら新聞刷れないからね。……だから俺は、『印刷所を兄貴からぶん取る』ことを目標にしたわけ」




確かに、新聞が売れないと記者や事務員達の給料が払えない。

忘れがちだが、記者も新聞を売ることによって、他の業種と同様に給料を貰って生活をしているのだ。


もし、新聞が印刷できなければ、記者達は生活が出来なくなる。


それを避けるために、今まではロスベール公爵を初め、ポーラリス公爵家当主の機嫌を伺うような記事ばかり書いていたのだろう。




「印刷所をぶん取るには、兄貴と法的に交渉する場を設けたい。でも、兄貴は俺を負け組と見下して会ってくれない。……だから、兄貴が俺を法的に拘束しなきゃならない状況を作りたい。ってことは、兄貴の前で何か法に触れる行いをすりゃ良いわけじゃん。……そこで、兄貴の狙いを思い出したわけよ」


「ロスベール公爵の狙い……それは確か……自分の失態を隠すため、私に罪を擦り付ける……でしたね」


「そう! 正解!」




正解と言われると、嬉しい状態となりそわそわする。



レンゲ様もチキンとパンを分けて食べながら、「良かったねツミキ氏」と笑った。




「そんな兄貴は、俺達へ結婚パーティーの招待状を送ってきた。そして、兄貴が罪を擦り付ける相手はツミキちゃんの可能性が高い。だから、結婚パーティー当日かその前後に、兄貴は俺達を巻き込んで何か騒ぎを起こすはず」




モクレン様は優雅に紅茶を飲みつつ、言葉を続ける。




「そんなら、兄貴が起こすだろう騒ぎを利用して、俺を逮捕しなきゃならない状況に変えてしまえば、俺が兄貴へ『法的に印刷所ちょ〜だい♡』っておねだりする機会があるかなって思ったんだわ」


「……なんと捨て身な」


「兄貴は一応優秀ではあるから。こっちも全力で行かなきゃ。……でもその一方。兄貴が『どんな騒ぎを起こしてくるか?』は予想出来ない。だから、俺は兄貴の作戦が始まる前、まずは情報を掴もうと思ったわけ」


「! ……もしかして、モクレン様が王都に付いてから初めた清掃や犬の散歩代行のアルバイトに、突然始められたバードウォッチングの趣味は……全部」


「そ。情報を掴むため! マグノリア住みの俺は王都の人からしたら見慣れない余所者じゃん。そんな奴がフラフラ歩き回って探偵ごっこしてたら不審者扱いされちゃうからね」




モクレン様が犬の散歩代行のアルバイトをしたのは、私が火災から助け出した少年を見付けるだけではなく、王都で情報を集めるため無害な人を装う作戦だったのだ。


見慣れない成人男性が一人で王都を歩くより、可愛らしい犬を散歩させている方が警戒されにくいという、人の心の隙を付いた行動である。




「んで、まずは一番情報を知ってそうな新聞社で話を聞けないかなって思ったわけ。でも、いきなり新聞社に凸っても門前払いされるのは間違い無し。しかも、俺は印刷所の権利を握ってるロスベールの憎き弟。こんなん百相手してもらえないからね」


「たしかに。……では、一体どうやって新聞社を突破されたのですか?」


「答えは簡単。……清掃員のアルバイトとして入り込んだわけよ」




モクレン様が初めた清掃員のアルバイトは、新聞社に潜入するためだったのか。


確かに、清掃員ならば新聞記者達は警戒を解くだろうし、なんなら記者が出すゴミから情報を掴むことも可能だ。




「清掃員のアルバイトとして潜り込む傍ら、夜になったら、趣味のバードウォッチング中ですみたいな顔して記者達の帰り道を観察したわけ。……新聞記者って家に帰るのが夜遅いから、深夜に犬の散歩ってのは厳しいじゃん。だけど、野鳥を観察するためバードウォッチングしてますっていう状況なら、聖騎士から職質されてもかわせるかなって」




モクレン様は「職質対策に王都に住む野鳥の名前は全部覚えたし、レンゲくんに頼んで使い込んだように加工した鳥の図鑑も三冊持ち歩いてたんよ」と笑った。



一方、レンゲ様は「モクレン氏の頼みが意味不明なのはいつものことだし、どうせ後になればネタバレしてくれるから深くは聞かなかったけど、職質対策だったわけか」と小さな口でパンをかじっている。




「俺はバードウォッチング中の振りして記者達の帰り道を観察し、彼らの趣味嗜好を調べたわけよ。んで、調べた情報を元に、休憩中で気が緩んでる記者達に清掃員として近付いて、


『え! ◯◯さんあそこのバーでダーツをされるんですか!? 俺も大好きなんです!! 今度ダーツを教えてください! お手本見せてくださいよ〜!!』


……って感じで、相手を立てつつ会話を盛り上げるってわけ。その結果、俺は新聞社で姫状態よ」


「……おお……」




巧み過ぎる人心掌握っぷりに言葉を失うと、レンゲ様は



「ホオノキ氏に引き取られて真っ当な教育を受けられて良かったね。そうじゃなきゃ詐欺師として豚箱にぶち込まれてるよきっと」



と冷たい評価を下した。




「あ、ちなみに印刷所に対しても同じことしてるから、俺が権利者になっても全くの無問題! それどころか『うちの優秀な魔道具開発者と協力して、もっと性能の良い印刷魔道具を取り入れませんか?』って営業かけてきたから、レンゲくんあとよろしく」


「へいへい」




レンゲ様は気の抜けた返事をすると、小さく切ったチキンをフォークに刺して口元へ運んだ。




「そんでさ、潜入先の新聞社で記者達から話を聞けば、みんな『長年ポーラリス公爵家の顔色伺いをしながら記事を書いてきたけど、さすがにもう限界だ。特に、この前のロスベール公爵の失態は酷すぎる』って怒ってて。話を聞いたら、やっぱり俺の想像通り。『ロスベールが魔獣退治に手こずった挙げ句、住民の避難指示に失敗して子連れの母親が聖騎士に斬られた』って言う最悪の事態を起こしてたわけよ」


「⋯⋯なんて酷いことを⋯⋯」


「しかも、その女性の夫は新聞記者。……でも、これを記事にしたらロスベールの機嫌を損ねて印刷所を閉鎖されかねない。泣き寝入りしかないって諦めかけたとき、俺は正体を明かして『一緒にロスベール叩こうぜ』って言ったわけ。……んで、協力者ゲットよ」




自分の妻が聖騎士団に斬られたというのに、それを糾弾出来ないというのは余りにもむごい。


そんな時、やけに人懐っこい清掃員が、実はロスベール公爵を倒すために立ち上がった弟であると知れば、力を貸してくれるだろう。




「その記者の助けを借りれたことで、得られた情報が格段に増えたんだけど、そんな時にきな臭い話を聞いたわけ。……『王都の北西の城門がある地域に、やけにヒーラーが集まってる』って」


「確かに、妙な話ですね。」


「うん。……そんで、記者と一緒に周辺を調べてたら、聖騎士達が動物の死骸を死毒の森と城門を結ぶように大量に放置しているのを見つけてね。こりゃ何かあるなってことで、写真をたくさん撮っておいたわけ。んで、俺も焼き増ししたのをもらったんよ」




モクレン様は、紅茶を飲んでから一息ついて、話を続けた。




「ヒーラーを一箇所に集めて待機させた一方、死毒の森と城門を結ぶように動物の死骸が放置されてるってことは、兄貴はここで騒ぎを起こすんじゃないか? って思ったわけ。……でも、じゃあなんでこの場を選んだ? って考えたとき、ここは王都の中で一番身分が低い人達が集まってるから、兄貴からしたらここはどうでも良い場所だなって予想出来た」


「……それなら、まさかロスベール公爵は、動物の死骸を使って身分が低い居住区へ魔獣を呼び寄せ、結婚パーティーに強制参加中の私がそれを駆除した直後、聖騎士団を連れて『私が呪いによって魔獣を呼び町を襲撃させた』と言って人の心を操ろうとした。……だから、操る人が減らないよう、死者が出さないためにヒーラーを待機させていた……そういう事ですか?」


「大正解!! ……胸糞悪い作戦だよ、まったく。俺と記者達が協力して住民を避難させてなきゃ、今頃どうなってたか。カルミアも結界張ってなかったみたいだし」




もし、私達が何もせずただ魔獣を倒していたなら、今頃私は魔獣を呼び寄せた犯人として断罪されていただろう。


それに、逃げ遅れた住民が魔獣に襲われ怪我をした可能性もある。


なんという罠なのか。私だけならまだしも、何の罪も無い住民達を巻き添えにするなんて。


しかも、国民の希望であるはずの浄化の聖女がこんな作戦に乗ったのか。


死者が出ない作戦とはいえ、こんなのあんまりだろう。




「まあ、結果は俺が住民を避難させたあと、彼らに紛れて反撃するよう煽りまくった一方、聖騎士に化けたレンゲくんに『無能な味方役』をさせて聖騎士達を怒らせることで現場をグチャグチャにして、誰も兄貴の話を聞かないようにしてやったんよ。⋯⋯もしあの時俺一人が声を上げても、みんな俺頼みになって何も言わないだろうからさ。だから、住民に化けて煽ったってこと」




あの騒動は、お二人が意図的に引き起こしたということか。


何も知らない私は『?』と言う具合だったが、裏でそんなことが行われていたとは。




「それから、モクレン様はどうされたのですか?」


「ん〜それは……まあ、そのうち兄貴達が怒鳴り込んでくるから、そん時わかると思うよ。……新聞社局長のニッさんってば面倒くさがりだから、兄貴のこと俺にぶん投げそうだしなあ」


「? と言うと……」




瞬間。



宿の従業員による「ロスベール公爵!! お客様の客室へ勝手に入るなどの行為はお止めください!!」と言う悲鳴と、



「やかましい!! モクリエールアレンを出せ!!」



と言うロスベール公爵の怒鳴り声がして。



すると、バンッッッッッッッ!! と言う荒々しい音共に、ドアを蹴り破ったロスベール公爵とその後に続くカルミア様が激怒しながら乗り込んで来た。








◇◇◇


良い感じにお付き合いありがとうございます!


ちょっとでも

「面白い!」

「先が気になる!」

「モクレン、お前マジか」

「頭良過ぎやろコイツ」と


思って頂けましたら、下記の星☆☆☆☆☆から★★★★★5評価を入れてくださると嬉しいです!(私のモチベーションが上がります!)

ブクマとべた褒めレビューとご感想とリアクションをお待ちしておりますぞ!



それでは、何卒宜しくお願い致します~!!!

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