20・フルボッコ・マリッジ(後半カルミア視点)
「ロスベールお兄様とカルミア様。この度はご結婚おめでとうございます。いや〜本当にめでたいめでたいアッパレだ! きっと『お兄様と聖騎士団が魔獣を倒し、浄化の聖女様の結界で護られた住民達も』祝福していることでしょうねえ」
私をエスコートして下さるモクレン様は、いつもより大きな声でハッキリと会場中に聞こえるようにそう言った。
しかも、口にした内容はモクレン様が気にしていた新聞の内容そのままである。
モクレン様の発言の意図は良くわからないが、彼のニコニコとした笑顔はいつもと違って迫力を感じる。
もしかしたら新聞の内容を口にしたのは世間話でなく『威嚇』の意図があるのだろうか。
そんなモクレン様を前にして、白い花婿姿のロスベール公爵はいつも通りだが、白いウェディングドレスを着たカルミア様は驚愕と言った表情を浮かべていた。
「あ、あんた……本当にモクリエールアレンなの!?」
「そうですよぉ〜カルミア様ぁ♡ ガキの頃貴女に『気持ち悪い! あたしのこと見ないで!!』と騒がれたあと、給仕さんにぶつかってコケた貴女へ手を差し伸べたら『不細工なのにあたしに触んないでっ!!!』と痴漢扱いされたモクリエールアレンでぇっす」
モクレン様は人差し指と中指を開いた握り拳を目の近くに持ってきておどけてみせる。
すると、会場中が
「え、あの事件ってそう言うことだったの? カルミア様が騒いだけってこと?」
とざわざわし始めた。
すると、カルミア様が激怒して
「だって気持ち悪かったんだもん!!! 今のあんたなら良いけど、あの時は不快だったの!! 仕方ないでしょ!!!」
と叫んだことから、また会場中はざわざわしてしまう。
……そう言えば、お二人は子供の頃のモクレン様しか知らないのだったと思い出す。
カルミア様は当然のこと、ロスベール公爵もモクレン様がホオノキ様に引き取られた後は従者を寄越すだけで、一度も会わなかったとレンゲ様かは聞いている。
ちなみに、レンゲ様はただ今モクレン様の指示で別行動を取っているので、ここにはいない。
「ロスベールお兄様は随分と『大活躍』されているようですねえ。聞きましたよ! 『貴方の勇姿を間近で見た子供』から、ねえ……」
「!? き、貴様……一体何を」
ロスベール公爵はモクレン様をギッと睨む。
だが、モクレン様はいつものように軽い雰囲気で微笑みながら、会場中に届くほどの声で話を続ける。
「いや〜実は俺……いや私、犬の散歩代行のバイトをしておりまして。犬はとても可愛いですねえ。当然、公園に行けば子供達に大人気。お蔭様で、以前妻が火災から助けた子供と会えまして。ぁあ〜犬の散歩中で良かった。見慣れない成人男性が公園で子供達に近寄ったなら、不審者として聖騎士を呼ばれてしまいますから」
モクレン様はまるで舞台役者のようにスラスラと話したあと、私を見てニヤリと笑った。
この時初めて、モクレン様が王都に着いてから忙しそうに立ち回っていた理由がわかった。
モクレン様は、招待状を受け取った時に私が口にした
『王都の人々は、本当にご無事なのでしょうか。あの少年は……今、どうしているのでしょう。ただでさえ、自宅が火事になったというのに』
と言う話を聞いて、王都に着いてから少年を探していたのだろう。
よく見つけられたなと思うが、そもそもこの国は三分の二が死毒の森で食い尽くされており人の活動領域は狭い。
従って、王都の面積はマグノリア地方の四分の一程度しかなく、人を探しだすのもギリギリ可能というわけだ。
しかも、対象は自宅が火事になったとき私によって救助されたと言う過去を持つ。
そんな子供を探し出すには、火災現場付近にある子供が集まりそうな公園に行くのが手だろう。
だが、モクレン様はマグノリア地方で暮らしているため、王都では顔が知られていない。
そんなモクレン様が子供の情報を聞き出したり、公園で子供に話しかけていたら、児童誘拐の疑いをかけられ聖騎士を呼ばれてしまう。
しかし、犬の散歩をしているだけのモクレン様が『偶然』公園に寄った際、犬目当てで寄ってきた子供達と親しくなると言う構図なら不審者とは思われない。
何と言う大立ち回りをされたのだ、モクレン様は。
「それにしてもお優しいですねえお兄様は。少年から話を聞いて驚きましたよ。防御壁の修繕を無駄と切り捨てたせいで、魔獣から市民を逃がす時間稼ぎが出来ずに現場が混乱した結果、子を連れて逃げ惑う女性が聖騎士の剣撃に巻き込まれると言う大失態を晒した挙げ句、それを少年に論破されても、殴りかかるだけで死罪にはしなかったんですから」
ロスベール公爵が、子供に殴りかかった!?
私はロスベール公爵の顔を見あげた。
ロスベール公爵は歯を剥き出しにしながらモクレン様を睨んでおり
「低知能のガキが……要らぬことを」
と潰れたような声でそう言った。
すると、会場中の人々が
「子供に殴りかかるなんて、まさかそんな、大袈裟に言ってるだけでしょ⋯⋯?」
と、戸惑いながらヒソヒソと話し始めてしまう。
そこへ畳み掛けるように、モクレン様は
「その少年はこう言ってましたよ『僕を火事から助けてくれた綺麗なお姉さんがいてくれたら』って。……いや〜我が妻ながらとても誇らしい。私の妻はとても美しいでしょう?」
と言ってから私の両肩に手を添えて、なんと『カルミア様の前に被るよう』移動させた。
すると、カルミア様へ当てられていた照明が私に降り注いだ。
⋯⋯眩しい。
そんな私へ、会場中の視線が突き刺さる。
皆は口々に
「確かに美しい方だ……。それに、黒いドレスと黒髪の間にお顔があるから、視線が引き寄せられてしまう」
「サロン・ド・オーヤマのドレスに負けないすごい美女だ」
「あの切なげな眼差しが心に刺さる」
と褒めて下さった。恐れ入る。
すると、背後から飛び出して私の斜め前に立ったカルミア様が
「皆様騙されないでっ! コイツはあたし達の国を滅茶苦茶にしたユーフォルビアの子孫だよ! 醜くて穢らわしい存在なのっ!」
と私へ指をさして叫んだ。そりゃそうだ。
だが、間髪を入れずモクレン様が
「そんな存在と思いながら、我が妻を結婚パーティーに『強制参加』と招待状に書いたカルミア様達は、なんと美しいお心をお持ちなのでしょうか!!!」
と、片手で私の肩を抱き、もう片手を広げて会場中に聞こえるよう声を張り上げた。
カルミア様は「はあ!? 意味わかんないんですけど!!」と声を荒げるが、モクレン様は止まらない。
「浄化の聖女と次期教皇王の婚姻という『新しい時代が始まる場』にユーフォルビア一族を『強制参加』したということは、『我々の時代はユーフォルビア一族を迎え入れる』と意思表示したと言うこと!! たった今、この場で貴方達はユーフォルビア一族を国民の一人だとお認めになったのです! つまり!! ユーフォルビア一族へ差別行為を行うのは、国を導くお二人の意に反するということですよねえ!?」
モクレン様がそう言うと、会場中の人々は
「次期教皇王と浄化の聖女が結婚の場にユーフォルビア一族を『強制参加』させたってのは、そう言う意味になるな……さすがロスベール公爵と浄化の聖女カルミア様だ!!! 差別を許さない美しいお心はなんと素晴らしいのか!! 我々もお二人に続くぞ!! 勝ち馬には乗るべきだ!」
と拍手喝采となる。
これが、空気を読むということなのだろうか。
そんな打算渦巻く拍手喝采の中、モクレン様はロスベール公爵に近付き、彼の耳元へ
「良かったですねえお兄様。私のお蔭で防御壁の一件で地に落ちた評価が元に戻って」
と囁いたその時。
ロスベール公爵のご両親とカルミア様のご両親が、真っ赤な顔に憤怒の表情を浮かべながら私達の元へ近付いてきた。
そして、ロスベール公爵のお母様が、
「この淫売の息子がぁっ!!」
と手に持っていたワイングラスをモクレン様へぶつけようとしたので、私はすぐモクレン様の前へ出て、ロスベール公爵のお母様の腕を掴んで動きを止めた。
「奥様。それはなりません」
「離しなさい!! 穢らわしいユーフォルビア一族がっ!」
「お言葉ですが、ロスベール公爵とカルミア様は、私を婚姻の場に強制参加とすることで、我々ユーフォルビア一族への不当な扱いを撤廃すると意思表示されました。……貴女のお言葉は、次期教皇王の意思に反するものとなりますが、如何でしょうか」
「!!! ……このっ……」
ロスベール公爵のお母様は、眉間に皺を寄せ歯ぎしりしながらも、ざわつく会場中を見渡したあと表情を友好的なものへと切り替えた。
「そうよね私ったら。差別はいけないわねおほほほ」
そう言ってから、ロスベール公爵へ「さすが私の息子だわ! 文武二道なだけでなく心も美しいなんて!」と褒め称えることへ方向転換し始めた。
確かに、結婚パーティーという新しい時代の始まりとも言える大事な現場で、ロスベール公爵は差別を許さない美しい心を持った次期教皇王として評価されたのだ。
ここで揉め事を起こすより、ロスベール公爵へ集まった好感度をより高めるために全力を注ぐ方が賢いと言えるだろう。
そして、そんな現場の空気を素早く読んだのはカルミア様のお母様だった。
「素晴らしいわカルミア……っ。私、感動して涙が出てしまいました。……来賓の皆様! この心優しい夫婦へ祝福を!」
さすが国一番の名女優だ。カルミア様のお母様がそう言うと、場は一気に盛り上がる。
そんな時だ。
モクレン様の騎士服のポケットからスマホの着信音が鳴ったではないか。
周囲の人々は「え、何この音」とざわついているが、モクレン様はすぐに
「おおっとこれは残念。天才の友人が開発した高性能な通信型魔道具の呼び出し音です。あの天才は次々と高性能な魔道具を開発しているので、部屋中設計図まみれで困りますよ。⋯⋯⋯⋯では、私達はこれから用がありますゆえ、申し訳ございませんが帰らせて頂きます」
と言ってから、私をエスコートして結婚パーティーの会場をあとにした。
◇◇◇
「最悪最悪最悪最悪!!!! ていうかモクリエールアレンの変わりようは何!? 聞いてなんですけど!!!」
「カルミア様! 落ち着いてください!」
「うるさいなぁっっ!!!!」
結婚パーティーのお色直しの最中、あたし――カルミアは怒りに満ちた顔でドレッサーの台を握り拳で殴った。
そんな様子にメイドは怯えるが、そんなのどうでも良い。
今日の主役はあたしのはずなのに。
会場中の人々は、あたしじゃなく七号に視線を奪われていた。
そしてそれは、七号達が帰ったあとも同じだった。
「ズルいズルいズルいズルい!! 可愛いくなるための努力を何もしてない七号が……あたしより目立った挙句に、あんな美形と結婚するなんて!」
七号には、国一番の美男子であるロスベールに溺愛されるあたしを見て、悔しがらせるつもりだった。
自分の夫は不細工な白豚なのに、あたしは勝ち組の王子様に溺愛されると言う場面を見せて、ざまぁみろと嘲笑うつもりだったのに。
可愛いくなるための努力してきた女の子こそ、幸せにならなきゃいけないのに。
なんで何もしてない七号が、あんな美男子と結婚できるの!?
……でも。
「まあ、すぐ逆転できるよね。北西の貧民街に魔獣が来さえすれば。その為に結界は張ってないし」
あたしは、ロスベール様の策を思い出して笑った。
これは、死人も怪我人も出さない作戦なのだ。だから問題は無い。
ただ、七号に天罰を下すだけだもん。
――――だが、約三十分後。
自分達の策がモクレンに無茶苦茶にされることを、カルミアはまだ知らなかった。
◇◇◇
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「ほんとフルボッコだな」
「まだざまぁが続くんですか!?」と
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