348.観察眼は侮れない
第348話
「その...美織ちゃん、あなたの今までの言葉は本当に...心の底からの本心なのですか?」
「いやいや、何を言ってるんですか...この期に及んで私が自分の気持ちを偽るなんてあり得...」
「いいえ、そう確信しているからこそ...私はこんな質問をしているのですよ。」
まず、やるべき事は美織ちゃんに未来への希望を取り戻させる事。それは私が美織ちゃんを無理矢理ホラーハウスから連れ出したところで心が壊れたままでは今まで通りの日常を送る事はできないと判断したからだ。
「あなたのご両親が殺されてしまった事には私も非常に心が痛みます...ですが、だからといって全てを失ったというのはおかしいですよね?あなたには私がいますし、敦鳥ちゃんだって内心ではあなたを気にかけています。それなのに全てを失ったなんて...そんな悲しい事を言わないでください!」
「.........」
「あの態牙とかいう男にはそれ相応の報いを受けさせますし、美織ちゃんの今後の生活が困らないようにも取り計らいます!ですから、命を無駄にしないでください!ひとまずは生き延びて...」
「で・す・か・ら!無理なんですって!仮に万が一にでもこの屋敷から脱出できたとして私達は消される運命なんです!」
どういう事だろうか?屋敷が爆破されてしまうにしても、外にいる護衛の人達と合流して早急に避難を完了すれば良いだけの話じゃ...
「この際だからネタバラシをしますけど私が連れてきた人達は護衛なんかじゃありません。私を監視するために同行させられた態牙の手先なんです。今頃はあの人達によって玲奈様の連れてきた護衛連中や長寿院先輩は始末されているでしょうね...」
「なっ...!」
美織ちゃんが連れてきた人達は護衛にしてはただならぬ雰囲気を漂わせているとはつくづく思ってはいたが私の予想は当たっていたのか...
「そして、あの人達は私達がこの屋敷を脱出してないかを徹底的に監視しています。このまま外に出れたところで殺されるだけなんです。」
「.........」
「はぁ...これで分かりましたよね?どの道、私達はここで死ぬしかないんです!」
どうやら、思っていた以上に絶望的な展開になっているようだ...私の悪運もここまでなのだろうか?
「美織ちゃ...!?.........す...」
「えっ...どうしたんですか?」
「.........すね......はい...」
「玲奈様?あの~?」
突如として何かに驚いた様子を見せたかと思うと次の瞬間にはブツブツと独り言を呟き始めた私を美織ちゃんは不思議そうに見つめる。まぁ、第三者の目からはそう見えてもおかしくはないだろう。
「...美織ちゃん、希望はまだ潰えてはいないようですよ?」
「えっ...」
「美織ちゃんが連れてきた人達は私が引き連れた護衛の人達によって既に無力化された...もちろん、敦鳥ちゃんも無事...だと言ったら信用してくれますか?」
「いや、流石に信用できるわけないじゃないですか!?どうしてそんな事が分かるんですか!?」
そう思うのも無理はないよね...でもね?私は決して直感で言っているわけではないんだよ...
「さて、私の耳についているこれ...何なのかぐらいはあなたなら分かりますよね?」
「...!?まさか、小型のイヤホン?」
「はい、正解です。」
そう...実は私はこのホラーハウスに入る前から事前に特殊な小型のイヤホンを片方の耳に装着していたのだ。
万が一にも携帯電話が使えなくなった時に備えての緊急の連絡手段として護衛の人達から受け取ってはいたが、本当に役に立つとは思わなかったよ...
「実は護衛の人達も最初から警戒していたようです。何せ、いくら調べてもこのホラーハウスに該当する心霊スポットが皆無...下見が不可能だったホラーハウスで肝試し...途中で敦鳥ちゃんだけが戻ってくる...よく考えてみれば色々と根拠がありましたが、極めつけは美織ちゃんが引き連れてきた人達が【今城家の護衛にしては美織ちゃんに対して侮蔑と冷酷さが入り交じった視線や表情が見られた】という部分らしいです。護衛の人達の観察眼も本当に侮れないものですね...」
「あぁ...」
私の話を聞いて美織ちゃんはガックリと膝をついて項垂れた。
「間もなく、この部屋に護衛の人達が救出に来るはずです。ですから、一緒に脱出しましょう!」
「.........だとしてもです。やっぱり、私は残ります。玲奈様を裏切ってしまったのは事実ですから。」
「美織ちゃん...」
この期に及んでまだ美織ちゃんはここに残る事を選択するというのか?いったい、どうせっとくすれば...
「そんな私がおめおめと生きて帰るなんて長寿院先輩が知ったら心底軽蔑するに決まって...」
『何を勝手に決めつけているのですか!?』
突如として怒鳴り声が響いたかと思うと部屋の扉がバーン!と開いた。
それと同時に私の連れてきた護衛の人達と怒鳴り声の主...敦鳥ちゃんが私達の目の前に現れた。
「お嬢様方、遅くなってしまって申し訳ございません!」
「いえいえ、助かりました...」
私と護衛の人達のやり取りを尻目に...
「長寿院先輩...」
「今城様...」
美織ちゃんと敦鳥ちゃんはお互い複雑そうに表情を固くしていたのだった...




