お久しぶりのジャハラさん
ジャハラさんとラムダさんと一緒に、ジュリアスさんも部屋へと入ってくる。
「ジュリアスさん! ジャハラさんとラムダさんですよ!」
私はジュリアスさんに駆け寄ると、その服の袖をぐいぐい引っ張って言った。
ジュリアスさんは最近服が増えた。これは私が購入したわけではなくて、街の人々が皇帝陛下に是非……! といって、ジュリアスさんに似合いそうな服をプレゼントしてくれるからだ。
最近では綿帽子羊から羊毛がとれるようになったし、他の土地からの流通もトビウサギや馬車や、ヴァイラスさんのアリオン君宅配便により盛んになってきたので、布や糸が手に入りやすくなった。
そのため、服飾師の方々が服を作ることができる環境になったのよね。
因みにヴァイラスさんがアリオン君宅配便をはじめたのは、飛竜の有効活用のためと、贖罪のためだ。
ディスティアナの各地で、ヴァイラスさんは罪を犯している。
人々には憎まれ恐れられて、嫌われている。
だからこそ――直接足を運んで、謝罪をして、国のために働いている姿をみせたいのだという。
瞳ちゃんが各家庭に出回って、それから街の各地にも配備されて、ハルモニアの街は今や瞳ちゃんと共にあるといっても過言ではない。
そうすると、騎士団の方々が警備や取り締まりに割く労力が少し減った。
瞳ちゃんは悪人に瞳ちゃんビームを放ってくれるし、そこそこの悪者なら簡単に退治してくれる。
瞳ちゃんは寝ないので、夜間の警備もばっちりだ。
今まで率先して昼夜の警備を行っていた、瞳ちゃんぐらい寝ないで働いていたヴァイラスさんの出番も減った、というわけである。
別に私が瞳ちゃんを量産したのはヴァイラスさんのためではないのだけれど、ヴァイラスさんに「ありがとう、クロエ。こんな俺を心配してくれて。クロエは、本当に優しいな」と言われた。
お礼を言われたので「いえいえ、どういたしまして」とにこにこする私の隣で、ジュリアスさんの機嫌が急降下していたのは記憶に新しい。
それはもうご機嫌を損ねていたわね。そのあと宥めるのが大変だった。
そんなわけで、暇になったヴァイラスさんはアリオン君宅急便をはじめたというわけである。
ヴァイラスさんは「犯した罪を償うために死ぬことはとても簡単だ。だが、俺にはできることがある。恨まれ憎まれ謗られてもなお、生きて、誰かの……この国の役に、立つ。俺にはほかに、贖罪の仕方が思い浮ばない」と言っていた。
私はそれでいいと思う。
ヴァイラスさんの罪は、とても一人では背負いきれないもので、一生かかっても償えないものかもしれないけれど。でも、ヴァイラスさんが頑張ることで救われる人も、いるはずだから。
そんな会話をしていると、ジュリアスさんはさらにご機嫌を悪くしていた。
「罪を償うのはお前の勝手だが、その決意をわざわざクロエに伝える必要はない」
とか、言っていたわね。
大人げない、ジュリアスさん。でも、ヴァイラスさんとの関係はそんなに悪くないみたいだから。
そのうち時間ができたら、二人で海に釣りにでも行ってみたらいいと思う。
ええと。
そう。ジュリアスさんの服を引っ張った私は、ジュリアスさんの着ている真新しい、それはそれは立派なお洋服に一瞬見惚れて、つらつらとお洋服に関係することを考えていた。
ジュリアスさんは服を引っ張ったまま黙り込んでいた私を見下ろして、軽く首を傾げた。
「クロエ」
「あ、は、はい……! ごめんなさい、お洋服、新しいなって思って……! これは、見たことのない服です」
「新しくできた商業施設の視察に来て欲しいと言われて見に行った。いつもの黒いローブでな。そうしたら、街の者が、皇帝陛下は着る物に不自由しているのかと言い始めて、服飾店に連れていかれた」
「素直に従ったんですか、ジュリアスさんが?」
「振り払って、逃げるわけにもいかない。アズールも一緒にいたしな」
きらきらした瞳でジュリアスさんを見上げて、「ジュリアス兄様、街の人々から愛されていますね」と、純粋無垢な好意を向けてくるアズール君が容易に想像できてしまう。
それはもう、断れないわよね。
「それで、着替えを。そうこうしているうちに、ヘリオスが飛竜に乗った二人を連れてきた。お前に会いたいというから、連れて帰ってきた」
「……ジュリアスさんが、きちんと会話をしています。流石の僕でも、びっくりしてしまいました」
「ジュリアス殿、すっかり丸くなったな! それはそうだ、可愛い嫁を貰えば、男は丸くならざるを得ないというものだ! 分かるぞ、その気持ち!」
いつも落ち着いているジャハラさんが唖然とした表情でそう呟いた。
ラムダさんは大きくてよく通る声で言って、快活に笑った。
「お二人とも、急にどうしたんですか?」
ジュリアスさんと話し込んでいる場合ではなかった。
折角のお客様を、放っておいてしまった。これでは商人失格だわ。
クロエ錬金術店の店主である私は、お客様第一だったのに。気が緩んでいるわね。
私は気を取り直して、ジャハラさんとラムダさんに話しかけた。
「いえ、ラシードに、クロエさんがハルモニアで面白いことをしているという噂が伝わってきまして」
「あぁ。クロエさん、造るのだろう?」
「ええと、造るっていうのは……」
「飛竜温泉です」
「飛竜が入れる温泉、以前クロエさんが話をしていたな。まさかハルモニアにつくるとは! 飛竜のことと聞けばいてもたってもいられず、来てしまったというわけだ。……まぁ、私はジャハラ殿の護衛ではあるのだが。役得というものだ。ファイサル様など、一緒に来たいと駄々をこねていたからな」
「駄々をこねるファイサル様……」
想像できない。
想像できないけど、レイラさんに叱られているところなら想像できる。
「聞くところによれば、ハルモニアの地を、錬金術で好きなように改造していいとか。そんな楽しそうなことをしているなんて。飛竜温泉には僕も興味がありますし、是非お手伝いをさせて頂こうかと思いまして」
「ジャハラさん、本音と建前が混じりあって、良く分からない感じになっています……」
「僕も、ラシードの叡智の結晶といわれているプエルタ研究院の所長ですから。錬金術にはちょっとした、嗜みがあります。ナタリアさんとクロエさんだけでは、大変かなと思いまして」
私は、ジャハラさんが年相応にわくわくしているところを初めて見た。
なんだかちょっと微笑ましかった。
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