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エピローグ

 王立学院寮祭は、無事、終わった。

 けれど、マルガはその最後を見届ける事ができなかった。

 最後の最後で倒れて、医務室へ運ばれてしまったからだ。


 ゲルトに抱きかかえられ、エラに先導されながら運ばれているマルガは、ちょっとした時の人だった。


 いつの間にそんな無理をしていたのか、すべての顛末を語ったところ、エラとメルセデスにはたいそう怒られた。


「……まあ、状況が状況ですし、相談できないのも無理ないですが……これっきりにしてくれよ」


 と、メルセデス。


「自分の管理をやった上での家政よ、いずれ家政を取り仕切る者が、そんな事ではダメよ」


 と、エラ。


 イリーネは、すべての説明を終えた時に、泣いていた。怒るかと思っていたマルガ達はひたすら意外だった。


 イリーネの、恋が終わった為だ。

 イリーネは、本当に王太子殿下に恋をしていたのだ、と、マルガは思ったが、それだけに、ユリアーナの思いがわかったのだという。


 ティールーム『野薔薇亭』で共に働くうちに、ユリアーナの人ととなりを理解したのだろう。


「でも、来年にはレオンハルト殿下の弟のマクシミリアン殿下が入学なさるもの! 私、あきらめませんわっ!」


 と、開き直ったように言っていた。イリーネは、思っていた以上に感受性豊かで、しなやかなのだと、マルガ達三人は思った。


 ……そして。


 例の屋根裏部屋で、マルガは再びゲルトに会っていた。寮祭が終わってしばらくは、後処理に追われていた二人は、久しぶりに二人だけで会って話をする事にしていた。


 マルガは、助けてもらった礼をするために。

 ゲルトも、当初の王太子殿下からの依頼への感謝の言葉を届けるために。


「……最近の殿下のうかれぶりは目を覆いたくなる有様だ……」


 結局、殿下の思いはユリアーナに届き、ユリアーナの思いもまた、殿下に正しく伝える事ができた。しかし、思いを伝えただけでよかったと言うユリアーナに、女王陛下はこう言ったのだそうだ。


「グリチーネの血をひいているものが、王家にふさわしくないとなったら、まさに、グリチーネ家を母にもつ私すら、王家にふさわしくないという事にならないか?」


「ユリアーナ、お前の父は、その出自の為に、宮廷の席を失った一族の分まで恨みつらみを引き受ける事になってしまった、むしろ私はお前達親子には、詫びなくてはならないとすら思っている、だから、不要に己の感情を縛ってくれるな」


 女王陛下は、やはり聡明なお方だ、と、マルガはなんだかうれしくなってしまった。


「よかった……」


 マルガは、すべてがおさまるところに収まった事に安心し、ほっとしていた。

 そして、こんなふうにも思った。寮祭の準備で、講義の為の本は読んでいたけれど、それ以外の本を読まなくなっていたと。

 目指せ図書館、書物読み放題を目指して入学した王立学院だというのに。


「ゲルト、本当にありがとう、あなたに相談してよかった」


「いや、最初に相談をもちかけたのはこちらの方だ、俺こそ、君に無理を強いていた、倒れるまで無理をさせてしまって、本当にすまなかった」


「いえ、そんな! ……それに、とても、楽しかったんです、皆で準備をしたり、あちこち駆けずり回ったり」


 そう言って、微笑んだマルガを、ゲルトは心からかわいらしく、美しいと思った。


「マルガ、ひとつだけ、俺の頼みを聞いてくれないか?」


「え? はい、私にできる事でしたら」


「俺と踊ってくれないか、本当は、後夜祭、君を誘うつもりだったんだ」


 そう言って、ゲルトは、マルガの前に膝まずき、手を差し伸べた。遠くから、風にのって、音楽も聞こえてくる。誰かが窓を開けて練習をしているのかもしれない。しかも折よく舞踊曲のようだ。


「……私でよければ」


 おずおずと、マルガがゲルトの手をとると、二人は窓から聞こえてくる音楽に併せ、踊った。


 ああ、これで、本当に全部が終わってしまうのか、マルガは少しだけ名残惜しく思いながら、終わってしまった祭りを懐かしむように、ゲルトのリードで踊った。


 けれど、学園生活はまだ続く、きっと、これからだって、楽しいことはたくさん待っているはずだ、と、マルガは、これから先の日々に思いをはせた。


(終わり)

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