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灰かぶりの賢者  作者: 夏月涼
第三章 炎の記憶
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66 『息子』

「やっぱり勝てないか……」

「いやいや、予想はしてたけど強いね。特にその剣、割と厄介だ」

「まあ、これは俺の作品の中でも優秀なやつだからな」


「それでも勝てなかったが」と付け加え、ガルアは手に持つ剣を眺める。彼の言葉通り、性能的にはまず間違いなく最上級の魔具だ。大抵の者には、この剣一本で渡り合えるだろう。


 だからこそ、ガルアは残念そうな表情である。もとより本物の『賢者』相手に勝てるとは思っていなかったが、それでも自分の作品が負けるのは悔しいものだ。


「大丈夫、ガルア君! 怪我はない!?」

「ああ、大丈夫だ」


 遠くで見守っていたリリーは大声を上げてガルアに駆け寄る。ぺたぺたと彼の身体を触り、無事を確認。アルフも大きな怪我を負わせないようにある程度魔法の威力は調整していたので、目立つ外傷はなかった。


 アルフにも怪我はなく、シェリルたちはホッとしている。

 互いの無事が確認されたところで、改めてアルフとガルアは向き合った。


「で、どうだったかな、君から見て僕は」

「そうだな……さっきのは全力じゃなかったんだろ?」

「そうだね。殺す気はなかったし」

「正真正銘、殺す気でやった場合……さっきよりどれくらい上がる?」


 鋭い視線で、ガルアはアルフへ問う。アルフの実力の一端を体感した今だからこそ、答えを聞く価値があるのだ。返答によっては、古竜の一件を託すかどうかに関わってくる。


 全員の視線が、アルフへと集中する。


「魔法に関して言えば……少なくともここら一帯を消し飛ばす程度には」


 おもむろに指を下に向け、ニコリと笑む。その言葉に一切の虚偽はなく、アルフを見てきたシェリルたちはコクリと頷いた。ガルアはアルフに注意深く“眼”を向け――ため息を吐いて苦笑する。


「事実か……デタラメだな」

「嘘かどうか、分かるのかい?」

「言っただろ、俺の魔眼は見抜くことに特化している。嘘をついてるかどうかも、よく見れば分かる」

「へぇ、便利なもんだね」


 つまり、判然としたアルフの実力に文句はないわけで。ガルアは遠く見える山の頂上を目を細めて見た。そこにいるのは、圧倒的な強さを誇る古竜である。おそらく、現状ではアルフにしか倒せない。


 英雄の子孫であるガルアですら手をこまねくほどだ。頼るべき相手が見つかったのは喜ばしい。


 喜ばしい……のだが。


「はぁ……親父に会いに行かないとならんのか……」


 ガルアは表情を暗くさせると、天を仰ぐ。珍しくそんな顔を見せたガルアを見たリリーは、「あー……」と声を漏らし、微妙な顔をする。


 二人の反応の意味が分からないアルフたちは、揃って首を傾げた。

 そんなアルフたちの様子に、いち早くリリーが気づいた。


「あー、ガルア君がこんなに嫌そうにしてる理由は……んっぐぅ……」

「お前はほいほい話そうとするな。一応、重要な話の……はず」


 ガルアは無愛想な表情を崩すと、呆れた様子でリリーの口を塞ぐ。リリーはもがもがと音を立てて、必死にもがいている。その頬が赤く染まっていることは、見て見ぬ振りをしたほうがいいだろう。

 身長差の関係から、口を塞ぐためにガルアとリリーの顔が急接近していた。


「むぅ……わかっふぁから!」

「そうか」


 ようやくガルアから解放されたリリーは、ぜいぜいと息を荒げ、ホッと胸を撫で下ろす。あのままの状態が続いていたら、心臓がおかしくなってしまう。

 十分反省した彼女が再び口を開く様子はない。アルフたちの視線は、自然とガルアへと向けられた。


 説明を求めるような視線を一斉に向けられ、ガルアは手で顔を覆う。


「はぁ……ここで話すようなことじゃない。いったん俺の家に戻ろう」

「なんだか釈然としないけど……分かった」


 よく分からないまま頷いたアルフたちは、言われるがまま元来た道を戻り始めた。



 ***



「で、結局どういうことなの」


 ソファーへと腰を落ち着けたアルフは、ようやく尋ねられると、目の前のガルアを見る。ガルアは無愛想な顔のまま、億劫そうにため息を吐いた。


「まず、古竜に関しては、お前に託してもいいと俺は思った。その点は問題ない」

「ということは僕の依頼は……」

「ああ、受けよう。……そして、前にお前が言ってたことだが、あくまでも部外者であるお前が勝手に古竜に干渉するのはいろいろとまずい。だから――」


 ガルアは言葉を途切れさせ、嫌そうに自分を指差した。


「俺の親父――この国の国王に許可をもらわないといけない」


 親父、国王、ガルア……息子。その発想に至るまで数秒ほどかかり、まず最初にヘロイーズが反応を示した。


「え、国王、息子!? え、え!?」


 忙しなくガルアへと視線を送り、動揺を隠せない。アルフはというと、ぜっさん混乱中だ。


「ちょっと待ってくれ……君が国王の息子?」


 冗談を言っているような雰囲気ではなかった。至って真剣な目をしているガルアを見て、ついアルフもため息を吐きたくなる。普通なら、こんな場所に国王の息子が住んでいるわけがない。


 ということは、何かしら事情があるというわけだ。その上で、ガルアは国王に会いにいかなければならない。


「どうなるのか……」


 途端に雲行きが怪しくなってきた依頼に、アルフは遠い目をした。

新作投稿しました。

『落ちこぼれ魔術師の最強理論』

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