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すべてがYになる  作者: 雪平 真琴
エピローグ
12/12

劇外の結末

 どうしてこんなことを……

 心の叫ぶ声は、小説という形をとり、手はそれに従ってただただ動いていく。

 ……お願い、誰か気づいて……


 私の兄は小説家志望だった。

 ペンネームは平誠。

 ミステリーが大好き過ぎて書き始めたクチだ。

 就職もしているが、仕事しながら書いている。

 そんなある日の事だった。


「俺、賞に応募したんだ。まあいけるとは思って無いけどさ」

 ははは、なんて笑いながら私にそう言って来た兄の目はしかし、希望の光に燃えていた。

「すごいじゃん! 獲れるといいね」

「まあな」


「い、一次選考通過だって……」

「嘘。お兄ちゃんすごいよ! 小説、向いてるんじゃない?」

「まあここまでだろうけどな」

 なんて言いつつまんざらでも無さそうだった。


「二次選考通過あ?」

 兄の素っ頓狂な声に驚かされた。内容というよりも、その声の大きさに。

 耳が捉えた音が脳内で変換されるに至って私も大声を上げた。

「うそおおお! すごい!」

「ありえないって思ってたけど、もしかしたら……」

 そう。ここまで期待させられれば誰でものってしまうものだ。例えそれがただの幻想にすぎないとしても。

 しばらく私たち二人、騒ぎ合っていた。


「さ、最終選考落選……」

「残念だったね」

「ま、そんなもんさ。ここまで来られるんだ、俺は。自信もって行こう!」

 自分でそう励ます兄に安心してしまったのか、私はその後特に気にかける事無くまたただの、平穏な日常に戻って行きました。

 兄の落胆具合にも気付かず。


「お兄ちゃん……なんで……」

 兄が首つりしていた。信じられなかった。視界に捉えた物を、しかし脳は理解するのを拒んでいた。

 遺書があった。兄のその見慣れた文字を見て、どうしようもなく涙が溢れた。兄の死が、どうしようもなく胸に迫って来た。

 遺書を開いた。


 本当に花月には悪いと思っている。

 でもあれ以来、全く筆が進まないんだ。

 死を選ぶのは早計過ぎるって思うかもしれない。

 でも俺には書けない事が苦痛だった。

 本当にすまない。



 葬儀は親戚だけを呼んでの小さな物だった。

「あの子ったら、ホントに身勝手よね」

「花月ちゃんの事も考えてあげるべきよねえ」

 ひそひそ話が聞こえたが生来の大きな声のせいでひそひそになっていない。

 どうにも不愉快で私は葬儀を中座した。


 どうしてこんな事になっちゃったんだろう。

 どうして。

 どうして。


 この時、受賞者毛見京平の殺害を思い立った。


 思い立ったが吉日、なんて言葉に従えるほど私は彼のそばにいる訳では無かった。

 だからまずは、彼に接近しないと。

 そうだ! 他にも同じような目にあった人がいるかもしれない……


 それが吉原芙美だった。彼も兄だか弟だかを毛見のせいで亡くしたらしい。

 手を組もう、そう自然に出て来たが、彼女と別れてすぐ、彼女に罪をなすりつけるというアイデアを思いついた。


 私は雪平真琴、という名前でファンとして毛見に近づいた。

 雪月花から花月を取った雪、平はそのまま、真琴は兄のペンネームから。

 これがその仮名の由来だ。彼はどういう訳か苗字を読み替え、雪平セッペーというあだなで私を呼んだ。


 それから吉原さんと脅迫状まがいの手紙を出す。

 そして今まで毛見のいろんな推理小説の犯人をすぐに言い当てる、と言う事をしていたせいで(そんな簡単なものなのだ! しかも自分では伏線が貼れてるかもわからないのに!)彼に推理力があると思われている私に、読み通り毛見は相談してきた。


 その日から私は公衆電話から無言電話をかけ続けた。

「僕になんの恨みがあるんだ! お前のせいで、俺は全く書けなくなってる! お前の勝ちだ! だから、もうやめてくれ!」

という悲鳴を聞けた時は思わず笑いを漏らしかけた。同じ目にあって苦しめばいい。


 しかし数日後、毛見は復活した。

「このまま書けないのが悔しくて、気合入れたら書けた」

 それは残念なこと。そういう感想はおくびにも出さずに「良かったじゃん」と言う。

「よーし、やっていくぞ!」


 私は平誠……兄に関する情報に意図的に嘘を伝え、兄の関係者を容疑者から外し、その後吉原さんが犯人だと調べたふりをする。

 実際にやってるのは私なのだから、そんな手掛かりがある訳でもない。

 それでも毛見は私を信頼してるから、一瞬疑いはしたけれどそれでも私の発言をまるまる信じた。

 バカな奴。こんな奴に兄が負けるなんて信じられなかった。



 私は2人を殺した。

 その事実は精神病院で警察の人を見た瞬間に私に恐怖を呼び起こした。

 私は人殺し。ミステリーの中で、もっとも裁かれるべきもの。


 逮捕されて、裁判を受けて、精神の異常で大した罪に問われず、そのまま精神病院送り。

 私はそんな生活の中罪悪感に押しつぶされていた。


 だから私は今この小説「すべてがYになる」を書いている。

 裁かれなかった自分を、世間に裁いてもらうために。私自身が許されるために。

 こういうのを、自己中心的、というのだろうか。

この物語はフィクションです。

お付き合い下さりありがとうございました。

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