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劇中の悪意
震える手で、原稿を下ろした。
最後の部分。編集長が私を問い詰めるシーン。
信じられなかった。なんで、どうして……平花月さん……
目の前で毛見京平が死んでいる。触れても生き物特有の暖かさは無く、生命を全く感じられない。
でもなんで、自殺なんて……
それに、この原稿だと、まるで……私が……
「吉原さん……?」
「平……さん……」
「まさか、あなた」
「違う! 私じゃない! これは自殺よ」
「いくら兄が彼に殺されたからって、まさかそんな……」
「違う!」
「私たち、手は下さないって約束したじゃない」
「やってない!」
平さんは何の感情も感じられない声で言う。その能面のように薄っぺらい声はむしろ私の不安感を煽った。
「でも誰がどう見ても、あなたが怪しいわよ。首つりさせて、殺すなんて」
「違う! わかってるでしょ……」
「うん。殺したんじゃないよね。でもさ。あんな電話してまで彼を小説が書けなくなるほど追い詰めて」
「違う!」
私は叫んだ。
「私、一度も電話なんてかけてない!」
そう叫んだ時、ふっと天啓が下りて来た。
この小説のからくりは解けた。
これは……私を陥れるためだけに平さんが作った小説だ。
この小説そのものが、彼女の悪意なんだ。
平さんはただにっこりと微笑んでいる……




