94. 転移魔法陣
時速80kmで走ること2時間30分。バドゥール王女一行は神の頂(天獄魔封域)の麓にある洞窟前に到着した。
「おいおいおい、ここまで普通なら徒歩で7日かかるんだぞ」
「ガンザス。落ち着いてくれ。この道とバスのおかげだから」
「そこだ!バスというやつがすごいのは分かったが、なぜ1ヶ月も経っていないのにこんな道ができてるんだ?」
「それは、師匠と桔梗が張り切りすぎて・・・」
「いや、わかんねぇって。師匠さんと桔梗さんがいくらすごくても1ヶ月でこの道はできんだろう」
「そうだよ、1ヶ月じゃない。この道は1時間程度で作られたから」
「・・・・・・」
ガンザスぅ。現実逃避したくなる気持ちはわかるが、これが現実だ。神獣2匹にかかれば、道を200km作るなんて朝飯前なんだよ。
「ちなみに、この休憩所は俺が作った」
「もういい」
げっそりしているガンザスとは別にギアナとジャファール宰相が楽しそうに話している。
「はっはっは。これは素晴らしい。ここに街を作っても良さそうですな。ギアナ殿」
「ええ、宰相様、宿場町を作る予定になっていますよ」
「一応、この地域はトリプレットデザートの領内ですから、税金は納めて頂かなければなりません」
「もちろん、心得ていますよ。しかし、ここは元々森の中でしたからね、開墾含め税率については相談したいですね。トリプレットデザートの貧民街から人を募ってもいいかと思っています。そうすると王国の悩みも解消するのではないでしょうか?」
「しかし、この辺りは魔物が多く出るのでは?」
「それに関しては、葉隠の里から人を出せますし、有望な者を鍛えることもできます」
「開墾についてもお手伝いいただけるのかな?」
「もちろんですよ。その代わり、税率は・・・」
「宿場町が軌道に乗るまではもちろん0%で構いません」
「さすが宰相殿ですね。話が早い」
「いえいえ、ギアナ殿、あなたの商売が上手なのですよ」
「ふふふ、お世辞がお上手ですね」
「なんのことやら。ふふふ」
二人とも笑顔なんだが、ものすごく怖い。ぶっちゃけ、悪代官と越後屋にしか見えなくなってきた。
その近くでアラジンとバドゥール王女の会話が酷いことになっている。
「ねぇ、アラジン。この旅は本当に初めてのものばかりだわ。世界はこんなにもすごいものがあるのね」
「そうだね、バドゥール。俺もこんな経験は初めてさ。魔法の絨毯も早いけど、このバスは大勢をいっぺんに運べるし、快適だった」
「あら、アラジン。あなたでも知らないことがあるのね」
「ああ、まだまだあるさ。これから一緒に見つけていこう」
「そうね、素敵だわ」
俺の中にはランプの魔人から吸収した嫉妬の魔素がある。「リア充、爆発しろ」と頭をよぎったのは、嫉妬の魔素のせいに違いない。大事なお客様第一号かつ、トリプレットデザートに葉隠の里を宣伝してくれる広告塔なのだ。この滲み出る幸せオーラが葉隠の里に人を惹きつける。Be Cool. Be Cool. 冷静になれ俺。
冷静になって考えると俺も大概なリア充状態なのだ。美女二人と混浴に入っているし、ハーレム状態で旅しているんだから。側から見ればさぞリア充だ。しかし、アラジンとバドゥール王女を見ていると負けを認めざるを得ない。というか、はなから戦いの土壌に立っていなかったんだ。これが恋人同士というやつか。二人の世界には誰も入れない。
俺はそっとガンザスを見る。ああ、なんていい笑顔なんだ。アラジンが幸せならいいと顔に書いてある。やっぱり、俺はガンザスが嫌いじゃないようだ。じゃなかったら、師匠にお願いして鍛えようなんて思わないもんな。
多少の休憩を取った俺たちは、神の頂(天獄魔封域)へ繋がる転移魔法陣のある洞窟へ進んで行った。
「この奥の扉からダンジョンを登っていくこともできますが、内部にはブラックサーペントなどの魔物が跋扈しています。250Gでこちらの転送魔法陣を使うことができます。」
「て、転送魔法陣。それは逸失魔法とされているものですぞ」
「そうなのか、多少面倒じゃが、妾は普通に作れるのじゃ」
「ジャファール宰相はご存知ない様ですが、こちらの小さな女の子は、神の頂を治める神獣・九尾の狐の楓様です。一緒にいるのは分体ですのが、葉隠の里から続く階段を登った先にある九尾稲荷大社に本物の楓様がいらっしゃいます」
転送魔法陣に驚くジャファール宰相に普通に答える師匠と、さらっとその正体をバラすギアナ。開いた口が塞がらないジャファール宰相。伝説の神獣・九尾の狐が目の前にいる衝撃とはどれほどのものだろうか?
「やっぱり嬢ちゃんの正体は何度聞いても驚くな」
ガハハとガンザスが笑う。ここら辺の大雑把さもガンザスのいいところだな。むしろ力の一端を見ていたから笑うしかないというのが真実かもしれないが・・・・。
「ちなみに、こちらの聖女の桔梗は伝説のブラックドラゴンだぞ」
「は?・・・・・はぁぁぁぁぁ!?」
俺がしれっと桔梗の正体をバラすとガンザスがジャファール宰相と同じ顔になった。
「アキラさん、ジャファール宰相が息をしていません」
ギアナから緊急の報告か入る。
「桔梗お願い」
「仕方ないな、ほれリザレクション」
リザレクションは死者蘇生の奇跡だ。それこと大聖女が使えるか使えないかの伝説の奇跡だ。そんなものを軽く使うのが桔梗クオリティ。そこに痺れる憧れるぅ。
「リザレクションはやりすぎだろう。心臓は動いているんだから、リフレッシュくらいで良かったんじゃないか?」
「我からすれば、どの魔法も大差ないからな。とりあえず生き返らせれば問題ないだろ」
「それもそうだね。さすがは桔梗だね」
「そうだ、もっと我を誉めるのだ」
ふと、周りの近衛騎士や侍女たちを見ると真っ青な顔をしている。アラジンとバドゥール王女は知っていたので平然としている。というか他のものが目に入っていない。
「それじゃ、そろそろ転移するんで、みなさん魔法陣の中に立ってください」
宰相や近衛騎士たちはガクブル状態で魔法陣の中にたつ。アラジン、バドゥール王女、ガンザスはワクワクしている様子。ここら辺が砂塵の墓所を経験して信頼しているかどうかの違いだ。何も取って食うわけじゃないんだが。ギアナが印を結ぶと魔法陣が発動する。目の前が真っ白になり、次の瞬間には目の前に森の広がる洞窟に立っていた。
「皆様、神の頂へようこそいらっしゃいました。拙者、獅子丸と申します」
元グレーグリズリーの獅子丸が出迎えてくれた。
「おい、また美女が現れたんだが、見た目通りじゃないんだろ?」
ガンザスが俺にこそっと聞いてきた。
「勘がいいな。その通り、獅子丸はグレーグリズリーだよ。桔梗の力で人化しているんだ」
「そんなこともできるのか」
「多分、相当知恵のある魔物であるレベル以上じゃないと無理だと思うけど」
「だろうな。魔物が全部こんな美人になられたら、討伐なんて出来なくなっちまうぜ」
「ガンザスって女に興味あったのか?」
「当たり前だろ。今は、アラジンとバドゥール王女を守ることが最優先だがな」
うん、そういうことにしておいてあげよう。俺は優しいからな。
「それじゃ、みなさん葉隠の里へはこのカートで移動しますよ」
そこには、ここまで来たものとは別で、少し小ぶりで開放感のある、よく遊園地などで走っているようなカートが列車のようにつながった車がいた。一つの車両に最大4人乗ることができる。運転手はダーシュである。
「今から30分ほどで葉隠の里へ到着します。その間、天の湖の景観をお楽しみください」
時速20kmくらいの速度でカートが走り出す。これには魔光石(中)が使われている。あまり速度の出ない仕様なので、魔光石(中)でも十分に活用できた。
「天獄魔封域がこんなに美しい穏やかな場所だったとは・・・」
「驚きましたね」
30分間、平和な時間が流れていった。




