84. サイクリングロード
次の日の朝、俺たちはチカトの牛鬼の村へ行くことになった。きっかけは、俺がたまたま呟いた一言が原因だ。
「日本酒があるってことは、米焼酎が作れるよな」
「その米焼酎って何?」
ギアナが喰い気味に聞いてきた。ギアナが金の匂いを嗅ぎつけた時の顔をしている。
「米焼酎は日本酒を蒸留してアルコール度数を高めたお酒だよ。フルーツを漬け込んでフルーツ酒を作ったりできるのさ」
「へぇ。いろんなお酒が作れるんだね」
「麦もあったから、麦でお酒を作って蒸留すると麦焼酎も作れるし、葡萄がでに入れば、ワインとブランデーも作れる。あとはホップが手に入ると大麦でビールも作れるかも」
「じゃあ、ロストフォレストのライアさんところに行こうか!」
両肩をがっしりと捕まえられ、キスできるほどの距離にギアナの顔が迫るが、目がギンギン過ぎて全くもって色っぽさはない。ここで断ったら命の危険を感じる。ということで、俺たちは葉隠の里から天の湖へ行くことになった。俺たちは里を出て驚いた。天の湖の周囲を一周するサイクリングロードが作られていた。
「おお、湖の上を走って行く予定だったけど、自転車で行くのも良さそうだな」
「私、水面走るのが苦手というか無理」
ギアナがギブアップしたので、折りたたみ自転車を取り出してサイクリングロードを行くことにした。
「我の分の自転車がないぞ」
「妾はアキラの後ろに乗るのじゃ」
桔梗と師匠がやいのやいの言い始めたので、ダーシュのところに自転車がないか聞きに行くことにした。
「自転車とはまた珍妙だな」
「魔力で加速できるから、馬よりも早いぞ」
「ほう、では我が全力で漕げば・・・」
「それはタイヤが持たないからやめてね」
そんな会話をしているうちにダーシュの工房についた。
「ダーシュ。いる?」
「おや、アキラさん。久しぶりですね。」
迎えてくれたのは、元ブラック黒狼の盗賊で、現在、キャンプ用品開発担当のアズだ。
「ちょっと自転車が欲しくてさ。」
「それじゃグロスも一緒に呼んできます。」
グロスは元ブラック黒狼の魔導士で、自転車開発担当だ。俺が里を出る時には、ダーシュと一緒に車の開発に着手していたはずだ。
「アキラ。楓様に桔梗さん、ギアナもおはようございます」
ダーシュがグロスと共に奥から出てきた。ダーシュの工房がだいぶ拡張されているらしく、アズもグロスも専用の開発部屋を持っている。
(アキラさん。見たことのない別嬪さんがいるんだが、彼女は何者ですかい?楓様と同じくらいの魔力を感じるんでやすが)
グロスが桔梗について聞いてきた。さすが魔導士、桔梗が只者でないと気付いたようだ。俺は、ブラックドラゴンと戦って仲間になったことを話した。「さすがはアキラさんでやす」と納得されたのは若干心外でした。
「ダーシュ。おはよう。チカトに自転車で行きたいんだけど、桔梗用に何かない?」
「・・・うーん。・・・・それならこれはどうだろう?新開発の自動車だ。」
「まだ、開発途中なのですが、問題があって中断しているものでやす。桔梗さんなら使えるかもしれやせん」
「というと?」
「ええ、速度も馬力も申し分ないんですが、消費魔力量が多すぎて葉隠の者でも1km移動するだけでヘロヘロになるんでやす」
「いや、そこまで急いでないし、天の湖の周りも見ながら移動したいから、自転車がいいな」
「そうか・・・。では、こちらの折りたたみ自転車を使ってくれ」
ダーシュもグロスも残念そうだ。どんだけ自動車動かしたいんだよ。まぁ、もう少し実用性が上がって、道が整備されたら使うのも悪くないかもしれない。それに、動力源が確立したら、遊覧船を作ってもらってもいいかもしれない。思いついたら吉日とばかりに、ダーシュとグロスに伝えておいた。二人してぶつぶつと話し始めたので、近いうちにできる気がする。
それにしても、動力源が魔素と魔力なので、ある程度魔素を貯める何かがあれば、少量の魔力で操作できるようになるのではないだろうか?あとで師匠や桔梗に相談してみよう。おっと、いかんいかん。チカトに行くんだった。どうしても面白そうなギミックができるとそっちに興味が移っちゃうぞ。若干メーティスさんがソワソワしている雰囲気を感じる。
『・・・・・・・』
メーティスさん我慢して!俺も我慢するから!新しいものを生み出すのはなぜにこんなにワクワクするのか。それはダーシュたちも同じだろう。若干暴走気味だし。
「というわけで、自転車でチカトまで行きまーす」
「「「おーーー」」」
みなさん、ノリが良くて大変よろしい。
「で、この自転車とやらはどうやって乗るのだ?」
桔梗さん、そいうことは先に言おうよ・・・。俺とギアナがずっこけたところで、自転車の乗り方を教える。
「このペダルを漕いで進んで、ハンドルで向きを変える。簡単だろ」
「ふむ、我にかかれば造作もない」
「じゃあ、やってみよう」
桔梗が、よろよろと進んで盛大にこけた。
「ぷっ」
「くっ」
俺とギアナが必死で笑いを堪える。
「おのれら、笑っておらぬよな」
「わーはははは。黒いの、自転車も乗れぬのか?それでは空を統べるブラックドラゴンの名がなくのじゃ」
ここぞとばかりに師匠が煽る。
「そういう狐のは乗れるのだろうな」
「もちろんじゃ。妾にかかれば自転車に乗るなぞ造作もないのじゃ」
颯爽と自転車にまたがる師匠が壮大にこけたのわ言うまでもない。これがこの世界の2大神獣ですよ。
「アキラよ。絶対に離すでないぞ。ちゃんと持っておるのじゃ」
「はいはい、ちゃんと持っているから前見て漕いでね」
「ギアナよ。おるのか、ちゃんと持っておるのだぞ」
「はーい。大丈夫ですよ」
お気づきだろうが、もちろんすでに持っていない。というか、ぶっちゃけこの2人は自転車で行くより走った方が早い。なんなら飛べる。そんな2人が真剣に自転車に乗る練習をしているのが微笑ましい。世界は今日も平和です。
15分ほど練習すると2人とも自転車に乗れるようになった。若干、自転車の練習という茶番だった気もするが、2人が楽しそうだから良しとしよう。
「それでは、気を取り直して、出ーーー発!」
「「「おーーー」」」
俺たちは、天の湖の周りのサイクリングロードを進んでいく。神の頂の標高は高く、今の季節はすごく涼しくて気持ちがいい。ちょっと進んでは、気になる植物や鉱物を見つけて写真を撮る。風景も良く、途中で止まって師匠とギアナと桔梗の写真も
撮る。一応、俺の名誉のために言っておくが、ただ興味本意だけで撮影しているわけではない!1割ほどは、今後の葉隠の里のためだ!!
そうこうしているうちに、チカトへ着いた。
「こんにちは!アマンダ、アルタ」
「やあ、アキラくん。またお乳のみに来てくれたの?お姉さん嬉しいわ」
言葉のチョイス!ギアナと桔梗の目がジトーと俺をみる。飲んだのはコップからだからね!直のみじゃないから!!
アルタも誇らしげな顔している。これが生産者の誇りか!?来訪を喜んでもらえたようでこちらも嬉しい。
「も、もちろん、“コップ“で頂きます。アルタも葉隠の里にチーズとヨーグルトを届けてくれてありがとう」
「・・・・・・(〃ω〃)」
相変わらずアルタは無口だ。ただお礼を言われて嬉しいというのは伝わってきた。
「紹介するよ。葉隠の里の村長の孫でギアナとブラックドラゴンの桔梗だ」
「よろしくー」
「うむ」
「まぁ、ギアナちゃんに桔梗さんね。お乳飲んでいってね!」
アマンダさんの対応は誰に対しても変わらないな。
「それで、この後ライアさんに会いに行きたいんだけど、アルタにまた道案内をお願いしてもいいかな?」
「わかった。引き受けよう」
「快く引き受けてくれて嬉しいよ」
「あらぁ。アキラくん、この人のことよく分かってるわね〜」
俺たちは、アルタの案内でロストフォレストへ向かった。




