63. サンド=ラグ 3
サンド=ラグが砂に潜る前にもう一度撮影する。
残り、39枚。
サンド=ラグが砂に潜っていく。
くそ、また下か。
砂が動く。
急に、砂地がすり鉢状に変わっていく。これは、巨大あり地獄。
足が砂に絡められて奴の口へ滑り落ちていく。
「ちょ、やばい」
『空壁を使うことを推奨します。』
「ナイス。メーティスさん」
葉隠流忍法 空壁
足元の空気を魔力で固定し、駿脚で上空へ飛び上がる。
口だけだが、空中から巨大蟻地獄を撮影する。
砂漠でよかった。砂のざらつきのおかげでノイズが目立たない。
残り 38枚
さらに空壁を使って上空へ飛び上がる。
サンド=ラグがこちらに向かって飛び上がってくる。
最初に見えた5mは奴のほんの一部だったようだ。15mは上空にいるがそれに届かんとするほど伸び上がってくる。
もういっちょ空壁。
距離を取って撮影する。
『被写体が大きすぎます。』
くそ、皐月では画角が狭すぎる。
モード α
カメラを持ち替える。
換装 弥生
弥生は俺が持っている中で一番画角の広いレンズだ。
弥生は17−50mm F4。F 1.4に比べると4段暗い。
撮影してみたが、ISO感度を許容できる上限まで上げているにも関わらず、写真が暗い。シャッタースピードを遅くすれば明るさを確保できるが、そうすると動いているものがブレブレになってしまう。
奴のような大きな魔物を近くで撮るには広角レンズがいるのだが、F値が暗いと夜の撮影は辛い。どうしたものか・・・
影野流忍術 狐火
魔素を使った灯りを空中に浮かべる。
なぜ葉隠流ではないのか?それはこれが俺のオリジナルの忍術だからだ。
魔法訓練の際に試した“黄金の回転“を使った魔素のコントロール。
あの時は、魔力の制御が甘く途中で消えてしまったが、密かに練習を続けていたのだ。そしてたどり着いたのが回転の収束によって光を作り出すことに成功した。
なんかさらにこの先がありそうな気がしているんだけどね。
今は光を生み出すだけで精一杯だ。
攻撃力もない。しかし、撮影に置いての光の重要性は言うに及ばず。
光があるから影もまた輝くのだ。かっこよくいってみたが、簡単に言うと、暗くて撮影できないなら光を足してあげればいいじゃない!ということだ。
色味も光量はある程度自由にコントロールできる。あとはどこから照らすか?が重要だ。飛び出してきたサンド=ラグの正面から光をあて、撮影する。
被写体の真正面から光を当てる“順光“と呼ばれる状態だ。
この場合、被写体のコントラストが高くなるが、影が消えるため平面的に写ってしまう。
しかし、撮影できたことには変わりない。
残り枚数 37枚。
狐火を奴の背後に飛ばし背後から光がくる“逆光“状態を作る。
逆光状態は被写体の輪郭を浮かび上がらせるが、正面からの光が乏しい今の状況では奴の正面が暗く影になっている。これはこれでかっこいいが・・・
残り枚数 35枚。
お、クリティカルカウントがでた。
逆光の写真は難しいが、今回は影の形状のカッコよさがクリティカルカウントになった。
伸び切ったサンド=ラグが砂中へ戻っていく。
もう一枚撮っておきたい。
狐火を右側へ移動させ、青みを強くする。
左上からそそぐ月の光と右からの狐火の青。
いわゆる、“サイド光“と呼ばれる状態。被写体の半分が影を纏った劇的な写真が撮れやすい条件だ。そして、青みがかった光が月の光と合わさり幻想的な雰囲気を作り上げている。
そして、奴の体の長さも写真を構成する上でとても重要だ。
バランスのいい5mほど頭が出ている状態で撮影する。
残り枚数 30枚。
クリティカルカウントのその上、アルティメットカウント。
いわゆる会心の一撃。残り枚数が一気に5枚減った。
なんとなくユニークスキル 撮影者のことがわかってきた。
この撮影者は、俺に撮影スキルを求めてきている。
つまり、なんとなく撮影した写真ではなく、シチュエーションを含み、被写体の魅力を最大限に引き出す世界観の作り込まれた写真にアルティメットカウントが付与される。
40枚という枚数が多すぎると思っていたが、これなら早く武器化できそうだ。
砂中に潜ったサンド=ラグから離れるように砂漠を疾走する。
周囲は全て砂だが、運動場のようなフラットな場所ではなく、砂丘が広がっている。
月の位置と砂丘の配置。その中央に奴が現れるように誘導する。もちろん狐火は月の光にカウンターとなるように配置。さらに月の方向にも光量強めの狐火を飛ばす。
奴を誘き寄せるために、砂面に振動を与える。
ほらほら、こっちだぞ。
殺気が近づいてくる。
今だ。ギリギリのタイミングで月とは逆方向へ瞬脚で移動する。
17mmという超広角の画角で地面スレスレから月に向かって伸びるサンド=ラグの巨体を写し込む。月の逆光を受けたサンド=ラグのシルエット。しかし、正面からの狐火の青い光を受けて、シルエット部分も黒く潰れることなく奴のディティールがしっかりと見える。広角レンズの遠近感を強調する効果でサンド=ラグの巨大さが強調される。
「よし、イメージ通りだ」
残り枚数 20枚
ここまで作り込むと10枚もカウンターが減った。
「グォォォォォォォン」
サンド=ラグが吠えた。
俺を捕捉できない怒りなのか
『告。戦闘時の撮影においても対象の魔素を吸収しております。その際の魔素の吸収による影響は撮影者の感情によって変化します。この場合は相手への殺意が込められているため、比率ダメージと共に不快感を付与しています。』
なんと、撮影している最中もダメージを与えていたようだ。
奴にとってみたら、撮影されるイコールダメージを受けるわけで、怒り狂って俺を狙ってくるのも納得だ。そして、先ほどはカウンターが10枚進むほどの撮影だったわけで、そら吠えるよね。
撮影のコツは掴んだが、毎度毎度うまくいくわけではないので、
これは、 1枚か・・・
よし、3枚いった。
・・・
どうやら一度使ったシチュエーションは高得点にはならないようで、
なかなかアルティメットカウントを叩き出すことができない。
砂漠の真ん中やぞ。背景はほとんど変わらんって。
・・・
それでも、光の位置関係を工夫することで、クリティカルカウントを叩き出す。
残り 3枚。
狐火を5箇所に配置。
色を紫、青、緑、赤、白に指定。
それぞれの光量を調整して、上から俺を飲み込もうと迫ってくる奴を撮影する。
光の混ざり具合がとても気持ち悪く、サンド=ラグの異様さを写し込む。
クリティカルカウント 残り枚数0。
弥生を武器化する。
起動
弥生の武器化した姿は、両手に巻かれたバンテージ。
超近接戦闘用の打撃武器のようだ。
迫ってくる奴の口に対してカンターのアッパーカットを叩き込む。
ドゴフゥ。
サンド=ラグの巨大な頭がはじけてのけぞるように後ろへと倒れ込む。
「うわ、すごい威力」
切ってだめなら殴りなさいということか。
了解です。
「いくぜ、ずっと俺のターン」
黄金の回転
1: 1.618の比率をもつ黄金比の長方形の中に正方形を作ると余った部分が黄金比の長方形となる。さらにその中に正方形を作りどんど繰り返していく。その正方形の中心を曲線で繋いでいくと無限に小さくなっていく螺旋の回転が生まれる。魔力操作で魔素を黄金の回転の極小領域まで持っていくと、魔素同士の反発が大きくなっていくので、制御が難しくなっていく。修行開始時のアキラでは物理現象が生じるところまで回転させられなくて弾かれていたが、修行によって魔力操作能力が向上した今のアキラは光の波長領域、すなわち400〜800nmのオーダーの回転まで持っていくことができるようになっている。狐火という名前は楓へのリスペクトが含まれている。




