44. Sランク
ブラック黒狼襲撃事件の翌日から村は街道の整備が始まった。
ガゾを親方とした合計21名の作業員達は、キビキビとそして生き生きと働いている。
なぜそうなったか。それは、ドルフ村長をはじめ、村の全員が強者であり、逆らう気にならないと言うこと。そして、フクさんの料理の評判がものすごく良かったと言うのが大きい。ここで働いている限り、衣食住が保証される。すなわち、ここで働いている限り、うまい食事にありつけると言うことだ。
「親方、レンガが足りません」
「なら作るしかねーな。ちょっと待ってろ。その間、お前らは道の整地をしといてくれ」
「へい、親方、おまえらやるぞ!」
「「おおーーー!」」
ロシナンテ、あほだがこういうシチュエーションでは使えるやつだ。
妙にまとめ役のポジションが似合っている。
冒険者よりも性に合ってそうだ。良かった良かった。
ブラック黒狼の他のメンバーはダーシュの元で新規開発に従事することになった。
侍のハチベエはダーシュの元でガラス細工にハマったらしい。
盗賊のアズは携帯性の良い冒険道具、すなわちキャンプ道具の開発に興味があると言うことで、ダーシュと共に開発を始めている。
魔導士のグロスは、自転車の構造を気に入ったようだ。魔法を組み合わせて漕がなくても進むものが開発できるかもしれないと言っている。
あほなのはロシナンテだけだったようだ。
腐ってもAランク冒険者パーティ。
ちなみに、冒険者のランクはSSからEまであり、Aランクは上から三番目。
SSランクは人外の強さを持つ冒険者。1人で国を滅ぼせるレベル。
Sランクは下位のドラゴンを個で討伐できるレベル。
Aランクは下位のドラゴンをパーティを組んで討伐できるレベル。
Bランクは冒険者としてベテランに位置する。ここで足踏みする者が多い。
Cランクは村の護衛依頼などを引き受けて生活をしている。
Dランクは弱い魔物の素材採取程度はできる者たち。
そして
Eランクは駆け出し。薬草などの採取を通して冒険者のイロハを学んでいく。
ブラック黒狼はAランク冒険者パーティだが、全員がAランクというわけではない。
戦士 ロシナンテ Bランク
侍 ハチベエ Aランク
盗賊 アズ Bランク
魔法士 グロス Bランク
Bランクが多いが、バランスも取れており、総合でAランクパーティということのようだ。彼らを1人で倒した俺は、相対的にSランクはありそうだ。
そして、もう一つの真実に辿り着く。
俺は、この村の誰にも勝てない。つまり、村人全員Sランク以上、ダーシュなんかはSSランクかもしれない。師匠に関しては、もともと神獣。人の基準で測れるものではない。
天獄魔封域の深緑の隠れ里葉隠、恐ろしい村だ。今まではこの村を基準に強さを測っていたため、旅に出るのは時期尚早と思っていたが、ブラック黒狼を見ていると、もう行けるんじゃね?と思ってしまう。
「これ、集中せぬか」
冒険者のことを考えながら、魔力操作の訓練をしていると、師匠に怒られた。
「ときに、アキラよ。まだ妾の撮影はできぬのか?」
「ちょっと待って。メーティスさんどう?」
『はい、マスターの魔力操作が向上しているため、アップロードの効率が上昇しています。問題なく可能です。』
「撮影できるみたいだ」
「それは良い。また、魔素が溢れる量が増えておっての、まだ余裕はあるが、もう一度撮影して魔素を吸収して欲しいのじゃ」
『告、個体名:楓の本体でなくとも魔素の吸収が可能です。効率は落ちますが、一度に吸収する魔素が減る分、マスターへの負担が軽減されます。』
あくまでも師匠の本体は、世界樹のウロの奥に自らを封印している。
前回の撮影は、本体の眠る手前の広場で分身体である人型の師匠が本体の魔素を受けて本体同様に変身した姿だった。本体に近づくほど、受け入れられる魔素の量が増えるようだ。ただ、前回はたった一度シャッターを切っただけで俺の容量が満杯になった。今回は、人型のまま、撮影して、少しずつ魔素を吸収していくことで、俺の許容量を少しずつ満たしていくことにする。
「ソラも写る〜」
ということで、昼食後に師匠とソラちゃんの撮影会をすることになった。
「それでは師匠。温泉で服を脱いでもら・・へぶし」
世の中の大きなお友達の夢と希望のために頑張った結果、割と本気で殴られた。
冗談はさておき、実は師匠を連れて撮影したい場所がある。
それは、赤い鳥居の続く階段だ。
亀の甲羅を背負って毎日走りながら、ここで撮影したら綺麗だよなというポイントは決めていた。まずは、入り口だ。
ツツジの花が鳥居の周りに咲き乱れている。
師匠と共に、その場所へ行くと、鳥居の左の柱に寄りかかってもらう。
ユニークスキル 撮影者起動
換装 如月
やはり、ここはポートレートズームたる35−150mmF2-2.8の出番だろう。
5mほど距離を取って焦点距離100mmのF2.8で撮影する。
鳥居とツツジがちゃんと写り、階段に向かって奥の鳥居がボケていくように撮影する。伏目がちな師匠が実に色っぽいが、まだ表情が硬い気がする。
「師匠、こっちをみて少し微笑んでみてくださーい」
距離があるので、ちょっと大きめに声を出す。
「表情が硬いですよぉ。いつもの可愛い師匠を見せてくださーい」
「わかっておるのじゃ!」
おお、照れてらっしゃる。
これはこれで、いい感じだ。
パシャパシャとシャッターを切る。
色々と、指示を出して、ポージングをしてもらう。
階段に座って、ソラちゃんを膝に乗せてもらう。
150mmで背景を大きくぼかして師匠とソラちゃんが浮かび上がるように撮影する。
ファインダー越しに目が合う。(一方的に)
「やっぱり師匠は綺麗だな」
思わず独り言を呟く。
「な、何を言っておるのじゃ!この馬鹿者が!」
なぜか殴られた。
場所を移して、階段の中腹へ。
踊り場的な場所だが、ここからは、鳥居の続くトンネルの先に湖が広がっている。
85mmF2.5でバストアップの写真を撮る。鳥居であることがわかるギリギリの画角で、湖が見えるように位置を変えながら撮影していく。
師匠の顔がほんのり赤い。
「師匠、ちょっと疲れた?」
「いや、その、撮影されて魔素が吸われる感覚が、心地よくての」
最後に、九尾稲荷大社の本殿の前で撮影する。
その頃には、太陽が沈みかけており、空が朱色から紫、黒へと変わるグラデーションを描く。師匠の後ろから夕陽が差し込み、髪の輪郭が光を通し神々しいまでの美しさを見せる。逆光ゆえに顔が暗くなるので、露出をコントロールするダイヤルを回して、明るさをコントロールする。プラス1に設定して撮影する。
本当に、綺麗だ。人外の美しさを感じる。
そして、なぜか儚さも感じる。そんな師匠が急に愛おしくなった。
撮影枚数が100枚を超えたところで、俺の許容量がいっぱいになった。
『魔素のアップロードを開始します。必要時間は7日間です。』
今回の魔素吸収量は、前回の5倍はあった。
今日までの訓練で魔素の許容量がかなり増えているのは明白。
アップロードの速度も相当上がっているようだ。
「そうじゃ、ソラの分体を妾にもつけて欲しいのじゃ」
「いいよぉ。楓のそばにいるの好きだよぉ」
ああ、ソラちゃん、ええ子や。
今吸収した師匠の魔素を使ってソラ分体:楓が生まれた。
ソラ分体:楓は師匠の肩にぽにょんと陣取った。
緩やかに、師匠の魔素を吸収して神空間へ送る機能も備えているようだ。
『告。個体名:楓の撮影枚数が規定値を超えました。写真スロットへ楓の追加が可能です。写真を選択しますか?』
「イエス」
俺は、夕焼けのマジックアワーに佇む師匠の写真をチョイスした。
『個体名:楓との繋がりができました。ソラ分体:楓を通して、ユニークスキル撮影者の一部の機能を個体名:楓に供与可能となりました。』
つまり、師匠にカメラを貸したり、師匠の意思で印刷できたりできるようになったようだ。ユニークスキルを貸し出せるってどうなのよそれ?
まぁ、俺の許可はいるようだし、魔素の吸収やスキルスロット、武器化は俺しかできないので、本当に一部の機能だけのようだ。
考えてみれば、ソラちゃんを通して通話できるので、カメラを貸し出せば、画像や映像も共有できるようになるのではないだろうか?
カメラが1台しかないので、相互に映像を送り合うようなことはできそうにないのが残念だ。それでも、情報伝達という意味では、革命なのではないだろうか?
そんなこんなで撮影を終えて、夕食後、温泉につかりながら印刷する写真を選んでいたら久々にミコト様から連絡があった。
写真の豆知識
写真には、ジャンルというものがあります。
例えば、風景、星景、ポートレート、スナップ、野鳥、電車、飛行機・・・・などなど。
では質問です。
ポートレート写真と人の写っているスナップ写真の違いはなんでしょうか?
人が写っていたらポートレートでしょうか?
実は、そうではない(らしい)です。
スナップ写真は、即興、その瞬間を切り取った写真です。
一方、ポートレートは、撮られている人と撮影者の共同作業で作り上げたものを指します。
なので、人が写っていても、撮られている意識がなければそれはスナップ写真だそうです。
師匠とアキラの撮影会は、声をかけてポージングまでしているので、まごうことなくポートレート撮影ですね。
ジャンルについての豆知識でした。
とはいえ、ジャンルに関係なく、周りに迷惑をかけずに撮影を楽しむことができればそれでいいと思います。




