32. 牛鬼
レンズに名前をつける。そんなこと考えたこともなかった。
魔物に名前をつけると繋がりができるように、レンズ、いや、スキルにも名前をつけると何かいいことがあるのだろうか?
「レンズ交換の時に、35−150mm F2-2.8って叫ぶの大変だと思うからね」
おお、思った以上に実用的なことだった。確かに、焦点距離とF値をは結構長い。
レンズ1、レンズ2とか?、味気なさすぎる。もっとかっこいい名前を考えよう。
「わかった、考えておく」
「うん。厨二っぽいの期待してる」
「うるせえよ」
「そろそろ時間だね。写真ありがとうね。またねぇ」
「ああ、また」
そいうと、周囲がホワイトアウトしていった。
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「うーん」
「アキラよ。起きたかの?」
目を覚ましたら、師匠が人の姿で立っていた。
もちろん、巫女服を着た状態で。ちくしょう。
「お主のおかげで、久々に気分が良い」
「ああ」
撮影で魔素を吸うことができたので、師匠はわずかに楽になったようだ。
俺は、吸収した魔素を全てアップロードできていないので、次の撮影ができない。
早く次の撮影をしてもう少し楽にしてあげたいと思う。
「それから、お主の着替えを用意しておいた。これに着替えて牛鬼の村に行くぞ」
「わかった」
妙に硬めな素材でできたTシャツに、足首に向かって絞られたズボン。
足は足袋。手甲のあるグローブ。フードのついたジャケット。全て黒一色。各所に青のラインが入っているのがかっこいい。
魔力を吸う短剣を手甲に仕込む。そして亀の甲羅100kgを背負う。
この格好は忍者じゃね?
というか、亀の甲羅背負っているなら、着るのはオレンジの道着に丸亀マークでしょうが!と心の中で突っ込む。別にその道着を着たいってわけではないが。
「なかなか似合っておるではないか。この服は、お主への感謝の気持ちじゃ。妾の毛を編み込んで作っておるからの防御力もかなりのものじゃぞ」
おふざけ抜きのガチの装備でした。
「ほれ、ニンニンっていうのじゃ」
「いうか!」
「何じゃ、つまらぬ」
「師匠。ありがとう」
「・・・そ、その忍び装束は魔力を使って魔素を流し込むと身体強化の効果があるのじゃ。妾から吸い取った魔素を使うとさらに強化されるのじゃ」
師匠が顔を背け早口になっている。ほんのり顔が赤い。
言われた通り、忍び装束に魔力を使って魔素を流し込む。
力が漲り、体が軽くなったように感じる。100kgの甲羅を背負っているのに、楽に動ける。これはすごい。
「上手く使いこなしておるようじゃの。お主は魔力操作の才能があるようじゃ。そのくらい使いこなせれば十分に牛鬼の村に行けそうじゃな」
今は、楓様の寝所(洞窟の中)にいる。忍び装束に慣れるために、このまま村へ走っていく事になった。いつも師匠に抱えられて降りていた木の上を師匠について走っていく。体も魔力操作で強化し、忍び装束のサポートがあって初めて可能なわけだが、まさか自分にこんな動きができるとは思わなかった。めちゃくちゃ楽しい。
村の人たちに朝の挨拶をして、牛鬼の村に行くことを伝えて、天の湖のほとりに着た。
「ここからは、この湖の上を走っていくのじゃ」
「ストップ!ストーップ!流石にこの衣装でも水の上は走れないでしょ」
「なに、簡単なことじゃ。右足が沈む前に左足出せば良い」
「出たよ。水の上を走る理論」
「もちろん普通には無理じゃ。なので、魔力で水と空気を操作するのじゃ。まずは基本、“水の上に立つ“じゃ」
師匠の説明によると、水の上に立つには、足元の空気を魔力で操作して船の形にして固定する。すると、足元の空気が水の上に浮き、水の上に立つことができるようになる。そしてそのまま足を前に出せば、歩くことができる。
「原理は理解したな?それじゃ、アキラよ、水の上に立ってみるのじゃ」
「はい、師匠」
足の下に魔力で空気を操作し、船型の靴を作り出す。
そして、湖面へ一歩踏み出す。
ボチャ。
・・・・・・全然浮力が足りてない。
空気の船のサイズが足りないようだ。しかし、これ以上横に広がると歩けない。
と言うことで、下に伸ばす。スケートの靴の刃が下にさらに伸びているような形状にする。そうすると安定して立てるようになった。
「こんなに早く立てるようになるとはの。さすがじゃ。次は水の上を走るのじゃ」
“水の上を走る“は原理が違う。水面の水に魔力で魔素を流し、固める。一瞬だけ水の抵抗が高まるのでそこを蹴って前に進む。ということらしい。
水の上に立っている状態から、走り始める。足にある空気の船を解除し、水面に足がつく瞬間に魔力を操作し、水面を固める。
「おお、走れる。走れるぞ」
水の上に立つと歩くは常に両足に空気の層を纏う必要があるので、魔力の消費が激しい。水の上を走るのは、水面に足がつく瞬間だけで良いので、魔力の消費を大幅に抑えることができる。これを切り替えることで、水面を自由に動くことができる。ただし、魔力が尽きるまでだが。
「あ、」
魔力が尽きたのか、次の足を踏み出したところの水が固まらず、
体が沈んでいく。俺は、100kgの亀の甲羅を背負っている。浮かぶはずもなく沈んでいく。
「うむ、これほど魔力が保つとは驚いたのじゃ」
俺は、忍び装束に魔力で常に魔素を流している。そこにさらに水面を走るために魔力を消費する。どんどん魔力が減っていき、で尽きた。
「ほれ、世界樹の雫を飲み回復するのじゃ」
最近理解したのだが、魔力は筋力のように負荷を掛けて回復させると、回復時に上限値が上がる超回復を起こす。だから師匠は、体力・筋力・魔力が尽きるまで修行しさせる。普通は回復に時間がかかるのだが、世界樹の雫で回復させることで時短する。このようにして1週間でかなり強化されたのだ。
「ふむ。体力も筋力も魔力もだいぶ上昇したな。よし牛鬼の村まで走るのじゃ。沈んだら妾が助けてやるのじゃ」
「はい、師匠」
全力ダッシュで天の湖を直線で突っ切る。ちなみに、天の湖は琵琶湖の倍ほどの大きさ約120km。そこを突っ切るのにかかった時間が2時間。途中で師匠に拾われること2回。そこから考えると、今の俺の走る速度は時速60kmを超えるという事になる。
魔力の強化と忍び装束の効果があるとはいえ、人外に近づきつつある自分にちょっと引いた。
「よし、着いたのじゃ」
俺たちは、牛鬼の村“チカト“に着いた。
「あらぁ。楓様じゃない。お久しぶりねぇ」
そこにいたのは、すらっとした肉付きの良い足、腰は腰布で覆われて、シックスパックに綺麗に分かれた腹筋。豊満な胸は布一枚を巻いた簡素な衣服。尻尾は牛のそれだ。
「久しいの、アマンダ。村の他のものは健在かの?」
牛鬼はミノタウロスから進化した種族で、知性のある獣人である。彼女は村の長であるアマンダというらしい。
「はい。皆元気ですわ。あらん?この可愛らしい子はなにかしら。ねぇ僕、私のお乳飲んで行かない?」
「アキラよ。アマンダに気に入られるとは、よかったではないか。こやつの乳はうまいぞ」
「・・・・・・・いや、遠慮しておきます」




