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大罪抱えし  作者: 硝子
自由と計画と奇跡
10/17

 何故だ。


 私は裁かれるべき人間だろう。

 それは理解できる。


 生活の為。家族の為。会社の為。

 数多の建前を理由に富を得てきた。


 建前上は御立派な事だが、その実全ては自身の自尊心を満たす為だった。

 その自尊心を満たす為に行ってきたことはとても世間では公表できないことも含まれる。


 だから、私はいつか裁かれる。


 そう、思ってきた。


 だが、何故だ。

 何故『秋葉』が――――――――


 最早何度目、いや、何百回も重ねてきた自問自答。答えなど出はしないし、誰かが出してくれるわけでもない。


 妻が出来、娘が生まれ、そして、孫が生まれた。


 自尊心等と空虚なモノとは違う。

 純粋に孫の為に働く。


 秋葉が生まれてからは、秋葉が苦労せぬように、不自由無く生きて行けるように、そんな想いで働くように変わった。


 娘が生まれたときはただ立派に育つことだけを考えていたんだが――――――。


 そんな私が、孫である秋葉へはただただ愛おしさを感じている。

 勿論娘を愛していないわけではない。が、娘への愛は私の考え方までは変えてはくれなかった。妻への愛も同様だ。だが、孫への愛は違った。

 明確に言葉にするのは難しいが――――――違う。だからと言って愛する強さが違うのかと言われればそれも違う。


 何故、孫への愛だけが、秋葉への想いだけが私を変えうることが出来たのか。

 妻や娘に若干の後ろめたさもあるが、自分ではどうしようない。


 そんな秋葉が、私の宝と言える秋葉が。


 ・・・・・何故決して癒える事の無い病に襲われなければならないのか――――――――。


 今日もまた(・・)自問を繰り返し、秋葉が住まう別宅へと向う。


 ◇◆◇◆◇◆


「誕生日おめでとう」

「おめでとう」


「ありがとう!」


 娘の花と共に普段中々一緒に居てやれない孫の秋葉の誕生日を祝う。

 毎年のプレゼントは悩ましい。しかし、その悩む時間さえ愛おしかった。


 今年のプレゼントは、来年からは高校生となる秋葉のため、少し高級なネックレスを母である花が送り、それに合わせた服を私が送った。


 花と話し合い、コーディネーターのアドバイスを受けて決めた私たちからの愛を込めたプレゼントだ。


 プレゼントを見る秋葉はそれはそれは嬉しそうに、花々が咲き誇るように笑う。

 その笑顔はとても病に犯される年若き少女とは思えない。


 娘の花もそうだが、こんな私が居ながら良く人として立派に育った。

 正直私には勿体無い子達だ。


「今日の食事は秋葉の好物を用意したぞ」

「ありがと、お祖父様」


 ほろりと緩むように笑った秋葉は私に礼を言い、直ぐに苦笑へと変えた。


「でも、毎日私が好きな物しか出てこないよ?」


 少しでも体が良くなれば。と、一流の料理人を雇い、この別宅で食事を作らせているが、その内容は主に『体に良いもの』だ。決して秋葉が好きなモノを毎日用意させて居るわけではないにも関わらず、秋葉はそんな事を言う。


「そんな事はないさ。いつもとは違う。今日は特別なお祝いなんだからな」


 苦笑は崩れなかったが、もう一度「ありがとう」を口にした秋葉の前へケーキが運ばれてくる。

 秋葉の年の分だけ蝋燭が立てられ、既にそれらには火が灯されたものだ。


 直ぐ様明かりが落ち、辺りは蝋燭の暖かな光だけが周囲を照らす。

 一番近くにいる秋葉の顔が良く照らされて見える。


 ・・・・・また、去年より細くなった。


 使用人たちの話によると徐々にではあるが食事の量が落ちているらしく、本人も一生懸命食べようとしているが、中々上手くはいかないようだ。


 僅かにだが痩けていく秋葉に目頭が熱くなる。


 今日は祝いの席。

 奥歯を噛みしめ、腹に力を入れて、震えぬよう、溢さぬように声を絞り出す。


「さ、さぁ。蝋燭の火を吹き消しなさい」

「もう少し前に持って行こうか?」

「ん、大丈夫」


 少し遠かったか。

 花が気遣い声をかけるが、それをはねのけ体の力だけで上体を前へ。


「ふ~~~~~~ぅ」


 精一杯の吐息は残念ながら一吹きでは消せなかったが、2回、3回と繰り返し、全ての火を吹き消した。


 それを見計らった使用人の一人が電気を灯し、和やかに食事が始まった。


 何時もは使用人が秋葉の食事の補助を行うが、今日ばかりは母である花がその役を担う。

 小鳥がつつくように食べる秋葉はどこか恥ずかしそうで、しかし、嬉しそうでもあった。


 あぁ。

 こんな穏やかな日が絶えることなく続けば・・・・・・。


 叶わぬ夢と分かりながらもそう思わずには居られなかった。


 ◇◆◇◆◇◆


「本日は何時もより多くの食事を摂れていました」

「そうか」


 既に秋葉は眠りにつき、ここ最近の様子を直接使用人たちから話を聞く。


 ほぼ毎日報告はもらっているが、やはり情報は面と向かって話してもらいたい。

 電話だのめーるだのは性に会わん。


 そんな事を言えば周りから『古くさい』などと揶揄される、合わんものは合わんのだから仕方ないだろう。






「大旦那様。え~っと。お客様?がお見えで―――――」


 報告を聞き、まだまだ猶予はあると安堵し、花と共に晩酌と洒落混んでいれば何とも歯切れの悪い声が掛けられた。


 こんな時間に来客?

 しかも別宅であるここに?


 ふと時計を見れば既に0時を過ぎ、分針は真下を刺そうとしていた。


「一体誰だ?こんな非常識な時間に?――――――何か緊急の用件か?」


 ふと今進めている海外でのプロジェクトが頭をよぎる。

 あの国は今が日中で、皆仕事に励んでいることを思い出し、問い掛ける。


 しかし、


「いえ、それが―――――」

「なんだ、ハッキリ言わんか」


 未だハッキリと口にしない使用人に思わず眉がより、声を荒げる事こそ堪えられたが、口調はきつくなる。


「秋葉様のご病気の件で伺ったとの事です。

 身形が相当に怪しくどうしたものかと・・・・・・」


 また、下らん詐欺を働く阿呆か?

 全く!あいつらも懲りんな!!


「そんな者は追い返せ。時間の無駄だ」

「いえ、大旦那様も一度目にした方が良いかと・・・・・」


 ん?

 目にする?


『会え』。と言うことではなく『見る』?

 どう言うことだ?


 訳が分からん。


 もう一度「不要」と声を上げようとするが、ふと、報告に来た使用人の表情を見る。


 そこには『困惑』と・・・・・これは、、、僅かな『希望』・・・か?


 まるですがるようなその目の光に興味が湧いた。


『見る』と言うことはカメラ越しにと言うことだろう。どれ、この晩酌に1つ芸でも添えて見てみるのも悪くない、か。

 態々私に伺いを立てに来たのだ、そこそこに面白い輩なのかもしれん。


「花。お前も来ぬか?」

「え、えぇ。そうね、・・・・行くわ」


 私と花。そして使用人を引き連れ、この家の前に取り付けたカメラを映すモニターへと向かう。


 そこには――――――――――。


「なんだ、こやつは・・・・・・」

「・・・・・・・どう、なってるの?」


 モニターに映っていたのは、全身を白のローブで隠し、面は黒く顔が全く分からない。そんな輩が二人。

 怪しいことこの上ない二人だが、注目したのは、いや、出来たのはそのローブでもなく、顔が分からぬ黒い面でもなく。


 僅かに前に出た片方の輩の右手。

 そこには不自然に灯る1つの火があった。


 一方向だけではなく、この玄関先には3方向からカメラを映している。

 そのどれを見ても何か手以外が有るようには見えない。


 手品の類いか?あの手袋にでも仕掛けがあるのか?

 しかし・・・・・火は浮いているように見える。


 しかし、あの距離では手袋に燃え移るように思えるが・・・・・。


「・・・・・怪しい。怪しすぎるくらいに怪しい。が、興味も湧くな」

「あれは手品か何か、なのかしら?」


 私と同じ結論に至った花。しかも、確定しきれないようで、そこも私と一緒、か。


「ふん。面白い。会ってみようではないか」





「『時間を頂き感謝』」


 部屋へと案内させ、面と向かってみても顔を隠すのは止めない。

 どころか、口調も何処か尊大な印象を受ける。

 その顔を覆う布のせいか、やけに声が聞き取りづらい。


「『先にこれを使わせてもらおう』」


 尊大な雰囲気は崩さず懐から何やら砂時計を取り出し、クルリと返して私たちとの間にあるテーブルに置く。

 何の変哲もない、何処にでもある様な砂時計。


 それに何の意味があるか判らんが・・・・・。


「そちらの方もどうぞお座りになったらどうですか?」

「『結構でございます』」


 花の勧めを有無を言わせぬ言葉を吐き、断る。そのもう一人の方も声は同じく聞き取りづらいが、恐らくは『女』であろうか?

 立ち位置的にこのもう片方の者の使用人の様なものか?


「『時間がない。進めさせてもらう』」


 前置きも何もなく話を進める恐らくは『主人』。更に予想では『男』だろう。


「『お、私は九重秋葉を治すことが出来る』」


『治す』か・・・・。

 どんな名医も、最先端の医療機器でも原因すら掴めない秋葉の病。

 それを『治す』と口にする。


 ――――――態々ここまで来たと言うことは、自信があるからか?それとも金のために目が眩んだ阿呆か。


 普通に考えれば後者だが・・・・・


「秋葉を治せる?ですって・・・・!?」


 隣から感じる花の雰囲気がガラリと変わった。


 愛する娘を苦しめる病を利用しようとする。

 そんな輩は嫌と言うほど見てきた。


『病気を治せます』


 そんな甘い誘惑の言葉を口にする奴には自然と攻撃的になってしまっている。


『出来ないことは口にするな』


 私が花の幼少期に口を酸っぱくして言ってきた言葉だ。

 それを1つのルールと定めている私と花にはこの男や他の詐欺を働く者たちが言った言葉には怒りが湧いてくる。


元々そんな気質を持ち合わせており、更にワシらの苦悩を不幸を利用し、騙し、金銭を得ようとする。


誰であろうとも怒りが湧くのは当然だ。


「『えぇ。条件は――――現金5億円。それをこの場で即支払えば、治す』」

「「・・・・・・・・」」


 開いた口が塞がらない。とは正にこの事だ。


 言うに事欠いて5億だと?更に今すぐ!?

 馬鹿げている。


 声を荒げ、席を離れようと脚に力を入れるが・・・・・・!?


「な、なんだ?どうなっとる!?」

「え!?なにこれ!?」


 花も立ち上がろうとしたのか、脚に力を入れ、立ち上がろうとするが全くそれが叶わない。

 まるで、尻がソファーとくっついてしまったかのように動かない。


「『まだ、交渉の時間は残っている』」


 そう口にし、徐に先ほどテーブルに置いた砂時計を指し示す。


 あれが落ちきるまで動けないとでも言うのか?


 そんな事!現実に起き得る訳が・・・・・!



 少しの時間、必死に立ち上がろうとするがピクリとも動けず、それは花も一緒で二人して息を切らしていた。


「『さて、理解したところで話を進めよう』」


 私たちが諦めたのを感じたのか、目の前の男はもう一度話を始めた。


「『条件はさっき言った通りだ。現金5億円を今ここで払ってくれれば、九重秋葉を治そう』」


 何か、理解できない力がある。

 それは理解できた。


 しかし、だからと言って「分かりました」とはならん。


「お前が普通じゃないのはわかった。だが、秋葉を治せるかどうかは別の問題だ。もし、本当に治せるのなら証拠を見せるなり、他の条件を付け加えるなりしろ。今のままでは秋葉には会わせられん」


「『・・・・・・確認だが、現金5億円。こちらから言っておいてなんだが、今、ここに用意できるのか?』」


 確信があって言ってきたのでは、ない?


「私は普段から2億は持ち歩いとる。それに、ここの家に現金2億を備えておるし、こっちの花もそこそこには持ち歩いとる。足りん分は後日かこの家にある好きなもんを持っていけば良い。

 だが!治せるなら。だ」


「『流石九重グループのトップ。・・・・・・証拠。と言うのは無理だが、条件に九重秋葉の完治が確認されてから金を貰おうか』」

「つまり、成功報酬か・・・。まだ弱い」


「『もし、出来なかったら我々を好きにしろ。煮るも焼くも自由だ』」

「殺しても構わん。っと?」

「『好きにしろ』」


 ほぉ。

 虚言か?

 後から言い訳を並べてどうにかなると鷹を括っているのか?


「出来ねばワシが直々に殺してやる!言い訳も弁明も聞かんぞ」

「『あぁ』」


 ・・・・・これは、本当に自信があるのか?


「治療完了は秋葉が身体を自由に動かせるように成ったらとする」

「父さん!?」


 ワシが話に乗る気になっている事を感じたとったのだろう。花が声を荒げる。まぁ、当然の反応だな。


「もし、出来なければこの世の地獄を見せてやる」

「『交渉成立だな』」


 男がそう口にした途端、僅かに腰が上がる。

 いつの間にか脚も含めて全身に力が入っていたようで、動けるようになった途端に浮き上がってしまったようだ。


「父さん!本気なの!?秋葉にもしもの事があったら!?!?」

「今以上の事には早々成らんだろ」

「でも!」

「落ち着け。今私たちの体に起こった事は間違いなく何らかの『力』だ。もしかするかもしれんだろう?」

「そう、だけど・・・・・・」


 信じきれないし、不安も大きい。

 それはワシも同じだが・・・・・ワシの勘では、この選択肢が正解だと思う。


 ワシの『勘』が今のこの立場を作ったと言って良い。

 人生の成功を納めてきたこの『勘』。それを信じる。


「こっちだ。付いてこい」


 大人しくなった花をその場に残し、案内をするため先に歩き出す。


 後ろから付いてくる二人を警戒しながらゆっくりと秋葉が眠る部屋へと向かう。


「ここだ。もう秋葉は寝ている。先に起こしてくる。少しここで待て」


 二人を残し部屋へと入ると僅かに聴こえる秋葉の寝息。それを聞いてささくれだった心が少し落ち着く。

 何時でも秋葉の世話が出来るように部屋で待機していた使用人が慌てた様子で此方へと足早にやってくる。


「(大旦那様!?どうされたのですか!?)」

「すまんが秋葉を起こしてくれ。こんな時間だがやってみたい治療がある」

「!?かしこまりました」


 小声で問い掛けてくる使用人に普通に返答し、秋葉を起こさせる。

 少しだけ待てば、眠そうにする秋葉の上体を起こして話しかけている。


「んぅ。おじぃ、様?治療?でふか?」

「あぁ。そうだ。すまんな秋葉。悪いが少しだけ付き合ってくれ」

「ふぁ~ふ。ふぁい」


 欠伸をひとつして返事する秋葉。

 部屋には既に明かりが点けられ、秋葉の目を覚ますために濡れ布巾で顔が拭われる。


「いいぞ。入れ」

「『失礼します』」


 ん?

 流石に若いおなごの部屋に入るのはこやつでも気を遣うのか?


 柔らかくなった口調に疑問が湧くが、そんな事はどうでも良いか。


「『お嬢様。お、私が治療をさせていただきます』」

「・・・・お祖父様?」


 その怪しい出で立ちに顔を強ばらせ、此方を見る秋葉。


「安心しなさい。何かあっても守る」

「・・・・・はい」


 何時でもこいつを取り抑えられる様に傍に立ち、身構える。

 そんな私を見て使用人の女も何かあれば直ぐに秋葉を動かせるように、秋葉の身体を半場抱き抱えるようにして支えた。


「それで、お前の治療はどうやる」

「『ただ触れて、呪文を唱えるだけだ』」


 鼻で笑い飛ばそうとした。

 が、そうする前に既に奴の右手は秋葉の額に触れていて―――――


「『【改善せし不浄の右手スユズ・ラウ・パタユア】』」


 瞬間。

 奴の右手が柔らかい緑の光を纏い、その光が秋葉へと移っていく。


「お、おい!!これは!?」

「『ご安心ください』」

「『もう終わった』」

「なに!?」


 まさか秋葉が――――――!?


 身構えていたにも関わらず、思いがけぬ光景で動けなかった。

 そんな数秒で秋葉の命が!?!?


「おじぃ、さま。へ、変です」

「!?ど、どこかだ!?」


 言葉を発したことに安心を。

 言葉の内容で不安を。


 あわてふためき、秋葉の両の肩を掴む私の視界に


「て、手が。手がうご、動いて」


 震える秋葉の声。

 そして



 秋葉の両の手が―――――――――――――持ち上がっていた。


「あ、あき、ば。それ、は?」

「動いて――――動いてます!お祖父様!私の手が動きます!!」

「!?!?」


 信じられない。

 突然の出来事に目を見開き、秋葉の手をただただ見つめる。


「あ!お祖父様!脚も!脚も動きます!!」

「!?!?」


 脚も動くと言う秋葉は身体を支えていた使用人から抜け出し、ベットを飛び下りる。

 普通に。そう。普通に両の脚で立つ秋葉は、1度だけ此方を振り向き笑う。


「あは、あははははは!動く!!!」


 バタバタと動き回る。

 それはもう盛大に、広めのこの部屋を所狭しと駆け回る。そんな秋葉をただ眺めた。


 ふと、先ほどまで秋葉が居たベットに視線を向ける。


 そこには当然使用人が居て。


「お前。何故泣いている?」

「?あら?はは。何故、でしょう。・・・・ふふ。そう言う大旦那様も」

「?」


 言われた事も、今私が抱く感情も、秋葉の現状さえ理解できなかった。


 ただ。

 頬をやけに熱いものが伝っていた。


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