VOL.28 謀略
「殿。ここは拙者が引き受けますゆえ、殿は疾くお逃げくだされ」
日向左衛門之介は、全身を朱に染めながら、だみ声で叫ぶように言った。
「なにを言う。こなたらだけ死なすわけにはいくまいぞ。死なばもろともじゃ」
「馬鹿なことを申されるな。殿さえ生きてあれば、戦はまだ負けではありませぬ。無事城に帰って、再帰を図るのが殿の務めでございましょう。ここは我らに任せて、早くお引きあそばせ」
そう言って、左衛門之介は野田城主である京橋天満の馬の尻を、槍で叩いた。
天満の馬が、駆け出してゆく。
「名を惜しむ者は、我に続け」
一度槍を天に翳し、それから疾風のごとく、敵勢目がけて突っ込んでいった。
隣国の福島が攻めてくるとの報せが届いたとき、野田の国は、戦うか降伏かの意見が真っ二つに分かれた。
福島の国力は、野田の三倍はあった。
国を守るために降伏論が圧倒的に多かったが、それに真っ向から反対したのが、先祖代々の忠臣で、国一番の武力を誇る日向左衛門之介だった。
「うまくいったのう」
城に引き上げてきた天満が、三人の腹心に向かい、会心の笑みを浮かべた。
「左衛門之介めがいては、降伏もままなりませぬからな。 福島国との談合ありとも知らず、左衛門之介めはまんまとこちらの思惑通りに動いてくれましたな」
「彼奴め、勇猛に戦って死んだのじゃ。さぞ、満足であろう」
四人の高笑いが、天守閣いっぱいに響いた。




