青色のペンダント
エピローグ
「「このペンダントは母上から譲り受けたんだ。今となっては形見みたいな物だね…」
頬杖を付き、昂聖は目の前でアシュレイに預けていたペンダントを翳した。
深い青色をしているペンダントの宝石は、光を受けても光のは表面だけで、奥に光は届かない。
それはブラックホールにも似ているような気がする。
「羽鳥くんは何か感じるかい?」
羽鳥はペンダントを直視せず、だから、昂聖から目を逸らした状態で眉を寄せる。
「…とてもじゃないですが…直視出来ません。痛いです」
くくっと昂聖が楽しそうに笑う。
この一件が終わって、昂聖の表情が軟らかくなった気がするのは、羽鳥だけだろうか。
いや、羽鳥が気づいているならアシュレイも気づいているのだろう。
昂聖の笑顔からわざとらしいものが薄れてきている。
「そりゃあそうだよ。これは一ノ瀬代々から受け継がれてきた物だ。これは元々はダイヤモンドなんだよ?」
「…は?ダイヤ?」
羽鳥は抜けた声をあげる。
「そうさ。大きいだろう?」
「いえ、そうじゃなくって、あの…青いダイヤ、ですか?」
可笑しそうに昂聖はくつくつと笑い続ける。
羽鳥をからかうのが面白いみたいだ。
最近はずっとこんな感じだ。
「あの…昂聖様…」
「あ、ああ…これは日が経つに連れて、だよ…っ」
どうもツボに入ったようで昂聖は机に突っ伏せる。
妙に気恥ずかしくなって、羽鳥は困ったように頬を掻く。そして、溜め息をついた。
「…はぁ…これはね、一ノ瀬の先祖の負の感情を吸収して取り込んでいるんだ。更に年を重ねればそのうち黒ずんで来るよ」
目尻に浮かんだ涙を拭って、昂聖は肺に溜まった息を吐き出す。
ようやく収まったらしい。
羽鳥はきつそうに眉を寄せてペンダントを見た。
夜の空のように青く、黒い。まるで夜空を切り取ったようだ。
多分これは、当主が《蝕》に捕らわれて仕舞わないように作られたのだろう。《蝕》を浄化するはずの立場の者が捕らわれてしまっては話しにならないから。
「何故、お母様が?」
「何でも、結婚したときに父上が母上にお守りだと渡したらしいね。父上は相当母上が大事だったみたいだよ」
今、昂聖の母親は心を失い、記憶も言葉も何もかもを失ってしまった。
それでも、彼女はいつも笑っているらしい。
記憶にない大切な人を安心させるためにだろうか。
もし違っていたとしても、どこかで昂聖のことが残っていると嬉しい。
「羽鳥くん。何一人でにやにやしているんだい?気持ち悪いよ」
「なっにやついてなんて…!」
「羽鳥くんに親代わりを頼んだ覚えはないんだけどね」
あ、そうだ、と昂聖は立ち上がる。
「僕を投げてくれたお礼だよ。買い物に付き合って貰おうか」
さぁっと羽鳥の血の気が引いた。
昂聖の買い物は大変な事になるのだ。
家族である使用人たちにお土産を毎回買うのだから。
――…一ノ瀬の使用人はざっと数えて………
「………かしこまりました」
げんなりとした様子の羽鳥を見て、昂聖はさぞ愉快そうに笑った。




