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【特殊編:三日の鼠禍(ねずみわざわい)】

 深淵アビスの終焉。

 種族の垣根を越えた静かなる歓喜を経て、世界は少しずつ、新たな日常へと回帰しつつあった……――。


 バイ州の都市。

 行き交う人々で賑わう歩道。

 一人のゴブリンの新聞配達員が、束になった新聞を振りかざす。

 独特な訛りのある交易語で、声を張り上げた。

『号外だ! 号外! 本日、連合議会が正式に発足したぞ!』


 傍らを、騒々しい無限軌道キャタピラの駆動音が通り過ぎていく。

 装軌車トラクターが往来する道路。

 突如、一陣の強風が吹き抜けた。

 ゴブリンの手から、一枚の新聞が空へと舞い上がる。

 風に乗り、宙を舞う紙面。そこに踊る見出しは――。


 [――西部大陸連合議会、ここに正式発足!]


 終戦! 

 西大陸の臨時政府として、連合議会が遂に稼働を開始。

 昨夜の各族長による会談の末、以下の議長就任が確定した。

 エルフ議長、人間ヒューマン議長、オーク議長、ドワーフ議長、ゴブリン議長、ハイエナ議長、そしてトロール議長。

 また、各族の旧領地は新たな行政区画として再編され、以下の州名へと改称される。

 ハイ領は「ハイ州」へ。

 バイ王朝領は「バイ州」へ。

 ハイランド部族領は「ハイランド州」へと……――。


 ひらひらと路面に舞い落ちた新聞紙。

 無残にも装軌車の履帯に轢き潰される。

 その皺くちゃになった紙面を――小さな足が踏みつけた。


 泥棒ネズミだ。

 頭上高く「六角ナット」を掲げながら道路を横断し、改修中の建物の前にあるマンホールへと潜り込んでいく。


 暗く入り組んだ下水道。

 幾度も角を曲がり、やがて自然形成された広大な地下空洞ジオードへとたどり着く。

 崖っぷちに立ち、重いナットを下ろして荒い息を吐く。

 眼下に広がるのは、泥棒ネズミたちが築き上げた「繁栄の都」だった。

 誇らしげに胸を張り、再びナットを担ぎ上げる。

 人工的に整備されたスロープを、一気に駆け下りていった……――。


『敬愛なるチュウチュウの民よ! チュウチュウ帝国に歓呼せよ! 帝国の偉大なる未来に己が力を捧げよ! 偉大なるチーチー神に栄光あれ!』


 ナットを担いだ泥棒ネズミは、密集する群衆の中を練り歩く。

 建造物に剥き出しで設置された拡声器スピーカーからは、帝国の「日々の宣言」が響き渡っていた。


 やがて、広大な製造工場ファクトリーへと到達する。

 手にしたナットを、別の作業員エンジニアネズミへと引き渡した。

 ナットを受け取った作業員ネズミは、遠方にそびえ立つ「鋼鉄の巨人」へと向かっていく。

 運び屋の泥棒ネズミは足を止め、その威容を見上げた。


 並び立つ、数多の巨大機神タイタン


 胸の奥から湧き上がる自信。そして深い感慨。

 泥棒ネズミは満足げに頷くと、来た道を引き返していった。


 再び、泥棒ネズミで溢れかえる大通りへ。

 仮設された演壇に、様々な金属片の勲章をぶら下げた年老いた泥棒ネズミ――老指導者オールドマンが歩み出る。


 コン、コン。

 マイクを叩く音が響く。

 道行く泥棒ネズミたちは一斉に足を止め、演壇上の指導者リーダーを見上げ、一糸乱れぬ敬礼を捧げた。


 老指導者はマイクを握りしめ、熱弁を振るう。

『我が愛しき民たちよ! 機は熟した! 私と共にカウントダウンを始めよう! あと数日……あと数日で、我らは再び太陽の光を取り戻すのだ!』


 泥棒ネズミの指導者は、固く握りしめた拳を天へと突き上げる。

 自らの胸を叩き、甲高い声で叫んだ。

『地上の傲慢なる者どもよ! 奴らは血みどろの戦争を経て、今はひ弱な腑抜けに成り下がっている! 今こそ! 世界の覇権を奪い取る絶好の好機チャンスなのだ!』


『私に続け、我が民よ! 偉大なる巨大機神タイタンの足跡に続け! チーチー神に栄光あれ! 弱り目に祟り目! 息の根を止めてやれ!』

 両腕を大きく広げ、天を覆い隠すほどの威容を誇る巨大ロボット群を仰ぎ見る。

『弱り目に祟り目! 息の根を止めてやれ! チーチー神に栄光あれ!』


 指導者の扇動的な演説に、眼下の泥棒ネズミたちは熱狂的な歓声で応えた。


 チュウチュウ帝国の号令の下。

 巨大なる国家機構システムが、フル稼働を始める。

 地上の戦場からくすねてきたガラクタの銃器が、絶え間なく軍需工場へと運び込まれ、改修・改造を施されていく。

 飛び散る溶接の火花。

 数千に及ぶ戦車タンクや火砲が次々と成形され、野獣のような駆動音を轟かせながら、生産アセンブルラインから溢れ出していく。


 巨大な機械腕クレーンが、炎の魔法水晶クリスタルを装填した熱線歩槍ヒート・ライフルをゆっくりと吊り上げる。

 作業員ネズミの巧みな操作により、銃身は機神タイタンの腕部へと運ばれ、群がる工兵たちによって次々と溶接・接合されていった。


 決行の日。

 泥棒ネズミの指導者は観閲台に立ち、整然と並ぶ装甲部隊と兵士たちに敬礼を捧げていた。

 鼓膜を揺るがす轟音。

 目の前を行進する壮大な大軍勢が、地上の下水口へ向けて進軍していく。


 その背後から――大地を揺るがし、数十機の偉大なる巨大機神タイタンが姿を現す。


 指導者は熱い涙をこぼしながら、観閲台の横を通り過ぎる鋼の巨影を見上げた。

 巨人が一歩を踏み出すたび、大地はまるで鼓動するように脈打つ。

 その圧倒的な威容に、眼下の民衆から爆発的な歓声が巻き起こった。

 無数の紙吹雪が舞う。

 涙ながらに熱狂し、地上への「栄光なる聖戦ジハード」へと赴く軍団を、甲高い金切り声で見送った……――。


『キャアアアッ! 泥棒ネズミよ!』

 エルフの女性がパニックに陥り、ドレスの裾を捲り上げて全速力で逃げ出す。


 排水口からウジャウジャと這い出してくる数百匹のネズミの群れ。おもちゃのような銃を抱えている。

 それを見たドワーフの建築作業員が、目を丸くして叫んだ。

『なんだこの気色悪ィ群れは! どこからこんな大量の……痛テェッ! こいつら攻撃してきやがるぞ! 逃げろォ!』

『誰か! 早く保健所ホケンジョに連絡して! キモすぎるわ!』


 地上へと雪崩れ込んだ泥棒ネズミの兵士たち。

 狂信的な眼差しで銃器を構え、路上を行く「チーチー神の敵」へ向けて一斉射撃を開始する。

 放たれた数筋の細い熱線ビーム

 命中した通行人の足首に「かすり傷」をつくる。


 バイ州の都市のあちこちから、悲鳴(というより迷惑そうな声)が連鎖していく。

 攻撃を受けた(かじられた程度の)市民たちは、パニック状態で蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

『キィィィーッ! キィィィーッ! キィチィキィチャ!(進軍せよォォォ! 進軍せよォォォ! 栄光なるチュウチュウ!)』


 騒動の勃発を受け、通報を受けた保健所から人間の職員が現場へと派遣された。


 装軌車トラクターで駆けつけた人間のネズミ駆除業者は、道路を埋め尽くすほどの泥棒ネズミの群れを見て、唖然と声を漏らす。

『なんだありゃ? あのドブネズミども、暇を持て余してイカレたのか?』


 駆除業者が車を振り返り、「殺鼠剤スプレー」を取り出そうとした、その時――。

 少しだけ太めの熱線ビームが、装軌車のボディに直撃した。


 チンッ。


 ほんのりと赤く熱を持った鉄板。

 業者はギョッとして背後を振り返る。

 そこには、「空き缶」に熱線拳銃ヒート・ガンを溶接して作られたお手製の戦車タンクが、キャタピラを鳴らしてジリジリと進み寄ってくる姿があった。


『ホーリー・ライトよ! 冗談じゃねえ、俺は降りるぞ! こんなの駆除業者の管轄外だ!』

 銃口がチカチカと光るのを見た人間は、顔を青ざめさせ、脱兎のごとく逃げ出した。


 バイの市民たちが退避し、通りは徐々に静けさを取り戻していく。

 空き缶戦車のハッチが開き、泥棒ネズミの車長がひょっこりと顔を出した。

 無人となった市街地を見渡し、高らかに勝利の雄叫びを上げる。

『キィ! チャァーチィチィチャ! キィチィキィチャ!(我らの勝利だ! チーチー神を讃えよ! 栄光なるチュウチュウ!)』


 通り一帯に、怒涛の歓声が響き渡る。

 戦車から飛び降りた車長は、うっとりとした表情で両腕を広げ、苦労の末に手に入れたオレンジ色の夕空を全身に浴びていた。


 やがて、黒紺の夜の帳が東から西へと空を覆い隠す。

 路上に小さなテントを張った泥棒ネズミの兵士たち。

 街灯の魔法水晶クリスタルの明かりを頼りに、思い思いの娯楽に興じ、リラックスした夜を過ごしていた。


 通りの反対側から、伝令の泥棒ネズミが駆け込んでくる。

 車長のテントへ飛び込み、「別働隊が隣の通りを制圧した」という吉報を伝えた。

 車長は目を輝かせる。

 すぐさま作戦卓マップに齧りつき、友軍と合流するための進軍ルートの策定に没頭し始めた。


 一夜が明け。

 東の空から白み始めた頃――突如、バイ州の都市全体に耳をつんざくような警報音が鳴り響いた。


 叩き起こされた泥棒ネズミの兵士たちは、苦悶の表情で両耳を塞ぐ。

 車長はテントを跳ね除け、痛みに耐えながら乗組員クルーたちを戦車へと押し込んだ。

 恐るべき「音響兵器」の発生源である街頭拡声器スピーカーを睨みつけ、砲手へ向けて発砲を命じる。


『――バイ州の住民の皆様にお知らせします。現在、市内で深刻なネズミ被害が発生しております。危険ですので、外出を控え、自宅待機をお願いします。繰り返します――』


 パシュッ! パシュッ!

 戦車の砲撃(熱線)によって、スピーカーが次々と破壊されていく。

 だが、泥棒ネズミたちが安堵の息をつく暇もなく、今度は通り中にけたたましいサイレンと拡声器の怒声が鳴り響いた。


 装軌式の装甲兵員輸送車(APC)の中。

 オークの機動隊員が不満げにぼやく。

『戦争はもう終わったんじゃねぇのか? なんで俺たちがフル装備で駆り出されなきゃならねぇんだ。バイ州にアビスの残党でも出やがったのか?』


 向かいに座るドワーフの機動隊員も、首を傾げる。

『かもな? 終戦したばっかだし、隠れてたアビスの残党がまだ掃除しきれてねぇんだろ』


『よし! 目的地到着だ! 警戒を怠るな、速やかに降車して遮蔽物に付け! 急げ、急げェ!』

 後部ドアの傍に座っていたオークの隊長がハッチを蹴り開け、分厚い鎮圧盾ライオットシールドを構えて勢いよく飛び出す。


 だが、振り向いたオーク隊長の目に飛び込んできたのは、ドアの横でポカンと立ち尽くす運転兵の姿だった。

 頭に血が上り、オークの隊長は怒鳴りつける。

『運転兵! 何ボケッと突っ立ってやがる! さっさと――』


 言いかけて――隊長自身も、目の前の光景に絶句した。

『なんだこの、ふざけた集団は?』


『チャチャキィチャ!!(フリーファイア!!)』

 空き缶戦車の砲身が赤く発光する。

 細く、しかし灼熱を帯びたビームが、オークの構える鎮圧盾に直撃した。


 反射的に身構えたオーク隊長だったが、盾越しに伝わってきたのは「ほんのりとした温かさ」だけだった。

 盾の表面にできた小さな「焦げ跡」をまじまじと見つめ、我に返ったように怒声を上げる。

『交戦状態に突入! 交戦状態に突入! カバーに入れ! 即時反撃しろォ!』


 刹那。

 大通りは無数の火線が交差する激戦区キルゾーンへと変貌し――泥棒ネズミたちの断末魔が絶え間なく響き渡る。

『キィィィーーッ!(ギャアアアーーッ!)』


 輸送車の陰に隠れたドワーフが、こめかみに青筋を立てて喚き散らす。

『ふざけんじゃねェ! こりゃ保健所ホケンジョの仕事だろうが! 俺たちをネズミ捕りのために出動させやがったのか!?』


 オーク隊長は群がる泥棒ネズミへ向けて威嚇射撃をしながら、人間の隊員へ向けて怒鳴る。

『お前! 車から火炎放射器フレイムスロワーを出してこい! このドブネズミどもを全部こんがり焼き払ってやらァ!』


 一方、チーチー神の敵からの猛烈な反撃を受け、泥棒ネズミの兵士たちはバタバタとなぎ倒されていく。

 惨状を目の当たりにした車長は、即座に撤退の号令を下した。

『キィ! チャ! チィキィキィ!(総員! 後退せよ! 援護射撃!)』


『キィィィーーッ!!(ぎゃあああっ!)』

 全軍退却の混乱の中、一匹の泥棒ネズミが飛来した銃弾で足を吹き飛ばされる。

 地面に這いつくばり、激痛に身を悶えさせていた。


 本隊と共に後退していた別の兵士が、それに気づく。

 自身も手傷を負いながら、斃れた戦友の元へと駆け寄り、その手を力強く握りしめて泥まみれになりながら引きずった。

『キィチャチィチィ!(死ぬなよ、兄弟!)』


 一方、鎮圧盾を構えるオーク隊長の援護を受け、火炎放射器を抱えた人間の隊員がその二匹のネズミの目前へと歩み寄る。

 彼の耳には、ただネズミが「チューチューキィキィ」とやかましく鳴いているようにしか聞こえない。


 だが、そこには熱きドラマがあった――。


 足の折れたネズミ:『キィ! キィキィ! チャチャチャ!(行け! 早く行け! 俺にかまうな!)』

 負傷した戦友ネズミ:『キィ! キィキィキィキィ!(馬鹿野郎! お前を見捨てて行けるかよ!)』


 ゴォォォォォッ――!!


 絶望の淵で、足の折れたネズミは戦友の手を両手で強く握りしめ、天に向かって咆哮した。

『チィチィ! キィキィキィ! キィィィーーッ!!!(兄弟! 来世でも……絶対にお前と兄弟になるからなァァァッ!!!)』


 無慈悲な業火の舌が、逃げ遅れた泥棒ネズミたちを跡形もなく呑み込んでいく。


 ただ一両。

 後進バックギアを入れ、アクセルをベタ踏みした空き缶戦車タンクだけが、ギリギリで火炎の範囲から逃れ出ていた。

 再びハッチを開けた車長。

 その顔の半分は、熱波に焼かれて無残に焼け爛れていた。

 炎に呑まれ、炭と化していく同胞たちを見つめ……張り裂けんばかりの絶叫を上げる。

『キィィィーーッ!! チィチィチャ!(おおぉぉっ……!! チーチー神よォォォッ!)』


 バック走行を続ける中、突如として地面から規則的な地鳴りが伝わってくる。

 戦車の車体がガタガタと不安定に揺さぶられた。

 悲壮な面持ちで背後を振り返った車長。

 その絶望に染まっていた顔に――一筋の希望のえみが差す。


 火傷の激痛に耐えながら、太陽を覆い隠すほどの「巨大な鋼鉄の影」に向かって、震える手で敬礼を捧げた。

 巨大な足裏が、車長の頭上を悠然と跨いでいく。


 空き缶戦車を一歩で跨ぎ越した「偉大なる機神タイタン」の内部。

 中央の指揮官席コマンダーシートに座るオールドマン・ネズミが、投影ホログラムモニターを見据えながら、四名の操縦員クルーへ向けて怒号を飛ばす。

『キィキィチィチャ! キィキィチャチャ! チャチャキィチャ!(栄光なるチュウチュウ! 偉大なる機神タイタンよ! 全機前進せよ!)』


 老指導者の命令の下、四名のクルーたちが流れるような連携で巨大機神タイタンを操縦していく。


 一方。

 オーク隊長は、自分たちの腰丈にも満たないサイズのロボットが五機、整然と隊列を組んでこちらへ向かってくるのを見下ろしていた。

 横長の角錐型の頭部に、三対のアンテナ。どう見ても「ネズミ」の輪郭を模している。


 オーク隊長は首を鳴らし、呆れたようにこぼした。

『なんだありゃ? どこのガキのイタズラだ? わざわざネズミ型のラジコンなんか作りやがって』


 コックピットの中。

 老指導者は身を乗り出し、モニターを指差して烈火のごとく吼える。

『キィチャチャキィ! チャチャキィチャ!!(全僚機! フリーファイアッ!!)』


 機神タイタンの腕部に接続された歩槍ライフルから、機動隊へ向けて猛烈なビーム弾の雨が降り注ぐ。

 防爆盾を構えたオーク隊長は、人間の隊員の首根っこを掴み、たたらを踏みながら輸送車の裏へと撤退した。

『即時反撃しろ! 撃ち返せェ!』


 交錯する火線。

 激しい銃撃戦の中、道路のど真ん中を堂々と進軍していた機神タイタンたちは、機動隊の容赦ない集中砲火を浴びて、一機、また一機と無惨に爆散していく。


 数分後――。

 深刻なダメージを負い、ボロボロになった最後の一機が、輸送車まであと数歩というところまで迫っていた。

 黒煙を吹き上げ、まるで底なし沼を歩くかのように、その足取りは重く、遅い。


 半壊したコックピット。

 四名のクルーは血まみれになりながら、背後の老指導者を振り返る。

『キィキィ! キィキィチャチャ!!(司令! 機体の損傷が限界です! 撤退指令を!)』


 だが、中央に座す老指導者の目は死んでいなかった。

 額から流れ落ちる血を拭いもせず、血走った眼でモニターを睨みつける。自らの胸を激しく叩き、雷鳴の如く一喝した。

『キィキィキィチャチャキィ! キィキィ!! キィチィチャ――キィキィチィチャ!! キィチャ!(偉大なる機神タイタンは我らの命そのもの! 栄光なるチュウチュウ――チーチー神の敵を殲滅せよ!! フル・ファイアだァッ!!)』


 その覚悟に、四名のクルーたちは顔を見合わせ――やがて、彼らの瞳にも老指導者と同じ「狂熱の炎」が宿る。

 狂気じみた咆哮が、機内に木霊した。

『キィィィーーッ! キィィィーーッ! キィキィチィチャ! チャチャ!!!(ウオォォォォッ! ウオォォォォッ! 栄光なるチュウチュウ! 全弾発射ァッ!!)』


 決死の操作により、機神タイタンに残された左腕の火砲が、機動隊へ向けて全ての火力を解き放つ。

 迎え撃つ機動隊も一歩も引かず、残存する魔法水晶クリスタルの全エネルギーを機神へと叩き込んだ。


 ドガァァァンッ!!


 無数の火線が、機神の装甲を容赦なく貫く。

 血を吐きながらも、老指導者の闘志は折れることはなかった。

『キィキィ! キィキィ――ッ! キィチャチャキィキィチャキィキィチャ!!(前進! 前進しろォォッ――! 我らは偉大なる機神タイタンと共にあり!!)』


 死の淵に立つクルーたちも、そのカリスマに鼓舞され、激痛に耐えながら絶叫を重ねる。

『キィチャチャキィキィチャキィキィチャ!!(我らは偉大なる機神タイタンと共にありィィィッ!!)』


 限界を超え、黒煙を噴き上げる機体。

 もはや、前へ一歩踏み出す力すら残されていなかった。


 バチバチッ――という火花の音を最後に。

 機神タイタンは轟音と共に爆散し、無慈悲な烈火が、残された泥棒ネズミたちを跡形もなく呑み込んでいった……――。


 泥棒ネズミたちの凄惨なる聖戦。

 それは、二日目の夕陽と共に、儚くも散った。


 翌日。

 連合議会による行政命令の発令。

 保健所ホケンジョから派遣された多数の「ネズミ駆除業者エキスパート」たちが、バイ州の下水道へと突入。

 都市全体を巻き込んだ「前代未聞のネズミ禍」に対し、徹底的な清掃クリーニングが実行されたのだった――。

第一部はひとまずここで区切りとなります。詳細は活動報告をご覧ください。次回からは前日譚の執筆・更新に入ります。

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