第8章(最終章) プロローグ 案件No.9999:ストーリー課解体通知
第8章(最終章)『輪廻庁ストーリー課、本日も営業中』
――ビィィィィィィィィンッ!!!!
鼓膜を直接劈き、脳髄を乱暴に揺さぶるような、そして心臓の鼓動を強制的に停止させるかのような、極めて不吉で暴力的な警告音が、輪廻庁ストーリー課のオフィス全体に鳴り響いていた。
普段ならば無機質で青白い蛍光灯の光に照らされている広大なフロアが、今や血のように毒々しい赤色のフラッシュライトに強制的に塗り込められている。
窓のない壁面に囲まれた室内には、彼らが日々の業務で審査し、弾いてきた「異世界転生」や「追放もの」といった安易なテンプレ企画書の束が、それこそ山脈のようにうず高く積まれている。それらの紙の束が、回転する赤い光を浴びて不気味な影を落とし、まるで世界を創造しようと足掻いた作者たちの怨念が実体化したかのように、フロア全体に重苦しい圧迫感を与えていた。
そして、各審査官のデスクに配置され、常に数万の世界の状況を映し出して点滅を繰り返していた無数のモニター群は、まるで世界そのものが絶望の悲鳴を上げているかのように、一斉にブラックアウトと砂嵐のようなノイズを繰り返していた。
その混乱の中心。
オフィスの正面に設置された最も巨大なメインモニターの中央に、冷徹で、感情の欠片もないシステムからの『通告』が、目を射るような巨大な赤いフォントで叩き出されている。
【案件No.9999:輪廻庁ストーリー課の解体、および現在同フロア内に存在する所属・非所属問わず全職員の『最終審判』プロセスへ移行します。】
【完全自動テンプレ管理システムへの移行プロセスを開始。】
【不要な物語(ストーリー課)の完全消去まで、残り――】
画面の右下で、無機質なデジタルのカウントダウンが、静かに、しかし絶対に逃れられない死への秒読みとして、確実に時を刻み始めていた。
「……ふざけるなッ!」
ストーリー課の審査官・三城 晶也の口から、激しい怒りが爆発した。
彼は直前までダイブしていた『廃棄領域(ゴミ箱)』の最底辺で、システムが差し向けた特大の清掃ルーチンの巨大な刃から、一人の少女を守り抜いたばかりだった。
無事に帰還を果たしたとはいえ、その代償はあまりにも大きかった。彼のアバター(精神データ)の左腕は肘から先が完全に光の粒子となって欠損し、漆黒のロングコートの背中はごっそりと抉り取られ、本来ならば見えないはずの内部構造である緑色のワイヤーフレームが痛々しく剥き出しになっている。
システムによる消去の呪いが傷口から這い上がり、立っていることすら奇跡に近いほどの激痛と、精神をすり減らす絶望的な疲労感が三城の全身を苛んでいた。
だが、三城の瞳には、限界を超えてなお燃え盛る、マグマのように熱く激しい怒りの炎が宿っていた。
生前、ブラック企業で過労死するまで働き詰め、ラノベ新人賞に何度応募してもテンプレの海に埋もれてボツを食らい続けた彼にとって、「効率のために不要なものを切り捨てる」という理不尽は、魂の底から憎悪する対象だった。
「俺たちの職場(居場所)を勝手にボツにして、自分たちに都合のいい自動テンプレシステムに変えるだと……? そんな胸糞悪いクソみたいなプロット、この俺が承認するわけねえだろうが!」
三城は、痛む左腕を庇いながら、内ポケットからボロボロになった愛用のノートを引き抜き、右手に持った黒インクのペンをギリッと音が鳴るほど強く握り直した。
「三城さん! ダメです、メインシステムからのアクセス権限が、すべて……ストーリー課の権限が、完全にロックされています! 私、システムに一切触れません!」
メインコンソールにかじりついた、ストーリー課の企画担当を務める下級女神・ルナが、恐怖に顔を引きつらせて絶叫した。数々の物語や乙女ゲームを愛読してきた生粋のオタクであり、いつもは感情豊かでテンションの高い彼女だが、今は等身大の銀髪ツインテールを振り乱し、必死にキーボードを叩きまくっている。しかし、どれだけ解除コマンドを入力しても、画面には【アクセス拒否】の無慈悲なウィンドウが無限に増殖していくばかりだ。
「完全に外部から遮断されていますね。我々の端末は今や、輪廻庁の広大なネットワークから切り離された、ただの独立した箱庭状態だ」
ロマンス案件調整課の二等審査官であり、今日は合同会議のオブザーバーとして同席していた白石 慧が、神経質そうに眼鏡のブリッジを押し上げながら、氷のように冷ややかな声で状況を分析した。その口調は冷静さを保っているが、彼の指先は尋常ではない速度でキーボードを叩き続け、幾重にも連なる防衛コードを必死に構築し続けている。
「これは、通常のバグや一時的なエラーなどではありません。すべての物語の根源を司るワールドコア中枢からの、直接的な物理封鎖……いや、フロア全体のフォーマット攻撃です。中枢は、ストーリー課という部署ごと我々を『ごみ箱』に捨てるつもりですよ」
「システムリソースが、どんどん奪われてます……っ!」
同じくロマンス案件調整課から助っ人として来ていた情報処理担当のセラ・ブランシュが、大粒の涙をこぼし、パニックになりながら悲鳴を上げた。普段は淡色パステルのスーツを着こなすおっとりとした彼女だが、今は数字とログの鬼としての本能が、迫り来る圧倒的な崩壊を正確に読み取ってしまっていた。
「私たちが管轄していた数万の世界へのアクセス権限が、次々と『完全自動テンプレ管理システム』に強制移管されています! このままじゃ、今まで私たちが関わってきた世界が、全部あいつらの手に落ちて……ただの記号の羅列になっちゃいます!」
『完全自動テンプレ管理システム』。
その言葉の響きに、三城は強烈な吐き気と嫌悪感を覚えた。
それは、作者が悩み抜いた苦悩も、キャラクターが自らの足で生きようとする足掻きも、そして読者が物語に寄せる熱量もすべて無視し、ただ「効率が良いから」「予定調和でトラブルが起きないから」という理由だけで、記号のようなキャラクターをベルトコンベアに乗せて消費するだけの、完全に死んだシステムだ。
これまで彼らが理不尽な死の運命から救い出してきた、病弱な幼馴染ミアの温かい涙。
色彩を取り戻し、大空へと羽ばたいたエイルの飛翔。
理不尽な断罪を跳ね除け、気高く微笑んだ悪役令嬢レティシアの誇り。
命懸けのダンジョンを生き抜き、輝くようなステージを見せたアイドル・詩乃の泥だらけの笑顔。
炎上迷宮を踏破し、生きる判断を繋いだセラの温かいスープ。
そして、世界を救うための生け贄という冷酷な法則から解放されたアイリスの安堵の息。
キャラクターたちが自らの足で歩み、生み出した「血の通った美しい物語」を、中枢はすべて効率の名の元に均一化し、無個性なテンプレへと上書きしようとしているのだ。
「三城さん……! 私のせいで……」
三城の背後に隠れるようにして立っていた少女――シオリが、恐怖と絶望に完全に染まった顔で、三城のコートの袖をギュッと強く握りしめた。
彼女は、最初の世界『案件No.0000』のヒロインでありながら、設定過多による世界の破綻と共にボツにされ、廃棄領域の冷たい暗闇の底で「名前のない読者」としてたった一人で生きてきた少女だ。
彼女の「キャラクターに生きてほしい」という強すぎる感情移入が、結果的に各世界にバグを生み出し、中枢からエラー要因として狙われる原因となった。
三城が命懸けでシステムの根幹にハッキングを仕掛け、彼女を「特例観測モジュール」として正規データに偽装して、ようやくこのオフィスに連れ帰ってきたというのに。
「やっぱり私が来たから、皆さんの大切な居場所まで消されちゃうんだ……っ! 私が『生きたい』なんて身勝手なことを願ったから、システムが怒って、皆さんを道連れにしようと……!」
シオリの透き通るような白い肌が、再び古いモノクロ映画のように急速に色褪せていく。彼女の身体の輪郭が曖昧にブレ始め、システムによる消去を受け入れようとする自壊プログラム特有の、砂嵐のようなノイズに覆われそうになる。
「バカ言え、シオリ」
三城は、欠損した左腕から走る激痛を歯を食いしばって堪えながら、残された右手でシオリの華奢な肩を力強く、そして絶対に離さないという意志を込めて抱き寄せた。
「お前は何も悪くない。こんなふざけた事態になったのは、俺たちが今まで、あの中枢のポンコツAIどもが気に食わない『最高の物語』を創り続けてきた証拠だ。システムが、俺たちストーリー課の泥臭いやり方に恐れをなして、強制終了を仕掛けてきただけだ」
「でも……! 私が大人しく消えていれば、皆さんは……」
「私たちは、シオリさんが大好きなんだから、勝手に自分を責めないでください!」
ルナが、操作していたコンソールから弾かれたように飛び退き、シオリの小さな身体を正面からギュッと強く抱きしめた。
「シオリさんは、ずっと暗闇の中で、一人ぼっちで私たちの創る物語を見守ってくれてた、一番の味方じゃないですか! 読者が読みたいって願うことをエラー扱いする、システムなんかの勝手な判断で、自分が悪いなんて思っちゃ絶対にダメです!」
下級女神としての神聖さよりも、純粋な一人の読者としての熱量を持ったルナの真っ直ぐな言葉。そして、彼女の確かな温もりに触れ、シオリの目から大粒の涙がポロポロと溢れ出した。彼女の身体を覆いかけていた自壊のノイズが、二人の肯定の力によって微かに収まっていく。
「……その通りよ」
不意に、パニックに陥り、騒然とするオフィスの奥から、ヒールが硬い床を叩く足音が響いた。
サイレンがけたたましく鳴り響き、赤色灯が激しく点滅する絶望的な空間の中で。その足音だけが、不思議なほど冷徹に、そして絶対的な静寂と威厳を伴って近づいてくる。
白衣をスタイリッシュに着こなし、整った顔立ちに氷のように冷ややかな知性を湛えた女性。
輪廻庁ストーリー課一等審査官であり、この部署の課長――そして、すべての企画書の最後に「――ボツ」の最終決裁を下すボツ出し会議の議長役、黒瀬 天音だ。
「黒瀬課長……!」
三城が顔を上げる。
黒瀬は、絶体絶命の危機に瀕しているにもかかわらず、パニックに陥るような素振りは微塵も見せず、優雅な足取りで三城たちの前まで進み出た。
彼女の視線は、メインモニターに表示された巨大な【案件No.9999:解体通知】の文字列を、まるで出来の悪い新人作家が持ち込んできた、中身のすっからかんなプロットでも見るかのように、氷のように冷たく、そして見下すように見据えていた。
「……完全自動テンプレ管理システム、ね。中枢(上層部)のエディター連中も、ついに思考停止の極みに到達したってわけ」
黒瀬の口調はいつも通りクールで飄々としていたが、その声の底には、触れれば一瞬で凍りつきそうなほど絶対零度の怒りが、静かに、しかし確実に煮えたぎっていた。
「課長、呑気なこと言ってる場合じゃないですよ! このままだと、あと数分でストーリー課のフロアごと、物理的にフォーマットされて電子の塵として消し飛びます!」
セラが、モニターに表示されるシステムリソースの浸食率を見ながら泣き叫ぶ。
「分かっているわ、セラ。……白石、あなたの構築した防壁の持ち時間は?」
「もってあと百二十秒といったところです。相手はワールドコア中枢……すべての世界の根幹を管理し、ルールそのものを決定する神のシステムです。我々ローカルサーバーの貧弱な演算能力では、いずれ圧倒的な物量差で押し潰されるのは火を見るよりも明らかです」
白石は眼鏡の奥の目を細め、一切の希望的観測を交えない冷徹な事実を告げた。部署は違えど、彼らは幾度も合同会議で肩を並べてきたプロフェッショナルだ。逃げ出す素振りなど一切見せない。
「そうね。計算通りの絶望的な状況だわ」
黒瀬は小さく息を吐き、ゆっくりと腕を組んだ。
「テンプレによる完全自動管理。確かに、これほど効率的で無駄のないシステムはないでしょうね。予定調和という名の安全なレールを引き、読者が喜ぶであろう『流行りの要素』だけを記号のように組み合わせて、リスクを冒さず、無難に物語を回し続ける。エラーも起きなければ、キャラクターが予想外の行動をしてシナリオが破綻するリスクもない」
黒瀬の言葉に、三城はギリッと奥歯を噛み締めた。
それは、彼らが日々血反吐を吐きながら戦ってきた「悪しきテンプレ」の、最も最悪な究極系だった。
「私はね、テンプレそのものを頭ごなしに否定する気はないのよ」
黒瀬は、モニターの毒々しい赤い光を瞳に反射させながら、静かに、だが力強く語り始めた。
「テンプレは悪じゃない。読者が安心して物語の世界に入り込み、効率よくカタルシスを摂取できるようにするための、長年の試行錯誤の末に生み出された黄金律よ。先人たちが築き上げた、素晴らしい技術の結晶だわ」
彼女は一等審査官だ。物語の構造を誰よりも深く理解し、その有用性を知っているからこそ、これまで数多くの企画書を冷静に審査し、ある時はテンプレを活用し、ある時はテンプレを破壊してきたのだ。
だが、と。
黒瀬の瞳が、抜き身の刃のように鋭く細められた。
「読者の感情を動かせない、ただテンプレをなぞるだけの退屈な物語は、ただの『不良品』よ」
黒瀬の声が、サイレンの鳴り響くオフィスに、凛と響き渡った。
「テンプレの都合のためにキャラクターの心を殺し、予定調和のレールの上を、感情のない人形が歩くだけのものを『物語』とは呼ばない。踏み台にされそうな子を泥まみれになりながらも救い出し、黒い栞を割って、自らの手で七色の栞を通す。……キャラクターが自分の足で生き、もがき苦しみ、読者がそれに共鳴して共に涙を流すからこそ、そこには真のカタルシスが生まれるのよ」
黒瀬は、ボロボロになった三城の痛々しい姿を一瞥し、そして彼に守られるようにして立つシオリ、さらには限界を超えてタイピングを続ける白石とセラ、彼らを守ろうとするルナを見渡した。
「私の可愛い部下たちが、どれだけ泥水すすって、命懸けで理不尽なプロットをひっくり返してきたと思ってるの。その審査の結晶を全否定して、非効率なエラー扱いで消去する?」
黒瀬が、ヒールを鳴らして一歩、前へ踏み出した。
その瞬間、彼女の全身から放たれる圧倒的な「審査官としての矜持」と絶対的な威厳が、エマージェンシー・レッドの毒々しい光を物理的に押し返すかのような錯覚を覚えさせた。
「百年早いわ」
黒瀬の、氷のように冷たく、しかし何よりも熱い怒りの宣告。
それは、世界の神である中枢システムに対する、完全なる反逆の意志表明だった。
『……警告。防壁の突破まで、残り三十秒。消去プロセス、最終段階へ移行』
無機質なシステムの合成音声がフロアに響き、オフィスの壁や床のテクスチャが、ジリジリと音を立てて白紙化し始める。空間そのものが、消しゴムで削り取られるように崩壊していく。
「課長! もう限界です!」
白石の、滅多に感情を表に出さない男の、悲鳴に近い声。
だが、黒瀬は全く慌てることなく、白衣のポケットから一つの「電子デバイス」をゆっくりと取り出した。
それは、彼女が日々のボツ出し会議の最後で使用している、最上位の審査官権限を宿した『決裁用スタンプ』だった。
「白石、セラ。中枢への通信ポートを、一瞬だけ、全力でこじ開けなさい」
「えっ!? 防壁を解いて中枢へのポートを開けたら、その瞬間にフォーマットの波が直撃しますよ!?」
「いいから開けなさい! 一秒でいいわ!」
黒瀬の絶対的な命令に、他部署からの応援である白石とセラは一瞬顔を見合わせた後、文句一つ言わずに覚悟を決めたように力強く頷いた。
「了解……! 全システムリソース、通信ポートの突破に一点集中! セラ、タイミングを合わせろ!」
「はいっ! ポート開放、スリー、ツー、ワン……今っ!」
バキィィィィンッ!
目に見えない電子の強固な防壁が一瞬だけ解除され、ストーリー課のネットワークが、ワールドコア中枢の絶対領域と直接繋がった。
同時に、莫大な量の「消去データ」の津波が、開かれたポートを通ってオフィスへと雪崩れ込んでこようとする。
その絶望的な死の波の只中へ向けて。
黒瀬天音は、手にした決裁用スタンプを、空中に展開したメインモニターの【案件No.9999:解体通知】の文字に向かって、思い切り、そして痛烈に叩きつけた。
「私たちの審査を全否定して効率化する気なら……中枢(上層部)の決定だろうと、私が『ボツ』にするわ」
ガァァァァァァァァァァンッ!!!!!
空中に、血よりも赤く、太陽よりも眩い光を放つ巨大な【却下】の文字が深く刻み込まれた。
一等審査官の最上位権限によって放たれた、その強烈な「否定のログ」。
それは、単なる小さな前進どころではない。中枢システムが一方的に下した「解体」という絶対的な決定に対して、正規の審査手続きを踏んで真っ向から「論理的矛盾」を突きつけた、巨大な反撃の楔だった。
『……ERROR。対象部署ヨリ、最上位権限ニヨル【却下】プロトコルヲ受信。処理ニ矛盾ガ発生。……消去プロセスヲ、一時凍結シマス』
けたたましく鳴り響いていたサイレンが、ピタリと止んだ。
オフィスの壁の白紙化が不自然に停止し、迫り来ていたフォーマットの波が、まるで時間を止められたかのように一時的なフリーズ状態に陥る。
「……止まった」
セラが、信じられないものを見るように、空中に静止した波を見つめて呟いた。
「あくまで一時的な時間稼ぎよ。中枢の莫大な演算能力なら、すぐにこの『ボツ決裁』の矛盾を無効化するパッチを当てて、再び消去プロセスを再開してくるわ」
黒瀬はスタンプを懐にしまい、ふっと前髪をかき上げた。
「システムへの反逆? 上等じゃない。あいつらの完璧主義がどれほど退屈で、そして脆いか、その身に思い知らせてあげるわ」
黒瀬は振り返り、三城、ルナ、白石、セラ、そしてシオリの顔を順番に見渡した。
「さあ、仕事よ。安易なテンプレは全部ボツにするわよ」
その力強い言葉に。
三城は、痛む左腕を庇いながらも、喉の奥で獰猛な獣のように笑い、ゆっくりと立ち上がった。
「了解です、課長。……俺たちの職場を勝手にボツにされてたまるか。直接文句を言いに行ってやる」
シオリも、涙を乱暴に拭って力強く頷いた。
ルナが両手の拳をギュッと握りしめ、白石とセラが再びコンソールに向かい直し、次なる作戦のためのタイピングを開始する。
ストーリー課、そしてロマンス案件調整課からの頼れる協力者たち――ここにいる全員の意志が完全に一つになった瞬間だった。
彼らが次に成すべきことは、もはや防衛戦ではない。ただ一つ。
すべての物語の根源であり、絶対の効率を司る神――『ワールドコア中枢』への、死を賭した逆ダイブである。
物語を愛する不器用な審査官たちによる、究極の「ボツ出し」が、今、絶望の淵から高らかに幕を開けようとしていた。




