俺の方が打てる!
これは一昔前の話。
あるプロ野球選手が試合で凡退した。
まただ。また、味方のチャンスをつぶしてしまった。ここ最近はヒットが出ていない。なのに、スタメン・・・・・・。
焦りばかりがわいてくる。
そんな時だ。
「へたくそー! 俺の方が打てるぞー!」
観客席からヤジが飛んできた。
選手は思わずカッとなる。
口で言うだけなら簡単だ。実際にはできもしないくせに。
「じゃあ、打ってみろ!」
選手は叫んだ。
観客席の一点を指差しながら、相手投手の方を見る。今のヤジを飛ばした奴に向かって投げろ、とジェスチャーしてみた。
すると、相手投手がニヤリと笑う。
で、こっちと同じ場所を指差してきた。
相手投手の目が聞いてくる。
――あそこに投げればいいんだな?
――ああ、本気で頼む。
相手投手は軽くうなずくと、体の向きを変えた。ヤジを飛ばした男を正面に見据える。
予想外の展開に、盛り上がる野球場。
そんな中、ヤジを飛ばした男だけが困惑していた。
が、もう遅い。打てよ、絶対。プロの球を打てるんだろ。
ヤジを飛ばした男のすぐ後ろ、そこの席にいた子どもが、キャッチャーマスクをかぶるジェスチャーをする。そのあと、ミットを構えるジェスチャーも。
しかも、グラウンドで守備についている選手たちも反応する。一斉に体の向きを変えたので、野球場はさらに盛り上がった。
次回は「球場飯」のお話です。




