良い思い出
今日の試合に負けた。高校野球の地区予選。
これで俺の高校野球が終わった。
この試合で俺はホームランを打った。
それでも負けた。相手チームは強かった。さすが県内屈指の強豪校だ。
これまでの練習も今日の試合も、精一杯やったので悔いはない。
だから、自分自身に言いたい。三年間おつかれさま、俺。
学校へ戻ろうと、チームメイトと一緒に球場を出る。
すると、小さな子どもが近づいてきた。手には野球のボールを持っている。
その男の子は俺の前で止まると、
「これ、さっきのホームラン」
ボールをわたして、すぐに去っていく。
とっさに俺は叫んだ。
「ありがとなー!」
男の子の背中が一瞬「びくっ!」としたが、直後にふり返った顔は、現在でも忘れない。
少し緊張していて、でも、照れくさそうな顔をしていた。
今日の試合は高校最後の試合だ。試合には負けてしまったけれど、俺は大きなホームランを打った。
そのボールが今、ここにある。あの子が届けてくれたのだ。これは良い思い出になる。
そして実際、俺の宝物になった。
あの夏から十数年。
俺は母校の試合を、外野スタンドから観戦していた。
ここ数年はいつも見にきている。母校の野球部は強くもなければ、弱くもない。だから、応援しがいがある。
一人の選手がホームランを打った。球場の外に消える特大のホームランだ。
あの夏と同じ。高校生の俺が打ったのも、場外ホームランだった。
運命のいたずらか、このあとの結末も同じになる。母校は試合に負けてしまった。
試合が終わると、俺は娘を連れて球場を出る。
自動販売機で買ったジュースを飲みながら時間をつぶしていると、母校の野球部部員たちが球場から出てきた。
俺は娘に野球のボールをわたす。スポーツショップで昨日、買ってきたものだ。わざと少し汚しておいた。
一人の選手の方へと走っていく娘。何をすればいいのかは、すでに教えてある。
「これ、あげる。ホームランのやつ」
棒読みなのは仕方がない。選手にボールをわたすと、娘がこっちに戻ってきた。
「ありがとなー!」
その選手が大声で叫んでいる。
俺と娘は手をつないで、笑顔で歩き出した。
ゆっくり歩きながら考える。あの選手もいずれ、俺と同じことをしたりして・・・・・・。
高校野球最後の試合で打ったホームランボール、そして、それを届けてくれた子ども、本当に良い思い出だ。
他の人にも伝えたい。
次回は「文化祭」のお話です。




