全国大会の事前練習で
この学校の野球部の監督になったのは、二〇年前だ。
で、今年の夏、地方予選を勝ち抜いた。初めての全国大会出場である。
数日後には全国大会が始まるのだが、今日は「事前練習」だ。全国大会の出場校が順番に、本番の試合と同じグラウンドで練習を行う。その順番が回ってきたのだ。
監督はグラウンドに足を踏み入れると、
(ようやく、ここまで来たんだなぁ)
しみじみと思う。
しかし、練習時間は限られている。たったの二〇分だ。無駄にはできない。
前もって、おおまかな予定を立てていたので、その通りに練習を行う。限られた時間で効率良くだ。
十数分後、練習時間が残り少しになったところで、監督は気づいた。
スタンドに変な連中がいるのだ。マンガやアニメのキャラクターのお面をかぶった男たち。スタンドの目立たない場所にいるので、今まで気づかなかった。
何だろうと思いながらも、練習を続ける。「事前練習」では、一般のお客さんもスタンドからの見学が可能だ。
そして、練習時間が終わる。
このグラウンドから去る前に、監督はもう一度スタンドを見た。
すると、謎の男たちが一斉にお面をとる。
そこにあったのは、懐かしい顔だった。かつて一緒に全国大会を目指していた、野球部の教え子たち。
監督は思わず、うるっときてしまう。
できることなら、彼ら全員を全国大会まで連れてきてあげたかった。
でも、自分にはそれができなかった。同じ県内に全国クラスの強豪校がいたとか、言いわけはあるけれど・・・・・・。
監督は心の中で謝りながら、グラウンドを後にした。
野球場の外に出ると、さっき見た教え子たちが、こっちに向かって走ってくる。
彼らに対して、全国大会に連れてくることができなかったことを詫びると、
「でも、その野球部を今年、ここまで連れてきてくれたじゃないですか」
かつての教え子たちは続ける。
たしかに、高校球児としては、全国大会に出場できなかった。
しかし、その思いはきちんと後輩たちに受け継がれている。
二〇年前から試行錯誤の積み重ねだった。どういう練習をすればいいのか、色々と工夫してきた。
さっきの練習には、それが十分に現れていた。ノックの工夫、声かけの工夫、他にも・・・・・・。
「だから、同じことですよ。さっきの練習、俺たちも一緒にグラウンドを走り回っている気分でした」
そんな二〇年の伝統があっての、今年の全国大会出場。
彼らが声をそろえて言う。
「監督、全国大会まで連れてきてくれて、本当にありがとうございます。全国大会を楽しんできてください」
次回は『静まり返る野球場』というお話です。




