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まなざしの向こう岸  作者: 十二滝わたる
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山城

 ヨシアの新しい家は昔ながらの納屋が接続された家ではあったが、さすがに茅葺き屋根ではなくトタン屋根で、やや崖上にある見晴らしの良い場所にあった。先程のお寺の墓地や遊ぶのはうってつけの桑畑も横に連なり、河から引いたであろう小さな池や高低差を利用した滝からのマイナスイオンが清冽な空気を辺りに振りまいている。

 家の前の小路を河の土手方向に登って行くと、小路は河の堤防からはずれ、小山の尾根をつたいながは頂上まで続いている。

 山頂付近は土塁に囲まれた僅かな平地があり、かつては山城であったことが伺える。伝承によれば、大きな戦さがここであり、城主は配下の農民もろともなで斬りされ滅ぼされたのだという。

 今でも畑を耕すと時たま人骨が出てくるというおどろおどろした土地柄だ。

 しかし、以前からのこの土地の人達は、負け戦覚悟の降参しない争い方を、逆に忠誠心の高い先祖と誇りをもって言い伝えているという。

 翌日、晴れた淡い緑が芽吹く前の山頂への小路を、ヨシアと一緒に城跡まで登った。

 途中、這いつくばってしか登れないような、岩に囲まれたガレ場となった。

 3歳のヨシアはまるで猫のようにいとも簡単に登り詰め、なかなか登れない私を、わざわざもう一度、今度は横っ飛びしながら身軽の降りては、私の手をエスコートするのだった。

 城跡からの眺めは最高だった。街は河を隔てた向こう側に大きく広がり、遠くには六階建の大きなビルが何棟も見渡せた。

 ヨシアがこの前まで住んでいた鉱山は、河となって流れ出すもうひとつの山に遮られ無ることは出来なかった。

 得意気に私を案内したヨシアは、その事を知ると酷く残念がった。

 ヨシアは、「いつ、あの丘の戻れるんだろうね」と聞いてきた。私はヨシアを傷つけないように、「ヨシアか大きくなったらね」と言うと、ヨシアはまた、いつもの笑顔で「そうなんだ」と大きく笑った。


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