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まなざしの向こう岸  作者: 十二滝わたる
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或る男

 その男は貧しい寒村の三男として生まれた。


 貧しさは掘っ立て小屋の家に祖父母と父母と兄妹五人とで生活する暮らしを余儀なくされた。


 祖父は小さな耕作地の作物だけではなく養えず、村で理髪も行った。


 三男のその男は10歳になると奉公という名前の村の庄屋の下男となった。


 14歳になると歳を偽り、書類を偽り、父母の印鑑を盗み、単身、満州に渡った。


 満州では、寒さは厳しかったが、比較的作物が採れる地平線までの広大な土地が自分のものとなった。故郷では考えられないような裕福な生活が待っているはずであった。


 ソ連が突然攻めてきた。関東軍は満州義勇を盾にして逃げた。男は捕まり、シベリアの強制労働者となった。


 3年後、男はあてもなく貧しい故郷の寒村に戻った。

 混乱する戦後の世の中で、男はその気になれば、大阪で生き延びてきた腕力に物を言わせ、かたぎではない世界で一旗挙げることもできた。


 寒村に戻った男は。まだ、25歳だ。


 大日本帝国を夢見て大陸に渡った男は、社会主義者として寒村に戻った。


 

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