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まなざしの向こう岸
今でも目をつむり耳を澄ますと、遠い谷の底からカラカラと滑車が鳴り響く音か懐かしく聞こえてくる。
四六時中、滑車のなる丘の町で私は育った。遠く眼下には、低い山の稜線の向こうに、小さな温泉町が丸く広がっている。
大きな炭鉱の町には長屋が行くつもりの丘を削りながら幾つかの群れを為している。丘の最上部には町をさらに見下ろすように、一戸建ての家が、蟻の巣を反対にしたように傾斜を上るつづら折りの道の両側に、点々と建てられている。管理職の方々の住む家だそうだ。住む場所や大きさまで歴然と違いがあった。
私が弟のように可愛がったヨシアは、丘のてっぺんにあるあの家だ。私の住む長屋の脇からつづら折りの道はあった。2才のヨシアは一人で転びそうに成りながら、道を下ってきてはノーちゃん遊ぼと窓を叩く。
谷を一つ大きく越えた長屋には、危ないからと行っては行けないことになっえるし、小学校のお姉ちゃんは炭鉱の町にある小さな分校に行ってるし、そんなことから、近くの私の遊び相手は、3つも年の離れた、このヨシアしかいなかった。