四百四十話 離さない
『ハルナ』
「……ミーファ……今、なんて……?」
「…………おねえ、ちゃん……? いや……そんな、わけ……」
耳を疑った。昨日、初めて喋った相手を……そんな、家族のような呼び方をする彼女に……頭が痛くなった。
「ど、どうしたの? なんで、そんなこと……」
「わ……からない、けど……でも…………ハルナ、私…おかしいのかな。」
「……お、おかしいと、おもっ……!?」
そりゃ、突拍子が無さすぎるんだ…………無さすぎるのに、なんで………………そんな、悲しい顔をするの……?
「……なんで、私は…………リリーさんの、こと……」
(ミーファ……なんで、だってリリーさんは、エルサさんの……姉、で………あ、ね……)
『…………ハノ、ン……』
『…………だ、れ……?』
……痛い、どうして…………わたしはハルナ……この、ウルス様が、付けてくれた名前……なのに、なんで…知らない人の名前の方が…………心に……
「あ、の……2人は……ふたり、はっ…………」
「2人の、お姉ちゃんだよ。」
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『リリー=ミラスト』
心臓が、鳴り止まない。緊張と、不確かな事実が……鼓動を動かし続ける。言葉も出なくて……今は、彼と彼女に任せるしかなかった。
「……ミル、さん……アーストさ……ん。」
「…………ウルスから、話は聞いた。君たちは昔、奴隷から救われて……その前のことは覚えていなかったと。そして……数年前、今の君たちと同じ歳で、性別で……精霊と獣人の赤子を拾った家族がいた。」
「ぇっ……」
踏み出せなかった。それが真実だとして……私は、守られて……今さら、どんな顔をすればいいのか分からなかった。
「……その赤子は、2人の姉に育てられて……でも、その後に盗賊によって攫われてしまった。行方も分からず……諦めることしかできなかったんだ。」
「…………あね……」
「……それで、ウルスくんは旅の途中……奴隷だった2人を…………ミーファちゃんとハルナちゃんを助けた。奴隷になってしまった人は名前も消されて……幼かったから、記憶も……だから……きっと、そうなんだよ。」
「そう……そぅ、ってぇ……」
自分よりずっとしっかりしてて、気も使えて……優しく育った彼女たちに、『自分が姉だ』と…………言ってしまって良いのだろうか。
「……2人も、気づいたんだろ? 例え記憶が無くとも……体が、心が覚えてるんだ。優しい、2人の姉を……」
「……彼女たちも、重ねたって。ずっと……会いたかったんだよ。」
もう、2人には歩んでいる人生があって……私の存在なんて、いらないんじゃって…………こっちの、ただの一人相撲なんじゃないかって……………
「…………」
(……姉さん。)
同じ……気持ちなんだろう。
私たちは双子の姉妹だから…………分かるよ。
何もしてあげられなかった。
一緒に、居てあげられなかった。
そんな私たちを……姉と、おねえちゃんと呼べないだろう。
『……いなくなったのはハルナですよ。』
「……………行け。」
「「……えっ」」
不意に、背中を揃って押され──私たちは、彼女たちの顔を見てしまった。
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『エルサ=ミラスト』
『リリー…優しいままでいてね……』
もう、あの頃の私も……2人もいない。どっちも変わって……それでも、私は…………
「……ミアラ……ハノン…………」
「…………エルサ、お姉ちゃん……」
ハルナが、私をそう呼んだ。それはとてもぎこちなくて、本人も違和感に戸惑っていたが……その声色と呼び方は、間違いなくハノンだった。
『エルサおねーちゃん、あそぼっ!!』
『わかったわかった、今日はなにしよっか?』
「分かる、かな……ずっと……会いたかったんだ……ごめんね……」
「……覚えて、ない……でも…………で、もぉ……」
涙が、溢れていた。流して、嬉しくて…………ぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてあげた。
「ありがとう……生きててくれて、ほんとに……ありがとぅ……」
「う、うぅ……ぅん……おねぇ、ちゃんっ……おねぇちゃん……!!」
久しぶりでむずかしくて、でも確かにそこにあって…………
「ミアラ……強くなったねっ……嬉しいよぉ……」
「リ、リー……お姉ちゃん……ひっぐっ……ぁっ……」
全部、繋がっていて…………やっと、ここまで来れたんだ。
「……もう、離さない。」
生きてるだけで。




