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ジャン・ラ!   作者: 森元カオス
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00 プロローグ ある良家の使用人の手記より


ユーデリック大陸、スアキューヴ暦721年 秋


私、デリック=アンガードはかれこれ20年家の旦那様に使えてきました。

長年、この家に仕えていますと様々な出来事と遭遇してきました。

元々、筆無精の私が手記に何か書き留めることは珍しく、

それ程奇妙で、珍しい出来事が起きたのでございます。



ユーデリック大陸、アーストラースト大陸、オタパタパタ大陸と呼ばれる大陸とその周辺に様々な島が点在します。

それらを合わせ、この世界はスアキューブと呼ばれております。


スアキューヴの歴史は長く、旧暦・新暦が存在しており、少なくとも100万年以上はこの世界はあったとも伝えられています。

旧暦の時代は、天使、悪魔、妖精などと様々な種族がいたとも言われ、一部では伝説や神話としても現代に伝えられています。


私は、そのような神話や伝説なんてものは信じるつもりもございませんが、

その名残で形骸化と言えど信仰として残っているのであります。

読んでいて、一々歴史を語られてうんざりしてらっしゃるかも知れませんが、もう少しこの話にお付き合いしてくださいませんかな。

この出来事は、歴史に残るようなことかも知れません故、先に読まれる方へと参考程度に書いていまして。

それ程、坊ちゃんは大変珍しいお方なのですから!!


っと、感情的に少々書きすぎましたな。


歴史が長い故に根強い信仰が残っている、日常の様々な状況でも習慣として残っているのであります。

形骸化して残った程度に思わなかった私の宗教観を、まるまる覆すような出来事を坊ちゃんが引き起こしたのです!


坊ちゃん、オーディ=クロウリウス様はスアキューヴ暦720年の冬にお生まれになられました。

奥方のナリア様は初産であったため三日三晩の陣痛に苦しまれ、オーディ様が生まれたのは奇跡でした。

三日三晩の苦痛に苦しめられたのが原因でしょうか。

ナリア様はオーディ様を出産した後に、意識を失われてそのままお亡くなりになられました。

ナリア様は旦那様とご結婚される前から体が弱く、体力が持たなかったのでしょう。

母亡き後、乳母に育てられることになったオーディ様は生まれてしばらくは健やかに成長しているように見えました。

急変したのは3ヶ月後の洗礼を迎えた頃でした。


洗礼は、生まれておおよそ3ヶ月目に行う儀式でございます。

信仰するものによって儀式は違うと言われますが、クロウリウス家は金物を扱う商人でありました故、火の精霊を信仰しておりました。

勿論、跡継ぎであるオーディ様も火の精霊の加護を与えるために火の信仰のある協会へと連れて行ったのです。

ところがその日を境に、オーディ様の体調が悪くなっていったのです。

洗礼を終えた直後、オーディ様は正しく火がついたように泣き出しました。

泣き出した我が子に旦那様は、必死にあやす乳母からオーディ様を奪い、そして驚きました。

オーディ様の身体は、まるで炎で焼かれたように熱く、その熱さ苦しんで泣いていたのです。


慌てて我が子を屋敷へと連れ帰った旦那様は、各地から有名な医者を呼びつけてあらゆる手を使って治そうと試みました。けれど、オーディ様の体調は良くなるどころか悪くなるばかり。

私も含めた使用人全てがオーディ様の為にあらゆる知恵を働かせましたが、いい案は浮かばず。

使用人達は、よもや洗礼が良くなかったのでは?オーディ様は火の精霊に嫌われたのでは と考えはじめ、次第に屋敷で囁かれ始めました。

私は信仰をあまりよく思っていなかったので、使用人の噂は聞き流す程度に考えていませんでした。

旦那様は使用人の噂を聞き流すこともできず、あらゆる手を使って治そうと試みました。

妻を失っただけでなく息子を失うやもしれないという思いがとても強かったからだと、妻を慈しみ死して旦那様に引き継がれた子を非常に愛していたご様子を知っている私には理解するのは容易でした。

火の洗礼では駄目だったのですから、水の洗礼、風の洗礼、土の洗礼、世界で信仰されるものは全てオーディ様に施しました。

けれど、洗礼を受ければ受けるほど身体は弱り、オーディ様のお命は風前の灯火となりました。

信仰される全ての加護を拒絶されるような状況に、使用人達は密かにオーディ様を忌み子と呼ぶようになりました。

世界を守るものすら嫌い拒絶する悪しき魂だと言う者が現れ、オーディ様は奥方様を殺した悪魔だと、クロウリウス家は悪魔に呪われたんだとも呼ぶ者まで現れました。

そんな心無い言葉やあらぬことを言う者が現れるほど、事態は最悪でした。

あらゆる手を使って成果が表れず、旦那様は憔悴していきました。

宗教嫌いの私も使用人にあらぬ噂を広げぬように口止めする以外はなす統べなくお手上げでした。


屋敷は、既にお葬式が行われるのでは思ってしまうほど陰鬱な雰囲気に満ちていました。

一粒一粒、砂が落ちてオーディ様の死はついそこまで迫っていました。

あらゆる手を使っても事態が悪化する様を一番間近に見ていた旦那様は、人目をはばかることなく涙しておりました。


「他の精霊がこの者を受け入れぬなら、我が加護を与えよう。」


何者かの声がしたかと思うと、旦那様の前に男が立っていました。

オーディ様の為にこれまでも洗礼を行ってくれる聖職者はこの屋敷に数多くおりましたが、この日の訪問予定に聖職者も一般客の方も一切無かったのであります。

闇から生まれ出たような男は黒衣を纏い仮面を被っていました。


もう、あらゆる手を使ってもどうにもならなかったのです、藁にも縋りたい思いでした。

涙ながらに懇願する旦那様を黒衣の者は静かに頭を下げました。


ベビーベッドに寝かされたオーディ様は痛ましいほどやせ細っていました。黒衣の者はオーディ様の頭を撫でるように触れるや否や、瞬く間に健やかに育っていた頃の姿に戻ったのです…!

奇跡でした。今まで精霊の暴走で苛まれてまともに眠ることができなかったのです。その体が元に戻り、落ち着いたように寝息をたてていました。

旦那様は勿論、私も泣いて喜びました。

黒衣の者は、オーディ様に加護の力を与えるとさっさと姿を消してしまいました。

彼が消えてしまってから、私達は大変慌てました。

洗礼が無事に終わったものの、新たな問題が浮上したからです。

黒衣の者が一体何者なのか。一切名乗りもせず消えてしまったことでした。

旦那様の持てるだけの財力ちからを使って信仰するものは全て洗礼したのです。それを全て受け入れることができなかったオーディ様に唯一受け入れた加護の力とは。

得体の知れないものを受け入れたオーディ様に、使用人達は忌避し《嫌がり》ました。

それは国にも伝わり、旦那様とオーディ様は離れ離れに暮らすことになったのです。



次の話から主人公に移ります。


脱字、誤字等あれば報告お願いいたします。

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