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最後の戦い

 降り始めた雨の滴は、大地の燃え盛る炎に照らされ赤色に輝き、まるで大地に落ちる火の粉のよう。夜空を覆う雨雲までが赤色に染まっていた。

 突如、分厚い雨雲を蒼い光が貫き、戦艦やガンシップが薙ぎ払われていく。

 貫かれた雲間から覗くのはコウモリのような、しかし遙かに巨大な翼。その翼が巻き起こす暴風は周囲の分厚い雲をいともたやすく霧散させ、周囲を取り巻くドラグノイドが突然の暴風によって一気に押し戻されていく。

 純粋にして圧倒的なる力。

 全生命の頂点たる由縁。

 蒼い粒子に覆われて淡く輝くアースドラゴンの口が開き、周りを飛ぶドラグノイドを一掃せんと粒子が集束していく。目映い光が発せられ、今まさに放たれようと――


 ズドオ!!


 突然の衝撃がアースドラゴンの発射態勢を崩し、直後に放たれた光の帯は遙か遠くの大地を焼いた。

 アースドラゴンの横顔目がけて巨大なエネルギー砲が命中し衝撃で射線がズレたのだ。突然の見慣れないエネルギー砲に、アースドラゴンの周囲を飛んでいた竜騎士たちが飛来した方角を注視する。

 そこには、純白の翼に青いラインがあしらわれたドラグノイドが粒子の尾を引いて飛んでいた。

 そのドラグノイドの背に立つ少年――ヴァンが叫ぶ。

「みんな!!」

「ヴァンか! おかげで助かったぜ!」

 呼びかけに仲間の安堵した表情がモニターに映し出される。しかしそれもすぐに険しいものに変わり、


「団長は? そっちに助っ人に行った筈のリードさんはどうした!? それにあれは――」

「俺だけだ! リードは怪我で動けない! そいつは五年前にこの付近に襲来してきたアースドラゴンなんだ!」

「五年前の!? 嘘だろ……こっちの攻撃は粒子の壁に阻まれて奴に届きやしねえ。しかも戦争で疲弊しきった状態だってのに、一体どうすりゃいいってんだ!」

 訴える仲間の悲痛な表情に、しかし返す言葉もなく奥歯を噛みしめる。

「――ヴァン。それに、鋼竜騎士団のみんな!」

 雑音とともに映像が切り替わる。映し出されたのはモビーディックのブリッジで力なく座り込んだリードだった。

 止血はしているようだがその顔色は更に悪くなっている。だがそんなことが嘘だと思えるほどに、リードは声を張り上げた。

「よく聞け! アースドラゴンは自らため込んだ粒子を纏って防御壁とする。生半可な攻撃じゃあ全く効きやしねえ……けど完璧じゃあない。大きな力を一点集中でぶつけろ! その一瞬だけ防御壁に穴が開く。その瞬間を狙ってぶちかませ! 奴のクリスタルの亀裂は、そうやってダリアンとアイナが協力してつけた傷だ!!」

 リードの声が響きわたり、絶望に顔色を染めていた団員たちの顔色に光が灯っていく。

 ヴァンは大きく頷き、

「行こうみんな! 力を、貸してくれ!」

 ヴァンの声に皆が応え一斉にエネルギー砲をチャージし始める。

 アースドラゴンがこちらを向く。その瞳がギラリと光を放ち、翼が羽ばたいた。

 ゴウ! っと暴風が荒れ狂い、吹き飛ばされそうになるのをなんとか耐えしのぐ。

「ハル。さっきの技――フルバーストをもう一発見舞うぞ!」

『了解』

 ドラグノイドの口が開き、次いで翼のガンブレードが前を向いた。粒子が集束して高濃度の粒子の球が形成されていく。

「奴の胸部に撃ち込む! 発射ーー!」

 一斉に撃ち出されたエネルギー砲がアースドラゴンの胸部に次々命中。派手な爆発が起こった。

 すぐに旋回してアースドラゴンと距離をとり、様子を伺う。

 はたして、

 グラっと、アースドラゴンの巨体が後方へと下がった。

 効いてる!?

 歓喜の表情を浮かべたが、爆煙の奥から光が瞬いた。

 ゾクリと恐怖が背を走り、本能のみで機体を操り急上昇させる。直後、爆煙を貫いてヴァンのすぐ下の空間を光が走った。

 エネルギーの奔流に肌がビリビリと逆立つ。あと一秒でも動くのが遅ければ、その光に一瞬で呑まれて消えていたかもしれないと再び恐怖が全身を駆け巡った。

 爆煙が晴れ、覗いたアースドラゴンの姿に愕然と目を見開いた。

「そんな……あれだけ連続で叩き込んで、掠り傷程度だって!?」

 アースドラゴンの胸部に繋がれた機械には風穴があき、時折スパークが起こっている。それは間違いなくこちらの砲撃が粒子の壁を打ち破り、直に喰らわせたことを示していた。しかし、その風穴の下から覗く外郭は人間でいうかすり傷程度のものだった。

 仲間の竜騎士たちが更にエネルギー砲を放つ。だが、放ったエネルギー砲はアースドラゴンに直撃する寸前に翼から放出された粒子の壁に阻まれ消失した。

 再びアースドラゴンの翼が大きく羽ばたき、暴風を纏って空を一気に移動。発生した乱気流に周囲の竜騎士たちが吹き飛ばされていく。続けざまに放たれた光の帯が一帯を薙ぎ払い、仲間たちが分断されていく。光の帯を放ち終え、再びその口に粒子が集束し始めた。

 これ以上犠牲者を出すまいと、再びアースドラゴンへ加速していく。

「フルバースト!!」

 頭部を狙った一撃は粒子の壁に衝突。しかし粒子の壁に小さな穴を開けた程度に止まり、動きを完全に阻害することは叶わず、アースドラゴンの口へと再び粒子が集束し始める。粒子の壁に開いた穴も周囲の粒子によって瞬く間に塞がれようと――


「――フルバースト!!」


 聞き慣れた声と技名が響き、一際巨大なエネルギー砲が粒子に塞がれる直前の穴へと滑り込み、命中した。

 今度こそ、アースドラゴンが悲鳴を上げて後方へと下がったのだ。

 今のは――まさか!?

「ヴァン・フライハイト!」

 名を呼ばれ振り返る。

 そこには、灰色の髪の青年が漆黒の翼の上に立っていた。

「ラ、ライデン!?」

 ライデンは自身の相機である頭部を無くしたドラグノイドの上に立ち、盾を無くしたガンランスにはドラグノイドからケーブルが伸びて繋がっていた。機体から直接粒子エネルギーを取り出してフルバーストを放ったようだった。

 ライデンが横に並ぶ。後続のガイアの竜騎士がアースドラゴンへと次々にアースドラゴンへと向かっていく。アースドラゴンの攻撃からディオーネの竜騎士を救い、アースドラゴンの攻撃を協力して阻み、徐々にアースドラゴンを包囲していく。

「まさか、協力してくれるのか?」

 ライデンは口端を上げ、ヴァンの立つドラグノイドを見た。

「リリーナ様のご命令とあらば、聞かぬ訳にもいくまい」

「リリーナが?」

 モニターにリリーナが映し出される。そこには強い意志を秘めた少女が――いや、王女が映っていた。

 リリーナはコクンと頷き、

「カーティス王が死に、権限は私に移りました。先ほど、ガイア鋼竜騎士団、およびガイア軍にディオーネと協力してアースドラゴンを倒すようにと伝えました」

 そこまで言うと、リリーナはまだ涙の跡が残る表情で、

「ごめんね、ヴァン。あたしに出来るのはここまで……」

「いや、これ以上心強いものはないぜ!」

『私のことも忘れては困ります』

 聞き慣れた機会音声が響き、直後、アースドラゴンへと巨大な鉛弾が次々と命中。爆音と共にアースドラゴンの巨体が後方へと押されていく。鉛弾が飛来した方向を見ると、黒く巨大な戦艦が前進しながら、全身に設置された砲門が呻りを上げ鉛弾を撃ち出していく。

「モビーディック!?」

『ヴァン。援護は任せてください』

「ハル……!」

 連続で撃ち込まれる砲撃に少しずつ押されていくアースドラゴン。その周囲から竜騎士たちが追い討ちをかけるようにエネルギー砲を放っていく。

 そして、その上空から黒い筒のような物がアースドラゴンへと飛来していくのが見えた。

 飛来したそれはアースドラゴンの真上で割れ、内部の金属片が一斉に撃ち出されてアースドラゴンを襲った。

 アースドラゴンの半身を覆うほどの大量爆撃が粒子の壁を更に削り取り、外郭が露出していく。そしてその横を特殊兵装で固めたガンシップ部隊が通過、すぐさま翻して後続のガンシップ隊と入れ替わり、更に投下していく。

「ギルドの特殊兵装!?」

「ようヴァン! 助けに来たぜえ!」

 目を見開くヴァン目の前に通信が入り、聞き慣れた友人の声が響いた。

「サム! どういうことだ? ギルドは全員退避した筈じゃなかったのか!」

 ヴァンの言葉に、しかしサムはムッとして声を張り上げる。

「っざけんな! ヴァンが残って戦ってんのに、はいそうですかと去れるかってんだ! 俺はみんなを説得しに行ってたんだよ!」

「サム……!」

 胸に、グッと熱いものがこみ上げてくる。

「行こうヴァン。この戦いを終わらせて、平和を掴みとる為に。みんなと協力すれば、きっとやれるわ!」

 リリーナの声が背中を後押しする。拳を強く握り、アースドラゴンを睨みつけた。

「ああ……行こう! これが最後の戦いだ!」

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