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それぞれの決意

 いつもなら人で溢れ帰る昼下がり。にも関わらず、商店街は閑散としていた。どうなってもここに居ると腹を括った人たちだろうか、ポツポツと店を開いているところがあるくらいだ。

 そんな商店街の光景を眺めながら、ヴァンはゆっくりと歩いていた。

 

 ――足手まといだ。


 リードの言葉を思いだし、自然と足取りが遅くなってしまう。

 たしかに、ガンシップで飛び出すのは簡単だ……でもリードが言うように、今の俺には力が……くっ!

 やり切れない気持ちの中、足下に転がっていた小石を蹴り上げた。小石は放物線を描き、

 ガアァァァ……ン!

「な、なんだぁ!?」

 開いていない店のシャッターに当たり鳴り響く甲高い音にビックリした声が上がる。少し離れたテラスの椅子に座っていた少年がこちらを振り返り、

「あれ? ヴァンじゃないか!」

「え?」

 急に名を呼ばれ驚く、その少年は、ヴァンのよく知る人物だった。

「サムじゃないか。どうしたんだ? こんなところで」

 テラスまで行きサムの向かいの席に腰を下ろしながら問いかける。サムはテーブルに手を着け、

「どうしたじゃないだろ!? 全然姿が見えないから、あの戦いで巻き込まれて死んだんじゃないかって噂が立って……ギルドのみんな、めちゃくちゃ心配してたんだぞ!」

 ヴァンは苦笑し、

「そりゃ……悪かったな。まあ、巻き込まれたのは確かでさ、さっき病院で目覚めたばっかなんだ。……それより、避難勧告を聞いてなかったのか? もうすぐガイアが再び攻めてくるぞ」

 ヴァンの言葉に、しかしサムは「ああ、そうみたいだな」と他人事のように返した。

「そうみたいだなって……じゃあ、なんでまだ居るんだ? 非難しないつもりか?」

 その質問にサムは頭をポリポリ掻きながら、

「俺には身寄りがないからな。居場所はここだけさ。それにディオーネが無くなったらどうせ全てオジャンだろ? 今更離れる気なんかないよ」

 あまり深く考える様子もなく、あっけらかんと言い放つ。そして、

「そういうヴァンはどうするんだ?」」

「俺か? 俺は……」

 そう問われて、どうするか考える……が、答えは出なかった。ただ、この数日の間に言われた言葉たちが脳裏を反復しては消えていく。

 俺は、どうすればいいのだろう……分からない……。

 そんなヴァンの後ろ――王宮からは軍艦が次々に離陸を始めていた。軍艦が発するエンジン音がディオーネに響きわたり、それがやけに耳障りに感じる。

 長く沈黙するヴァンの様子に、サムは眉を寄せて覗き込んできた。

「どうしたんだ? なんか様子おかしいぞ。いつもならパパっと返事を返して、俺をイジって笑うところだろ? ……何か、あったのか?」

 怪訝な顔のサムにヴァンは苦笑し、

「ああ、そうだな……色々な人に、色々なことを言われた。それだけじゃない。ドラグノイドも、ガンブレードの片割れも先の戦いで失なっちまったんだ」

「そっか」

 気のない返事を返すサム。そして、

「何を言われたのか知らないけど、そんだけ重い悩むってんなら結構きついこと言われたんだろうな……しかも大切なドラグノイドやガンブレードを失ったのはとても辛い出来事だとも思うぜ? それで、ヴァン自身はどうしたいんだ?」

「え?」

 つい間抜けな返答を返してしまう。その返答にサムは更に顔色を険しくし、

「だから、ヴァン自身はどうしたいんだ?」

「ちょ、ちょっと待てよ……今考えてるだろ」

「~~ああもう、何ウジウジしてんだ!」

 こちらの態度に痺れを切らせたのか、サムはズズイっと身を乗り出し、

「いいか! 周りの言葉なんか関係ないだろ? ヴァンの翼はドラグノイドだけなのか? ガンブレードが折れたらそれで終わっちまうのか!? 一度しか言わないから、よお~っく聞いとけ! 俺のライバルである男は、そんなことで思い悩むような柔な奴じゃない! 周りがどう言っても、思い立ったらすぐ行動するような、そんな奴だ!」

 鼻息を荒くし、一気にまくし立てる。その言葉に、頭をハンマーで叩かれたかのような衝撃が走り、心の中でモヤモヤしていた雲が一気に晴れ渡っていく。そして心に灯るのは、強い決意。

「……ああ! そうだな! サンキューサム! 俺……ふっ切れた!」

「それでこそ俺のライバルだ!」

 ヴァンの言葉に、サムは満足げに「ニッシッシ」と独特の笑いを返した。ヴァンは、ガタッ! っと立ち上がり、

「わりい、ちょっと用事思い出したから、行くわ。じゃあな!」

「あ、ちょっと待った!」

「え?」

 家の方向へと足を向けたヴァンを止め、

「ヴァンがこれからどうするつもりか大体予想ついてる。ディオーネ艦を追うんだろ?」

「ああ、そうだ。どうしても、やらなきゃ気が済まないことがあるんだ」

「その前に、ちょっと寄り道していきなよ。みんな大歓迎だぞ」

 意味深なその言葉にヴァンは眉を寄せ、

「大歓迎? 寄り道って、どこにさ?」

「決まってる。それは――」



 * * *



 ガイアを迎え打つべく出発した戦艦のブリッジ。これから訪れる戦いの舞台になる曇天の空を暫く真っ直ぐに見つめているのはブリッジの席に座るアロイスだった。

「ガイアの一連の動き……リードはどう思いますか?」

 横でドンと立って構えているリードに、アロイスはおもむろに問うた。リードは顎に手を当て、

「正直、不明な点が多過ぎますね……唐突なガイアの王の死による開戦、モビーディックの軍用化、全てのガンシップからアースクリスタルの粒子……まるで、周到に下準備されていたかのようです」

 その言葉にアロイスは頷き、

「私もそう思います。この戦い、王の死を理由にした別の目的があるように思えてなりません」

「別の、目的……」

 目を細め思案顔のリードに、アロイスは自分の考えを吐露し始めた。

「二日前の戦い、それに先ほどの通信で会話を交わして思ったことですが……カーティス王はこの私と竜騎士を強く目の仇にしているように感じます……もしかしたらカーティス王の目的は、私と竜騎士の誰かに対する個人的な恨みで動いているのではないでしょうか」

「確かに、その可能性は不定出来ませんが……理由が思い当たりません」

「そうですね、私の思い違いかも知れませんし……ですが、もし思い違いでなければ、我々が沈めばガイアの進行はそこで止まるかもしれませんね。そうなればディオーネは無事でしょう」

 いつもと変わらぬ優しい表情のままに、冗談のように言うアロイス。リードは笑みを浮かべ肩を揺らす。

「まっ、どっちにしたって結局は負け戦。やり切れませんなあ」

 後頭部を掻き、先ほどまでの敬語から急に口調を崩す。

 アロイスは困ったように笑顔を浮かべ、

「すみません。このようなことにあなた方を巻き込んでしまい――」

 言いかけたその言葉に、しかしリードは手を突きだして、

「おっと、それ以上の言葉は無しです。アロイス王子、我々は守りたいもののために戦う……決して命令されたからじゃありません。自分の意志で今この場にいるのです。そのことを、忘れないでください」

 目を見開く。そして、

「……ありがとう。生きて帰りましょう。必ず」

 そこには笑みが浮かんでいた。その瞳には先ほどまで不安に染まっていたものとはうって変わり、強い決意を秘めていた。

 アロイスの言葉に「はい。必ず」と返す。

「そういえば、マリーの方はどうなっていますか?」

「相変わらず、格納庫で機体の調整を行っています。全損した私の機体の代わりに予備部品を使って組み立てた即興の機体ですから、色々と調整が必要らしく……しかももう一機との同時進行ですからな。はは、今近付けば間違いなく、機嫌の悪いマリーが機材を投げてくるでしょうな」

 そう言い笑みを浮かべる。アロイスもそれに釣られてか笑顔を浮かべ、「それは怖い」と返した。と、そこへ、

「前方、ガイア艦を捉えました!」

 管制管からの報告に二人は前方に目をやる。黒く巨大な戦艦、モビーディックを先頭に、後方に数隻のガイア艦。その光景にアロイスはその表情を険しくすると席から立ち上がり、全ての艦に向けて言葉を張り上げた。

「さあ、決戦の時です! 皆さんの力を貸してください! ディオーネの……未来のために!!」

 各艦から威勢のよい返事が帰ってくる。皆、守りたいものは一緒だった。

「リード、その身体で戦うのはとても辛いでしょうが……」

「何度も言わせないでください。この程度の傷、俺にとっては軽傷も同じ。何も問題ありませんよ」

 そう言い、拳でその屈強な胸をドンッと突く。そんなリードにアロイスは困った顔でため息を一つ、

「そんなことだから、マリーの苦労が絶えないのですよ」

「ちょっ! ここでマリーは関係ないでしょう!」

 咳を一つしてリードは真顔に戻ると、その姿勢を正した。それにアロイスの表情も真剣なものへと変え、

「鋼竜騎士団、出撃します」

「はい。頼みます」

「はっ!」

 返事をするとリードはすぐにきびすを返し、格納庫へと真っ直ぐ向かっていった。



 格納庫が開かれていく。そこから見える曇天の空は雲行きを一層悪くし、これからの戦いの行く末をあざ笑うかのように格納庫へと暴風を運んでいた。

「これで予備の部品も何も無いわ。せいぜい壊されないようになさい!」

 怒を含んだマリーの通信に、ドラグノイドに乗り込んだリードは苦笑を浮かべ、

「ああ、サンキュー。それに、機体を赤に塗り変えてくれたんだな。この時間の無い中……恩に着るぜ」

「それが団長であるあなたの印でしょ? その色で空を飛べば、必ず味方の戦意を上げてくれるわ」

「ははは、そりゃあイイ! 味方は団長の華麗なる復活に希望を、そして敵さんは亡霊が現れたことに畏れおののくだろうぜ」

「それと……」

 一時の逡巡、そしてマリーは顔を上げ、

「必ず戻ってきなさい、いいわね?」

「ああ、大丈夫さ。それより、お前は早く脱出しろ。これ以上ここにいたら危険だからな」

「いいえ、私はここにいるわ」

「な、なに!? だってそれじゃあ――」

「だから、絶対に帰ってきなさい」

 こちらの言葉を一方的に遮り、ブチっと通信が切られる。

「ったく……これじゃ負ける訳にはいかないな」

 そう言い、笑みを浮かべる。そしてリードは決意を新たに鋼竜騎士団を率いて曇天の空へとドラグノイドを発進させた。



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