第51話:色のある朝
完璧だった世界は終わった。
感情を許された世界。
変化を許された世界。
これは――
“生き始めた世界”の物語。
静かだった。
あまりにも。
「……」
目を開ける。
白い天井。
柔らかい光。
どこか懐かしい匂い。
「ここ……」
身体を起こす。
普通の部屋だった。
無機質じゃない。
ちゃんと生活感がある。
木の机。
少しズレた椅子。
飲みかけのコーヒー。
「……」
思わず笑った。
完璧じゃない。
でも――
妙に落ち着く。
コンコン。
扉がノックされる。
「起きてますか?」
教育係の声。
「入れよ」
扉が開く。
そして――
俺は少し驚いた。
「……お前」
教育係が、
気まずそうに立っていた。
白い制服じゃない。
柔らかい色の私服。
少し大きめのパーカー。
ラフな格好。
「な、何ですかその顔」
「いや」
笑う。
「普通の人間っぽい」
「失礼ですね!?」
顔を赤くする。
その反応に、
思わず吹き出した。
「……何笑ってるんですか」
「いや」
窓を見る。
外。
朝日。
そして――
色。
街に色が戻っていた。
「……綺麗だな」
教育係も窓を見る。
少しだけ、
優しく笑った。
「ええ」
静かな声。
「世界が変わりましたから」
下を見る。
道路。
人々。
今までと違う。
歩き方が違う。
表情が違う。
誰かが笑っている。
誰かが喧嘩している。
誰かが泣いている。
全部バラバラ。
全部不完全。
でも――
生きていた。
「混乱は?」
聞く。
教育係の表情が少し曇る。
「あります」
即答だった。
「管理が消えた影響で、各地はかなり……」
「だろうな」
「ですが」
彼女は続ける。
「それでも皆、“自分で選ぶ”ことを始めています」
沈黙。
悪くない。
その時。
廊下から声がした。
「おーい」
聞き慣れた声。
“失敗作”だった。
「起きたか?」
「起きた」
男は部屋へ入る。
そして――
思い切り笑った。
「ぶはっ!!」
「……何だよ」
「いや、お前その顔」
指を差してくる。
「完全に平和ボケしてる」
「うるせぇ」
教育係が呆れたようにため息をつく。
「朝から騒がないでください」
「いや無理だろ」
男はまだ笑っていた。
「世界変わった翌日だぞ?」
確かに。
普通じゃない。
すると。
“失敗作”が、
ふと真面目な顔になった。
「……で」
空気が少し変わる。
「アイツ見に行くか?」
沈黙。
教育係も黙る。
「……執行者か」
男がうなずく。
「あれからずっと黙ってる」
「状態は?」
「分からん」
珍しく男の顔が曇っていた。
「でも……」
小さく息を吐く。
「多分、アイツ今」
窓の外を見る。
色づいた世界。
「“生きる”ってのを考えてる」
静かな空気。
俺はゆっくり立ち上がる。
「なら」
軽く伸びをする。
「会いに行くか」
その瞬間。
遠くの街から、
誰かの笑い声が聞こえた。
完璧だった世界では、
聞こえなかった音。
未完成な世界は――
ちゃんと、
今日を始めていた。
読んでいただきありがとうございます。
「完璧な世界編」開幕です。
ここからは、
世界を壊す物語ではなく、
“生き直す物語”
になります。
感情を知った世界。
変化を許された人々。
その中で、
主人公達がどう生きるのか。
引き続きよろしくお願いします。




