07.
今のは酷いと思う。
戦闘で高ぶった熱のままに、思わずにらみつける。
「なんだよ。早く終わってよかったじゃねぇか」
確かにイリヤの言うことも正しい。けれども、だ。
「普通に危ないからな?」
普通、人の頭めがけてナイフ投げてくるとは思わない。
ちょうどキズありの心臓は、ロイドの頭と高さが同じだ。つまり。
「俺ごとやる気で投げただろ」
「お前ならよけるだろ」
よっ、と傷ありの身体を蹴飛ばして倒すイリヤに、恨みがましい目を向けてしまう。
「なんだよ、よける自信なかったか?」
「そうじゃないけど」
そう、あれだけ殺気が乗ったナイフだから、避けることはできた。
きっと、イリヤはわざとそうしたのだろうと理解もしている。
傷ありに刺さったナイフを抜き取り、イリヤは口元をゆがめてこちらを見る。その顔が無性に腹が立つ。
「俺じゃなきゃ無理だぞ、あれは」
「お前じゃなきゃやってねぇよ」
相手ぐらい見てる、と言い捨てるイリヤに、次の文句を飲み込んだ。
頭から傷ありの血を被ったけれども、ここはエリグの湖。水浴びするにはちょうどいい。
とにかく髪からぽたぽたと垂れる血液が気持ち悪くて、ロイドは湖に頭を突っ込んだ。
湖の中で二、三度頭を振ってから、ざばりと顔を上げる。
滴り落ちる水滴を腕で拭って周囲を見渡せば、苦笑いしか出ない。
抉れた地面、踏み荒らされた草花、湿った土には赤熊の血の匂いが染み込んでいる。
「まあ、久々に派手にやったからな」
くっせぇ、と文句を言いながらナイフを湖に突っ込んでいたイリヤも、ロイドの呟きにはっと笑った。
「今の宿なら三日は仕事しなくていいな」
「さぼる気満々かよ」
イリヤの言葉にふは、と笑いが堪えきれなかった。
赤熊の巨体から討伐証明の耳を切り取り、組合へ提出する。討伐証明と引き換えに受け取った報酬は、いつもよりもずっしりと重かった。
じゃあ帰る、と背中を向けたイリヤを逃さずにローブを掴めば、あんだよ、と不機嫌そうに睨まれた。
「備品の修理代に宿代、その他の経費も計算させてくれ。そこから残った分を返さないといけないから」
「そんなくそ面倒臭ぇことしねぇよ」
心底嫌そうな顔をされて、逆に疑問を覚える。
赤熊戦で使ったナイフの手入れもあれば、こちらも剣の刃こぼれを確認しておきたい。宿代や食費、そういった修繕費は別にしなければいけないし、報酬の残りからイリヤへの借金も返さなければならない。
むしろそういったことは必須だと思っていたが、どうやらイリヤの中では違うらしい。
「べっつに、宿代さえありゃどうとでもなんだろ」
適当に任せる、と欠伸をかみ殺しながら言うイリヤに、借金のことを言うのはやめておく。
この男、絶対この街を出たら一人で無茶する。
確信めいたものを感じて、こっそりと溜息を吐いた。
2章完
三章は年明け以降となります




