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島津との対峙~種子島時尭と相良義陽~

 永禄十二年 四月十日 諫早城


「殿、種子島時尭様の家臣、上妻家続と申す者が謁見を願っております」


 時尭殿の? どうしたのだ、と思い純正は使者を通す。


「初めて御意を得ます、種子島時尭が家臣、上妻家続にございます」

「うむ、面をあげよ」


 急いでいる様子ではない。島津と種子島に有事、という訳ではなさそうだ。

「いかがしたのだ」

「はい、実は……」


 ■数日前 種子島 赤尾木城


「なに? 禰寝重長が島津義久に降伏したというのか?」

 時尭は、事の真偽を確かめるように訊いた。


「はい、殿。島津義久が重長に数ヶ月に及ぶ調略を重ねた末に、当初は頑なに拒否していた重長も、ついに屈服したと聞き及んでおります」

 家老の上妻家続は言う。


「ふむ、それは意外であるな。肝付、伊地知、禰寝の結束は強いと聞いておったが……、そもそも使者の話を何度も聞くのがおかしい。下手をすれば内通を疑われよう。それでも良いと思っていたのだろうか」。


「殿、どうなさいますか?」


 家続は判断を仰ぐ。状況は、種子島家にとっては良くない。島津が肝付連合軍と戦い、敗れたとは言え伊東も相良も健在であった、これまでの膠着状態が一番いいのだ。均衡が破れてどちらかが優勢になれば、優勢になった方から攻撃を受ける。


 そうなった時のために小佐々と盟を結んだのだが、いかんせん肥前は遠い。時尭が急を伝えても、援軍が到着する頃には城が落ちているかもしれない。または到着する前に、島津であれば甑島あたりで妨害するであろう。


 時尭は、それでなくとも島津が優位に立ちつつあったのだ、と考えていた。


「そうだな、このまま、という訳にもいくまい。確かに禰寝の降伏とは直接関わりはない。しかし、ここは先手を打っておく必要がありそうだ」


「では、小佐々ですか」

「そうなるな。まさかこれほど早く、小佐々の手を借りねばならぬとは」


 時尭は島津が肝付と戦っている間に貿易に力を注いで、領内の近代化によって対抗しようとしていたのだ。


「しかし、ここから崩れるのは早いぞ。いずれ伊地知、そして肝付も早ければ来年には島津に降るであろう。相良は島津と緊張状態にあるが、菱刈・入来院・東郷が島津に降った今、単独では攻めて来ぬであろう。伊東も木崎原の痛手がある」。


「となると?」

 家続が促すと、


「北より先に南を制し、後顧の憂いをなくそうとするはずじゃ」

 時尭が続ける。


「では」

「そうじゃ、今のうちに小佐々に助力を請うておこう」

「かしこまりました」


 ■諫早城


「……と言う事なのです。申し訳ござらんが、船と兵をいくらかこちらに寄越してはもらえませんか」


 紛糾した四国への対応がやっと決まったと思ったら、今度は種子島か。そう思った純正だったが、悪い話ではない。いずれそうなるであろうし、種子島からの要請だ。無理を言わなければ、兵の食事その他の費用を丸投げできる。


「よいのですか? 盟を結んでいるとは言え、有事ではありませぬ。他国の兵を入れるとなると、服属しているのか、と家中で問題になりませぬか」


 純正にとってはどうでもいい事だったが、建前上聞いた。正直言って種子島は、対島津の戦略的地点と、琉球への中継地点にある、というだけだ。服属でも同盟でも、どちらでもよかったのだ。


 種子島が攻められても小佐々が協力すれば、攻勢に出て、攻め取った島津の領地をわが物にすればいい、そう考えていた。


「それは問題ありませぬ。不可侵の盟から攻守の盟に変わるだけのこと。今、種子島単独では島津に抗えぬゆえ、力をつけ自力で対応できるまで、という条件つきならば、状況的に誰も文句など言えませぬ」


 なるほど、と純正は言い、詳細を考えた。


 佐伯の、いや今はそれどころではないな。佐世保の第一、第二艦隊より、そうだな五隻ほど分遣隊として種子島に配備しよう。昨年の九月から建造している新型艦艇も数隻就役しているから問題ないだろう。


 陸上兵力は、騎兵一個大隊に砲兵一個大隊、そして歩兵一個連隊程度でいいだろう。


「わかりました。ではそのようにいたします。代わりに信号所の設置と狼煙台、そしてその他諸々の費用なのですが……」

 純正は家続に考えていた兵数や隻数を伝え、条件も付け加えた。


「はい、それはもちろん。出来得る限り協力いたします」。


 ■同日頃 肥後 古麓城 


 相良義陽は、禰寝が島津に降伏した事実に衝撃を受けた。禰寝は肝付や伊地知と共に島津に抵抗していた国人であり、その禰寝重長が島津義久に屈したことは、大隅において島津氏の影響力が増すことに他ならない。


 遠からず伊地知も降伏するであろう。そして肝付単独では島津に抗うのは無理だ。その前に、怒り狂った良兼(肝付良兼)は伊地知と協力して禰寝を攻めるだろうが、島津がそれを許さん。


 ただでさえ五分五分、いや、それでも島津が若干優勢だったのだ。肝付は勝てまい。


「これは、まずいな」

 義陽は独り言のようにつぶやいた。


「殿、禰寝の島津服属が力の均衡を崩し、それが我らに影響を及ぼすとお考えで?」

 家老の深水長智は聞く。


「そうだ。早ければ来年には島津が大隅を平らげよう。そうなると、北か南か。南の種子島は馭謨ごむ郡と熊毛郡の二郡しかなく高も六千石。取るに足らぬゆえ、いつでも降す事ができるであろう。そうなれば、北だ」


「北上して参りましょうや」

「うむ、早いか遅いかの違いじゃ。残念ながら伊東とわれらでは、われらの方が弱い。そのため小佐々とも、通商と、われらが攻められた時は加勢する、というのを北天草の国人の件を不問にすることで結んでおる。しかし……」


「しかし、状況がこの一年で随分と変わりましたな」

 長智が要点を得た答えを出す。


「その通りじゃ。去年の二月とは状況がまったく違う。小佐々は大友を降し、日向とわれら南肥後を除く北九州六カ国を支配下に置いておる。われらとの盟に小佐々が利を感じるか? ここは、釘を刺しておかねばなるまい」


 義陽が考えをまとめながら長智に答える。

「は、かしこまりました。しかし島津は三州守護を自認しております。先に日向を狙うのではないでしょうか」。


「その可能性も高い。しかし、物事に必ずはないゆえ、どちらに転んでもいいように、手は打っておかねばならぬ」


「かしこまりました。ではさっそく小佐々に参り、盟を確認して参りましょう」

 家老の深水長智はそう言って出発の準備をした。

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