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9/2 19:00 第四軍へ日田城降伏の知らせ

九月二日 戌一つ刻(19:00) 第四軍陣中 龍造寺純家


筑後掃討軍である第四軍に日田城降伏の知らせがきたのは、開戦二日目の戌一つ刻(19:00)であった。


『発 妙見信号所 宛 前線各所ならびに総軍司令部 メ ヒタゼウ コウフク ダイサングン シヨゼウ キウゴウシ ツノムレゼウニムカウ ウマヒトツトキ(11:00) メ 申の一つ刻(15:00)』


酉三つ刻(18:00)頃である。夕餉のあと招集があったので、何事かと思い大将幕舎へ向かうと、副将格がみな揃っていた。その時に知ったのだ。


「しかし重畳ですな。この機に日田城降伏の報が届くとは。しかも、落城ではなく『降伏』です。これは大きい。これを明日知らせれば、奴らも降伏の意を決するでしょう」。千葉胤連は言う。


「さようです。要するにやつらは、勝てるかどうかを算段しているのです。援軍がくる余力があるのか、ないのか。味方の士気は落ち、援軍もない、となれば孤軍奮闘したとて意味がありませぬ」。江上武種も同意して安堵の声を上げる。


大将の筑紫惟門にも笑みが溢れる。


「しかし、そう上手くいきますかな。相手は三原紹心と、出城には若いが名将と名高い吉弘鎮理ですぞ。あの吉弘鑑理の次男にござる。初陣は七年前の門司城の戦い。齢十三にして大将首をとったそうで。ははは、わが殿と同じ年に初陣、しかも大将首とは、なかなか侮れぬ将にござろう?」


そう高笑いするのは平井常治、杵島郡の須古村周辺を代官として治めている。


五十前だろうか。江上殿よりいくぶんか若い。神代殿の副官として従軍している。普段は在地で統治をしているのだか、今回の軍編成にて神代殿たっての願いで副将として引き立てているようだ。


須古城と神代殿の三瀬はだいぶ離れているようだが、引き立てるほどだから、気心は知れているのだろう。


「控えなされ平井どの。発言は許されておりませぬぞ」。

江上どのが遮るが、


「まあまあ、江上どの。自由な意見交換が必要だと、殿も常に仰っているではありませぬか」。

と、筑紫どのがなだめる。


「失礼しましたご一同。平井殿は不審な点が多いと言いたいのです」。

副官の上官である神代どのが皆に向かって謝る。


そして、どういう事だ?と尋ねる筑紫殿に、発言を許された平井殿が続ける。


「どうにもおかしいとは思いませんか?三日と期限を切っているのです。時間稼ぎをするのなら期限は切らぬが良いでしょうし、降伏するならさっさと降伏したほうが、多少でも条件は良くなります」。


「されば、降伏はしたいが家中がまとまっておらず、迷惑をかけるかもしれぬゆえ、まとめるまで待ってくれと、言うておったではないか」。

筑紫殿はさらに聞く。


「そこです。『降伏はする、が家中がまとまっておらぬ』とはおかしいでしょう。まとまっておらぬなら降伏はできませぬ。それなら『まだ家中が定まっておらぬゆえ、どうかあと三日待って下さい』が普通ではありませぬか?」


「平井どの」

千葉どのが遮る。


「言葉遊びをしているのではありませぬ。三原城も下高橋城も、われらがこの軍勢で攻めれば、ひとたまりもありますまい。力攻めでも良いのです。しかしわが殿は命を大事にする。われらとしても損害は少ないに越した事はない。しかして降伏の言を信じ、待つのではありませぬか」。


「わしはそういう事を言っているのではありませぬ。何事も油断は禁物です。見ればいたるところで兵が酒を飲んでおりまする。酒を飲むなとは言いませぬ。緊張を解し、意気を上げるのに役立ちますからな。しかし限度がございます。控えるよう全軍に通達してください」。


平井どのが言うのはもっともだ。言葉遊びに聞こえるかもしれないが、確かに怪しい。それから酒も、ほろ酔いならまだいいが、自分では加減が難しい。


「まあ、わかりました。軍には通達をしておきましょう」。

場がしらけたのか何なのかわからないが、筑紫どのがそう言って軍議は終わり、その場で解散となった。


すでに戌三つ刻(20:00)である。わたしは夕餉の際に酒は飲んだが、一合も飲んでいない。二、三杯飲んで、あとは部下に配った。ゆえに酔ってはいない。


酒を飲むと眠くなるらしいが、まったく眠くはならない。もっと飲まなければ眠くならないのだろうか。自分の幕舎に戻り、しかしそれでも眠らなければと思い、横になる。どれほどの時がたっただろうか。


寝たり起きたりの繰り返しで、確認するとすでに子の三つ刻(00:00)を過ぎていた。中途半端だ。少し歩き回ると眠れるかもしれない。支度をして外にでる。お付きは近習一人だけだ。かがり火がところどころを赤々と照らしている。


そんな中、大抵の幕舎は暗くなっているのだが、ひときわ明るい幕舎を見つけた。陸軍第四混成旅団長の深作宗右衛門大佐の幕舎である。


「失礼します。よいでしょうか」。

私は確認する。


「どうぞ」

みじかく答える声がする。よく通る声だ。中に入ると、驚いた。仏狼機砲があるではないか。一間半ほどの長さの砲が台車に載せられて、麻布で拭かれている。


「これは、あの、仏狼機砲ではないですか」。


「そうです。私は砲兵出身ですからね。大砲には愛着があるのです。旅団の第一連隊第一砲兵大隊、そしてその麾下の第一砲兵中隊配備の大砲です。戦の時は当然動かさないといけませんが、それゆえこの砲を扱う小隊はすぐそばに控えさせています」。


なるほど、と私が目を輝かせていたのが伝わったのだろうか。


「どうぞ近くに。触ってもいいですよ」。

宗右衛門どのは嬉しそうだ。自分と同じ大砲好きが近くにいると嬉しいのだろうか。


「これはどれほど飛ぶのですか?」

「そうですね五町ほど」。

へえ!そんなに!どれほどの時をあけて二発目が撃てるのですか?鉄砲は・・・。


などと、大砲談義に花を咲かせているその時だった。


ずどーん。どがああーーん。ずどどーん。

爆発音が続いて起こった。そしてそれはだんだん近づいて大きくなる。


「何事だ!敵襲か!?」

宗右衛門どのが叫んで幕舎を出る。私も続く。

「当直の見張り兵は何をやっておったのだ!ここまで敵の接近を許すとは!!」


夜空を照らす様にいたるところ燃え盛る火が見え、爆音が聞こえ、


いかん!至急幕舎に戻らねば!

「宗右衛門どの!わたしは戻りまする!大砲はまた後で!」

「あいわかった!」


私は近習を従え幕舎に戻る。五人が待っていた。

「みな、無事か!?」

「無事か!?ではござらん!どこで何をなさっておいでだったのですか?!」

「その話はあとでよい!被害は?どうなのだ?」


「幸いにしてわが軍の被害は軽微でござる。しかし・・・」。

百武が答える。


「どうしたのだ?」

「は、被害はわかりませぬが、特に砲兵の陣地が燃えている様にございます」。

「敵は大砲を狙ったというのか?」

「それはまだわかりませぬ。いま調べておりまする」。


・・・。

「わかった。わたしは筑紫殿のところへ向かう!信常ついてまいれ。他の四名は混乱が起きぬよう事態の把握と沈静化に努めよ」。


ははあ、と四名が言い、私は江里口信常と近習を従えて第四軍の幕舎に向かう。


「ご無事ですか?!」

幕舎の外から声をかけると、無事じゃあ!と声がする。良かった。ひとまずは安心だ。筑紫殿は平服から鎧を着ようとしていたが、時間がかかるので途中で止めていたようだ。


「これから様子を見て参る」

と言って出てきた。


「危険です!お下がりください。どこに敵が潜んでいるかわかりませぬ」。

「なに、危険なのはどこも同じでござる。初めて戦にでて二十有余年、この様な夜襲はなんども経験しておりまする」。


筑紫殿は三十八歳、わが父が生きていれば二つしかかわらぬ。戦に明け暮れる毎日であったのだろう。


筑紫殿が私を制して先へ進もうとした時であった。


ひゅうん、ひゅうん、ひゅんひゅんひゅん、ひゅうん。

弓の音が聞こえた。一つではない。無数にある。狙われているのだ。


「殿!伏せてくだされ!」

信常が叫ぶと、私は筑紫殿を抱えしゃがむ。


「筑紫どの!だから言ったでしょう!」


!!!!!!!!!


首を射抜かれ、微動だにしない筑紫殿の姿がそこにはあった。

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