初日PM5:30 立花鑑載 推して参る!
九月 開戦初日 酉二つ刻(PM5:30)筑前 笠木山城 立花鑑載
「申し上げます!毛利領国境信号所より信号あり。『発 杉長良様 宛 小佐々弾正大弼様 メ メイト マツヤマゼウキウエン モトム メ 午三つ刻(12:00)』となります」。
なんと!もう着いたのか。早いな。松山城まで十三里(約52km)はあるぞ。大友を避けて通るなら、小倉を回らねばならぬから、余計に時がかかる。殿が申しておった信号とは、ここまで早いのか。であれば益富城の高橋どのも、じきに受け取るな。
わしの居城は立花山ゆえ、本当は領地でもない城に、長居するのはあまり好きではなかったのだ。宗像どのに対して他意はない。落ち着かない、が正しい表現だろう。しかしまた、大友に対して共に戦おうとは。
いずれはくると思っておったが、存外早かったな・・・。
さて、ここから香春岳城までの距離はさほど変わらん。益富城にも四半刻(30分)もあれば届くであろう。しかしじきに日が暮れる。夜間の行軍は危険であるから、いかがいたそう。
『発 第一軍司令 宛 第二軍司令 メ ゴウリウノヒツヨウアリトミトムヤ メ』
『発 第二軍司令 宛 第一軍司令 メ ヒツヨウアリトミトム アス ヒツジヒトツドキ(PM1:00) マデニ カミイタムラ コウガクジ フキンニテ イカガカ メ』
『発 第一軍司令 宛 第二軍司令 メ イサイセウチ ソレデハ ゲンチニテ メ』
明日、日の出を待って出発いたそう。
「よし、明朝出陣する!みなの者支度いたせ!」
明け方に出立すれば到着は午三つ刻(12:00)ほどになるな。それから高橋殿を待って、兵を休ませつつ協議しよう。吉弘鑑理、相手にとって不足なし。
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戦闘開始 二日目 午三つ刻(12:00) 香岳寺
なんと、すでに高橋殿は到着しておった。
「これは、お久しゅうござる高橋殿。ずいぶんと早うござるな」。
わしが言うと、
「おおこれは立花殿、なに、存外早う着き申した。しかし何度見ても要害でござるな。簡単には落ちそうもござらん」。
と高橋どの。
「いかにも。しかしどういたそう。まずは降伏を促してみるか。吉弘どのが応じるとも思えぬが」。
「そうでござるな。礼儀にござる」。
われらは降伏を勧める文を使者に持たせ、送り出した。高橋殿はここから北東に一里弱の高野村、光願寺に陣を構えているようだ。香春岳城は西を南北に五徳川、東から南へ金辺川にはさまれた山頂の要害である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・未三つ刻(PM2:00) 香春岳城 吉弘鑑理
「ほう、降伏の使者とな」。
わしは使者にむかってお決まりの台詞を話す。
「は、わが方は二万、そちらは五千足らず。勝敗は見えておりまする。われらの将は二人とも吉弘様とは知らぬ仲ではないゆえ、無駄な犠牲は出したくないとの事」。
「ふふふふふ。立花どもの高橋どのも、わしが守将だと知っておるのであろう?ではなおさらである。並の将が並の城を守ればそうであろう。が、こう伝えよ。『ここ、要害香春岳城を守るのは、このわし、吉弘伊予守である』と」。
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申二つ刻 (PM3:30)
「で、あろうな」。
二人はため息ともつかぬ声を出し、さてどうするかと考え始めた。
東西を川に挟まれた香春岳城は、南北に連なる一ノ岳、二ノ岳、三ノ岳のうち、一ノ岳と二ノ岳に築かれている。そして一ノ岳と二ノ岳、二ノ岳と三ノ岳の鞍部には幾重にも畝状竪堀があるのだ。
「ひとつ、考えがあるのだが」。
ほぼ同時に言った二人は、自然に笑みが溢れる。
「なんでござろう?そうだ、戦場にも興は必要。三国志の孔明と周瑜よろしく、手に書いて見せあうとしませんか」。
高橋鑑種が言うと、
「それは一興。では」。
二人は鉛筆を、もとい手のひらには書きにくいので、筆を用意させた。
『水』
『火』
「水攻めにございますか?」
「火攻めにございますか?」
またも同時である。この二人、案外気が合うのかもしれない。
もっとも、最高指揮官のいない連合軍では、相手との意思疎通が必須である。気が合うのも条件の一つである。命令の決定者が二人おり、命令系統も二つあるので、まかり間違えば烏合の衆である。
しかしそこは二人とも歴戦の強者。何が大事で何を引くべきかをよくわかっている。
「船頭多くして船山に登る、と申します。基本的に危急の場合を除き、独自に動いてよろしいでしょうか。もちろん、大枠は二人で協議して決めまするが、細部までお互いを気遣っていては全力で戦えませぬ」。
立花鑑載が提案する。
「承知した」。
話が早いとお互いにうなずいている。
「ではまずそれがしから。これは水攻めの事ではござりませぬ。調べました所、城内には井戸がなく、西側の五徳川の上流を水の手としておりまする。ここからそこまでは一里ほど、一刻もあれば着きまする」。
立花鑑載が口を開く。
「なるほど。古来よりどれほどの要害でも、水の手を絶たれて落ちた城は数しれず。絶たれまいと飛び出してきた城兵を迎え撃つのですな」。
「さよう。いかに堅城といえど水の手を絶たれれば終いです。おそらくは攻撃を仕掛けてくると思いますが、伏兵もわかっていれば伏兵ではござらん」。
「なるほど。水の手を断ちつつ城兵を迎撃し、干上がらせる、と」。
立花鑑載はニヤリと笑った。
「それがしは火でござるが、こちらも火攻めと言えば火攻めですが、火を放つわけではござらぬ。まず最初に、一ノ岳の東側には兵をおける開けた丘がございます」。
「そうですな、砲兵一個小隊と銃歩兵二個小隊ほどは留まれるでしょうか。そこを奪取いたします。もとより損害は出るでしょうが、吉弘どの相手に、損害なしでは済みますまい。もちろん損害は少ないに越したことはありませぬ」。
「ふむ」と、立花はうなずく。
「そうして奪取した後、今度は砲を用いて一ノ岳の砦を砲撃しまする。約五町ほど。砲の射程距離内にございます。正確に当たらずとも、城兵の動揺をさそう事はできるでしょう」。
「焦って攻め降りて来た敵には鉄砲をお見舞いし、そうでなくとも砲撃は続けますので、いずれ一ノ岳は落ちるでしょう。その後は一ノ岳に陣を移しまする。当然最初の橋頭堡にも同数の兵を移動させます。そして今度は二ノ岳を砲撃します」。
「二ノ岳までは大砲は届かぬのではありませぬか?」
「こちらは届かぬとも良いのです。あくまでも揺動。砲撃にて塁が崩れ濠が埋まれば、攻めやすくもなり申す」。
「そしてその間、敵が一ノ岳からの砲撃に気を取られている隙に、二ノ岳と三ノ岳の鞍部より密かに攻め上ります」。
「そうして、敵がそちらに気を向ければ一ノ岳から攻め上ります」。
なるほど、とうなずく立花。
「敵が西の水の手、立花殿に攻めかからずとも、城内は混乱すること必定。その機を逃さず攻め上ってくだされ」。
二人がニタリと笑う。
「三方より攻めかかれば、いかな吉弘殿とてたまりますまい」。
と高橋。
「さよう。それでは、そうですな。明日の卯三つ刻(AM6:00)、日の出とともに攻撃を開始する、でよろしいでしょうか」。
立花が言うと、
「あいわかった」
高橋が同意し、軍議が終わった。