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東京歌姫(トウキョウ・ディーバ)  作者: RAY
第3部 東京シンクロデート She says 'Take me around Tokyo'
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第5話 奇妙なガールズトーク


 清志郎は、珍しい物でも見るように自分の両手をしげしげと眺める。何かを確かめるように身体のあちこちを触る様は、どこか戸惑っているように見えた。


「清ちゃん、どうかした?」


 綾音が心配そうに声を掛けると、清志郎の視線が綾音の方へ向けられる。

 その瞬間、綾音の目が大きく見開いた。


「清ちゃん……じゃない……」


 綾音は、両手で口元を押さえて声を震わせる。


「シオン……さん……? シオンさんなの?」


「ああ。本当に清志郎と一つになっちまった」


 心的波動同調シンクロを成功させたシオンは、ひげを蓄えた口を右手で触りながら、驚きをあらわにする。


「それにしても、男の身体ってのは重たいもんだね。動かすのもひと苦労だよ……。いや、あたいが忘れていただけなのかもしれない。身体の重さってヤツを」


 シオンは、歩く感触を確かめるようにゆっくりと綾音の方へ近づいていく。

 最初は戸惑いを見せた綾音だったが、少しずつ落ち着きを取り戻す。


「わかってくれたんだ。私がシオンさんとお話したかったこと」


「あんたの目がそう言ってたからね」


 シオンは、綾音の顔を見つめてどこか得意気な表情をする。


「あんたこそ、よく気づいたね? あたいが清志郎とシンクロしたこと」


「目つきや仕草が別人だったから。清ちゃんとは付き合いが長いからすぐにわかったよ」


 お返しとばかり、綾音は、左右の髪を耳に掛けながらしたり顔をする。


「それで? あたいに話したいことってなんだい?」


 いきなり本題を切り出すシオンに、綾音は少し緊張した表情を浮かべる。


「明後日の夜、シオンさんと清ちゃんは過去の世界へ行くんだよね?」


「ああ。二月十四日は満月だからね。過去への扉は、満月の夜にしか開かないんだ」


 シオンは、視線を隅田川の中腹へ向ける。おそらく、視線の先に抜け道(ワームホール)が発現する、水のほこらがあるのだろう。


「憎悪の炎はいつ復活するかわからない。今度復活したらあたいの力では止められないかもしれない。それに、もしあたいらの計画にヒノカグツチが気付いたら、手の者が清志郎の命を狙ってくる可能性もある。一ヶ月後の満月まで待っていられないんだ。あんたは、清志郎を危険な場所に清志郎を連れて行くなとでも言いたいのかい?」


 シオンは、真剣な眼差しで綾音を見つめる。

 すると、綾音は首を大きく横に振った。


「そうじゃないの。だって、過去の世界へ行くのは、清ちゃんが決めたことだから。私が反対する理由なんかないよ」


「いや、こいつは、あたいのために過去へ行くんだ。もしあたいがいなければ、危険な橋を渡ることもなかった。そうだろ?」


 シオンは、自分の胸のあたりを右手の親指で指しながら言った。

 すると、綾音は再び首を横に振る。


「確かに、シオンさんと出会わなければ、清ちゃんはそんな選択はしなかった。でもね、シオンさんと出会えたから、そんな選択ができたんだよ」


「できた……? どういう意味だい?」


 いぶかしそうな顔をするシオンに、綾音は視線を逸らして少し寂しそうな顔をする。


「新宿の火災で仲間を失ってからの清ちゃんは、魂の抜け殻みたいだった。気丈に振る舞ってはいたけれど、以前とは別人だった。仲間が死んだのは自分のせいだって、いつも苦しんでた。そんな清ちゃんに私は何もしてあげられなかった。無力な自分がすごく悔しかった。

 でもね、シオンさんと出会って、清ちゃんの中に希望が生まれたの。過去に行って歴史を変えることで仲間を助けることができるんだから。その選択は、きっと清ちゃんが待ち望んでいたものだと思う。もちろん、シオンさんたちを助けたいっていう気持ちがあるのも本当だよ。

 今の清ちゃんを突き動かしているのは、そんな二つの強い思い。清ちゃんは、シオンさんのことを大切な仲間だと思ってる。だから、どんなことをしてでも助けたいって思ってるんだよ」


 綾音の一言一言を、シオンは目を細めて黙って聞いていた。

 どの言葉にも反論の余地はなかった。


「あんたの言ってること、よくわかるよ。清志郎とは付き合いは短いが、なぜか考えていることがわかるんだ。あたいらは、どこか似ているのかもしれない。それに、こいつは言ってくれた。あたいのことを『仲間』だってね」


 シオンは、感慨深げな表情を浮かべて照れくさそうに笑った。


★★


「――そろそろシンクロ時間も終わりだ。言い足りないことがあるなら早く言いな」


「わかった。二つあるの。一つは『お願い』。清ちゃんを無事にこの世界に帰して欲しいの。清ちゃんは、こうと決めたら危険を顧みずに突っ走るタイプだから、誰かがブレーキを掛けないとダメなの。私がそばについていられたらいいんだけれど、私にできるのは、お守りの中に写真を入れてもらうことぐらい。だから、清ちゃんのこと、よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる綾音をシオンは黙って見つめる。

 綾音の言葉はシオンの心に強く響いた。「清志郎を絶対に守る」。それは、綾音に言われる前に、シオンが心に誓ったことだったから。


「わかった。約束するよ。こいつはあたいが守る。あたいの命に代えてもね」


「ありがとう。でも、シオンさんに何かあったら意味がないの。だから、命には代えないで」


 綾音が白い歯を見せて笑うと、シオンも笑顔で応える。


「もう一つは『お礼』。私、シオンさんにお礼がしたいの。苦しんでいた清ちゃんに希望を与えてくれたことと、清ちゃんのことを守ってくれることに対して」


「そんなこと気にしなくていいよ。あたいも清志郎には世話になるんだ。ギブ・アンド・テイクってヤツさ」


「それじゃあ、私の気が済まないの。きっとシオンさんも喜んでくれることだから、お願い!」


 綾音は、シオンの顔の前で両手を合わせて深々と頭を下げる。

 何を言っても聞きそうにない様子に、シオンはヤレヤレといった表情を浮かべる。


「清志郎と言い、あんたと言い、どうしてこう頑固なんだか……。わかったよ。時間がないから手短に言いな」


 綾音は、素早く顔を上げると、目尻の垂れた大きな目をさらに大きくして満面の笑みを浮かべた。


「シオンさんは、東京の街に興味はない? テレビやインターネットなんかで見たり聞いたりはしていると思うけれど、行ったことはないでしょ?」


 綾音の唐突な問い掛けに、シオンは戸惑ったような表情を見せる。


「ああ、行ったことはない。確かに江戸とは別世界だ。それがどうかしたのかい?」


「シンクロすればどこへでも自由に行けるんだから、明日、東京見物に行ってみない? もちろん案内係ガイドつきでね。街には、美味しいものや楽しいものがたくさんあるよ。気になってるものもあるんじゃない?」


「あるにはあるが……」


 シオンは、眉間に皺を寄せて戸惑いをあらわにする。


「男の身体はどうも落ち着かない。それに、あたいの仕草や話し方だと清志郎が周りからおかしな目で見られる。あたいもあまり良い気はしないし――」


「――誰が清ちゃんの身体で出掛けるって言ったの?」


 シオンの言葉を遮るように、綾音がしたり顔で言う。

 シオンは、口をポカンと開けて首を傾げる。


「私の身体を貸してあげる。女の子の身体なら気兼ねなく行けるでしょ……? シンクロできないこともあるんだっけ? でも、大丈夫じゃないかな。シオンさんとは気が合いそうだから――」


 綾音の話が終わらないうちに、突然、シオンは目を閉じてガクンと頭を垂れる。

 少し間が開いて、清志郎が額を押さえながら顔を上げた。

 隣りでは、霊体に戻ったシオンが、口をポカンと開けて驚いたような顔をしている。


「あっ、清ちゃん! おかえりなさい。気分はどう?」


 綾音がすかさず声を掛ける。

 清志郎は寝起きのような顔で目をしばしばさせる。


「頭がボーっとしてる……。俺はシオンとシンクロできたのか?」


「バッチリだったよ。シオンさんともたくさんお話ができたし……。そうだ! 明日シオンさんを東京見物に連れて行く約束しちゃった。清ちゃん、エスコートよろしくね」


「はぁ? 東京見物? 俺がシオンを連れていくのか? 何だかよくわからねえな――おい、シオン。お前、東京見物に行きてえのか?」


 清志郎の言葉に、シオンは下を向いてもじもじする。


『せ、清志郎……?』


「どうした? 赤い顔して」


『いや……その……なんだ……』


「はっきり言えよ! 下向いてたら聞えねえだろ!?」


 清志郎の突っ込みに、シオンは、恥ずかしそうに顔を上げると視線を合わせないように言った。


『連れて行っておくれ……あたいを……東京の街へ……』



 つづく


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