そこは翔べカンダムじゃないんだ!
その後神崎姉妹と別れ俺と円堂くんはカラオケに行った。
「やっぱり俺は女が嫌いだ!あの何かと秘密を作るところとか!はっきり言わないところとか!この行き場の無い感情を俺は一体何処にぶつければいいんだ円堂くん!」
俺はマイクを片手にそう叫んだ。
「まぁ実際のところはっきり申してたではないですか、相手にならないと……そりゃ雪殿は悪い人間では無いし良い人ではござるが流石に高望みしすぎなのでは?そりゃ拙者はチャレンジする事を悪い事だとは思わないでござるが周りからは無謀だと思われてもそれは仕方ない事でござるよ」
俺はテーブルに頭を打ち付けた。
なんと言う正論パンチ。
友達だからと言って容赦のない言葉責めは今の俺には効く。
「そ、そうなんだけどさ〜」
「とりあえず今日は歌いまくるでござるよ!雪殿!」
そう言ってデンモクを画面に向けると流れ始めた曲はアフロ振り向かないでだった。
そこは翔べカンダムじゃないんだ!
「雪殿〜♪振り向かないで〜↓クラスの中で輝く星〜は〜」
しかも替え歌だし!
まぁいいや。
それより志保が付き合ってるとか本当なのか?
あの硬派な志保が彼氏を作るとかいまだに信じ難い。
前の記憶だと男子に告白されてるところを何回か見た事はあったけど。
当時の俺は本気でくっついてしまえと願ってたっけ。
じゃあ今は?
今はそうは思ってないのか?
それなら一体……なんで考え方が変わったんだ?
「男は〜涙を見せぬもの〜見せぬもの〜」
やたら渋い声で歌うから凄い歌詞が心に響く。
何かとこう言う変なとこで円堂くん器用なんだよなぁ。
「ただ明日へと〜明日へと〜永遠に〜い↑」
ただ明日へと……か。
「どうでしたかな?拙者のアフロ振り向かないでは?みなOPに目が行きがちであるが実はEDもかなり名曲でござるよ」
「円堂くん……俺は感動したよ、ただ明らかに選曲古くない?こんなの俺たちが生まれる前の曲だろうし」
その疑問に円堂くんはマイクを机に置き腕を組む。
「古いと何か問題あるのでござるか?雪殿はもう過去とか昔の事とか忘れたい派なのでしょうなぁ〜、拙者は昔の失敗とか過去にあった嫌な事とかそう言うの全部含めて自分の思い出として受け止めているでござるよ」
なんか急に真面目になった。
「緩急があるからこそ人生は楽しいんでござるよ、勝ち戦が楽しいのはそこまで自分が積み上げてきた努力あってこそな訳でござる、感情が露わになるのもしっかりとのめり込んでるからでござる、だから昔の羞恥心とか失敗とか恥じらいとかも思い出すだけで恥ずかしいと思えるならそれもしっかり自分がのめり込めてる証拠でござるよ」
この人は円堂くんなのか?
ただ今のこの行き場の無い感情をぶつけるにはここしかないと思えた。
「たとえばさ……もし過去を変えれるとして、けど変えた後にやっぱ元のままの方が良いって思って戻そうとするのって自分勝手なのかな?……それで多くの人にも迷惑をかけるとしても」
志保と美代から逃げたくて。
たまたまこの別世界線に来る事になって。
それで志保と美代が居ないと退屈だと初めて知って。
あんなに逃げてたくせに今になってやっぱ一緒に居たい。
「それは……拙者なら別に気にしないでござる、セーブデータ1でビアンカを選んだとしてセーブデータ2でフローラを選ぶようなものでござる、やってみて初めて分かる事も沢山あるでござるからなぁ」
円堂くんはポテトをタバコのように見立てて吸っているふりをした。
今の俺にとってはそれが物凄くカッコよく見える。
「それに変えた後しっかりとこの世界をちゃんと見たでござるか?比較するべきとこは沢山あるでござるよ……目先だけの良し悪しだけに惑わされてはだめでござる、もちろん雪殿にとってそこが一番重要なのかもしれないでござるがそれ以外全部要らないと本気で思う前に一旦引いてじっくりと周りを見るのも良いと思うでござるよ」
「そっか……ありがとう!円堂くん!よし!俺も翔べカンダム歌おっかな!」
「おぉ!盛り上がってきたでござるな!」
確かに俺はこの世界に対して現状維持や目を背けるような事が多い気がする。
もっと攻めるべきだ。




