よし、逃げよう。
今日からおそらく毎日投稿します。
別作品でも言ったのですが諸事情で昨日の夜投稿出来ませんでしたので今日二話分投稿します。
「ユン!探したぞ!」
「雪さん……どうしてここに」
ようやく見つけたユンは目が赤く腫れていた。
きっと泣いていたんだろう。
理由は分からない。
けどとりあえず慰めてあげなくては。
「そんなに落ち込むなよ……俺だって居るし、志保や美代だって……」
志保と美代の名前が出た瞬間。
不安がよぎる。
頼むから殺しだけはやめてくれよ。
一応念には念を入れて何度も言ってはあるが……。
凄く心配だ。
「そう……ですよね……私……もう合わせる顔がなくて」
一体何があったのだろうか。
凄く気になる。
デリケートな話だったらと不安になるが相談に乗ってあげたい。
力になってあげたい。
「ユン……よかったら話してくれないか?こんな所に閉じ籠るほどの悩みを」
俺がそう尋ねるとユンは顔を赤くし照れながら口をモゴモゴとさせている。
あれ?
思った反応と違う。
もっと重い空気を想像していたんですが。
「じ……実は先日兄の部屋にこっそりと侵入した際にとてもいかがわしい本がありまして……それをこっそりと拝借させて貰い読んでいたところを兄にバレてしまいましてとても怒られたんです!」
……は?
「何もあんなに怒ることもないじゃないですか?それで兄と喧嘩になりましてお母様とお父様に報告してやったんです!そしたら兄が私も読んでいたことを言いふらして来たんですよ!酷いですよね!?」
……何このオチ。
「それで兄も私もラノベや漫画は一週間禁止にされたんです!このすばの新作が昨日発売されたじゃないですか!?それをどうしても買いたくてこっそり買いに行った所をバレてしまいまして……そんな行為をしてしまった事が兄にバレればきっとネットのスレ並みの煽りを言って来るに違いないんです!私はメンタルが弱いのでそんなことを言われれば普通に心が折れてしまいます……」
「ち、ちょっと待って!じゃあ兄に会いたくなくてここに閉じこもってたの?それならあの遺書はなに?」
「あ〜あれはこの間志保さんと美代さんが雪さんの鞄を漁ってる際に私が通りかかったところ最近の人はこの年で既に遺書を持参する見たいと言われたので私も意識を高くしようと書いておいたのです、ついでに兄がそれを見ればそこまで追い詰めてるんだと勘違いさせられそうだったので」
なんじゃそりゃ。
俺の中でのユンのイメージ像が一気に崩れた。
てかあいつら勝手に人のカバン漁ってんのか。
タイミングよく後ろの大扉が勢いよくスライドする。
「志保さん!……美代さん!」
……明らかに返り血みたいなのが付いてるんですが……本当に殺してないだろうな。
「雪くん!全員殺し……気絶させておいたわ!それでユンは見つかった……ようね、安心したわ、美代が足を引っ張らなければもっと早く来れたのだけれど」
「雪く〜ん、志保ってば体の抵抗がゼロに近いから足とか早くて大変だったよ〜いいよね〜身軽で〜特に胸とか〜」
二人は無言で見合っていた。
やばい……明らかにさっきのSP連中よりこっちの方がヤバいって。
「は?」
「あ?」
扉から差し込む光が二人を照らしていた。
そして反射するアイスピックの先端とカッターナイフ。
「二人ともストップ!!」
慌てて二人の間に割って入る。
とりあえず事態は大したこと無かったんだしユンのご両親に謝って……。
いや駄目だ!
よく考えればまず当初の目的の鍵を手に入れてないじゃないか!?
それに何より恐ろしいのはこのままユンを置いて帰ればこの二人に思いっきり嘘ついてたのがバレる!
それはもうやばい!
攫う勢いで手伝って貰ったわけだし……。
このまま演技するしかない。
じゃなきゃ死ぬ。
「落ち着け!今はそれどころじゃないだろ!?」
「邪魔しないで雪くん!この女は一回痛い目に合わないとわからないみたいなのだから」
「そうだよ〜、美代もこれをちょっと刺しちゃうかもしれないけど〜それは不可抗力だから許してくれるかなぁ?痛いのは一瞬だからねー」
「……刺すって何処に?」
その声に何故か志保が素早く答える。
「もちろん胸よ」
「志保さんってば自分が無いからって可哀想だね〜そこは心臓って言わなきゃだよね?この美代のおっきい胸に嫉妬しちゃったのかな?」
「殺す!」
隣にいるユンもどうして良いか分からない感じだった。
アワアワしてて可愛い……じゃなくて。
正直言って俺にもどうしようもできないのだが……。
それより早くここから脱出するべきだ。
とりあえず落ち着かせるためにも手をパンと叩く。
その音に二人ともこちらを向く。
「二人とも喧嘩は後にしよう……ね?ユンをここから逃すのが先だろ?落ち着こうぜ?」
「雪くん……私は至って冷静よ、このカッターの刃が美代の胸をゆっくりと抉ってどうブヒブヒと悲鳴を上げさせてやろうか考えているのだから」
「美代も冷静だよ〜志保みたいに一生懸命相手の行動パターンを頭の中で考えなくても余裕で殺せるもん。だからもうちょっと待っててね?」
なんて恐ろしい奴らだ。
よし、逃げよう。
二人の凶器がぶつかり合い激しく火花を散らし始めたところで俺はユンの手を引っ張って全力疾走した。
何処に行けばいいのやら。
とりあえず誰も居ないところに行って人間関係の話を聞いて。
そこに必ず鍵を手に入れるヒントがあるはず……。
あいつの言う事が本当なら。
夕日を背にして走った。
ここら一帯は閑散とした住宅地だ。
何処を見渡してもいつも通りの平和な街並み。
だがまだ俺の命は終わりへと向かっている。
くそっ!どうすればいいんだ。
「あの……もう一度私と友達になってくれますか?」
ん?逃げるのに必死すぎてちゃんとは聞き取れなかったが……。
友達になって欲しい的な事を言われた気がする。
「うん……と言うか俺たちは友達だろ?それに俺があの二人に殺されない限りは友達だから安心してくれ」
まぁ今日死ぬかもしれないけど。
「よかった……それなら私はもう一人じゃないですね!」
ユンがそう言うと同時にスマホがバイブする。
走りながら画面を親指でタップすると。
差し出し人不明の空メールが。
これ……もしかして。
いやまさか。
こんなにあっさり済む話だとするなら俺の苦労は?
「もう走る必要はないみたいですね?」
「ん?何が?」
「いえ……」
俺がユンの方を振り向くと後方から物凄いスピードで接近して来る見覚えのある二人組が見えた。
「……ユン口裏合わせは任せた!」
俺はそのまま一人で全力疾走した。
やっぱ俺の死因はあいつらだぁ!




