夢幻の空をこえて
誰だって、自分の思い浮かべた夢を叶えたいと願います。
だけど大事なことを忘れれば――空も、心もこわれてしまう。
あなたが本当に伝えたい心を失えば……世界は何も変わらない。
どうかどうか、あなたの”導”を、見失わないでください。
あなたの前に誰かが居てくれることは――あなたの成長のために必要なことです。
誰かが、あなたの後ろにいてくれることは――。
その人が、あなたの背中を見ながら成長しているということなのです。
――ずっとあなたに付き添う……あなたの“影”も同じ。
あなたが自分に負けたくないと思えば、思うほど――。
影はあなた自身を越える目標となり、あなたに力を与えます。
あなたが自分自身に負けてしまえば――。
影も光も消え去り……あなたは孤独の世界をさまようことになるのです。
真っ直ぐな自分を、恥じることなかれ――。
初心を貫き、誇りを見失うことなかれ――。
いつかあなたが本当の空へと羽ばたくために――。
× ×
三年後――。
仕事から帰ってきたスーツ姿そのままで……。
かつて“魔王”と呼ばれたあなたは、時間を惜しむかのように作品を書きはじめます。
カタカタカタカタ……タンッ……カタカタカタカタ……。
「……」
気付けばいつも……明け方までキーボードを叩き続けていました。
お昼休みは――いつも机にうつ伏せになりながら眠っています。
仕事に影響が出ないようにしようとは考えていますが……。
なかなか、両立するということは難しいですね。
ですが、あなたは幸せでした。
執筆することが、楽しくて仕方ありませんでした。
限られた時間の中で……。
命を削りながらも、一枚ずつ竜のうろこを作り上げていくことも。
誰かの顔を想像しながら……。
何度も見直し、丹念に作品を仕上げていくことも。
そして今日も……窓辺から朝日が差し込んできました。
「できた……ついに完成したぞ」
そう、今日は新人賞の応募締め切り前日――。
あなたは締め切り直前まで、応募作品の完成度を高めていました。
書き上げた作品をもう一度見直し、原稿用紙を封筒に入れ……。
ねぼけまなこをこすりながら、駆け足で郵便局へと向かいます。
「速達でお願いします。あの、明日の午前中には届くでしょうか?」
ちゃんと配達時間は計算に入れていましたが……。
やはり心配になったあなたは、受付のおねえさんに尋ねます。
「大丈夫ですよ。ちゃんと届きますのでご安心してください」
「……ありがとうございます」
受け渡す前の封筒の中身に、あなたはありったけの想いを込めます。
第一回……一次選考通過――落選――。
第二回……二次選考通過――落選――。
“……見守ってくれているか?”
自らの未熟さを認め――。
他者に学び、己を磨くことで……あなたは果てしなく強くなりました。
着実に夢へと近づいていました。
“ここまで来れるようになったよ……”
小説家になろうを追放されてから、三度目の挑戦。
夢幻のかなたに存在する、無限に続く空――。
あなたの夢を現実にするまで……あと一歩。
そして……あなたはもう――独りではありませんでした。
「さあ、一緒にあの空に行こうッ!」
『ルオオオォォォーッ!』
白いテキストに描かれた、あなたたちの物語。
本物の竜騎士となったあなたを背に乗せ――。
誇り高き血脈を受け継いだ竜が、いま、ふたたび大空へと羽ばたきます。
あなたたちの軌跡を、あの空に描くために――。
(了)