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黄昏のエッダ  作者: 羽月
終末
104/104

団円

 高城が項垂れたままの霜司を連れ、雲に乗って飛び去ると、場は一気に和んで大騒ぎになった。

 まず飛び出してきたのは、幼さの残る、黒鋼の海龍。

 レヴィの前に立ち、キラキラした目で見上げる。


「兄さん、マジ強いっす! カッコイイっす!

 自分、弟子にして欲しいっす! 師匠って呼ばせて欲しいっす!」


 レヴィがぽかんとして頭一つ分背の低い彼を見下ろす。


「師匠て」


 ロキがぽそりとつぶやくと、エンが楽しそうにくすくす笑う。レヴィが気を取り直したようにきっと表情を引き締め、顔をあげた。


「弟子になりたい? 誇り高き海龍一族の王が、そのような事、軽々しく口にするなど」


 黒鋼の海龍が、不安そうにしゅんとする。


「修業は厳しいぞ!」


「はいっ、師匠!」


「いいんだ? 弟子にしちゃうんだ?」


 高らかに宣言する海龍二人に、ロキが愕然とつぶやく。

 エンが堪らずに声を上げて笑い出した。


「ま、あいつはまともな眷属も少ないし。下っ端持つのに憧れていたんだろ」


「主ちゃああああん!」


 聞き覚えのある声に振り向くと、チョコレート色の肌の少女がロキに飛びついてきた。


「ヴォルケーノ!」


「うち、元に戻してもらったよ! 主ちゃんのおかげ、ありがと。

 主ちゃん、怪我、大丈夫だった? 痛かったよね、ごめん」


「ヴォルケーノが悪いんじゃないよ、元に戻ってよかった」


「礼を言うよ、マジ助かった、ありがとな」


 ヴォルケーノは、そういうエンにも嬉しそうに微笑みかけ、ロキの表情を窺うように、おずおずと切り出す。


「ねえ、主ちゃん、あのさ、お願いがあるんだけど、その、オルちゃん」


「うん、こっちからもお願いがある。

 これからも、オルトロス、預かってもらえないかな?」


「えっ、いいの? うち、オルちゃんに怪我させちゃったのに。

 うちがオルちゃんと暮らしても?」


 ロキが頷くと、ばっとロキに抱きつく。


「きゃああああ、嬉しい! 主ちゃんありがとう!」


「あっちいいいい、熱い、熱いって、ヴォルケーノ!」


「あ、ごめん、つい興奮して」


 身を引いて目を丸くしたヴォルケーノが、赤くなった自分の首を、しかめっ面で撫でるロキを見て、いたずらっぽく笑う。

 大槻と薗田は、アキとフユに話しかけていた。


「君たちが、アキの中に入っていたの?」


「そう。ボクたちは狛犬なの」


「そのださん、おいしいごはんとかっこいいスカーフ、ありがとう」


 ロキも、会話に加わった。


「しっかし、驚いたよ。アキが魔族で、フユも一緒だったなんて」


「え、ちょっと待てよ」


 その言葉に、エンとレヴィが驚いて振り返る。


「驚いたって、ロキ、お前、アキをなんだと思っていたんだよ」


「何って、普通の犬だと」


「主様は、では、命を顧みず、普通の犬を救おうと危険を冒して?」


「犬だって、命があるんだぞ? 助けに行くの当たり前だろ」


「じゃ、じゃあさ、お前、アキを眷属の一位にしたのは?

 俺とレヴィが、なんていう事ない、普通のいぬっころの下だと思ったわけ?」


「え、だって。お前らがぎゃーすか騒ぐから、とりあえず決めておけば、静かになるかなって。

 一位とか、そんな大事か? 

 だいたいさ、お前ら、アキの事わかっていたんなら、もっと早くに言えよ!」


「おかしいと思ったぜ……。

 まだ幼生で正式な眷属になれないアキたちを一位に据えるなんて」


「成長した後、眷属になる事はほぼ確定であったし、予約というか、そういうものかと」


 エンとレヴィは、茫然とした表情でそうつぶやき合い、どちらともなく顔を見合わせて、ほぼ同時に笑い出した。




 金色の粒子を含んだ緑色の風に運ばれるボードに乗り、少年が空を翔ける。

 その背後に、眷属たちを従えて。

 少年の耳には、アンティークなデザインのピアスが揺れる。耳朶に近いところに、白黒の陰陽の紋章、そこから三本の細いチェーンが下がり、それぞれ、コバルトブルーと、燃え立つ金色、澄んだペリドット色の石が煌めく。

 黄緑に光る石は、新たに眷属になった風魔が、先在の眷属たちに倣ったもの。

 活火山の上空を通過する時、どうん、と、景気のいい音を立て、豪快に噴煙が上がった。

 勇壮な景色に感嘆の声を上げて見下ろすと、双頭の黒犬を伴った少女が、火口の淵で大きく手を振っている。笑いながら応え、振り返した手には、彼女の証である指輪が、茜色に揺らめいた輝きを放つ。

 世界は広く、人に害をなす強大な魔物は、まだまだ多い。

 時に無謀に、危険を顧みず最前線に飛び出し、圧倒的な眷属たちの力で妖魔を殲滅し続けているのは、神の遺伝子を引き継ぐ少年。

 その呼び名と、悪運と、突飛で型破りな行動から、トリックスターと称される、人類最大のジェーナ保有率を誇る戦士の戦いは、まだ、始まったばかり。

読了、ありがとうございました。

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